カードの精霊たちの日常

「マスター、お呼びですかー?」

ここは表遊戯の心の部屋。
本日ブラック・マジシャン・ガールは表遊戯に呼ばれて心の部屋に訪れていた。
表遊戯の心の部屋は様々な夢のあるオモチャに溢れていてブラック・マジシャン・ガールはこの部屋が大好きだった。
師匠たるブラック・マジシャンには迷惑になるから無闇に訪れるなと注意されているが、ついつい心惹かれて遊びに来てしまう。
表遊戯も迷惑がったりせず、むしろ歓迎してくれて色んな新しいオモチャやゲームを披露してくれるので、楽しい事が大好きなブラック・マジシャン・ガールはどうしても訪問をやめる事が出来なかった。
しかし今日は表遊戯直々の呼び出しなので堂々と足を踏み入れる事が出来る。
ワクワクとした表情を隠さずにブラック・マジシャン・ガールは床で胡座をかいて座っている表遊戯の向かいに座って話を待った。

「いらっしゃい、ブラック・マジシャン・ガール。急に呼び出してごめんね」
「いえ!今日は特に用事もないので大丈夫ですよ」
「そっか、それは良かった。実は恋する乙女のブラック・マジシャン・ガールにいいものをあげようと思ってね」
「え!?なんですか!?一瞬でお師匠サマとラブラブになれる道具ですか!?」
「そこまで便利なものじゃないけど・・・でもきっとブラック・マジシャンの心に届くんじゃないかな」

「はい、これ」と言って表遊戯はハートの可愛らしいフレームに収められた真っ白なパズルをブラック・マジシャン・ガールの前に差し出した。
ブラック・マジシャン・ガールは目をパチパチと瞬かせると「パズル?」と呟いて首を傾げた。

「この真っ白なパズルに文字を書いてバラバラにして相手に送るんだ。それで送られた相手はピースを嵌めていくごとに浮かび上がってくる文章に胸を躍らせていくっていうものなんだけど、どうかな?じーちゃんはこれでばーちゃんをゲットしたっていうし、本田くんは・・・あれはまた別かな・・・だけどどう?いる―――」

最後に疑問形で聞こうとした表遊戯だったが、熱い眼差しをパズルに一点集中させるブラック・マジシャン・ガールの顔を見て聞くまでもない事を悟った。
まるで宝を見つけたかのような熱く輝く瞳は、このパズルを紹介された時の本田とそっくりだった。

「下さいマスター!これ欲しいです!!私こういうの大好きです!!」
「みたいだね。良かったらもう一つあげるよ。確か友達が出来たんだよね?」
「はい!ガガガガールことガガガちゃんです!」
「その子も好きな人いるんだよね?だったら一緒に文章を考えて好きな人に贈ってみるといいよ」
「ありがとうございます、マスター!!」

元気よくお礼の言葉を述べるとブラック・マジシャン・ガールはジグソーパズルを大切に腕に抱いて表遊戯の部屋を飛び出して行った。




「パズル?」
「そう!真っ白なパズルにメッセージを書いてバラバラにして相手に贈るの。で、贈られた相手はパズルを組み合わせていくごとに出来上がっていく文字にドキドキしていくって訳!」
「へ~、中々ロマンチックじゃないですか!」
「でしょでしょ!ガガガちゃんの分も貰ったから一緒に考えよう!」
「私の分もあるんですか!?ありがとうございます!ガール先輩のマスターにお礼を伝えておいてくださいね!」
「うん!」

表遊戯の心の部屋を飛び出したブラック・マジシャン・ガールは早速ガガガガールを屋敷の自分の部屋に呼んだ。
現在は可愛らしいローテーブルに表遊戯から貰ったパズルを置いて二人で向かい合って作戦会議をしている。

「なんかラブレター書くみたいで緊張するね」
「ラブレターか~。ガガガ先輩に渡した時の事思い出すな~」
「どんな風に渡したの?」
「『先輩、これ読んで下さい!』って言って渡したんですよ。で、手紙で校舎裏に来るようにって呼び出して告白したんです」
「先輩さんは勿論OKって?」
「それが先輩ってば敵対グループがアタシを使って呼び出して闇討ちしようとしてるんじゃないかって警戒して最初は全然信じてくれなかったんですよ~」
「そーなの?」
「だからその日にOK貰えなくてしばらくアタシは敵じゃないって信じてもらう為に毎日お弁当作ったりお菓子作ったりしてたんですよ」
「それでそれで?どうなったの?」
「ある時先輩に喧嘩売りに来たグループに捕まって人質にされたんです。そしたら!先輩が単身で乗り込んで来て『俺の女に手を出すな』って言って次々とそいつらをやっつけて助けてくれたんです!」
「キャー!カッコいい―!!」

その時の場面を想像して興奮するブラック・マジシャン・ガールと思い出して赤くなった頬を両手で覆うガガガガール。
偶然廊下を歩いていたブラック・マジシャンが二人のキャーキャー騒ぐ声を聞いて「相変わらず騒がしいな」と呟いたとか呟いてないとか。
そんな事も気にせず二人の話は続く。

「それでOK貰ったんだ!?」
「そーなんですよ!でも先輩ってば実はもうアタシが敵じゃないって事に気付いてたみたいなんですけど告白なんて初めてされたからどうすればいいか分からなくて返事を延ばしてたって言うんですよ!?」
「先輩さんも純情な所があるんだね」
「私は凄いヤキモキした~!」
「でもでも、今度はただ気持ちを伝えるだけだからヤキモキする事もないよ」
「それもそうですね。でも何書きます?」
「問題はそれなんだよね~。『好き』だけじゃ伝わってるようで伝わってないし、ていうか日頃から言ってるようなものだし」
「ガール先輩ってまさに全身で愛を主張してますよね」
「なのにお師匠様ってば全然取り合ってくれないんだよ?」
「きっと照れてるんですよ、お堅い人みたいだし。それに普段押せ押せのガール先輩が突然こういうしおらしくて可愛らしい事をしたらギャップでぐっとくるかもしれませんよ?」
「そしたらお師匠サマともっとラブラブに・・・?」
「可能性有りです!」
「キャー!なら尚更気合を入れて文章を考えないとね!」
「はい!」

そんな訳で二人は腕を組んで文章を考えた。
う~ん、と唸り、ゆっくりと首を右へ左へ振って考えた。
とにかく考えに考えた。
でも思いつかなくて雑談タイムに走った。

「・・・私、実は先輩の目を直視する事が出来ないんですよね」
「え?何で?実は石化する魔法の瞳だからとか?」
「いや、私も先輩も普通の魔法使いです。ただ・・・その、なんていうか・・・あの鋭い瞳に見つめられていると全部見透かされそうな気がしてどーしても直視出来ないんです・・・!」
「ふ~ん、ガガガちゃんにそんな弱点が・・・でもガガガちゃんも私と同じくらい先輩さんに抱き付いたりスキンシップしたりしてるけどそれは平気なの?」
「それは先輩の瞳を直接見てないし、先輩の顔を見るにしても口元とか見てるから・・・」
「じゃぁ先輩さんにパズルを渡す時はしっかり目を見て渡さなきゃね!」
「わ、私の話聞いてました!?」
「気持ちを伝えるならちゃんと目を見て渡さなきゃ~?」
「~っ!じゃ、じゃぁガール先輩も師匠の人の目を見て渡して下さいね!?」
「もっちろん!!」

悔し紛れに対抗して巻き込もうとしたガガガガールだったが、胸を張って大きく頷いたブラック・マジシャン・ガールに呆気に取られた。

「勿論って・・・ガール先輩は緊張しないんですか?」
「緊張してドキドキするけどそれよりもずっと見ていたいっていう気持ちの方が強いかな~。人間だった頃にお師匠サマが死んで後悔したんだよね。もっとお師匠サマの声を聞いて顔を見て瞳を見ておけばよかったって。精霊になってからは死ぬなんて概念はなくなったけど、それでもいつ何が起こるか分からないからしっかり心に刻み付けておこうって」
「・・・・・・ガール先輩って普段とっても明るいから忘れがちになりますけど実は辛い経験してますよね」
「で、でもお師匠サマが死んだ後に物凄く修行を積んで精霊を出せるようになって、精霊と融合したお師匠サマと再会出来たしそこまでじゃ・・・」
「でもかなり危機的状況でその後も自由に会えた訳じゃないんですよね?」
「うん、まぁ・・・」
「会えなかった時間と精霊になってからずっと一緒にいる時間は後者の方が圧倒的に長いと思いますけどガール先輩からしてみればどっちの方が長かったですか?」
「会えなかった時間かなぁ。ふとした瞬間にお師匠サマはもういないんだって思い出すと凄く悲しくなったなな・・・」

マハード亡き後、国の建て直しや神官職に就任した事もあって基本は毎日が忙しかった。
けれどそんな日々にも一息つく時間は訪れる。
毎回必ず、という訳ではないがそれでも頻繁にマハードの幻影を見、声が聞こえた気がして振り向いたり、眠って夢を見た時はいつも遠くに去って行く大好きな背中を追いかけていた。
そして現実に戻る度に彼はいないのだと思い出して何度も胸を痛めた。
今こうして一緒にいられる毎日の時間に比べたら遥かに短い筈なのに、マハード亡き後の日々はまるで永遠のように感じられた。
マハードは精霊と融合した後、冥界にて修行を積んでいたと聞いていたから冥界で会えるかもしれないという希望はあったものの、必ず会えるという保証はなかったので本当に僅かな希望にしかならなかった。
ある時もう二度と会えないという絶望と悲しみに打ちひしがれてひっそり涙した事もある。
今思い出しても切なさで胸が苦しくなるのを知ってブラック・マジシャン・ガールにとっては未だに心の傷として残っている事を自覚した。

「って!やめやめ!今はこんな湿っぽい話する時間じゃないよ!それよりも書く内容を考えなくちゃ!ガガガちゃん、何か良い案ない?」
「ん~・・・感謝の気持ちを伝えるのとかどーですかね?」
「感謝の気持ち?」
「いつもこれをしてくれてありがとうございます、こうしてくれる所が好きです、とか」
「なるほど~、感謝しつつその感謝してる点も含めて好きですって伝える方法か~。流石ガガガちゃん!」
「ガール先輩は何か浮かびませんか?」
「う~ん・・・相手の好きな所を書くのはどうかな?」
「例えば?」
「ガガガちゃんだったらさっき言ってたみたいに鋭い瞳が好きとか喧嘩が強い所がカッコいいとか。そういう普段は口に出来ない・改めて考えると好きだなって思う所を伝えるの。あなたの事をよく見ていますっていうアピールでさ」
「それいいですね!じゃぁこの二つの案を混ぜて相手に感謝しつつ好きな所を書きましょうよ!」
「うん!そうしよう!」

そうして二人はまた頭を捻る。
感謝なんてしてもし足りないくらい沢山ある。
ブラック・マジシャン・ガールはこんな未熟な自分でも見捨てる事なく辛抱強く魔術の指導をしてくれたり何かと心配をしてくれて、なんなら人間だった頃に幼い自分を引き取って弟子として面倒を見てくれていたりなど、その他にも感謝してもしきれないものが沢山あった。
ガガガガールは乱闘の時にいつもさりげなく自分の事をフォローしたり守ってくれたり、ドジを踏んで捕まったり囲まれた時はすぐに助けに来てくれたりなど、思い出せば思い出す程、ガガガマジシャンに対して感謝すべき事が山のようにあった。
次にブラック・マジシャンとガガガマジシャンの好きな所。
そんなものありすぎて困る。
つい口をついて出てしまうほどに。

「お師匠サマってああ見えてすっごく筋肉ついててバッキバキなんだよ~!」
「ガガガ先輩だって喧嘩とかしてて鍛えてるからがっしりしてるんですよ!」
「ガガガちゃん、見る機会あったの?」
「学校の行事で海に行く事があってその時に・・・」
「学校行事か~。いいなぁ、楽しそう!」
「ん~、でも勉強が中心だったから海で遊ぶ時間なんてほんの少ししかなかったですよ」
「うわ、勉強は嫌だね。でも海と言えばお師匠サマって泳ぐのも得意なんだよ!クロールしてる姿とか綺麗で無駄がなくて見惚れちゃうんだから!」
「ガガガ先輩だって泳ぐ姿はワイルドで力強いんですよ!あとあと、運動神経抜群でビーチバレーとか上手なんですよ!」
「お師匠サマだって強いんだから!いっつも対戦相手のイービルさんに顔面アタック決めてるんだから!」
「それは強い(物理)ですね」
「あとあと!お師匠サマの髪ってサラサラなんだよ!」
「ガガガ先輩は・・・ちょっと硬めかな?」
「触った事あるの?」
「先輩の前髪にゴミが絡まっててそれを取った時に・・・!」
「その時に目、合ったりした?」
「合ってたらゴミを取るどころじゃないですよ!」
「フフフ、赤くなってるガガガちゃん可愛い~」
「もう!からかわないで下さいよ~!」

彼氏自慢に花を咲かせて盛り上がる二人。
またしても偶然廊下を歩いていたブラック・マジシャンは断片的に聞こえて来たブラック・マジシャン・ガールによる自分の自慢話に静かに咳払いをしながら照れていたとか。

「もうもう!お師匠サマへの気持ちが溢れて止まんないよ~!」
「その気持ちをパズルにぶつけましょう、ガール先輩!」
「うん!」

ブラック・マジシャン・ガールはピンクのマジックを、ガガガガールはオレンジのマジックを手に取ると宣言通りパズルにそれぞれが抱く想いを書き綴った。
自分たちのこの熱く溢れる想いが伝わるように。
パズルが完成した時にブラック・マジシャンとガガガマジシャンの心に届くように。
愛してやまない大好きな想い人を思い浮かべながら二人は心を込めてマジックを走らせる。

「できたー!」
「私も!」
「じゃ、バラバラにして小箱にしまって」
「リボンをかけて」
「「出来上がり!!」」

可愛らしい見た目の小箱を片手に二人は笑顔でハイタッチをする。
渾身の出来栄えに二人は大変満足していた。

「早速ガガガ先輩に渡してきますね!」
「うん!ちゃ~んと目を見て渡してね?」
「も、もう!ガール先輩ってば!!」

顔を真っ赤に染めるガガガガールが可愛らしくてクスクスと笑いながら玄関まで見送りに行く。
しかしガガガガールが玄関の扉の把手を掴んで下ろすのと同時に外側から把手が下ろされた。
それから扉は向こう側から引かれ、そこからガガガマジシャンが姿を現した。

「が、ガガガ先輩!?」
「おう。お前は今日はこっちだったな」
「は、はい!!」
「ほら、ガガガちゃん?」

後ろからブラック・マジシャン・ガールが両肩を掴んで固定し、耳元に小さく囁きかけてくる。
目でチラリと「そこにいて下さいよ!」と訴えるとブラック・マジシャン・ガールは「分かってるって!」と主張するようにパチンッとウィンクを返した。
ガガガガールは深呼吸を三回してからギュッと小箱とフレームを握りしめるとガガガマジシャンの翡翠色の瞳に自分の目を合わせた。

「が・・・ガガガ先輩・・・!」
「ん?」

ガガガマジシャンの瞳が鋭く細められ、そこに自分の姿が映される。
胸をキュッと掴まれたような気持になるが肩に添えられたブラック・マジシャン・ガールの手の温かさに勇気を貰って言った。

「こ・・・こ・・・これ!!」
「何だ?」
「あげます!それじゃ!!」

ドン、と小箱とフレームを押し付けるとガガガガールは我慢の限界に達してスルリと隙間を抜けて遠くへと走り去って行った。
その時のガガガガールの耳が赤くなっていたのをブラック・マジシャン・ガールは見逃さずいたので小さくクスクスと笑う。
一方のガガガマジシャンは何が何だか分からず首を傾げるばかり。

「・・・何だ?」
「家に帰ったら必ずその小箱を開けて下さいね」
「はぁ・・・あ、この本をブラック・マジシャン様に返していただけると助かります」
「はーい」

ガガガマジシャンから『魔術の書―身体強化編―』を受け取って見送る。
それから心の中で「ガガガちゃんの想いが伝わりますように」と親友の幸せを願った。

「さ、次は私の番ね!」

魔術書を抱えながら小箱とフレームを見つめる。
この小箱に詰めたパズルのピースをブラック・マジシャンが組み立てて完成させた時、一体どんな反応をしてくれるのだろうか。
照れる?
それとも呆れる?
どちらでもいいから傍でその様子を見ていたいけれどパズルに書いた内容をバラしてしまいそうなので我慢する。
このパズルは浮かび上がってくるメッセージに組み立てる本人が胸をときめかせていく事に意味があるのだから。
ブラック・マジシャン・ガールは一つ深呼吸をするとブラック・マジシャンの部屋の扉を二回ノックした。

「入っていいぞ」
「お師匠サマ~!先輩さんが本を返しに来たので受け取っておきましたよ」
「ああ、すまんな。そこの本棚に片しておいてくれ」

ブラック・マジシャンはデスクに向かっていて、コーヒー片手に分厚い本を読んでいる。
大方魔術の本でも読んでいるのだろう。
この分だと本に集中してパズルに手を付けるのはだいぶん後になりそうだ。
強引にでもやらせたい所だがそんな事をしてしまえばどんな課題を言いつけられるか分かったものではない。
これまでの経験から多少は学んだブラック・マジシャン・ガールは慎重に行動するという選択に出た。

「お師匠サマ、実はプレゼントがあるんですけど」
「プレゼント?」
「これです!」

漸くこちらに顔を向けたブラック・マジシャンに小箱とフレームを差し出す。
それを見てブラック・マジシャンは首を傾げる。

「小箱と・・・これはフレームか?」
「そうです!今日マスターに部屋に呼ばれて貰ったんです!」
「ほう、マスターから貰ったのか。ちゃんと礼は言ったのか?」
「勿論です!」
「ならば良い。で、これは何だ?」
「えへへ、それは開けてからのお楽しみです!頑張って下さいね、お師匠サマ!」
「ん?頑張る物なのか?」
「そ、それも開けてからのお楽しみです!さ、さ~て部屋の片付けでもしようかな~?」

うっかりネタバレしそうになったので早口に誤魔化すとブラック・マジシャン・ガールはすぐに部屋を出て行った。
残されたブラック・マジシャンは目を瞬かせて不思議そうに首を傾げると机の上に置かれた小箱と可愛らしいフレームを交互に見やった。
フレームには僅かに溝があり、何かを嵌めるのであろう事は理解出来た。
溝の大きさから見て写真の線は消える。
それにこんな小箱に写真を曲げて入れるとも思えない。
となるとパズルなどの類か。
楽しい物を作るのが好きなマスターの事だからパズルなどの類は大いに有り得る。
それからパズルは崩せるから小箱に詰める事も可能だ。
そこまで見当をつけるとブラック・マジシャンは可愛らしいリボンを解いて小箱の蓋を開けた。

「やはりパズルのピースだったか」

自分の予想通りの中身に口の端に笑みを浮かべる。
いくつかを拾い上げてピースを眺めてみると、白地にピンクの模様のようなものがプリントされていた。
いや、プリントではない、これは恐らくマジックだ。

「落書きか・・・?」

中身を机の上に出してピースを全て表に返すとピンクのマジックがかかっていないピースがいくつか散見された。
恐らく元は真っ白なパズルでそこにブラック・マジシャン・ガールがピンクのマジックで何かを書き込んだのだろう。
何を書きこんだのか気になってブラック・マジシャンは読んでいた本に栞を挟んで机の端にどかすとピースの組み立てに没頭した。





それからしばらくして。
パズルのピースは枠から組み立てていくのが定石、という事で枠から組み立てていったブラック・マジシャンはピンクのマジックの線の流れを推測しながら着々とピースを当て嵌めていた。
そしてパズルが組み合わさっていくごとに文字が出来上がっていき、それは繋がって文章となっていく。
しかしブラック・マジシャンはその文字列の意味を理解するのは後回しにし、パズルを完成させる事に集中した。
現段階で推測しようとしたところで断片的にしか解読出来ず、却って効率が悪いからだ。
そうして黙々とパズルを嵌めていくうちにとうとう最後の一枚となった。

「これで終わりだな」

パチン、と小気味良い音を立てて最後のピースが嵌められる。
そして可愛らしいフレームに完成して収まったパズルの、浮かび上がった文字を読み取ってブラック・マジシャンは面食らう。

「これは・・・!」




一方その頃、ガガガマジシャンの方も同じようにパズルが完成していた。
ちなみに彼のパズルスタイルはブラック・マジシャンと同じように枠から組み立てていくものだが、その過程で繋がりそうなピースがあったら細かく分けて端に寄せておく、というものである。
こちらでは真っ白なピースにオレンジのマジックで文字が書かれていて、今それをガガガマジシャンが読み解いていた所だ。
そしてその意味を理解したガガガマジシャンはブラック・マジシャンと同じように面食らっていた。

「・・・っ!」


言葉の持つ力にやられて二人の男は顔に手を当て、照れたように細く長く息を吐き出すのだった。



『大好きなお師匠サマへ いつも魔法や色々な事を教えてくれてありがとうございます なんでも出来るお師匠サマが大好きです これからもずっとずっと一緒にいて下さいね ブラック・マジシャン・ガール』

『ガガガ先輩へ どんな奴にも負けない やられても必ずリベンジを果たす先輩がとってもカッコいいです 私を守ってくれる時の先輩の姿はどんなモンスターよりも輝いて見えます これからも傍にいさせて下さいね ガガガガール』







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