毎日がプリンセスパーティー

ふと、何故このような状況になったのかシェイドとブライトは落ち着いて深呼吸して数十分前の事を思い返していた。
今こうして保健室の縁に並んで座り、それぞれの大切なプリンセスを腕に抱いているこの状況に至った経緯を―――。




「ファインが倒れたわ!」

「レインが倒れましたわ!」

シェイドはシフォンから、ブライトはアルテッサからファインとレインの危機を知らされるとそれぞれの作業や部活を中断して急いで二人の元に駆け付けた。
部活の助っ人に向かう途中であっただろうファインは廊下で倒れており、放送委員の活動の最中であったレインは放送室で倒れて生徒達に心配そうに見つめられながら囲まれていた。

「ファイン!」

「レイン!」

倒れている姿にいてもたってもいられず囲んでいる生徒達をかき分けてすぐに抱き上げた。

「しっかりしろ、ファイン!」

「レイン、僕の声が聞こえるかい!?」

腕の中で呼びかけても返事はない。
眠っている訳でもないような様子の二人にシェイドもブライトも内心激しく動揺する。

「落ち着いて!保健室に行きましょう!」

「お兄様、レインを保健室に連れて行きましょう!」

焦る二人をシフォンとアルテッサが保健室に行くように促す。
その時だった。

「な、何だ・・・?」

「これは・・・?」

シェイドの腕の中でファインが、ブライトの腕の中でレインが温かい光に包まれ始めたのだ。
最初は戸惑った二人だがとにかく保健室に連れて行く事を先決し、そして合流した。

「一体何が起こっているんだ?」
「どうして二人は光に包まれているんだ?」

分からない事だらけの中、ピュピュとキュキュが身振り手振り全身を使ってプーモに何かを説明していた。
プーモは天使達の訴えかけに真剣に耳を傾け、その動きを理解し、何度も頷く。
そして天使達の説明が終わるとプーモはシェイドとブライトの方を向いて天使達の代弁をした。

「ピュピュとキュキュが言うにはファイン様とレイン様は突発的なハッピー不足で倒れたそうでプモ」
「突発的なハッピー不足?」
「そんな事ってあるのかい?」
「先日のブラッククリスタルキングとの戦いでお二人のハッピーが吸い尽くされ、笑顔が失われたのを覚えていますでプモか?」
「・・・ああ」
「忘れる訳がないさ・・・」

忘れたくても脳裏に焼き付いている絶望の光景。
虚な瞳、一切の感情を失くした顔、ハッピーでもアンハッピーでもない様子。
笑顔で戻って来ると約束をして、そしてそれを期待したのに結末はあまりにも残酷だった。
皆の笑顔を守り、そして全宇宙のハッピーを守るという使命の代償はあまりにも大きかった。
その後にブラッククリスタルキングが吸収したハッピーの結晶が降ってきた事で二人にハッピーが戻り、笑顔を見せてくれた時はどれだけ嬉しかったか。
その時の事を思い出してシェイドとブライトの胸は締め付けられるのだった。

「だがハッピーの結晶が降って二人はハッピーを取り戻しただろ?」
「確かに取り戻したでプモが完全には取り戻せていなかったようでプモ。今のお二人は例えるならパズルのピースが一枚欠けている状態。ピースが一枚欠けていてはパズルは完成とは言えず、その欠けている一枚が原因でお二人は意識を失ったのでプモ」
「その欠けている一枚を取り戻すにはどうしたらいいんだい?」
「それはズバリ!シェイド様とブライト様の愛でプモ!!」
「「・・・は?」」

大真面目な顔で冗談みたいな話を大きな声でハッキリと言い切るプーモにシェイドもブライトも思わず真顔で聞き返す。
しかしそんな二人の反応にも構わずプーモは熱弁を続ける。

「シェイド様とブライト様のお二人を想う気持ちがお二人にハッピーをもたらすでプモ!お二人を想う気持ち、それ即ち愛・・・愛がお二人を救うのでプモ!!」
「・・・」
「プモォッ!?シェイド様の目が『ブライトみたいに恥ずかしい奴』と言わんばかりに冷たいでプモ!!」
「悪いな、ブライト以上に恥ずかしい奴の間違いだ」
「更にその上を行ったでプモ!?」
「プーモ、いくら素直な僕でも雰囲気に沿って言葉は選ぶよ?ストレートに『愛』って言ったのはムードに欠けるね。そここそ『想い』にした方がセンスあったよ」
「丁寧に訂正されたでプモ!!?」

プモ〜と涙を流しながらプーモは地に落ちていく。
哀しいその背中を天使達がポンポンと叩くが余計に悲しみが倍増しているようにしか見えなかった。

「プーモの言葉選びのセンスの無さはともかく」
「ブライト様の追い討ち酷いでプモ!!」
「俺達がこうして二人を想っていれば二人は助かるらしいな。あ、すまん、愛だったな」
「シェイド様の追い討ちも強烈でプモ!!」

よよよ、と泣き崩れるプーモの頭を天使達がよしよしと撫でる。
王子二人は容赦なかった。











プーモに容赦ない追い討ちを入れてから数十分以上経過した現在。
シェイドは腕の中のファインを、ブライトはレインを見下ろす。
未だ二人の全身からは光が放たれており、それが止む気配はない。
けれど表情はどこか幸せそうで良い方向に働いてるのは確かだった。

「ところでプーモ、二人の欠けたハッピーのピースってこれで完璧に埋まるのかい?」
「それは分からないでプモ。様子を見てまた倒れるようであれば今と同じように対応していただく必要があるでプモ」
「俺は放課後は基本庭園にいるからいつでも問題ないぞ」
「僕もレインの為ならフェンシング部の活動を抜け出せるから遠慮せずに声をかけていいよ」
「シェイド様、ブライト様、感謝致しますでプモ」
「ピュピュ〜!」
「キュキュ〜!」

プーモの横でピュピュとキュキュが大きく手を挙げて感謝の意を伝えて来る。
しかしそこでプーモが申し訳なさそうな顔をして言う。

「しかしシェイド様とブライト様には申し訳ないでプモ。ファイン様とレイン様が倒れる度にこうしていては色々あらぬ噂が立つかと・・・」
「いいんじゃない?別に。僕は全然平気だよ」
「むしろ広めて来てくれていいぞ」
「プモォッ!?ほ、本気でプモか!?」

「ああ」と頷くシェイドとブライトにプーモは顎が外れそうなくらい大きな口を開けて驚愕する。
ファインとレインが聞いていたら顔を真っ赤にして慌てるかダンスを踊っていたに違いない。
王子二人は腕の中のふたご姫を大事そうに抱え直すとこともなげに続けた。

「グランドユニバーサルプリンセスで宇宙の平和を守ったから二人は有名人なんてスケールはとっくに超えてるんだ」
「そうそう。そうなると競争率が高くなるからこういう所で差をつけておかないとね」
「シェイド様もブライト様も・・・考えてる事が真っ黒でプモ・・・」
「何とでも言え」
「僕達だって余裕はないんだよ」

これは喜ぶべきなのか嘆くべきなのか。
ファインとレインの気持ちを考えれば喜ぶべきなのかもしれないが、とんだ腹黒王子と両想いになってしまったとプーモは一人大きな溜息を吐く。
そんな腹黒にならなくてもファインとレインの気持ちがブレる事は絶対ないのに、と思ったがプーモも男だ。
いくら大切な人が一途に想っていてくれても沢山の人に分け隔てなく笑顔を振りまいて囲まれている所を見てしまっては気が気でなくなるのも仕方ない。
でもやっぱりなんとなく心配なので二人のハッピーが早く完全に元通りになって腹黒王子に作る借りの数を少なくしたいと願うのだった。






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