神日
重い瞼をうっすらと開けると、制服を着た男のシルエットが眼鏡のレンズ越しにぼんやり写った。俺はいつの間にかベッドで眠っていたようだ。
寝る時には必ず外すはずの眼鏡もつけっぱなしで寝ていた。
(神田か……)
顔ははっきり見えていなかったが、見慣れた後ろ姿だった。
神田は俺の寝ているベッドに腰かけているようだ。手には使い古された英語の参考書が握られていた。参考書の端には茶色く染みができている。
(あぁ、前に溢したおしるこか……)
なんて暢気なことをぼんやりと考える。
以前……あれは確か小テストの前の休み時間。神田が俺の机の上に置いてあったおしるこドリンクをこぼしてできた染みだ。
あの時は、俺のノートまで汚れたんだよな。必死に慌てる神田が面白くって、怒りを通り越して大笑いしてしまった。「なんで笑ってんだよ」って神田が口をとがらせるのがもっと面白くって……愛おしくて。俺は授業が始まってもなかなか頬の緩みが治まらなかった。
寝転んだままで視線だけ机に向けると、日本史、数学Ⅱ、生物……色とりどりの教科書が机の上に積み重ねて置いてあった。
(ははっ…神田は俺に何教科教えさせるつもりなんだよ)
今夜は眠れそうにないな、夜食でも買いに行くか、なんてことを想像して一人苦笑する。
神田の眉間には皺が寄っていた。何やら難しい顔をしている。
よく見ると、神田は口元でブツブツと英語の単語を繰り返していた。
緑の蛍光ペンで線が引かれているのが見える。「Stray」……そんな難しい単語じゃないだろう。もしかすると受験勉強も付き合うことになるかもしれない。……役得かもな。けど、俺の受験勉強もあるから付きっきりはいくら神田でも御免だ。
なんとなく身体がだるくて、起きる気にならない。
しばらく神田の横顔を眺めていた。この角度から見ると雰囲気違うなとか制服着崩すのはあんまり似合わないなとか、どうでもいいことが頭に浮かんでは沈んでいく。
時計の秒針だけがカチ、カチとせわしなく部屋に響いていたが、その音すら今はいつもよりゆっくりに聞こえた。
しばらくして、俺の視線を感じたのか、神田はゆっくり振り返った。少し伸びた髪が電灯の光に透けて、少し茶色く見える。
そして「やっと起きたのか」とでも言いたげな表情で首を傾げた。
「すまんすまん、疲れてたみたいだ」
なんて言いながら、俺は重い身体を無理矢理起こした。ベッドのスプリングが軽くきしむ。
身体を起こして初めて気づいたが、俺の身体の上には赤い毛布が掛けられていた。俺は毛布をかけた覚えがない。神田がかけてくれたんだろうか。
頭がぼーっとしている。仮眠じゃ疲れは取れないみたいだ。
年取ったな俺も、なんて考えながら赤い毛布を体の上からはがした。
ふと、視線を感じ神田の方を見ると、なかなか起きない俺に呆れてか、困ったような顔で苦笑いしていた。軽く整えられた形のいい眉が八の字に下げられている。
ああ、好きだなあ。愛しさがこみあげてくる。
神田は困ったことがあると、すぐこの顔をするんだ。それは女から見ても男から見ても、助けてあげたくなる顔で、この顔で頼み事をされると断ることができなかった。
この顔で(頼れるのは日野だけなんだよ)なんて言われるとどんなに忙しくても手をかしてやった。ずるいよなまったく。
ベッドから降りようと俺はベッドをはいずる。
……そういえば今何時なんだろう、そう思って時計を見ようと顔を上げた途端、神田は俺の肩を掴み、身体を勢いよく引き寄せた。
状況を理解するよりも前に、俺の唇に柔らかいものが触れるのを感じた。驚いて目を見開くと神田の顔がほんの数センチ先にあった。
(ああ、夢だ)
これは夢なんだって。感覚的に理解した。
神田は、俺にこんなことしない。
これは俺の妄想だ。夢だ。なんて都合のいい夢。
唇を重ねたまま、俺は妙に冷静にこの状況を観察していた。
身体が熱を持ち始めるのに反比例して、頭だけが冷や水を浴びたように冷え切っていく。
閉じていた目を薄く開けると、神田の長い睫毛が微かに震えていた。頬だけではなく耳までもがほんのりと赤く染まっていた。愛おしさが込み上げて泣きそうになる。
夢だと分かっているのに、胸の中にじんわりと暖かいものが広がっていく。熱が指先まで蝕むようだ。いっそ、この悪夢に身を任せてしまいたい。
俺は神田に恋していた。
俺は、はじめから男が好きという訳ではなかった。中学の時には同級生の女子と付き合ったこともあった。バスケ部で、ショートカットで小柄の女子だった。中学生のお付き合いはそれなりに楽しかったと思っている。しかし、未発達で、不完全な恋は長くは続かなかった。進学する高校が別ということもあり、卒業の少し前、その子とは別れることになった。
そして俺は高校に入学し、神田と出会った。
神田は、俺にとって初めての取材相手だった。緊張してしどろもどろになる俺を見て、少し呆れながらも丁寧に対応してくれた。俺がメモをとるスピードに合わせて、ゆっくり話してくれたのを覚えている。今思えば、きっと俺はその時から神田のことが好きだった。
それからは俺と神田は頻繁に挨拶するようになり、休日に遊ぶまでになった。
そして、いつの間にか俺は神田のことを好きになっていた。
早く目が覚めてくれと切実に願うも、なかなか夢は覚めてくれない。
押し殺していたはずの気持ちが溢れてしまいそうで、神田の胸のあたりを(離れてくれ)という意思を込めて軽く押すと、神田はゆっくりと俺から身体を離した。
そして照れくさそうな顔で俺の目を覗き込んできた。そんな目で俺を見ないでくれ。目頭が熱くなるのを感じる。ずっと手に入れたかった表情。俺には永遠に向けられることのない視線。ずっと求めていた夢なのに、全てが苦しかった。夢でも胸の痛みは感じるんだ、という新しい発見。できればそんなこと一生知りたくなかった。
ベッドの上で向かい合ったまま、神田は俺を抱き寄せた。俺は神田の背中に手を回すこともできずにシーツを軽く握った。そして目の奥に広がる熱を隠すように、神田の肩に顔を埋めた。
鼻先にふんわりと優しい柔軟剤の匂いが広がった。市販品の安っぽい柔軟剤の匂いにすら胸が締め付けられる。……青色のパッケージ、どこでも売ってる柔軟剤すら神田が身にまとっていれば特別だった。
しばらくの沈黙があったあと、神田は俺の首元に軽くキスを落とすと、下半身に手を伸ばしてきた。
制服のズボンの上からやわやわと揉むように刺激を与えられる。熱が集まるを感じて、身体が強張る。どこか既視感のあるような状況に眩暈を覚えた。きっとこれもいつかの妄想。
苦し紛れにシーツを強く掴みながら、早く目覚めてくれと誰かに懇願する。
けれど、俺の浅ましい妄想は止まってはくれなかった。
「ぅあ…っ」
唇を噛みしめて声を我慢するも、情けない声が口の端から洩れてしまう。こんな声、聞かれたくない。抵抗しようと神田の腕を掴むも、力の入らない腕ではなんの抵抗にもならなかった。
何よりも、浅ましく感じる姿を神田に見られるのが恥ずかしくて、情けなかった。
俺の中心は軽く芯を持ちはじめる。下着は既に先走りで濡れていた。先走りで滑りやすくなった先端を布地の上からグリグリと親指で刺激される。
「っふ……ぁ」
吐息ともに甘い嬌声がこぼれた。
神田を好きになってから何度も神田との行為を想像した。神田で抜いたこともあった。なんとなく罪悪感はあったが、生理現象だと高を括っていた。俺の妄想通りのシチュエーションで、自分の浅ましさを突き付けられている気分になった。
神田は俺の性器を軽く扱きながら、シャツのボタンを片手で外していった。そしてスラックスと下着を膝のあたりまで下ろした。先走りでジットリと濡れた性器が、露になる。
神田の柔らかい指先が裏筋を撫でるたびに、否応にも声が出てしまう。俺の荒い息遣いだけが、静かな部屋に響いていた。
「神田」
我慢できなくなって、神田の名前を呼ぶ。俺の声は、自分が思っていたよりも悲痛な色を帯びていた。ひとこと名前を呼ぶだけで、神田を好きだという気持ちが溶けだしていく。滲んだインクみたいに押し殺していた心がじわじわと広がっていく。一生秘密にするはずだった気持ち。
「っ神田………!」
神田、神田と何度も繰り返す。声といっしょに涙が洪水のように溢れてきた。もうどうすればいいかわからなかった。小さな子供が親に縋って泣くように、俺は神田の方に顔を埋めて泣いていた。喉か鼻かわからない場所がじんじんと痛い。
そんな目でみないでくれ。神田は俺のことをそんな目で見たことなんてない。
神田は少し困惑した表情をして、俺の頬を指でぬぐうと何故か苦しそうな顔をした。
強く瞑った瞼に軽くキスを落とされる。俺の知ってる神田は俺にそんなことしない。
俺の知っている神田は女好きでどうしようもないやつだ。無責任で軽薄で、それでいて女にモテる嫌なやつ。女からも男からも恨まれても文句言えないんじゃないだろうか。学校サボって遊びに行こうなんて言って、俺を無理矢理、隣町まで連れて行って。不真面目で最低だ。皆勤賞の俺の無断欠席を心配した担任が俺の親に連絡したから、俺は親に怒られたんだ。それを聞いて「共犯だな」なんて言ってケラケラ笑って、それで———
ああ、目の奥が熱くて、呼吸すら上手くできない。ぐちゃぐちゃになった感情をかき集めても解決法なんてないのに、俺は必死になって心を繋ぎとめようとする。おかげで涙は少し止まった。それでも救われない気持ちだけが、救いを求めて溢れてしまいそうだった。
すこし落ち着きを取り戻した俺を見て安心したのか、神田はほっとしたように小さく息を吐く。そして神田は優しく頭を撫で、もう一度、瞼の上にキスを落とすと、肩にそっと手を置いた。そのままゆっくりとベッドに押し倒される。
やめろ。そんなこと神田はしない。白い天井に神田の顔だけがくっきりと輪郭が描く。
どうしようもないくらい甘ったるくて愛しそうな視線に気が狂いそうだった。神田は俺にそんな視線を向けることはない。これまでも、これからも、その事実は決して変わらないものだ。やめてくれ。あまりにも残酷すぎる夢だ。
目が覚めて、隣に神田がいなかったとき俺はどうすればいいんだ。いや、想像できる。すべて夢だったことに絶望して、心が空っぽになるんだ。耐えられないほど大きな空虚感。いっそこのままずっと覚めないで欲しい。好きだ、神田。どうしようもないくらい好きなんだ。
神田をまっすぐ見つめることなんて、今の俺には到底無理で、ギュッと強く目を瞑る。
神田の手が、俺のシャツのボタンを1つずつ外していく。熱を孕んだ身体がひんやりと冷たい外気に晒され、おもわず身体が跳ねた。
「っ………ふ」
つ、と胸に指が這わされる。否応にも身体が反応してしまう。いっそ乱暴にしてくれた方がまだましなくらい、神田は壊れ物に触れるように優しく俺に触れた。
胸の先をグリグリと押しつぶすように愛撫される。
「ぅ………やめっ」
口では嫌と言いながらも、身体は快感に順応していくのが手に取るようにわかる。少しだけ伸びた爪先で、胸の先端を弾かれるたびに浅ましく腰が揺れてしまう。じわじわと羞恥がこみあげてきて、額に汗が滲んだ。
「……あっ、」
甘い刺激が電流のように脳にまで伝わり、思考能力が奪われていく。もう、身を委ねてしまいたかった。涙で滲んだ天井の一点を無作為に眺めて、必死に自制心を働かせる。
夢であっても、神田を俺の妄想で汚すのは嫌だった。
俺が腰をびくつかせるたびに、性器が擦れ、神田の制服を濡らす。
神田は俺の額にキスを一つ落とすと、胸から臀部のあたりまで手を滑らせた。
「………ひっ」
俺がその行為の意味を理解する間もなく、神田は人差し指を後孔に挿入した。
今まで感じたことのないほどの異物感と圧迫感。背筋にぞわっと悪寒が走り、身体が無意識に逃げようと身じろぐ。しかし、それを許さない神田は、両膝を折り曲げ逃げないように掴んだ。
「んぐ、っ神田、やめっ」
必死に制止の言葉を投げかけるも、言葉は空回りして、ベッドの隅に消えていく。
「ぅあっ………!」
第一関節のあたりで、内壁をぐにぐにと押し広げられる。入口あたりが解れてくると、指はさらに侵入を進めた。何かを探るように、押し込まれた指が内壁を探る。
何度も想像した神田の長くて、しなやかな指。そのことを自覚した途端、ぎゅっと内壁が収縮を繰り返した。
「ふ、ぅあ………あっ」
これは夢なんだ。自分に必死に言い聞かせる。それなのに、既に熱を昂らせた身体は俺の意思と反して神田のことを求めていた。
神田によって解されたそこは、二本目の指も抵抗することなく受け入れた。二本の指がバラバラと内壁を広げる。小さな水音から耳を背けたくて、シーツに縋る。
「…っあぁあ!」
神田の指がある一点に触れた途端、神経を焼き切るような甘い痺れが全身に伝わった。それと同時に目の前にチカチカと火花が散る。
「あぁっかんだ、そこ、っむり……っあ」
俺の悲痛な声も無視して、神田の指が執拗にそこをグリグリと押しつぶすように責めたてる。前立腺に神田の指先が届くたびにだらしなく開いた口からは媚びるような嬌声が洩れた。
「ぁあ、ひ、んぁ!!」
ペニスの先端から先走りがダラダラと零れ、太ももを濡らした。怖いくらいの快感が身体の隅々にまで伝わり、気が変になりそうだ。
俺がイきそうなのを察してか、神田は片手でベルトを外し、ジッパーを下げて自身を取り出す。小さな金属音が妙に耳に障って、どうしようもなく興奮した。
「っ………あっ…」
神田の指が、クチュとはしたない水音を立てながら抜き出される。
さんざん掻き回されたそこは、何かを期待してヒクヒクと蠢いていた。
拒絶するなら今しかないはずなのに、俺の身体は小さく震えながらベッドに沈んでいた。俺の荒い呼吸音だけが、部屋の壁に溶けて消えていく。
「っひ………っ」
後孔に神田のペニスが宛がわれた。既に受け入れる体勢に入っていたそこは、すんなりと神田を受け入れる。抵抗できるはずなのに、できなかった。
もうどうだってよかった。これは夢なんだ。夢の中くらい、一緒になっても許されるのかもしれない。許して欲しい。
目の奥がじんわりと熱くなって、視界がぼやけた。
「っ……ぁあ!」
一呼吸置いて、神田は一気に最奥まで腰を進めた。自分の声とは思えないような甘い声が脳に響く。内壁を押し広げるように、神田のペニスが身体の奥底に入りこんできた。強すぎる快感に反射的に腰が浮く。快感から逃れようと必死にシーツを掴むが、指先にまで甘い痺れが伝わり、手に力が入らない。
「っあああ!ぅあっ…!かん…だ、ぁ」
そんな俺にお構いなしに、神田は何度も腰を打ち付ける。そのたびに疲弊しきった身体を苛むように、怖いくらいの快感が全身を駆け巡る。
ほとんど泣き叫ぶように、声帯を震わせる。開きっぱなしの口からはだらしなく涎が零れ、シーツを濡らした。
「ひぅ、ぅああっ!かんだぁ……っ!」
体内が何度も搔き混ぜられて、内部がどろどろと蕩けてしまうような感覚。ごり、と内部を抉るように突かれる。そのたびに、ひっきりなしに嬌声が零れた。
抜き出されるたびに、ずるずると粘膜が押し上げられる感覚に、ある種の恐怖心を覚える。
「かんだっ、……っぁああ」
生理的な涙で歪んだ視界の中で、神田の表情が目に入った。
汗で濡れて額にくっついた前髪に、上気した顔。俺に向けられた熱を孕んだ視線。女にしか向けられないはずの表情。
俺の視線に気づいた神田は、照れるように笑い、なんだか愛おしいものを見るような顔をした。
なんだそれ。
それは俺に向けられた視線じゃない。誰を見ているんだ神田。苛立ちと焦燥が神経まで焼けきれた頭の中でグルグルと回る。
「神田」
腰を打ち付けられるたびに、乾いた音が部屋に響く。
身体に蓄積された熱と比例するように律動は激しさを増していく。強すぎる快感に、もう何も考えられない。神田ももうそろそろ限界なのか、肩で息をして、唇を強く噛みしめている。
「かんだっ、かんだっ……ぁあ」
俺は衝動的に何度も神田の名前を呼んだ。神田の名前を呼べば、全てを忘れられる気がした。
頭が痛い。酸欠で頭の奥が痺れる。
「かんだ、ごめっ、ぁあ!ごめっ……ひ」
何で謝っているのか自分でもわからなかった。小さな子供がするように、顔も隠さず、声を上げて泣く。嬌声か泣き声か、自分でももう判別はつかなくなっていた。
「ぁあ…!かん、だぁ…っ」
封じ込めたはずの感情が涙と一緒くたになって溢れ出てくる。好きだ、好きなんだ神田。一旦溢れ出てきた言葉は、止まることを知らなかった。
「すきだ」
………そんな困った顔するなよ。はは、迷惑そうな表情にもとれるな。蔑んだ目にも。
「すきなんだ、かんだ……っ」
ああ、これだけは俺に向けられた視線だ。あの時、あの瞬間、俺にだけ向けられた視線。
友達も恋人も数多くいた神田の、唯一俺だけが知っている表情。俺だけのものだ。唯一独占できる俺だけの宝物。誰にも渡すもんか。
神田はあの時と同じように、困惑した表情で小さく口を開けた。
次に来る言葉を、俺は既に知っていた。
「日野、おまえ—————————」
—————俺しか知らない
***
携帯の着信音で目が覚めた。
早く寝たはずなのに、何故だか身体が重かった。
携帯の画面を見ると、ゼミの先輩からのメールの通知。
『今日の昼三時から、203研究室に集合。遅刻厳禁!』
………高橋教授、良い先生なんだけど連絡するのが遅いんだよな。ベッドサイドに置かれたデジタル時計の表示は13:11を示していた。今から準備して、大学まで20分………間に合うな。
気怠い身体を無理矢理起こし、ベッドの上を這いずる。ベッドから降りようと足を動かした途端、ぐちょ、と何やら嫌な感触がした。まさか、と思いおそるおそる目を下半身に向ける。
「うげっ」
スウェットの上から触れると、ひんやりと冷たく下着が濡れていた。ぬるっとした手触りが布の上からでも伝わり気持ち悪い。
「こんなの何年ぶりだよ」
まさかこの年になって夢精するとは夢にも思わなかった。
夢精なんて高校1年の頃を最後に記憶にない。はは、と情けない笑いを溢す。
「………なんかエロい夢でも見てたのかな」
夢精をするほどの夢を見ていたはずなのに、夢の内容を何一つ覚えていなかった。けど、なんだか幸せな夢だったような気がする。
あわよくば、明日も同じ夢が見れますように。そんな都合の良いことを考えながら、俺は下着を洗うために風呂場へ向かった。
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