筋肉ファンタジー

フィンを弟子として迎えた日、ウォールバーグと諸々の話を終えたカルドは早速魔法局に戻り、ライオや他の神覚者達と情報共有を終えて執務室で考え事をしていた。
内容は勿論、フィンの修行メニューについてだ。
元々の魔法が戦闘向きではない事を考えると赤魔導師系の修行メニューは適していないだろう。
固有魔法を活かしつつ本人が武器を手に取って戦う場合もあるがフィン自身がそういうタイプでもない。
そうなると完全に支援がメインになる白魔導師系の修行メニューになる訳だが、ただ入れ替えをさせるだけという訳にはいかない。
突然の入れ替えは味方も戸惑う。
かといって連携を磨くにはどこもそれをするだけの時間がないだろう。

(分かってはいたけれど、師匠というのも大変なものだ)

机の一番下から頭を休める用のハチミツを取り出し、半分まで飲んだ紅茶に足すようにして注ぐ。
考えがまとまらない時は甘い物を摂取するに限る。
甘くまろやかな香りを思いきり吸い込み、ゆっくり息を吐きながら天井を見上げる。

(嘆かわしいねぇ、あんな子まで戦いに参加しようとするなんて)

フィンはイーストン魔法学校高等部一年だ。
それはマッシュも同じであるがそもそもマッシュは存在を許されない魔法不全者。
処分の執行猶予と自身の存在を認めてもらう為の取引として彼は無邪気な淵源をグーパンでボコボコにすると宣言した。
自身の為にも戦わなければならないマッシュと違ってフィンは逃げるという選択肢を取ってもいいのだ。
逃げる事は悪い事ではない。
誰にだって出来る事と出来ない事がある。
それに戦いが終わった後の世界を託す人材も必要だ。
戦闘が得意でないフィンはそちら側にいてもいいのだがフィンはそれを良しとせず、ただ友達であるマッシュを助ける為に共に戦うと決めたのだ。
とても立派な志であるが相手はあの無邪気な淵源。
自分達神覚者でさえ生きて帰れるかどうかは難しい。
なるべくなら自分達に任せてフィンのような学生達には安全な所に避難していて欲しいのだが如何せんそうもいかない。
万が一の事を考えて万全を期すに越した事はない。
今回戦うのはそういう相手なのだ。
魔法局に所属する局員やライオの指揮する魔法警備隊は市民の防衛に当たる。
そもそも神覚者でも勝てるかどうか未知数の相手なのでその辺りの魔法使いを総動員しても無駄に命を散らすだけだろう。
それはフィンも同じかもしれないがそれでもカルドはフィンに可能性を感じている。
ならば才能を開花させて0.1%でも勝率を上げなければならない。
まさに猫の手も借りたい状況なのだ。

「・・・考えても仕方ない。情報収集に行こうか」

思考を巡らせる時間は終わりだ。
一人呟いてカップを置くとカルドは執務室を後にした。






知識を求めるならばあらゆる本が格納・保管されている書庫に限る。
ソフィナに魔法の鍛錬について記された本棚まで案内してもらい、速読で色々な本に目を通す。
一応は赤魔導師向けの鍛錬の本も読んでみたがやはり方向性が違い過ぎてフィンの為になるものではなかった。
そうなるとやはり参考になったのは白魔導師向けの本で、支援に回るなら徹底して防衛術を磨き、後衛に徹するべしとどの本にも書いてあった。
確かにそれは基本だ。
フィンのあの様子を見るに積極的に前に出るタイプではないだろう。
むしろその逆で周りの邪魔にならないように、そしてなるべく自身も被害を被らないように前に出る事はしないように思う。
だが、一応は言い含めておくとしよう。
これ以上の収穫を見込めないと判断したカルドは次に他人の意見を仰ぐ事にした。
手始めにソフィナから聞こうかと思ったが生憎と席を外していたようだったので仕方なく書庫を後にする。
誰に聞いてみようかと考えを巡らせていた矢先、魔法研究管理局の局長執務室の扉が開き、中から魔法研究管理局長であるツララが顔を出した。

「あー、カルド。丁度良いところにぃ・・・さむっ・・・」
「どうしました、ツララ?」
「ちょっと確認して欲しいものがあるんだけどさぁ」

ちょいちょいと手招きされるままにカルドは執務室の中に入り、ツララに確認して欲しいと言われた資料に目を通す。
内容はツララが手掛ける研究にかかる人員だったり施設の費用等についてのものだった。
ちなみに研究自体は来る戦いに役立つようなものではない。
世界の存亡を賭けた戦いが刻一刻と迫ってきていてもやはり研究者というのはマイペースなようである。
しかしこういう時こそ万全な状態を維持する為にこうした戦いとは無関係の事柄も必要だ。
あまり張り詰め過ぎて疲れが溜まってしまっては本末転倒である。
リラックスと労いも兼ねて自身の指先に炎を灯したら「あったかぁ~い」とツララが表情をふにゃりと崩した。

「資料も温かい火もありがとぉ。これでなんとかなりそうだよ」
「お役に立てたようで何より。ところで僕の方からも質問があるのだけどいいかな?」
「何ぃ?」
「ツララはもしも物や人を入れ替える魔法が使えたら何をする?」
「すっげ唐突・・・なんかあった?」
「実は弟子を取る事になってね。その子の使う魔法が物や人の入れ替えなんだ」
「へぇ、カルドが弟子なんて珍し~」
「友達を助ける為に自分も無邪気な淵源との戦いにって志願した学生の男の子がいてね。固有魔法も中々有用そうだからどうにか伸ばせないかと思って色々考えているんだ」
「そっかぁ・・・」
「ツララだったらどうする?」
「うーん・・・」

ツララは腕を組んで瞳を閉じ、思考を巡らせる。
研究者である彼女は入れ替えの魔法と聞いて自身の冷え性解消に転用出来ないかと一瞬考えたがすぐにそれは頭の隅に追いやった。
今優先すべきはカルドの質問に答える事である。
しかしツララとしても研究以外で弟子を取った事は一度もない。
赤魔導師であれば手合わせするだけでも成長の一歩になるが白魔導師となればそうもいかない。
精々で戦闘時の護衛術が備わるくらいだろう。
だがカルドもそれを理解してこうやって意見を求めて来ているのだからそれに見合ったアドバイスをしなければならない。
そうして考えた末にツララが思いついたのは至極単純な物だった。

「・・・内臓の入れ替え?」
「えっ」
「物を入れ替えられるなら例えば小石と相手の心臓を入れ替えちゃえば楽勝じゃない?」
「た、確かに・・・発想は物騒だけど」
「ちなみに入れ替えられるのってなんか制限とかあったりするの?」
「術者本人が対象の位置を把握していること。また、位置を把握した対象が術者の知らない内に移動していたら発動は出来ないのだそう」
「ふーん。そうなると心臓とかそういう体内に組み込まれて繋がってる系は無理そう」
「本人の性格的にもハードルが高すぎるかな」
「優しい子なんだねぇ」
「そうなんだ」
「でもまぁ、心臓と言わずとも例えば相手の口の中に小石でも何でも小さい物を投げ入れてすぐに毒物とかの丸薬と入れ替えるってのでもいいんじゃないかなぁ。ただ、丸薬を取られたらヤバイけど」
「けれど戦略としては一理ありだね」
「あとは毒が体に回った時に他のと入れ替えてすぐに毒素を抜くとか・・・それは流石に難しいかぁ」
「・・・いや、そうとも言えないかもしれないね」

何かを閃いたのか、カルドの瞳が薄く開いて輝く。
ツララとしては上手な助言が出来たつもりはないが、それでも閃きのキッカケになれたようなので何よりだった。

「大丈夫そ?」
「うん。忙しいのに一緒に考えてくれて助かったよ」
「あったかい火を点けてくれたからいいよぉ。でもさ」
「ん?」
「その志願した男の子って何年生?」
「イーストンの高等部一年だよ」
「一年かぁ。青春真っ盛りじゃん。なのに友達の為に戦いに参加するってなんかなぁ」
「うん・・・そうだね」

ツララの言わんとする事を汲み取ってカルドも重く頷く。
まさについ先刻自分が考えていた事についてツララも思う所があるようだ。
しかし相手は最大の犯罪勢力。
あのウォールバーグですら痛手を負う敵だ。
万が一の事を考えたら戦力になりそうな可能性は育てておくに越した事はない。
それはツララも痛感しており、それ以上は言わずに話を変えた。

「でもカルドが弟子にしたって事は期待の新人?」
「まぁね。大きな可能性を秘めている子だよ」

もしかしたら勝利のピースの一つになるかもしれない。
そう予感してカルドはもう一度魔法の鍛錬のメニューについて研究すべく、書庫に足を運ぶのだった。





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