曲者さんと一緒の段
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「五年い組御園早雲、入ります」
その日、早雲は潜入の実習に備えるため医務室を訪れていた。
予め伊作に伝えていたのだが、室内に人影はない。
作業途中と思われる薬研が置いてあるため、ちょうど席を外した時に来てしまったようだ。
(待たせてもらおう)
そう思い腰を下ろした瞬間、天井の板が外れてにゅっと逆さまの顔が現れる。
ここでは見慣れない色の忍び装束に片目を覆い隠す包帯。
忍術学園に時々やって来る、曲者だ。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは」
早雲は表情一つ変えずに挨拶を返した。
そして改めて部屋を見渡し、この場に生徒は自分しかいないことを確認してから咳ばらいを一つする。
それから、早雲は口を開く。
「あなたは、タコヤキドキ城のちょっとこなもんさん!」
「……早雲くんって、律儀だよねぇ」
医務室に、どこか間の抜けた空気が広がった。
◇
「そう。だから医務室に」
保健委員と会うためによくやって来る雑渡と比べると、部外者は自分の方である。
そう考えた早雲は何故自分がここにいるのかを説明した。
相手は曲者なのでそもそもがおかしい話なのだが、早雲は真面目がゆえに時々ずれた行動をするのでどっちもどっちである。
「はい、実習で使う薬を用意しようと思ったのですが、伊作先輩はご不在で。ええと、雑渡さんは」
「土井半助~!!!」
ちょうど外から大きな声と物音が聞こえ、早雲は全てを理解した。
「……尊奈門さんのお付き添い、ですか」
「そういうこと」
そこまで聞いて、向き合うように座る雑渡を見る。
(曲者とはいえ、雑渡さんは来客だ)
何もしないのは、と思うが、保健委員でもない自分が勝手に物を出してもいいのだろうかと躊躇する。
(堂々と入門票を記入する尊奈門さんはともかく、雑渡さんに出すのは……しかし、何も出さないというのは……)
顔には出ないが葛藤している早雲に雑渡はしれっと声をかけた。
「ああ、お茶はそこの棚だよ。どうぞお構いなく」
「はあ……ありがとうございます」
全てお見通しだ、と言わんばかりの雑渡からの言葉にどきっとしながら返事をする。
こういう強かさがないと忍者はやっていけないんだろうか……と思う早雲であった。
医務室に何があるかはある程度把握しているが、部屋の主がいない状況で物を使うことは滅多にない。
悪いことをしているような複雑な気持ちになりながら早雲は棚を開ける。
(使った分はあとでうちのところから足しておこう。銘柄、一緒だよな……)
会計委員会の棚にある茶葉のことを考えながら手を動かす。
どこから出したのかわからないが、いつの間にか持っていたお湯を雑渡から差し出され、早雲は湯呑にお茶を注いでいく。
(足すといっても買った時期は違うだろうから、混ざらないようにしないと)
無表情の裏で悶々と思いを巡らせるその姿を、雑渡は面白そうに見つめていた。
「ふふ」
「雑渡さん? 何かありましたか」
「いや、君の真面目なところ、うちの部下にそっくりだと思って」
「そう、なんですか」
「うん。そういう表情も似てるね」
「はぁ……」
そう言い、ずい、っと距離を詰められる。
今誰かに背中を押されたら顔と顔がぶつかるほどの近さだ。
早雲の視界は雑渡の右目と包帯で埋め尽くされた。
「どうかな、早雲くんさえよければ卒業後は是非うちに……」
「ウチの生徒を勧誘する際は正規の手順でお願いします!」
二人だけの空間を破ったのは、普段は一年のよい子たちを担当している教師の声だった。
早雲と雑渡の間に素早く入り込んだ土井の背中は、とても頼もしい。
「土井先生。ということは……」
「うう……まだ、勝負は終わってない……!」
土井の後ろから、探し人である伊作に抱えられた怪我人が現れる。
それを見た早雲はすぐに立ち上がり、スペースを空けた。
運ばれてきた尊奈門はチョークの粉にまみれて真っ白だった。
「今日もやられたね、尊奈門」
「雑渡さん、来られていたんですね。早雲もすまないね、ちょうど席を外してしまって」
「いえ、お邪魔したのは俺ですから。手伝います。必要なものは」
「助かるよ。水を汲んできてくれるかな」
「はい」
指示を受け、桶を手に医務室を出る。
井戸に向かって少し歩いたところで、早雲はこちらに駆けてくる二人と遭遇した。
その日、早雲は潜入の実習に備えるため医務室を訪れていた。
予め伊作に伝えていたのだが、室内に人影はない。
作業途中と思われる薬研が置いてあるため、ちょうど席を外した時に来てしまったようだ。
(待たせてもらおう)
そう思い腰を下ろした瞬間、天井の板が外れてにゅっと逆さまの顔が現れる。
ここでは見慣れない色の忍び装束に片目を覆い隠す包帯。
忍術学園に時々やって来る、曲者だ。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは」
早雲は表情一つ変えずに挨拶を返した。
そして改めて部屋を見渡し、この場に生徒は自分しかいないことを確認してから咳ばらいを一つする。
それから、早雲は口を開く。
「あなたは、タコヤキドキ城のちょっとこなもんさん!」
「……早雲くんって、律儀だよねぇ」
医務室に、どこか間の抜けた空気が広がった。
◇
「そう。だから医務室に」
保健委員と会うためによくやって来る雑渡と比べると、部外者は自分の方である。
そう考えた早雲は何故自分がここにいるのかを説明した。
相手は曲者なのでそもそもがおかしい話なのだが、早雲は真面目がゆえに時々ずれた行動をするのでどっちもどっちである。
「はい、実習で使う薬を用意しようと思ったのですが、伊作先輩はご不在で。ええと、雑渡さんは」
「土井半助~!!!」
ちょうど外から大きな声と物音が聞こえ、早雲は全てを理解した。
「……尊奈門さんのお付き添い、ですか」
「そういうこと」
そこまで聞いて、向き合うように座る雑渡を見る。
(曲者とはいえ、雑渡さんは来客だ)
何もしないのは、と思うが、保健委員でもない自分が勝手に物を出してもいいのだろうかと躊躇する。
(堂々と入門票を記入する尊奈門さんはともかく、雑渡さんに出すのは……しかし、何も出さないというのは……)
顔には出ないが葛藤している早雲に雑渡はしれっと声をかけた。
「ああ、お茶はそこの棚だよ。どうぞお構いなく」
「はあ……ありがとうございます」
全てお見通しだ、と言わんばかりの雑渡からの言葉にどきっとしながら返事をする。
こういう強かさがないと忍者はやっていけないんだろうか……と思う早雲であった。
医務室に何があるかはある程度把握しているが、部屋の主がいない状況で物を使うことは滅多にない。
悪いことをしているような複雑な気持ちになりながら早雲は棚を開ける。
(使った分はあとでうちのところから足しておこう。銘柄、一緒だよな……)
会計委員会の棚にある茶葉のことを考えながら手を動かす。
どこから出したのかわからないが、いつの間にか持っていたお湯を雑渡から差し出され、早雲は湯呑にお茶を注いでいく。
(足すといっても買った時期は違うだろうから、混ざらないようにしないと)
無表情の裏で悶々と思いを巡らせるその姿を、雑渡は面白そうに見つめていた。
「ふふ」
「雑渡さん? 何かありましたか」
「いや、君の真面目なところ、うちの部下にそっくりだと思って」
「そう、なんですか」
「うん。そういう表情も似てるね」
「はぁ……」
そう言い、ずい、っと距離を詰められる。
今誰かに背中を押されたら顔と顔がぶつかるほどの近さだ。
早雲の視界は雑渡の右目と包帯で埋め尽くされた。
「どうかな、早雲くんさえよければ卒業後は是非うちに……」
「ウチの生徒を勧誘する際は正規の手順でお願いします!」
二人だけの空間を破ったのは、普段は一年のよい子たちを担当している教師の声だった。
早雲と雑渡の間に素早く入り込んだ土井の背中は、とても頼もしい。
「土井先生。ということは……」
「うう……まだ、勝負は終わってない……!」
土井の後ろから、探し人である伊作に抱えられた怪我人が現れる。
それを見た早雲はすぐに立ち上がり、スペースを空けた。
運ばれてきた尊奈門はチョークの粉にまみれて真っ白だった。
「今日もやられたね、尊奈門」
「雑渡さん、来られていたんですね。早雲もすまないね、ちょうど席を外してしまって」
「いえ、お邪魔したのは俺ですから。手伝います。必要なものは」
「助かるよ。水を汲んできてくれるかな」
「はい」
指示を受け、桶を手に医務室を出る。
井戸に向かって少し歩いたところで、早雲はこちらに駆けてくる二人と遭遇した。