監督生会議

本日の監督生会議はいつもの会議室ではなくアドラ寮のキッチンで行われていた。

「いや、何で?」

当然の疑問を口にしたのはアドラ寮一年のフィン。
彼は親友のマッシュと共にシュークリームを作りに来たのだが兄を含めた監督生三人がキッチンで協力しながらお菓子作りに励んでいる姿に出くわして呆気に取られていた。
チョコを刻むレイン、生クリームをかき混ぜるマーガレット、オーブンからスポンジを取り出すアベル。
優秀な三人の事なのでお菓子を作るくらい訳ないだろうが、いざその姿を目の当たりにすると中々信じられない光景に見えてくる。
フリルの付いたピンクのエプロンとピンクの三角巾を着用しているので尚更シュールである。

「兄さまどうしたの?何でアベル先輩達とお菓子作ってるの?」
「今度三魔校を対象としたスイーツ大会が開かれる事になった。出場者は各校の監督生三人一組によるチーム。ヴァルキスは監督生という役職そのものがないから代表者三名が一つのチームとなって出るそうだ」
「え?そんな大会今まであったっけ?」
「ジジイを中心とした各校の校長連中が思い付きで開いたクソ大会だ」

(校長先生達何やってんの?)

レインの端正な顔が途端に険しく歪む。
それまでリズムよく動かされていた包丁は突如として力任せにダンッダンッダンッと怒りと共にチョコを刻む動きに変わる。
この分だと突然大会の事を聞かされて出場を言い渡されたのだろう。
思い付きでしかも唐突な大会の開催となればレインがブチギレるのも仕方のない事かもしれない。

「ほーんと、レインじゃないけど迷惑な話よねぇ。開催は一週間後って言われたのよ?」
「一週間後!?」
「めちゃくちゃ急ですな」
「だから急いでケーキの図案を考えてこうして試作品を制作しているんだ。何だろうと負ける訳にはいかないからね」
「あれ?アベル君、人形は?」
「アビスに任せてあるよ」

チラリとアベルが視線を流した先を追うとキッチンの隅でお母様人形を抱えたアビスが椅子に座って控えていた。
その隣には『味見係』の札を掲げたラブも座っている。
ラブに関しては恐らく偶然アベル達と会って経緯を聞いて乗っかって来たのだろう。
これは自分達も味見係か見守り係になるだろうとマッシュもフィンも感じていた矢先の事。

「マッシュちゃん、フィンちゃん、悪いんだけどホイップクリームの味見をしてもらえないかしら?私、甘いのはあまり得意じゃないから」

「いいですよ」
「分かりました」
「ラブちゃんも味見するー!」

マッシュとフィンにラブも加わってこぞってスプーンを持つとホイップクリームを掬って味見した。
舌触りの良い滑らかさと程良い甘さが三人の口内を満たして幸せな気分にする。

「バッチグーです」
「美味しいですよ」
「合格点をあげるの!」
「ふふ、ありがとう」

「フィン」

和やかなムードを切り裂くように鋭い声がフィンの名前を呼ぶ。
その声にラブは反射的にマッシュの後ろに隠れ、フィンは声の主―――レインの方を向いて首を傾げた。
レインはチョコを刻み終えていたようでボウルに刻んだチョコを入れてコンロの前に立って湯煎するところだった。

「兄さま?どうしたの?」
「お前はこっちに来てチョコの味見をしろ」
「はーい」

瞳を鋭くしてただならぬオーラを発するレインを疑問に思いながらもフィンは新しいスプーンを取り出して兄の隣に行く。
その様子を見ていたアベルが瞬きをして一言。

「嫉妬かな?」
「嫉妬ねぇ」
「相変わらず弟の事になると細かいな、レインは」
「微笑ましい兄弟愛の春ね」
「ラブもチョコの味見しに行かなくていいのかい?」
「アベル様の意地悪!!行く訳ないの!!」
「マッシュ・バーンデッドが一緒に行ってくれるそうだよ」
「適当言わないで下さい。流石の僕でも怖いものは怖いので」
「冗談だよ」

(アベル様が冗談を口にした!?このお菓子作りを結構楽しんでおられる・・・!!)

優雅に笑うアベルを見たアビスは今のアベルの心情を察する。
アベルに心酔して崇拝している為にアベルの一挙一動、一言一句に込められた感情を読み取るなど彼には容易い事だった。
そんなドタバタがありつつもケーキ作りは順調に進んでやがて完成した。
ケーキの全体像としては真っ白なお城のてっぺんにマジパンで作った二羽のウサギの王様と王妃が鎮座しており、その周りを美しくスライスした苺と苺のムースが囲み、更に絞り出されたホイップクリームが外側を囲んでいた。
他にも城のテラスや門にもウサギのマジパンが配置されていたり壁にはチョコで作った音符が付いていたりととにかく可愛い路線に振り切った出来上がりとなった。

(めっちゃファンシーだな!?)

あの厳つい監督生三人がどんなケーキを作るのかと思いきやかなりのファンシー且つメルヘンチックな出来栄えにフィンは心の中でツッコミを入れる。
そこにレインが腕を組んで一言。

「題して『ウサギのメルヘン王国』だ」
「発案者絶対兄さまでしょ!?」
「レインがウサギが良いって強く推してねぇ?」
「僕達としても時間がないからウサギを主役にする事にしたんだ」
「なんかすいません・・・そしてありがとうございます・・・」
「ところでこのケーキに何か手を加えようと思うんだけど何かあるかい?」
「はいはい!苺味のピンク色のホイップクリームにしたらもっと可愛いと思うの!」
「もっとファンシーにしちゃうの!?」
「シュークリームを添えたら更にファンシーになると思います」
「ファンシーって言えば何でもいいと思ってる!?」
「フィン、お前は何かないのか」
「えっ!?僕!?」
「何かあるだろ?」
「いや、そう言われても・・・」
「・・・」
「寄り添ってお昼寝してるウサギの兄弟がいたら良いと思います!」

もうどうにでもなれ。
そんな気持ちからフィンは叫んだ。
兄にじっと見つめられてしまえば期待に応えない訳にはいかないのは弟の性。
こうしてその場にいた者達の意見によってウサギのメルヘン王国は完璧に仕上がっていくのであった。









そして大会当日。

「以上がヴァルキス魔学校の『魔法のチョコ要塞』、セント・アルズ聖魔学校の『光の飴細工遊園地』でした!」

「いいぞー!カッコいいぞヴァルキスー!」
「セント・アルズの飴細工が宝石みたいで素敵~!」

魔法による変形でただのチョコの砦から大量の砲台を兼ね備えた要塞に変わり、魔法花火を打ち出すヴァルキス作『魔法の戦闘チョコ要塞』。
全体の殆どが飴細工で構成され、魔法のライトに照らされて宝石の如き輝きを放つセント・アルズ作『光の飴細工遊園地』。
どちらも会場の人々や審査員の目を奪い、楽しませ、熱狂させた。

「最後はイーストン魔法学校の監督生三人による作品です!それでは張り切ってどうぞ!!」

「イーストンの監督生ってあの最年少神覚者レイン・エイムズだよな!?」
「レインと並ぶ実力者のマーガレット・マカロンとアベル・ウォーカーも監督生って話らしいぞ」
「実力者三人によるお菓子とか凄く気になる・・・!」

レインを始めとしたイーストン監督生三人衆の作品に期待を寄せる会場の衆人。
その期待に応えるようにしてスポットライトの下、三人が現れてお菓子にかけていた魔法の包装を派手な演出で解き、薄ピンク色の『ウサギのメルヘン王国』をお披露目した。
試作時よりもグレードアップしており、城にはお菓子で作ったリボンがかけられ、シュークリームの小屋からはマジパンで作ったウサギ達が顔を覗かせており、飴の池には小舟が浮いていてそこには同じくマジパンで作った優雅な装いのアベルのお母様人形が乗っていた。
想像の斜め上を行く作品を前に会場はシン・・・と静まり返る。

(・・・思ったよりも可愛いっ)

会場全員の心の声が一つに重なる。
これには司会者も言葉を失い、審査員たちも目を見開いて固まる。

「音楽に合わせて踊るように仕掛けてあります」

マーガレットが説明と共に杖兼指揮棒を振って魔法の音楽を流す。
それに合わせてマジパンのウサギ達が社交ダンスを始めたが会場全員それどころではない。

(どんな厳ついのが飛び出してくるのかと思ったら凄いファンシー)
(え?え?あんな怖いか無表情かの顔で作ったの?この可愛いのを?)
(ていうか池に浮かぶ小舟に乗ってる人形っぽいの何?こわ・・・)

この後、審査の結果としてはセント・アルズが優勝し、ヴァルキスは準優勝と相成った。
しかし一方でイーストンのレイン達の作品は特別優秀で可愛いで賞をもらったという。





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