賑やかな朝の段
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ところ変わって食堂。
五年生と卓を囲む早雲は、いつもよりくたびれた顔をしていた。
三郎はろ組の二人と久々知に先ほど起こったことを知らせる。
「……なんてことがあったんだよ」
「そっか。だから遅かったんだね。お疲れ様、早雲」
「ありがとう、雷蔵……」
同じ顔をしているのに、中身はこんなにも違う。
早雲は雷蔵の優しさと共に味噌汁を飲み込んだ。
「相変わらずだなー早雲は」
「なんだ。そんな目で俺を見るな八左ヱ門」
「なんで俺にはこんなに当たりが強いんだ?」
「早雲は改めて、一年生と話せていないことにショックを受けてるんだ。仲良くやってる生物委員会なんて、目の毒だろ」
「ああ……」
八左ヱ門が嫌いなわけではない。
羨ましいだけなのだ。
刺々しい態度に内心ですまんと謝っていたが、次の発言でそんな気持ちは変わった。
「ま、仕方ないだろ。美人って黙ると余計怖く見えるし!」
「……今日、お前とは口を聞かん。用があれば兵助か勘右衛門に言え。以上」
「早雲~嫉妬すんなって~!」
「……」
「わ、悪かったって。からかいすぎた! ごめんな?」
つんけんとした態度を取った早雲の方が悪いのに、手を合わせて謝罪する八左ヱ門に、心がちくりと痛む。
こういう人懐っこい人間だから、彼は後輩ともうまくやっているのだ。
「俺は……やはり……近寄りがたい、よな。わかってるんだ、そんなことは」
「無理しなくていいと思うけどな。自然体の早雲が一番だよ。俺らが仲良くなったのも、無理してない早雲だし」
「兵助……」
からかってくる友人が多い中、ストレートに早雲を認める兵助の言葉が早雲の胸に沁みる。
ここでようやく、早雲は平静を取り戻した。
「そうだな……いや、随分と心を乱してしまった。まだまだ鍛錬が足りないな」
「今の早雲、潮江先輩みたいだったね」
「……そうか?」
「はは、嬉しそうだな」
雷蔵と三郎にそう言われ、無表情だがほんわかしたオーラを放つ早雲。
彼のささやかな喜びは、とある一人の先輩により霧散することになる。
「ふむ。なら私の部屋に来るか? 早雲」
「話が飛躍しすぎです、立花先輩」
「私を見ても喜んでくれないのか、お前は贅沢なやつだ」
会話に加わるのは、美しい髪を揺らし自信たっぷりに微笑む六年生。
早雲は彼に気に入られているが、自分の魅力を最大限に理解した上の言動は自分には眩しすぎて、腰が引けてしまう。
つまるところ、ちょっぴり苦手だった。
悪い人ではないのだが、俺のことをおもちゃだと思っている。確実に。
早雲はそう思っていた。
「それと。私が特別に名前で呼んでいいと言っているのに。つれないな」
「……後輩をからかわないでください」
「お前ならわかるのではないか? 可愛い後輩に名前で呼ばれている同級生がいる中、自分は名字で呼ばれる切なさを」
「う……それは、ずるいですよ」
「フフ。上手と言ってほしいな。さあ、良い子なら何をすればいいかわかるだろう?」
お手上げだ。
この人の口のうまさには勝てる気がしない。
観念して、早雲はその名を口にする。
「……せんぞう、先輩」
「よろしい。はじめからそうすればいいものを」
「まあまあ先輩。早雲も悩んでいるので、お手柔らかに……」
「全部聞こえていたぞ。一年生とあまり話せていないんだろう? お前は毎年同じ悩みを抱いているな」
「こ、ことしは……元気な子が多いと聞くのに。それでも、俺は……」
「これでも、今年は自分から弱音を吐いてくれたんで、進歩してると思いますよ~」
胸元を握りしめ、早雲は俯いた。
そんな彼の背に、気の抜ける声と共に寄り掛かる紫色がひとつ。
朝やって来た二人とは別の四年生だ。
「僕とは話せているし、それでいいじゃないですか」
「き、はちろう……驚かせるな」
「そう言ってるのに真顔。先輩ってヘンですねえ」
「お前も落ち着いた顔をしているが……」
「おやまぁ。お揃いですね」
体重をかけられ早雲からは苦し気な声が漏れるが、身体はちっとも動いていない。
綺麗な顔をしているが、早雲は武闘派。
可愛い後輩一人に寄り掛かられたくらいでは、体勢を崩さないのだ。
「こら喜八郎、早雲はまだ食事の途中だぞ」
それを理解しているので仙蔵は早雲の朝食には一切触れることなく、委員会の後輩を叱る。
「じゃあ早く食べてくださーい」
「そういう問題じゃないだろう」
まるで母のような小言を漏らす仙蔵に、気にしていない喜八郎。
背中に体重を感じつつ食事を再開する早雲だが、その箸はすぐ止まる。
「喜八郎、たまには良いことを言うではないか! その通りだ!」
「そうです! 私たちがいるではないですか、早雲先輩!」
先ほどの喜八郎の発言に共感したらしい二人が、文字通り飛んできた。
好意的な後輩の思いは非常にありがたい。……のだが。
「……俺は、一年生の時先輩に優しくされて嬉しかったんだ」
「先輩?」
「今も嬉しいさ。こんな俺を良く思ってくれる後輩がいて。だが……お前達の優しさにいつまでも甘えるのは、やめようと思う」
「早雲先輩……」
「ま、僕は別にいいですけどー。先輩のところに行くのは、変わらないし」
「私は早雲先輩を応援しております!」
「私はその倍! ユリコ達と共に応援します!!」
「何を! 輪子もおりますよ、先輩!」
「みんな……ありがとう……」
無表情の喜八郎に抱き着かれている真顔の早雲。
その傍で感極まっている滝夜叉丸と三木ヱ門。
なんとも、カオスな雰囲気である。
「おーい早雲、先に行ってるよ~」
「このままだと、今度こそ本当に授業に遅れるぞ!」
「あっ」
付き合いきれんと遠ざかる背中にはっとする。
早雲は急いでご飯をたいらげ、食器を返却し床を蹴った。
もちろん、その際に食堂のおばちゃんへの挨拶は欠かさない。
「ああ、今日は特に賑やかな朝だな……」
これは、真面目で不愛想、不器用な御園早雲が学園生活を送る話である。
五年生と卓を囲む早雲は、いつもよりくたびれた顔をしていた。
三郎はろ組の二人と久々知に先ほど起こったことを知らせる。
「……なんてことがあったんだよ」
「そっか。だから遅かったんだね。お疲れ様、早雲」
「ありがとう、雷蔵……」
同じ顔をしているのに、中身はこんなにも違う。
早雲は雷蔵の優しさと共に味噌汁を飲み込んだ。
「相変わらずだなー早雲は」
「なんだ。そんな目で俺を見るな八左ヱ門」
「なんで俺にはこんなに当たりが強いんだ?」
「早雲は改めて、一年生と話せていないことにショックを受けてるんだ。仲良くやってる生物委員会なんて、目の毒だろ」
「ああ……」
八左ヱ門が嫌いなわけではない。
羨ましいだけなのだ。
刺々しい態度に内心ですまんと謝っていたが、次の発言でそんな気持ちは変わった。
「ま、仕方ないだろ。美人って黙ると余計怖く見えるし!」
「……今日、お前とは口を聞かん。用があれば兵助か勘右衛門に言え。以上」
「早雲~嫉妬すんなって~!」
「……」
「わ、悪かったって。からかいすぎた! ごめんな?」
つんけんとした態度を取った早雲の方が悪いのに、手を合わせて謝罪する八左ヱ門に、心がちくりと痛む。
こういう人懐っこい人間だから、彼は後輩ともうまくやっているのだ。
「俺は……やはり……近寄りがたい、よな。わかってるんだ、そんなことは」
「無理しなくていいと思うけどな。自然体の早雲が一番だよ。俺らが仲良くなったのも、無理してない早雲だし」
「兵助……」
からかってくる友人が多い中、ストレートに早雲を認める兵助の言葉が早雲の胸に沁みる。
ここでようやく、早雲は平静を取り戻した。
「そうだな……いや、随分と心を乱してしまった。まだまだ鍛錬が足りないな」
「今の早雲、潮江先輩みたいだったね」
「……そうか?」
「はは、嬉しそうだな」
雷蔵と三郎にそう言われ、無表情だがほんわかしたオーラを放つ早雲。
彼のささやかな喜びは、とある一人の先輩により霧散することになる。
「ふむ。なら私の部屋に来るか? 早雲」
「話が飛躍しすぎです、立花先輩」
「私を見ても喜んでくれないのか、お前は贅沢なやつだ」
会話に加わるのは、美しい髪を揺らし自信たっぷりに微笑む六年生。
早雲は彼に気に入られているが、自分の魅力を最大限に理解した上の言動は自分には眩しすぎて、腰が引けてしまう。
つまるところ、ちょっぴり苦手だった。
悪い人ではないのだが、俺のことをおもちゃだと思っている。確実に。
早雲はそう思っていた。
「それと。私が特別に名前で呼んでいいと言っているのに。つれないな」
「……後輩をからかわないでください」
「お前ならわかるのではないか? 可愛い後輩に名前で呼ばれている同級生がいる中、自分は名字で呼ばれる切なさを」
「う……それは、ずるいですよ」
「フフ。上手と言ってほしいな。さあ、良い子なら何をすればいいかわかるだろう?」
お手上げだ。
この人の口のうまさには勝てる気がしない。
観念して、早雲はその名を口にする。
「……せんぞう、先輩」
「よろしい。はじめからそうすればいいものを」
「まあまあ先輩。早雲も悩んでいるので、お手柔らかに……」
「全部聞こえていたぞ。一年生とあまり話せていないんだろう? お前は毎年同じ悩みを抱いているな」
「こ、ことしは……元気な子が多いと聞くのに。それでも、俺は……」
「これでも、今年は自分から弱音を吐いてくれたんで、進歩してると思いますよ~」
胸元を握りしめ、早雲は俯いた。
そんな彼の背に、気の抜ける声と共に寄り掛かる紫色がひとつ。
朝やって来た二人とは別の四年生だ。
「僕とは話せているし、それでいいじゃないですか」
「き、はちろう……驚かせるな」
「そう言ってるのに真顔。先輩ってヘンですねえ」
「お前も落ち着いた顔をしているが……」
「おやまぁ。お揃いですね」
体重をかけられ早雲からは苦し気な声が漏れるが、身体はちっとも動いていない。
綺麗な顔をしているが、早雲は武闘派。
可愛い後輩一人に寄り掛かられたくらいでは、体勢を崩さないのだ。
「こら喜八郎、早雲はまだ食事の途中だぞ」
それを理解しているので仙蔵は早雲の朝食には一切触れることなく、委員会の後輩を叱る。
「じゃあ早く食べてくださーい」
「そういう問題じゃないだろう」
まるで母のような小言を漏らす仙蔵に、気にしていない喜八郎。
背中に体重を感じつつ食事を再開する早雲だが、その箸はすぐ止まる。
「喜八郎、たまには良いことを言うではないか! その通りだ!」
「そうです! 私たちがいるではないですか、早雲先輩!」
先ほどの喜八郎の発言に共感したらしい二人が、文字通り飛んできた。
好意的な後輩の思いは非常にありがたい。……のだが。
「……俺は、一年生の時先輩に優しくされて嬉しかったんだ」
「先輩?」
「今も嬉しいさ。こんな俺を良く思ってくれる後輩がいて。だが……お前達の優しさにいつまでも甘えるのは、やめようと思う」
「早雲先輩……」
「ま、僕は別にいいですけどー。先輩のところに行くのは、変わらないし」
「私は早雲先輩を応援しております!」
「私はその倍! ユリコ達と共に応援します!!」
「何を! 輪子もおりますよ、先輩!」
「みんな……ありがとう……」
無表情の喜八郎に抱き着かれている真顔の早雲。
その傍で感極まっている滝夜叉丸と三木ヱ門。
なんとも、カオスな雰囲気である。
「おーい早雲、先に行ってるよ~」
「このままだと、今度こそ本当に授業に遅れるぞ!」
「あっ」
付き合いきれんと遠ざかる背中にはっとする。
早雲は急いでご飯をたいらげ、食器を返却し床を蹴った。
もちろん、その際に食堂のおばちゃんへの挨拶は欠かさない。
「ああ、今日は特に賑やかな朝だな……」
これは、真面目で不愛想、不器用な御園早雲が学園生活を送る話である。