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傷痕

 プロシュートの脇腹には傷痕があった。茶色い、三日月のような痕。
 ナイフで刺されたぐれェじゃあ死なねェよ、と彼は言う。しかし、私は、怪我をしているのを見るたび、まったく落ち着かない。
「タオル要る?」
「あァ……頼む」
 ペッシがヒイヒイ半泣きで、ギアッチョが舌打ちをしながら鼻血を垂らして、リーダーが腕をつって帰って来るとき、私はいつも顔をしかめる。
 すると、プロシュートはいつも、こう言った。
「俺たちの職業、分かってるだろォ?」
 仕事が上手いのか、彼は比較的無傷で帰ってくることが多かった。
「いつの傷なの?」
「覚えてねェな。ずいぶん昔だ」
 プロシュートが脱いだワイシャツをベッドの上に放り投げた。やめてよね、という私の苦言も見事な金髪が傷むのも気に介さずガシガシとタオルを動かしている。彼にかかれば、乱暴な動作をしてもハンサムな映画俳優のようにさまになって見えるのだから、私もどうかしている。
 こんなに大きな傷を持っていたなんて、知らなかった。
「今日の天気だと、痛んだりするの?」
「大したこたぁねェ。さ、質問は終わりだ。部屋戻って、バンビーナはもう寝ろ」
「……まだ起きてる。今日は遅く起きたから」
 眉間に皺を寄せたプロシュートは怖かった。初めて会った時と同じ。
「……みなまで言わなきゃわからねェか」
 顔とは逆に、声色はとても優しい。その落差は、私をときめかせるのに十分な甘さを持っていた。
「伝わってるの、分かってるでしょう?」

 私は、この時のプロシュートの表情を覚えていない。髪をほどいた彼は初めて見た古傷もあいまって知らない人だったから、私の知るプロシュートだと認識してしまったのかもしれない。それに、こうして近づいたのも今が初めてだから。
 脇腹の傷痕は、少しかさかさしていた。反対に、頬にあたる毛先は湿ってひやりとしていた。そして、絶妙のタイミングで、薄い青の瞳を見せてくれた。
 それだけだった。
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