一年生と仲良くなりたいの段
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いざ、行かん。
戦地に赴くような覚悟で早雲は五年い組を後にした。
だが一年生の教室に近づくごとに、覇気がなくなっていく。
「一年生が来るのは四回目だろ。いい加減慣れたら?」
「勘右衛門、知っているか。人には向き不向きがある」
「キメ顔で言うことじゃないな」
「う……しかし、やると決めたんだ。やり遂げねば」
大事に抱えた帳簿に目をやり、勘右衛門が疑問を口にする。
「そういえばその帳簿、届けるのっては組だけなんだ?」
「ああ。もう一人の一年生はしっかり者らしくてな。自分で持っていったそうだ」
「ふーん。い組なんだっけ。安藤先生の教育かねー」
「ああ……」
不安が募り返答が雑になっている早雲。
勘右衛門はその背をぽん、と叩いて言った。
「そんな悩むなって。は組は元気らしいし、荒療治になるんじゃない」
「そうだと、いいが……」
「あはは。いつもの強気はどうしたのさ」
「勉学と人付き合いとは違うだろう」
「うん、それがわかってるのに困っちゃう早雲は仕方ないなあ。俺がいないとね」
「ああ……お前がいないと駄目だ、勘右衛門」
「照れること言うなよ! 素直になるのは後輩の前でやれって!」
なんて二人がじゃれている間に、一年は組の教室へ辿り着いていた。
廊下に届くほど元気な声が辺りに響いている。
早雲が深呼吸をして落ち着こうとする前に、無慈悲にも勘右衛門が戸を開け放った。
「勘っ!!」
突然開けられた戸に、大声を上げる五年生。
もちろん勘右衛門と早雲は注目を集めた。
いくつもの視線が突き刺さり、早雲は狼狽える。
そんな早雲をよそに、小さな影がひとつ近づいてきた。
「先輩、どうなさったんですか?」
「よ、庄左ヱ門。俺は委員会の連絡で……」
言葉を交わす二人を眺め、俺もいつかと内心拳を握りしめていると、眼鏡をかけた一年生が早雲に話しかける。
「尾浜先輩と、あと……?」
「ああ、名乗っていなかったな、失礼。俺は五年い組、御園早雲だ」
早雲はなるべく威圧感を与えないように、視線を合わせて返答した。
気難しそうな顔の人物が現れて少し驚いた一年生だが、膝を曲げてこちらに話しかける様子を見て悪い人ではなさそうだと判断し、何人かが早雲や勘右衛門のもとへやって来た。
そして、落ち着いた様子で庄左ヱ門が問いかける。
「あの。御園先輩は何かご用でしょうか」
「……っ! よくわかったな。理由を聞いてもいいか?」
勘右衛門は誰が見てもわかるだろと思ったが、黙って見守ることにした。
成績優秀でしっかり者の早雲だが、変なところで抜けている面を見せる。
予想のできないこれは、中々面白いのだ。
「先輩は手ぶらではありませんから」
「すごい観察力だな。ふふ」
(おーおー、頭なんか撫でちゃって)
緊張状態が急に緩んだのか、早雲は珍しく微笑み、庄左ヱ門を撫でる。
器用に笑えないだけで元々顔立ちは整っているのだ、その威力はすさまじい。
「っ……」
暫くして、一年生が固まっていることに気づいた早雲は素早く手を引っ込めた。
「す、すまない! 悪かった、急に」
「いえ……嬉しかったです」
「嬉しい?」
想像もしていなかった言葉に、早雲の動きが止まる。
「はい。御園先輩、みんな怖そうって言ってたから」
「う」
「そう思うよな。でもさ、元々こういう顔なんだ。見かけたら話しかけてやってよ。早雲、後輩と仲良くしたがってるから」
「そうなのですか?」
「……ああ。よろしく頼む。それと……名前でいいよ、庄左ヱ門」
「……! はい、早雲先輩!」
「庄ちゃんだけずるい! 早雲先輩! わたしは乱太郎です!」
二人のやり取りに羨ましいと感じた生徒が何人も飛び込んできて、あっという間に早雲は一年生に囲まれてしまった。
困ったように眉を下げているが、頬はほんのりと赤く染まっている。
(良かったじゃん早雲)
勘右衛門は、まるで我が子の成長を見守るような気分になった。
同級生に抱く感情がこれでいいのか。
まあいいか、早雲だし。そう結論を出す勘右衛門であった。
「あ、あの。この前はありがとうございました!」
「……ああ、体育委員会の……金吾、だったか」
「はい!」
「早雲、知り合い?」
「三之助を届ける時にな。あそこには滝もいるし」
「先輩、滝って?」
「四年生の滝夜叉丸のことだ」
「ええ~!?」
親しい後輩のことを口にすると、一年生の表情が一変した。
どこか憐れむような視線を向けられ早雲は首を傾げる。
「滝がどうかしたのか?」
「早雲先輩……」
「二人が一緒にいるところ、見たことない? すごくべったりだよ」
「ええ……」
「……でも、先輩は……」
「うん、お顔はちょっと怖いけど、全然変じゃないし……」
「長い自慢話もしてこないし」
「ねー」
(滝、お前は何をしたんだ……)
後輩のことが心配になっていると、庄左ヱ門が話題を変えた。
「で、どうして先輩はここに?」
「庄ちゃんったら冷静ね」
「そうだ、まだ言ってなかったな。ええと……団蔵に、用があって」
「おれ?」
つぶらな瞳が早雲を見た。
委員会の教室で一緒に過ごしたことはあるが、こうして向き合うのは初めてである。
うるさい鼓動の音を感じながら、早雲は帳簿を手渡す。
「これ。急ぎではないが、まとめておいてほしいものだ。潮江会計委員長から預かってきた」
「いつもは田村三木ヱ門先輩がくれるのに……」
「それはなあ、団蔵と話せていない早雲が潮江先輩に頼んで貰ってきたんだ」
「勘右衛門!」
「へえ~そうなんだ」
「先輩、そんなに団蔵と話したかったんですか?」
友人のネタばらしに声を上げてしまったが、無邪気な質問に、早雲は素直に頷くしかなかった。
「……そう、だ」
「いいなー団蔵」
「せんぱーい! ぼくともお話してくださーい!」
(これは夢か?)
いつも、怖がられてきた。
そんな自分が一年生に囲まれている。
夢のような光景に眩暈を覚えたが、帳簿を抱えた団蔵を目にして早雲は我に返った。
「わからないことがあれば何でも聞いてくれ。……俺には、尋ねづらいかもしれんが」
「そんなことないです!」
「え……」
力強い否定に、早雲は目を丸くした。
「確かに、委員会で先輩は近寄りがたかったですが」
「う゛」
「よく話している先輩たちが羨ましくて。あと、字も綺麗だし……」
「…………」
「先輩?」
「団、蔵…………おれは……っ……」
「あー! 早雲先輩泣いてる!」
「どこか痛いんですか?」
「お腹すいちゃったのかなあ」
「しんべヱじゃないんだから」
「ナメさん見ますか~?」
「いや、カラクリの方が!」
「しょーがないなぁ、銭を見せてあげますよ」
「それで元気になるのはきりちゃんだけでしょ」
無言で涙を流す早雲に、一年は組は大騒ぎだ。
それぞれの個性が光る優しさを浴び、早雲のキャパシティは限界だった。
「う、うう……」
「早雲?」
「勘右衛門……俺は……幸せだ……」
「早雲ー! 戻ってこい!!!」
そのまま、早雲は喜びのあまり気を失ったのだった。
戦地に赴くような覚悟で早雲は五年い組を後にした。
だが一年生の教室に近づくごとに、覇気がなくなっていく。
「一年生が来るのは四回目だろ。いい加減慣れたら?」
「勘右衛門、知っているか。人には向き不向きがある」
「キメ顔で言うことじゃないな」
「う……しかし、やると決めたんだ。やり遂げねば」
大事に抱えた帳簿に目をやり、勘右衛門が疑問を口にする。
「そういえばその帳簿、届けるのっては組だけなんだ?」
「ああ。もう一人の一年生はしっかり者らしくてな。自分で持っていったそうだ」
「ふーん。い組なんだっけ。安藤先生の教育かねー」
「ああ……」
不安が募り返答が雑になっている早雲。
勘右衛門はその背をぽん、と叩いて言った。
「そんな悩むなって。は組は元気らしいし、荒療治になるんじゃない」
「そうだと、いいが……」
「あはは。いつもの強気はどうしたのさ」
「勉学と人付き合いとは違うだろう」
「うん、それがわかってるのに困っちゃう早雲は仕方ないなあ。俺がいないとね」
「ああ……お前がいないと駄目だ、勘右衛門」
「照れること言うなよ! 素直になるのは後輩の前でやれって!」
なんて二人がじゃれている間に、一年は組の教室へ辿り着いていた。
廊下に届くほど元気な声が辺りに響いている。
早雲が深呼吸をして落ち着こうとする前に、無慈悲にも勘右衛門が戸を開け放った。
「勘っ!!」
突然開けられた戸に、大声を上げる五年生。
もちろん勘右衛門と早雲は注目を集めた。
いくつもの視線が突き刺さり、早雲は狼狽える。
そんな早雲をよそに、小さな影がひとつ近づいてきた。
「先輩、どうなさったんですか?」
「よ、庄左ヱ門。俺は委員会の連絡で……」
言葉を交わす二人を眺め、俺もいつかと内心拳を握りしめていると、眼鏡をかけた一年生が早雲に話しかける。
「尾浜先輩と、あと……?」
「ああ、名乗っていなかったな、失礼。俺は五年い組、御園早雲だ」
早雲はなるべく威圧感を与えないように、視線を合わせて返答した。
気難しそうな顔の人物が現れて少し驚いた一年生だが、膝を曲げてこちらに話しかける様子を見て悪い人ではなさそうだと判断し、何人かが早雲や勘右衛門のもとへやって来た。
そして、落ち着いた様子で庄左ヱ門が問いかける。
「あの。御園先輩は何かご用でしょうか」
「……っ! よくわかったな。理由を聞いてもいいか?」
勘右衛門は誰が見てもわかるだろと思ったが、黙って見守ることにした。
成績優秀でしっかり者の早雲だが、変なところで抜けている面を見せる。
予想のできないこれは、中々面白いのだ。
「先輩は手ぶらではありませんから」
「すごい観察力だな。ふふ」
(おーおー、頭なんか撫でちゃって)
緊張状態が急に緩んだのか、早雲は珍しく微笑み、庄左ヱ門を撫でる。
器用に笑えないだけで元々顔立ちは整っているのだ、その威力はすさまじい。
「っ……」
暫くして、一年生が固まっていることに気づいた早雲は素早く手を引っ込めた。
「す、すまない! 悪かった、急に」
「いえ……嬉しかったです」
「嬉しい?」
想像もしていなかった言葉に、早雲の動きが止まる。
「はい。御園先輩、みんな怖そうって言ってたから」
「う」
「そう思うよな。でもさ、元々こういう顔なんだ。見かけたら話しかけてやってよ。早雲、後輩と仲良くしたがってるから」
「そうなのですか?」
「……ああ。よろしく頼む。それと……名前でいいよ、庄左ヱ門」
「……! はい、早雲先輩!」
「庄ちゃんだけずるい! 早雲先輩! わたしは乱太郎です!」
二人のやり取りに羨ましいと感じた生徒が何人も飛び込んできて、あっという間に早雲は一年生に囲まれてしまった。
困ったように眉を下げているが、頬はほんのりと赤く染まっている。
(良かったじゃん早雲)
勘右衛門は、まるで我が子の成長を見守るような気分になった。
同級生に抱く感情がこれでいいのか。
まあいいか、早雲だし。そう結論を出す勘右衛門であった。
「あ、あの。この前はありがとうございました!」
「……ああ、体育委員会の……金吾、だったか」
「はい!」
「早雲、知り合い?」
「三之助を届ける時にな。あそこには滝もいるし」
「先輩、滝って?」
「四年生の滝夜叉丸のことだ」
「ええ~!?」
親しい後輩のことを口にすると、一年生の表情が一変した。
どこか憐れむような視線を向けられ早雲は首を傾げる。
「滝がどうかしたのか?」
「早雲先輩……」
「二人が一緒にいるところ、見たことない? すごくべったりだよ」
「ええ……」
「……でも、先輩は……」
「うん、お顔はちょっと怖いけど、全然変じゃないし……」
「長い自慢話もしてこないし」
「ねー」
(滝、お前は何をしたんだ……)
後輩のことが心配になっていると、庄左ヱ門が話題を変えた。
「で、どうして先輩はここに?」
「庄ちゃんったら冷静ね」
「そうだ、まだ言ってなかったな。ええと……団蔵に、用があって」
「おれ?」
つぶらな瞳が早雲を見た。
委員会の教室で一緒に過ごしたことはあるが、こうして向き合うのは初めてである。
うるさい鼓動の音を感じながら、早雲は帳簿を手渡す。
「これ。急ぎではないが、まとめておいてほしいものだ。潮江会計委員長から預かってきた」
「いつもは田村三木ヱ門先輩がくれるのに……」
「それはなあ、団蔵と話せていない早雲が潮江先輩に頼んで貰ってきたんだ」
「勘右衛門!」
「へえ~そうなんだ」
「先輩、そんなに団蔵と話したかったんですか?」
友人のネタばらしに声を上げてしまったが、無邪気な質問に、早雲は素直に頷くしかなかった。
「……そう、だ」
「いいなー団蔵」
「せんぱーい! ぼくともお話してくださーい!」
(これは夢か?)
いつも、怖がられてきた。
そんな自分が一年生に囲まれている。
夢のような光景に眩暈を覚えたが、帳簿を抱えた団蔵を目にして早雲は我に返った。
「わからないことがあれば何でも聞いてくれ。……俺には、尋ねづらいかもしれんが」
「そんなことないです!」
「え……」
力強い否定に、早雲は目を丸くした。
「確かに、委員会で先輩は近寄りがたかったですが」
「う゛」
「よく話している先輩たちが羨ましくて。あと、字も綺麗だし……」
「…………」
「先輩?」
「団、蔵…………おれは……っ……」
「あー! 早雲先輩泣いてる!」
「どこか痛いんですか?」
「お腹すいちゃったのかなあ」
「しんべヱじゃないんだから」
「ナメさん見ますか~?」
「いや、カラクリの方が!」
「しょーがないなぁ、銭を見せてあげますよ」
「それで元気になるのはきりちゃんだけでしょ」
無言で涙を流す早雲に、一年は組は大騒ぎだ。
それぞれの個性が光る優しさを浴び、早雲のキャパシティは限界だった。
「う、うう……」
「早雲?」
「勘右衛門……俺は……幸せだ……」
「早雲ー! 戻ってこい!!!」
そのまま、早雲は喜びのあまり気を失ったのだった。