貴方のかくしごとを、私も
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今日は新担当がやってくる日。私は大して気にもせず、後藤さんの仕事を手伝っていた。
手伝いといっても、トーンを貼るとか、ペン入れとか、そんなことはできない。私は今まで、漫画作りに直接携わったことはない。
じゃあ何をしているかと言うと、一言で言えば「ネタだし」だ。こう言うとかっこよく感じるかもしれないが、実際のところ、ネタが尽き果ててしまった後藤さんから「どうしたら良いと思う?」などと訊かれ、それに対して案を出すといった何の労力も要しない仕事だ。
その旨を後藤さんに伝えたところ、
「ネタがないと漫画もできない。奈也美ちゃんがいなかったら間に合わなかった原稿もたくさんある。それに、奈也美ちゃんがネタ出した回って、他のより結構好評なんだよ」
と褒め称えられてしまったので、喜びと気恥ずかしさでそれ以上否定できず、曖昧にうなずくしかなかった。
そんな仕事なのに給料ももらっているので、かつての同級生からは羨ましがられている。けれど私は、楽だからこの仕事をしているわけではない。後藤さんがいるから。ただそれだけなのだ。後藤さんがいるところに私もいる。ストーカーみたいだけれど、私の本音はそれだった。
しばらく仕事場で待っていたものの、新しい担当はまだやって来ない。後藤さんも疑問に思ったのか「遅いな」と時計を見た。
その時。
「間違って自宅の方行っちゃったとか」
その芥子さんの一言で、後藤さんは仕事場からすっ飛んでいった。志治さんは苛立ち、芥子さんは慌て、私はまたかと息を吐いた。
家に担当が行けば、自分が漫画家であるとバレてしまう。
後藤さんはそう瞬時に判断し、ここを飛び出たのだろう。
もしかするとただ単に遅れているだけという可能性もあるので、私は後藤家の固定電話に電話をかけた。プルル、と何回か聞こえたあと、可愛らしい声が電話に出た。
「奈也美ちゃん?どうしたの?」
「あー……、ねぇ、姫ちゃん。今、お客さんというか、お仕事の人というか、そういう人、いる?」
後藤さんのことは口にしないように、恐る恐る訊ねる。何の疑いもない弾んだ声で、姫ちゃんは「うん」と答えた。私は頭をフル回転させる。後藤さんが家についたあと、何か凶事が起こらないようにするには__。
「じゃあ、その、その人に、『何しに来たんですかー』とか『どこの人ですかー』とか、訊かないようにね!ほら、今はプライバシーだなんだってうるさいからさっ!」
悩みに悩んだ末、私はそう姫ちゃんに伝えた。この子は素直ないい子。だからきっと大丈夫。半ば祈るように思いながら、私は電話を切った。
「大丈夫そう?」
芥子さんがこちらを見ていることに、その時気づいた。慌てて振り向き、「大丈夫ですよ」と答えようとして、私は戦慄した。
「どうしよ……」
「奈也美ちゃん?」
「ど、どうしよう!!」
その瞬間、私の頭の中はパニックに陥っていた。もし、家にいるのが新しい担当ではなく、見知らぬ不審者だったりしたら……。もしそうだったら、私はなんてことを!姫ちゃんは私の言いつけ通りにその人に何も訊ねず、疑問にも思わずいて、その人にいかがわしいことされたり、誘拐されたり、暴行されたり、あ、も、もしかしたら、こここここここ殺されたり……!?
「い、いやぁぁぁぁぁ!!!わ、私のせいで姫ちゃんがぁぁぁ!!お願い後藤さん早く家に着いてぇ!!!!あああああ私はなんてことをぉぉぉぉ!!!!!」
私は泣き叫んだ。自らの失態に絶望し、怒り狂い、吠えた。そんな私を、芥子さんと志治さんが白い目で見ていたことを、私は知らなかった。
「奈也美ちゃんも大概じゃないですか?」
「入ったばっかのお前は知らんだろうが、これでも先生の奇行が可愛く見えるくらい姫ちゃんを溺愛してるんだぞ」
「うわぁ……」
後日談。
帰ってきた後藤さんに縋り付き姫ちゃんの安否を訊ねると、
「別になんともなかったぞ」
との返事があり、安心した私は一気に気が抜け、気絶してしまった。
手伝いといっても、トーンを貼るとか、ペン入れとか、そんなことはできない。私は今まで、漫画作りに直接携わったことはない。
じゃあ何をしているかと言うと、一言で言えば「ネタだし」だ。こう言うとかっこよく感じるかもしれないが、実際のところ、ネタが尽き果ててしまった後藤さんから「どうしたら良いと思う?」などと訊かれ、それに対して案を出すといった何の労力も要しない仕事だ。
その旨を後藤さんに伝えたところ、
「ネタがないと漫画もできない。奈也美ちゃんがいなかったら間に合わなかった原稿もたくさんある。それに、奈也美ちゃんがネタ出した回って、他のより結構好評なんだよ」
と褒め称えられてしまったので、喜びと気恥ずかしさでそれ以上否定できず、曖昧にうなずくしかなかった。
そんな仕事なのに給料ももらっているので、かつての同級生からは羨ましがられている。けれど私は、楽だからこの仕事をしているわけではない。後藤さんがいるから。ただそれだけなのだ。後藤さんがいるところに私もいる。ストーカーみたいだけれど、私の本音はそれだった。
しばらく仕事場で待っていたものの、新しい担当はまだやって来ない。後藤さんも疑問に思ったのか「遅いな」と時計を見た。
その時。
「間違って自宅の方行っちゃったとか」
その芥子さんの一言で、後藤さんは仕事場からすっ飛んでいった。志治さんは苛立ち、芥子さんは慌て、私はまたかと息を吐いた。
家に担当が行けば、自分が漫画家であるとバレてしまう。
後藤さんはそう瞬時に判断し、ここを飛び出たのだろう。
もしかするとただ単に遅れているだけという可能性もあるので、私は後藤家の固定電話に電話をかけた。プルル、と何回か聞こえたあと、可愛らしい声が電話に出た。
「奈也美ちゃん?どうしたの?」
「あー……、ねぇ、姫ちゃん。今、お客さんというか、お仕事の人というか、そういう人、いる?」
後藤さんのことは口にしないように、恐る恐る訊ねる。何の疑いもない弾んだ声で、姫ちゃんは「うん」と答えた。私は頭をフル回転させる。後藤さんが家についたあと、何か凶事が起こらないようにするには__。
「じゃあ、その、その人に、『何しに来たんですかー』とか『どこの人ですかー』とか、訊かないようにね!ほら、今はプライバシーだなんだってうるさいからさっ!」
悩みに悩んだ末、私はそう姫ちゃんに伝えた。この子は素直ないい子。だからきっと大丈夫。半ば祈るように思いながら、私は電話を切った。
「大丈夫そう?」
芥子さんがこちらを見ていることに、その時気づいた。慌てて振り向き、「大丈夫ですよ」と答えようとして、私は戦慄した。
「どうしよ……」
「奈也美ちゃん?」
「ど、どうしよう!!」
その瞬間、私の頭の中はパニックに陥っていた。もし、家にいるのが新しい担当ではなく、見知らぬ不審者だったりしたら……。もしそうだったら、私はなんてことを!姫ちゃんは私の言いつけ通りにその人に何も訊ねず、疑問にも思わずいて、その人にいかがわしいことされたり、誘拐されたり、暴行されたり、あ、も、もしかしたら、こここここここ殺されたり……!?
「い、いやぁぁぁぁぁ!!!わ、私のせいで姫ちゃんがぁぁぁ!!お願い後藤さん早く家に着いてぇ!!!!あああああ私はなんてことをぉぉぉぉ!!!!!」
私は泣き叫んだ。自らの失態に絶望し、怒り狂い、吠えた。そんな私を、芥子さんと志治さんが白い目で見ていたことを、私は知らなかった。
「奈也美ちゃんも大概じゃないですか?」
「入ったばっかのお前は知らんだろうが、これでも先生の奇行が可愛く見えるくらい姫ちゃんを溺愛してるんだぞ」
「うわぁ……」
後日談。
帰ってきた後藤さんに縋り付き姫ちゃんの安否を訊ねると、
「別になんともなかったぞ」
との返事があり、安心した私は一気に気が抜け、気絶してしまった。
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