毎日がプリンセスパーティー

病気がちな女王ムーンマリアに代わって政務を果たす事の多いシェイドだが、最近はムーンマリアの体調も良くなってか代理で政務をする事が少なくなり、自由な時間が作れる様になった。
けれど医者を目指す彼はそんな自由な時間でも勉強を怠らず日々励んでいた。
しかし休息も大切な勤めであると言ったのは母親のムーンマリアだったか、最近喋れるようになった妹のミルキーか。
だがそれも一理あるのでジェイドはその日一日、休みを取った。
友人ととある重大な話をする為に―――。

「待っていたよ、シェイド」

ここは宝石の国の庭園。
ブライトは穏やかな笑みを浮かべてシェイドを迎え、席に座るように促す。
あらかじめ用意されていたティーセットの紅茶からは上品な香りが漂っており、流石は宝石の国だと心の中で賛辞を述べる。

「褒めるなら口に出して言って欲しいな」
「・・・俺の心を読むな」

ごめんごめん、なんて言いながらブライトに悪びれる様子は全くない。
一度は闇に落ちて敵対した彼とはその後友情が芽生え、ロイヤルワンダー学園ではふたご姫をサポートする為に共に協力する事も何度かあり、今では戦友と呼べる仲にまでなっていた。
が、仲良くなり過ぎたせいか最近は心を読まれるようになって少し厄介に思っていたりする。
ポーカーフェイスが得意だったのにブライトのせいで自信が失くなっていくように感じた。

「でもシェイドは割と感情を表に出す事多いよ?」
「だから心を読むな・・・それより今日はそんなくだらない話をする為に呼んだ訳じゃないだろう?」
「ああ、勿論だ」

ブライトは机の上で手を組むと赤い瞳を鋭く細め、真剣な面持ちとなって話し出した。

「今後の僕らに関わる重大な話だ。そしてこれは非公式の情報共有の場であり、絶対に外部に漏れてはならない」
「分かっている。今日の事は母上やミルキーには友人として非公式の交流をして来るだけだと伝えてある」

腕を組んで事もなげに語るシェイドにブライトはフッと小さく笑みを溢す。

「流石だな、シェイド。抜かりない」
「お前の方はなんて伝えてあるんだ?」
「僕も似たようなものだ。友として交流を深める為にお茶に誘うと。心配しなくてもアルテッサは今日はかざぐるまの国にお茶会に行っている」
「お前の妹なら口は固い方だろ?」
「言っただろう、外部に漏れてはならないと。この手の話はほんの僅かな情報漏洩から案外バレてしまうものなんだ。それは大切な妹相手でも例外ではない。それに僕としてもあまりアルテッサには知られたくはない事だ」
「まぁ、気持ちは分からないでもないな」
「だろう?さて、前置きはこの辺にしてそろそろ本題に入ろうか」

「「トゥルース王について」」

二人は同時におひさまの国の王の名を口にすると情報共有を開始した。

「彼は中々手強いと思うんだがシェイドはどう思う?」
「俺も同じ意見だ。トゥルース王は多分、俺たちの事なんか歯牙にも掛けていないだろう」
「やはりシェイドも同じ考えか。僕もそう感じる事が多々あった」
「例えばどんな?」
「言わずと知れた事さ。おひさまの国でパーティーが開催される度に僕が目の前でレインをダンスに誘っても常時穏やかな笑顔なんだ」
「・・・ただの社交として捉えようと作り笑いをしている線は?」
「恐らくない。例えば宝石の国でパーティーを開催した時にアウラーがアルテッサをダンスに誘うと父上は中々に複雑そうな顔をしていたのに対し、トゥルース王はそれが全くないんだ」
「あの二人の仲は周知の事実だからっていうのもあるんじゃないか?」
「それは僕とレインも同じだろう?アルテッサたち程まだ進展していないとはいえ、割と噂になっているじゃないか」
「まぁ、確かに」
「そしてこれは偶然、トゥルース王が僕の事について話していたのを聞いたんだが内容はこうだ」

『プリンスブライトは紳士でとても親切な王子だ。二人は良い友人を持ったなぁ』

「うぉっ・・・」

ある意味衝撃的な発言にシェイドは思わず変な声を漏らす。
そしてその内容を語ったブライトの表情にある種の哀愁を感じたともいう。

「一度闇に落ちた僕にはもうチャンスはないのかもしれない・・・」
「そ、そうと決まった訳じゃないだろ?あの後もトゥルース王は何事もなかったかのように以前と同じように接してくれたし事情も理解してくれたじゃないか」
「それにしたってレイン限定じゃなく姉妹の括りで僕を『良き友人』と評したんだぞ?中々に絶望的だと思わないか」
「だが友人ならまだ希望があるぞ。俺なんかこうだ」

『プリンスシェイドはしっかり者でまるで二人の兄のようだね』

「うわぁ・・・」

ある意味ショックとしか言いようのないトゥルース王の発言にブライトはストレートに哀れみの籠った声を漏らす。
この時のシェイドの横顔は全てを諦めた上での穏やかな表情に見えたと言う。

「俺の評価は『兄』だぞ。『友人』よりも発展が見込めないポジションだ」
「だ、だがしっかり者という評価があるから捉え方によっては自分の娘を任せられる男という評価に発展するかもしれないだろう?」
「『兄貴ポジションとして』な・・・」

いつも一国の王子として毅然とした態度でいるシェイドが大きな敗北を味わったような表情をしていたのをブライトは初めて見たという。

「俺たち・・・将来の婿候補として全く期待されてないな」
「悲しい事にね・・・」
「そういえばあの双子にも最近、縁談が持ち掛けられてるらしいがトゥルース王はどう受け止めてるんだろうな」
「この間プーモと話す機会があったから聞いてみたんだが、二人にその意思はないからって断りを入れてるらしいよ」
「娘の意思優先か。それは何よりだ」
「エルザ王妃も無理な縁談を組まなくても沢山の人と触れ合ってきた二人ならきっと素敵な相手を見つけられるとおっしゃっていたとか」
「その素敵な相手に俺たちは入っていないような気がするんだが気のせいか?」
「気のせいじゃないさ。僕だって同じように感じているんだから」

二人の王子は遠くの空を見上げ、力なく笑った。
こんなにも近くで愛しのプリンセスを想っているのにその二人の親からは良き友人程度にしか思われていないとは。
情けないやら悔しいやらで王子の面子なんてあったものではない。
唯一の救いはその愛しのプリンセスとは着実に距離を縮められている事か。
日に日に向けられる愛情が強くなり、恋人同士になるのも秒読み段階の所まで来ている。
そう、段階としては。

「この段階を乗り切る為にはトゥルース王に認められる必要がある」
「ああ、二人の王であり親であるトゥルース王が認めない限りは単なる両片思いで終わってしまう」
「そこで僕から提案がある」
「何だ」
「人一人の力なんてたかが知れてる。実際、闇に落ちた僕は一人でふしぎ星を救おうとしたが全てが裏目に出て結果、最悪の事態を招いた」
「・・・」
「だが、あのふたごのプリンセスは沢山の人と手を取り合ってこのふしぎ星を救った。それと同じように僕らも手を取り合うんだ」
「具体的には?」
「トゥルース王にさりげなく互いの事を進言するんだ。僕はファインにはシェイドが、シェイドはレインには僕が合う、といった内容をそれとなく言い続けるんだ。そうすればトゥルース王も段々その気になる筈だ」
「なるほどな、刷り込みってやつか」
「お気に召さなかったかい?」
「いや、良い作戦だ。今度母上の代理でトゥルース王に会う用事がある。その時にちょっとした雑談でお前の事を話しておく」
「助かる。僕の方もトゥルース王を宝石の国に招く用事があるからその時にシェイドの事を話しておこう」
「ああ、頼んだぞ」

同盟は締結され、その証として両者は固く手を握り合う。
今ここに月の国と宝石の国の非公式な共同声明が発足されるのであった。







そしてとある日のおひさまの国。
おひさまのめぐみによる月の国への影響をトゥルース王に報告しにシェイドはおひさまの国を訪れていた。
とはいえ、定期報告である為に内容は簡易的なものですぐに済んだ。

「なるほど、月の国は安定しているようだね」
「ええ、これといった異常もなく平和が続いています」
「それは良かった」
「ところで今日はプリンセスファインとプリンセスレインはお出掛けですか?」
「おや、よく分かったね」
「城が静かなものでしたから」
「プリンスシェイドの言う通り二人は今出掛けているんだ。プラネット博覧会の主催者に直々に招待されてね。それはもうおおはしゃぎだったよ」
「楽しそうにするお二人の笑顔が目に浮かびます」
「でも最後には両手に持ちきれないくらいの沢山の花束を困り顔で持って帰って来るだろうなぁ」
「えっ・・・花束?」

一瞬思考が停止し、ギギギ、と軋む音がしそうな動きでシェイドはトゥルース王を見る。
そんなシェイドの態度に気付かずトゥルース王は気さくに笑いながら続ける。

「二人共、最近はどこかにお呼ばれしては同じように参加していた別の星のプリンスたちに花束を贈られていてね。飾る部屋がなくなるくらい困っているんだよ」
「は、はぁ・・・」
「特にメタル星の王子がファインに、フリル星の王子がレインに夢中みたいでほぼ毎回熱心に花束をくれるんだ。どうしたものかね」

(き、緊急事態だっ・・・!)



それから数日後の宝石の国。

「本日はお越しいただきありがとうございます、トゥルース王」
「こちらこそ、お招きいただき感謝します」
「父上は間も無く参りますので今しばらくお待ちください。それか僕で良ければお話相手になります」
「それは有難い。丁度プリンスブライトに聞きたい事があったんだ」
「聞きたい事、と言いますと?」
「プリンスブライトはよく色んな星のプリンセスに求婚されているだろう?」
「いえ、そんな言うほどではありません」
「謙遜しなくていい。噂はふしぎ星中に広まっているからね」
「はは、これはお恥ずかしい」
「そこでプリンスブライトはいつもどんな風に断っているんだい?」
「普通になるべく角が立たないように丁重にお断りしていますが、何故それを?」
「実はファインとレインを娶りたいっていう他の星のプリンスが出てきたんだ」
「なっ・・・」
「でも二人にその気はないから断ろうと思うんだけど何と言って断ったものか悩んでいるんだ」
「そ、それならいくつか断る方法をお教えしますよ」
「そうか、それは助かる」

(シェイドと急いで対策を練らなければ・・・)



数日後の月の国にて。

「ファインとレインに熱心にアプローチしてる奴がいるみたいだぞ」
「それどころか結婚の申し込みをしている他の星のプリンスたちがいるそうじゃないか」

二人の王子は慌ただしく情報共有をしながら今後の対策を練っていく。
愛しきプリンセスの父親に認知してもらう日はまだ遠いようである。




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