貴方のかくしごとを、私も
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チュンチュンと鳴く小鳥の声で目を覚ます。どこからか甘い香りが漂ってきた。今日もまた一日が始まる。
戒潟 奈也美、18歳。ーーそんな独白をふとこぼして、自分で言っておきながら恥ずかしくなってくる。
「奈也美〜起きたか〜」
「はぁ〜い!」
リビングからの呼びかけに大きく答え、そして、小さく微笑む。
後藤家で暮らすようになって早3年。それでも後藤さんの声を朝一番に聞けると言う幸福に慣れることはまだない。喜びで毎度胸がいっぱいになる。
寝室を出て、リビングへ向かう。タッタッタッ、と足音が弾んでいることに私は気づく。恥ずかしくて、少し歩調を遅くした。
「おはよう、奈也美ちゃん」
リビングに入ってすぐ、姫ちゃんが私に笑いかけた。私もおはようと挨拶して姫ちゃんの横に座る。目の前のテーブルにははちみつトーストが置かれていて、さっき嗅いだ香りを思い出した。
さっきのアレは、このトーストだったのか。
「美味しそうですね」
自分の分のトーストを手にこちらへ歩いてくる後藤さんに顔を向けた。後藤さんは「ありがとう」と笑った。その柔らかい表情に心臓が跳ねる。自分の顔が少し火照っている気がする。
「じゃあ、食べようか」
姫ちゃんの言葉を合図のようにして、私達は「いただきます」と手を合わせた。
これがこの家での日常。私達三人は、仲睦まじく暮らしている。何も隠すことなどない、平和な日々だ。
ーーある一点を除いては。
私達は身支度を整え、玄関に出る。そして毎度の如く姫ちゃんへの念押しを開始する。
「気をつけてね姫ちゃん、変な人いたらすぐ逃げてね」
「大丈夫だよ、奈也美ちゃん」
頷く姫ちゃんに後藤さんが焦った声を出す。
「油断したら駄目だぞ姫!!もし嫌なこととか苦しいこととかあったら、すぐに教えるんだぞ!!!」
「分かってるよ、お父さん」
姫ちゃんはのほほんと答え、「いってきます」と私と後藤さんに手を振り、背を向けて歩き出す。私達はそことは真逆の道を進み始める。
旧山手通りを境とし、目黒から渋谷へ移ったとき、後藤さんは「かくしごと」を始める。
こんなんで生計立てていけるのかと思ってしまう「マリオットランチマーケット」という店で、後藤さんはスーツからだらしない(それも様になっていると思うのだが、どうもそれは「恋は盲目」というやつらしい)格好となる。そしてあるマンションの一室へとまた歩を進めてゆく。
開けばそこは、漫画家の巣。アシスタントが机にかじりつき、カリカリと音を立てている。
後藤さんは中に入り、いつもの椅子に座ると、そこに置いてあったペンを握った。
後藤さんは姫ちゃんには内緒のかくしごとがある。絶対に言ってはならないと、何度も釘を刺された。
そう、後藤さんの隠し事は、描く仕事だ。
そして、私にも隠し事がある。
それは、私が後藤さんに、恋しているということだ。
「奈也美〜起きたか〜」
「はぁ〜い!」
リビングからの呼びかけに大きく答え、そして、小さく微笑む。
後藤家で暮らすようになって早3年。それでも後藤さんの声を朝一番に聞けると言う幸福に慣れることはまだない。喜びで毎度胸がいっぱいになる。
寝室を出て、リビングへ向かう。タッタッタッ、と足音が弾んでいることに私は気づく。恥ずかしくて、少し歩調を遅くした。
「おはよう、奈也美ちゃん」
リビングに入ってすぐ、姫ちゃんが私に笑いかけた。私もおはようと挨拶して姫ちゃんの横に座る。目の前のテーブルにははちみつトーストが置かれていて、さっき嗅いだ香りを思い出した。
さっきのアレは、このトーストだったのか。
「美味しそうですね」
自分の分のトーストを手にこちらへ歩いてくる後藤さんに顔を向けた。後藤さんは「ありがとう」と笑った。その柔らかい表情に心臓が跳ねる。自分の顔が少し火照っている気がする。
「じゃあ、食べようか」
姫ちゃんの言葉を合図のようにして、私達は「いただきます」と手を合わせた。
これがこの家での日常。私達三人は、仲睦まじく暮らしている。何も隠すことなどない、平和な日々だ。
ーーある一点を除いては。
私達は身支度を整え、玄関に出る。そして毎度の如く姫ちゃんへの念押しを開始する。
「気をつけてね姫ちゃん、変な人いたらすぐ逃げてね」
「大丈夫だよ、奈也美ちゃん」
頷く姫ちゃんに後藤さんが焦った声を出す。
「油断したら駄目だぞ姫!!もし嫌なこととか苦しいこととかあったら、すぐに教えるんだぞ!!!」
「分かってるよ、お父さん」
姫ちゃんはのほほんと答え、「いってきます」と私と後藤さんに手を振り、背を向けて歩き出す。私達はそことは真逆の道を進み始める。
旧山手通りを境とし、目黒から渋谷へ移ったとき、後藤さんは「かくしごと」を始める。
こんなんで生計立てていけるのかと思ってしまう「マリオットランチマーケット」という店で、後藤さんはスーツからだらしない(それも様になっていると思うのだが、どうもそれは「恋は盲目」というやつらしい)格好となる。そしてあるマンションの一室へとまた歩を進めてゆく。
開けばそこは、漫画家の巣。アシスタントが机にかじりつき、カリカリと音を立てている。
後藤さんは中に入り、いつもの椅子に座ると、そこに置いてあったペンを握った。
後藤さんは姫ちゃんには内緒のかくしごとがある。絶対に言ってはならないと、何度も釘を刺された。
そう、後藤さんの隠し事は、描く仕事だ。
そして、私にも隠し事がある。
それは、私が後藤さんに、恋しているということだ。