「凛子ー！　お前、いい加減なまえを離せよ。ったく」
「やーよ。アンタはあっちで一人で飲んでなさいよー」
「お前こそ、あっちで飲め。先輩、ほっといて良いのかよ？」
「いーの。宏明とは後で飲むもん。今はなまえちゃん抱っこして癒されたいのー」
「お前さー、何なの？　それ。なまえはお前の癒しアイテムでも、抱っこ用のお人形さんでもねーの。だいたいな、お前はさ、ちょっとなまえにべたべたし過ぎだぞ。離れろ」
「何？　アンタ、ヤキモチ？　一柳ってば、心狭ーい。やーねぇー。だいたいねー、こーんな可愛い子を一柳だけで独占なんてずるいのよ。それにさ、ちょっと位いいじゃないよー。あ、じゃあさ、ちょっとだけ、特別に、あたしの宏明、貸してあげるわ―。あたしのだけどー。あたし、アンタより心広いからー」
「ああー？　先輩借りてどうすんだよ？」
「男同士でひっつけばー？」
「はあ？　バカじゃねーの？　男同士で引っ付いて何が楽しいんだよ。冗談じゃねー。いいから、返せよ。オレはなまえがいーの！　あっ！　もしかして、お前──」
「何よ、一柳ぃ、うっさいわねー。大きな声出さないでよ」
「もしかしてお前、まさかバイじゃねーだろうなー？」
「バイ？　バイって？」
　抱っこ人形のように引っ付かれて、ふにゃふにゃしながらビールを飲んでたなまえが、周りのヤツをキョロキョロと見て聞く。近くにいた室長が『ああ？　バイセクシャルの事だろ』と答える。彼女が『ばいせくしゃるぅ？』と小首をちょっと傾げながら反芻する。

「両方、オッケーって事だね。おチビちゃん、君、もしかしてもう酔ってる？」
「チビ助、今夜はあんまり飲むなよ？　ってか、お前、ビールで酔ったか？」
「酔ったのか？　なまえ。ほどほどにしておけよ。身体にさわるぞ」
「そうですね。まだ病み上がりですからその方が良いでしょう」
　横わけコンビが言うとちょっとほわーんとしながら、彼女が『あい』と答え『じゃあ代わりに誠二兄ちゃんと、秀樹兄ちゃん飲んでくらはい』とふにゃふにゃした手付きで酌をする。

「あ、大丈夫？　おチビちゃん」
　その覚束無い手付きに周りがハラハラしながら声を掛ける。

「らいじょーぶぅーれーしゅ。小野瀬しゃんも飲みましゅかー？」
「いや、俺は酒は飲まないから」
「ちょーでしゅか。じゃんねんれすねー。おとーしゃん、飲みましゅかー」
「あ？　ああ」
「あい、ろーろ。りょーほーって？」
「どーぞじゃねえよ。チビ助。ほら、こぼすぞ」
「らから、りょーほーって？」
　室長や石神や後藤に『なぁーに？』『なぁーに？』と騒ぐ彼女にどう説明したものかと横わけコンビが困る。聞いても答えが返って来ないので、また室長に聞く。