賑やかな朝の段
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鳥の声に混じり、近づいてくる気配で早雲は目を覚ました。
天井から視線を動かすと、自分一人しかいない部屋の光景が広がる。
三年生の時から同室がいなくなったが、この静けさにもようやく慣れてきた。
起き上がり、寝癖がないか髪にさっと手櫛を通していると、ハリのある声が耳に飛び込んでくる。
「何故ついてくる! 早雲先輩に朝を告げるのは私一人で十分だ!」
「お前が私についてきたんだ! 早雲先輩の朝にふさわしいのはアイドルの私だ!」
「いーや! スターの私だ!」
あの二人のことだ、きちんと着替えも済ませているだろう。
寝巻きのままで迎えるのも……と思ったが、騒ぎを止めることが先だと結論を出し、早雲は戸を開けた。
「もう起きてるよ。おはよう滝、三木」
「早雲先輩! おはようございます!」
綺麗に揃った声を早雲は微笑ましく思ったが、後輩達は違ったらしく、嫌そうに互いを見ている。
学園のスーパースターを自称する滝夜叉丸と、彼をライバル視する三木ヱ門。
アイドル学年とも呼ばれる四年生の中でも特に華やかな二人に、早雲は非常に懐かれていた。
「こんな朝早くなのに二人の身だしなみはばっちりだな。寝巻きで悪い」
「いえ! 貴方は起きたばかりでも美しい。流石はこの滝夜叉丸が尊敬する先輩です」
「ありがとう。……それで、わざわざ俺の部屋に来るなんて、何か用か?」
あまり廊下で騒がない方がいいと思い早雲は、二人を部屋へ通した。
布団を畳みつつ問いかける。
「ユリコと散歩をしていたところ、先輩の部屋へ向かう滝夜叉丸を見つけて。早雲先輩の穏やかな朝を守るのは私だと思い、来ました!」
「そうか。それで、ユリコはどうした?」
「留守番をさせています!」
「そう。散歩の邪魔をしてすまないね」
「いえ! ユリコとの時間もですが、先輩との時間も大切なので!」
早雲は人が大切にするものや価値観はその人と同じく大事にする真面目な性格をしている。
誠実な人柄の先輩を、三木ヱ門は好ましく思っていた。
そんな二人を見て、滝夜叉丸は抗議の声を上げる。
「早雲先輩! こいつは先輩と私が話すことを良く思っていないのです。心の狭いやつだと思いませんか!」
「三木、俺は三木とも滝ともたくさん話したいよ。それは駄目かな」
明るい茶髪の下にある赤い目をじっと見て、話しかける。
いつもきっちりしている早雲は現在、寝起きのため髪をおろし、普段より柔らかな雰囲気があった。
元々慕っている先輩に真っすぐ見つめられ、断れる者はどこにもいない。
「だ……駄目では、ありません……」
「ん。ありがとう。三木は偉いな」
表情筋の硬い早雲だが、楽しければ笑うし心が和めば微笑む。
素直に頷く後輩に頬を緩ませていると、とてつもなく険しい顔をした滝夜叉丸が目に入る。
三木ヱ門と並ぶ華やかな顔を眺めてふと、思い出したことがあった。
「そうだ滝。今日は体育委員会の活動はあるか」
「はい、ありますが。何でしょう」
「俺も左門も今日は急ぎの仕事がなくてな。三之助の迎えに行ってほしいんだ」
「わかりました! いつもありがとうございます! 私が責任を持って連れて行きます!」
早雲は同じ会計委員会の神崎左門を引き取るついでに、次屋三之助のことも体育委員会に連れて行っている。
当時二年生だった滝夜叉丸より余裕のある自分が行った方がいいだろう、と考えて始まったことだった。
その関係で、早雲は富松作兵衛とも親交があったりする。
早雲から頼みごとをされた滝夜叉丸は、勝ち誇った顔で三木ヱ門に主張した。
「どうだ三木ヱ門。私はこのために先輩のお部屋にやって来たのだ! 目的のないお前と違ってな!」
「何だと!? ここに来るまでわからなかったクセに!」
再びぎゃあぎゃあと騒がしくなった二人に、早雲は息を吐いた。
「滝、三木」
「なんですか先輩!」
またも揃う声。
こんなに息がぴったりなのに喧嘩が絶えないのはどうしたものかと思う。
「声が大きい。みんな起きてしまうぞ」
「あ……」
「残念。ばっちり目を覚ましてるよ~」
「今日も愛されてるな、早雲」
新たな声と共に戸が開き、二人の同級生が現れた。
「おはよう勘右衛門、三郎。……着替えていないのは俺だけか」
「さあ二人とも、気は済んだ? 早く食堂に行きな」
「しかし尾浜先輩……!」
「これ以上長引くと、大好きな早雲が遅刻することになるぞ」
「な! 先輩を遅刻させるわけには……! 先輩、またお会いしましょう!」
「早雲先輩、今度ユリコと一緒に散歩をしましょうね!」
「ああ。また声をかけてくれ。じゃあな」
勘右衛門と三郎の言葉を受け入れ、滝夜叉丸と三木ヱ門は素早く部屋を後にした。
「勘右衛門、三郎、助かった。……素直な良い子達ではあるんだが」
早雲が礼を告げると、勘右衛門はにやりと笑いながら口を開く。
「ほんっと早雲の人気は極端だよな~」
「べ、べつに気にしていない」
その言葉に秘められた意味を感じ取ってか、声量が下がって早口になり、いかにも気にしていますといった早雲の様子を見た二人は吹き出した。
「未だに同じ委員会の一年生とはロクに話してないんだろ? その様子だと」
「ぐ……仕方ないだろう、左門のことがある。その間に仕事を見るのは年が近くて人当たりのいい三木だ。俺が行っても怖がらせてしまう」
眉をひそめる早雲の表情筋は硬く、同じ学年の雷蔵がすれば非常に困っているような顔になるはずだが、悲しいことに、早雲は誰がどう見ても険しい顔にしかならない。
内面と反して難儀な性質を持っている早雲のことを、三郎は気に入っていた。
「思いやる心はあるのに表情はぴくりとも動かない。面白いよな」
「三郎、人の顔を面白がるな。父さんと母さんに失礼だぞ」
「怒るところそこなんだ……」
「はは、本当に面白いヤツだよな早雲は。私としては、もう少し勘違いされていても構わないが」
「…………」
「三郎、早雲が固まっちゃった」
友人の発言でショックを受けた早雲はぴしりと動きを止める。
それを見て更に笑った三郎は、ぽん、と早雲の肩に手を置いて言った。
「ま、ガンバレよ、センパイ?」
「早雲。もう着替えないと。朝食なくなるぞ」
「……っ、待ってくれ二人とも! すぐ行く!!」
部屋には、転がった櫛だけが残されている。
几帳面な早雲には珍しい光景は、普段と違う忙しい朝を表しているようだった。
天井から視線を動かすと、自分一人しかいない部屋の光景が広がる。
三年生の時から同室がいなくなったが、この静けさにもようやく慣れてきた。
起き上がり、寝癖がないか髪にさっと手櫛を通していると、ハリのある声が耳に飛び込んでくる。
「何故ついてくる! 早雲先輩に朝を告げるのは私一人で十分だ!」
「お前が私についてきたんだ! 早雲先輩の朝にふさわしいのはアイドルの私だ!」
「いーや! スターの私だ!」
あの二人のことだ、きちんと着替えも済ませているだろう。
寝巻きのままで迎えるのも……と思ったが、騒ぎを止めることが先だと結論を出し、早雲は戸を開けた。
「もう起きてるよ。おはよう滝、三木」
「早雲先輩! おはようございます!」
綺麗に揃った声を早雲は微笑ましく思ったが、後輩達は違ったらしく、嫌そうに互いを見ている。
学園のスーパースターを自称する滝夜叉丸と、彼をライバル視する三木ヱ門。
アイドル学年とも呼ばれる四年生の中でも特に華やかな二人に、早雲は非常に懐かれていた。
「こんな朝早くなのに二人の身だしなみはばっちりだな。寝巻きで悪い」
「いえ! 貴方は起きたばかりでも美しい。流石はこの滝夜叉丸が尊敬する先輩です」
「ありがとう。……それで、わざわざ俺の部屋に来るなんて、何か用か?」
あまり廊下で騒がない方がいいと思い早雲は、二人を部屋へ通した。
布団を畳みつつ問いかける。
「ユリコと散歩をしていたところ、先輩の部屋へ向かう滝夜叉丸を見つけて。早雲先輩の穏やかな朝を守るのは私だと思い、来ました!」
「そうか。それで、ユリコはどうした?」
「留守番をさせています!」
「そう。散歩の邪魔をしてすまないね」
「いえ! ユリコとの時間もですが、先輩との時間も大切なので!」
早雲は人が大切にするものや価値観はその人と同じく大事にする真面目な性格をしている。
誠実な人柄の先輩を、三木ヱ門は好ましく思っていた。
そんな二人を見て、滝夜叉丸は抗議の声を上げる。
「早雲先輩! こいつは先輩と私が話すことを良く思っていないのです。心の狭いやつだと思いませんか!」
「三木、俺は三木とも滝ともたくさん話したいよ。それは駄目かな」
明るい茶髪の下にある赤い目をじっと見て、話しかける。
いつもきっちりしている早雲は現在、寝起きのため髪をおろし、普段より柔らかな雰囲気があった。
元々慕っている先輩に真っすぐ見つめられ、断れる者はどこにもいない。
「だ……駄目では、ありません……」
「ん。ありがとう。三木は偉いな」
表情筋の硬い早雲だが、楽しければ笑うし心が和めば微笑む。
素直に頷く後輩に頬を緩ませていると、とてつもなく険しい顔をした滝夜叉丸が目に入る。
三木ヱ門と並ぶ華やかな顔を眺めてふと、思い出したことがあった。
「そうだ滝。今日は体育委員会の活動はあるか」
「はい、ありますが。何でしょう」
「俺も左門も今日は急ぎの仕事がなくてな。三之助の迎えに行ってほしいんだ」
「わかりました! いつもありがとうございます! 私が責任を持って連れて行きます!」
早雲は同じ会計委員会の神崎左門を引き取るついでに、次屋三之助のことも体育委員会に連れて行っている。
当時二年生だった滝夜叉丸より余裕のある自分が行った方がいいだろう、と考えて始まったことだった。
その関係で、早雲は富松作兵衛とも親交があったりする。
早雲から頼みごとをされた滝夜叉丸は、勝ち誇った顔で三木ヱ門に主張した。
「どうだ三木ヱ門。私はこのために先輩のお部屋にやって来たのだ! 目的のないお前と違ってな!」
「何だと!? ここに来るまでわからなかったクセに!」
再びぎゃあぎゃあと騒がしくなった二人に、早雲は息を吐いた。
「滝、三木」
「なんですか先輩!」
またも揃う声。
こんなに息がぴったりなのに喧嘩が絶えないのはどうしたものかと思う。
「声が大きい。みんな起きてしまうぞ」
「あ……」
「残念。ばっちり目を覚ましてるよ~」
「今日も愛されてるな、早雲」
新たな声と共に戸が開き、二人の同級生が現れた。
「おはよう勘右衛門、三郎。……着替えていないのは俺だけか」
「さあ二人とも、気は済んだ? 早く食堂に行きな」
「しかし尾浜先輩……!」
「これ以上長引くと、大好きな早雲が遅刻することになるぞ」
「な! 先輩を遅刻させるわけには……! 先輩、またお会いしましょう!」
「早雲先輩、今度ユリコと一緒に散歩をしましょうね!」
「ああ。また声をかけてくれ。じゃあな」
勘右衛門と三郎の言葉を受け入れ、滝夜叉丸と三木ヱ門は素早く部屋を後にした。
「勘右衛門、三郎、助かった。……素直な良い子達ではあるんだが」
早雲が礼を告げると、勘右衛門はにやりと笑いながら口を開く。
「ほんっと早雲の人気は極端だよな~」
「べ、べつに気にしていない」
その言葉に秘められた意味を感じ取ってか、声量が下がって早口になり、いかにも気にしていますといった早雲の様子を見た二人は吹き出した。
「未だに同じ委員会の一年生とはロクに話してないんだろ? その様子だと」
「ぐ……仕方ないだろう、左門のことがある。その間に仕事を見るのは年が近くて人当たりのいい三木だ。俺が行っても怖がらせてしまう」
眉をひそめる早雲の表情筋は硬く、同じ学年の雷蔵がすれば非常に困っているような顔になるはずだが、悲しいことに、早雲は誰がどう見ても険しい顔にしかならない。
内面と反して難儀な性質を持っている早雲のことを、三郎は気に入っていた。
「思いやる心はあるのに表情はぴくりとも動かない。面白いよな」
「三郎、人の顔を面白がるな。父さんと母さんに失礼だぞ」
「怒るところそこなんだ……」
「はは、本当に面白いヤツだよな早雲は。私としては、もう少し勘違いされていても構わないが」
「…………」
「三郎、早雲が固まっちゃった」
友人の発言でショックを受けた早雲はぴしりと動きを止める。
それを見て更に笑った三郎は、ぽん、と早雲の肩に手を置いて言った。
「ま、ガンバレよ、センパイ?」
「早雲。もう着替えないと。朝食なくなるぞ」
「……っ、待ってくれ二人とも! すぐ行く!!」
部屋には、転がった櫛だけが残されている。
几帳面な早雲には珍しい光景は、普段と違う忙しい朝を表しているようだった。