貴方のかくしごとを、私も
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
初めに言っておく。私の初恋は、現在も進行中である。
あの日。お姉ちゃんに後藤さんを紹介されたあの日、私の初恋は叶わぬものとなった。二人が仲よさげに笑い、喋り、微笑み合っているのを見て、私の精神は相当にまいっていた。お姉ちゃんを憎んだわけではない、後藤さんに惚れたことを憎んだのでもない。ただ、私がこの人と結ばれることはないと知って落胆していた。
その落胆に更に拍車をかけたのは、二人の娘ーー姫ちゃんの誕生だった。これはいつ頃か覚えている。私が8歳の時だった。二人を結び合わせる存在を目の当たりにし、私は叫びたくなった。ある程度大きくなった私は、既に達観をやめていたけれど、「この世は自分ではどうにもならないことばかりだ」という事を、誰に言われるでもなく理解しているくらいには大人だったと思う。
しかしながら、その落胆や達観などどうでもいいと思わせてくれたのも、姫ちゃんだった。つぶらな瞳、疑いを知らない笑み、ふわふわな髪の毛、人形のような肌。全てが愛おしく、可愛く、妹が産まれたような気持ちになった。
きっとこれは、神様からの贈り物だ。初恋を実らせることが出来ない私を哀れんで、神様が贈ってくれたのだ。私は自分に言い聞かせるわけでもなく、本気でそう思った。ならば、この子を愛そう。後藤さんの代わりになんて出来ないけど、せめて、叔母として、同じくらいの愛を捧げよう。そう心に決めたのだ。
けれど、その決心は、ある日突然、揺らいだ。その理由が、今もなお後藤さんに片思いしている理由でもある。
お姉ちゃんは、目の病気を患った。少しずつ、色が見えなくなっていく病気だと聞いた。何も出来ず、無力感に苛まれる私を、お姉ちゃんは「大丈夫」と慰めてくれた。
「愛しい妹がいて、夫がいて、娘がいる。そう思えば、こんな病気、なんてこと無いわよ」
そう微笑んだお姉ちゃんが、少しだけやつれていた事に、私は最近になって気づいた。馬鹿な妹だ。
そして、あの日。お姉ちゃんの世界から段々と色彩が失われていって、完全に消え去る前に、海に行くことになった。二人の思い出の場所だと聞いて、少し胸がズキンと痛んだ。姫ちゃんを代わりにすると言いながら、嫉妬する程度には私はまだ後藤さんを好きだった。
「奈也美」
浜辺で海を眺めながら、お姉ちゃんが私に呼びかけた。
「綺麗ね」
その物憂げな横顔に、私は小さく頷くことしか出来なかった。
あの日お姉ちゃんは、自分の運命を悟っていたのだろうか。
その日を最後にして、お姉ちゃんは消えた。遭難したのだ。
死んだわけではない、多分。遺体が見つからない限りは、お姉ちゃんは生きていると信じようと思っている。
けれど、私は心の奥底で、死んでほしいと願っている。
私より何もかも優れていたお姉ちゃん。お父さんに可愛がられていたお姉ちゃん。それでも私に嫌味でもなんでもなく優しくしてくれたお姉ちゃん。
そんなお姉ちゃんの死を、私は願っている。とても小さく、けれど、強く。
お姉ちゃんは文字通り「母なる海」になったのだ。姫ちゃんの母となり、全人類の母に導かれた。そうであってほしいと願っているのだと言えば、聞こえが良いだろうか。
ともかく、こうして私は姉を失い、最愛の人の最愛の人になるチャンスを手に入れたのだ。
あの日。お姉ちゃんに後藤さんを紹介されたあの日、私の初恋は叶わぬものとなった。二人が仲よさげに笑い、喋り、微笑み合っているのを見て、私の精神は相当にまいっていた。お姉ちゃんを憎んだわけではない、後藤さんに惚れたことを憎んだのでもない。ただ、私がこの人と結ばれることはないと知って落胆していた。
その落胆に更に拍車をかけたのは、二人の娘ーー姫ちゃんの誕生だった。これはいつ頃か覚えている。私が8歳の時だった。二人を結び合わせる存在を目の当たりにし、私は叫びたくなった。ある程度大きくなった私は、既に達観をやめていたけれど、「この世は自分ではどうにもならないことばかりだ」という事を、誰に言われるでもなく理解しているくらいには大人だったと思う。
しかしながら、その落胆や達観などどうでもいいと思わせてくれたのも、姫ちゃんだった。つぶらな瞳、疑いを知らない笑み、ふわふわな髪の毛、人形のような肌。全てが愛おしく、可愛く、妹が産まれたような気持ちになった。
きっとこれは、神様からの贈り物だ。初恋を実らせることが出来ない私を哀れんで、神様が贈ってくれたのだ。私は自分に言い聞かせるわけでもなく、本気でそう思った。ならば、この子を愛そう。後藤さんの代わりになんて出来ないけど、せめて、叔母として、同じくらいの愛を捧げよう。そう心に決めたのだ。
けれど、その決心は、ある日突然、揺らいだ。その理由が、今もなお後藤さんに片思いしている理由でもある。
お姉ちゃんは、目の病気を患った。少しずつ、色が見えなくなっていく病気だと聞いた。何も出来ず、無力感に苛まれる私を、お姉ちゃんは「大丈夫」と慰めてくれた。
「愛しい妹がいて、夫がいて、娘がいる。そう思えば、こんな病気、なんてこと無いわよ」
そう微笑んだお姉ちゃんが、少しだけやつれていた事に、私は最近になって気づいた。馬鹿な妹だ。
そして、あの日。お姉ちゃんの世界から段々と色彩が失われていって、完全に消え去る前に、海に行くことになった。二人の思い出の場所だと聞いて、少し胸がズキンと痛んだ。姫ちゃんを代わりにすると言いながら、嫉妬する程度には私はまだ後藤さんを好きだった。
「奈也美」
浜辺で海を眺めながら、お姉ちゃんが私に呼びかけた。
「綺麗ね」
その物憂げな横顔に、私は小さく頷くことしか出来なかった。
あの日お姉ちゃんは、自分の運命を悟っていたのだろうか。
その日を最後にして、お姉ちゃんは消えた。遭難したのだ。
死んだわけではない、多分。遺体が見つからない限りは、お姉ちゃんは生きていると信じようと思っている。
けれど、私は心の奥底で、死んでほしいと願っている。
私より何もかも優れていたお姉ちゃん。お父さんに可愛がられていたお姉ちゃん。それでも私に嫌味でもなんでもなく優しくしてくれたお姉ちゃん。
そんなお姉ちゃんの死を、私は願っている。とても小さく、けれど、強く。
お姉ちゃんは文字通り「母なる海」になったのだ。姫ちゃんの母となり、全人類の母に導かれた。そうであってほしいと願っているのだと言えば、聞こえが良いだろうか。
ともかく、こうして私は姉を失い、最愛の人の最愛の人になるチャンスを手に入れたのだ。