マッシュ・バーンデッドとゴブリンゲーム

ドットはミニチュア世界の月明かりが差す中央広場に仁王立ちしていた。
今宵もとい今回の彼はゴブリン役だった。
彼もかつてのゴブリン役の者達のように広場で誰を襲うかを考えていた。
一見粗暴で単純に見える彼だが勉強はコツコツこなしているタイプで課題も真面目に取り組んでいるし、神覚者オーターの下で厳しい修行にも耐えて見事サーズを開花させた。
そう、ランスと共に。

「だぁーっ!気に食わねぇ!!」

ランスの小屋の方を向いてドットは叫ぶ。
先程の喧嘩が尾を引いているのだ、自業自得とはいえ。
しかし彼もバカではない。
いくら頭に血が上っていると言っても自身に「クールになれ、俺」と言い聞かせて深呼吸をし、状況把握に努める。

「マッシュはまぁ大丈夫として、問題は他だな。レモンちゃんは頭が良いしフィンには気を抜いてっとボロを出しちまいそうだぜ。レイン先輩は・・・こっちは要警戒だな。天然なとこあるらしいけど頭良いし、ゴブリンと分かった途端に弁明の余地無しで檻にぶち込んでくるし。スカシピアスは・・・スカシピアスにだけはぜってー見抜かれたくねぇ!!」

鬼の形相でランスに対して憤怒を募らせる。
いつものあの人を見下すようなスカシた顔で「お前の粗末な嘘なんぞお見通しだ」と言われるのを想像しただけでマグマのように滾った血が頭にまで上りそうになり、冷静さを失う。

「もう決めた!!誰が何と言おうと決めた!!俺はスカシピアスを消す!!」

感情任せに彼は勢いよくランスの小屋を荒々しく開け放つ。
すると次の瞬間、ドットの目の前の景色は自身の小屋の中に変わった。
窓の外は朝に切り替わっており、ゴブリンのターンが終わった事を告げる。
そうすると自ずと次に始まるのはゴブリン探しの議論だ。
議論で予測される会話の内容やその誘導、誰に罪を着せるのが自然かというプロセスはドットの中では白紙の状態だった。

(やべぇ、どうしよう・・・)

彼はバカだった。

「と、とりあえず普通に振る舞うか」

なるべく普段通りを装いながら小屋に出る。
同じタイミングでフィン・マッシュ・レモン・レインも出て来る。
それらの面子の中でフィンが真っ先に白い牢屋の中にいるランスを見つけた。

「あ、ランス君が犠牲になってる」
「どんまいランス君」
「ヘイバーカバーカ!スカシピアスバーカバーカ!ゴブリンに襲われてやんの!!」

いつも通りの装い半分と本気半分でドットがランスを煽り倒せばランスはこめかみに青筋を立てながら「覚えてろよ貴様」と地の底から這うような重低音でドットを睨んだ。
その視線には「お前がゴブリンだろ」とでも言いたげな疑いが含まれていたがドットはそれを全力で無視し、白々しく議論に参加した。

「ランス君が襲われたっていうのはまぁ納得だよね。ランス君って鋭いからすぐ見抜きそうだし」
「あの節穴ピアスが見抜けるかー?」
「ドット君、ランス君が殺気を放ってるよ」
「手でも振っとけ」

素直なマッシュはドットに言われた通りランスに手を振る。
色々腹立たしかったがマッシュに罪はなかった為、ランスは無言で手を振り返した。
気を取り直して一同は議論を開始する。

「ランス君を最初に始末するっていうのは誰でも思い付きそうなので特定が難しいですね」
「そうだね。直前まで喧嘩してたドット君とかあり得そうだけど流石に短絡的過ぎるかな?」
「お、おうよ!流石の俺もそこまでバカじゃねーよ!」

いきなり核心を突いてきたフィンに内心ドキリと焦る。
だがレインを除いて他が疑って来なかったので良しとする。
たとえレインが眉間の皺を深くしてガン見をして来ようとも隣のフィンが「だよね」と苦笑気味に頷いたので何が何でも良しとする。
こうした議論で一番肝心なのは冷静でいる事だ。

「でもそうなると誰がゴブリンなんだろう?」
「レイン君とか?」
「あ?」
「案外レイン君がゴブリンだったりして」
「根拠を言ってみろ」
「当てずっぽ」
「・・・」

レインは無言でマッシュを睨んだ。
威圧感たっぷりのトパーズの瞳でただ無言で睨んだ。
その眼力たるや、いつぞやの七魔牙との戦いの途中で魔法のハンカチを貰って「好きなんですか?ウサギ」と質問して無言の圧力をかけられた時と同等か、それ以上か。
弟のフィンが優しそうな瞳をしているだけに尚更兄であるレインの瞳の圧と険しさが引き立つ。
その圧力に流石のマッシュも本能で危険を察知して「・・・ごめんなさい」と素直に謝罪を口にした。
やはりこの世の中、分かり易く怒りを露わにしたり口にする人よりも普段冷静だったり大人しい人の静かに怒った姿の方が怖いものである。

「ほらほら兄さま、そんなに睨んじゃ兄さまが疑われちゃうよ?」
「・・・そうだな」
「いやだからって何で俺睨むんすか!?」
「気にするな」
「しますよ!!」
「でもドット君、少し様子がおかしいような?」
「レモンちゃんまで!?俺ってそんなに怪しい!?」
「怪しいと言われたら怪しい方だけど違うような気もする」
「マッシュ、お前までそんな事言うのかよ!大体フィンが言ってたようにスカシピアスを狙うなんざ俺だけに始まった事じゃないだろ!?」
「でも僕はとりあえずドット君を襲ったよ?」
「お前はな!!」
「私もマッシュ君を襲いました」
「レモンちゃんもね!!次は俺襲って!!」
「となると消去法だな。マッシュ・バーンデッドはそもそも嘘を付こうとするとバグる」
「でも最初のターンでシュークリームを食べて誤魔化すっていう方法を思い付いたよ」
「マッシュ君、今それを言ったら今後は自分がゴブリンですって周りに教えちゃってるのと同じになるよ・・・」
「じゃあ今からそうじゃないっていう印象操作の為にシュークリーム食べなくちゃ」

ハッと気付いたマッシュは懐からシュークリームを取り出して本日4個目のそれを食べ始める。
そんな事しても今更遅いよ、とフィンは小さく呟いたが「もっもっもっ」という独特の咀嚼音にそれは掻き消されるのだった。

「次にレモン・アーヴィンもマッシュ・バーンデッド絡みで高確率でバグる・・・で間違いないな?」
「乙女心の制御が出来なくなるだけです!」
「物は言いよう!!」
「だが、前回のターンの反省でレモン・アーヴィンの乙女心とやらが制御出来てる可能性も捨てきれねぇ・・・レモン・アーヴィン」
「はい」
「マッシュ・バーンデッドに誓ってゴブリンじゃないと言い切れるか?」
「勿論です!未来の旦那様であるマッシュ君に誓って私は健やかなる時も病める時もマッシュ君を愛する事を誓います!」
「よし」
「よし!?微妙に話ズレてるのに!?」
「だが狂った目をしてる。少なくともシロでいいだろ」
「兄さまが早くもレモンちゃんの狂気を把握しちゃったよ!!確かにイっちゃった目してるけど!!」

レモンはまたもやあの闇渦巻く瞳で「さぁ、愛の誓いは終わりました。次は誓いの口付けですよ」と迫ってマッシュをビビらせていた。
世界広しと言えどグーパンで無邪気なる淵源を鎮めた英雄を脅しや圧力ではなく純粋な重たい愛で怯えさせる事が出来るのは彼女くらいなものだろう。
それはさておき、根拠としては微妙な気もするが、メンヘラモードのレモンがゴブリンだとはフィンも考えられなかった。
レモンはマッシュへの好意を隠さない、むしろ駄々洩れにしている。
たとえ前のターンの反省で今度は冷静にマッシュ以外を狙ったとしてもマッシュ絡みで絶対にボロを出すと思ったからだ。
それだけの信頼と実績がレモンにはあった。

「そして残るのが俺とフィンとドット・バレットになる訳だが・・・」
「いやいやいや!だから何で俺を見るんすか!?根拠はあるんですか!?」
「俺から見てフィンは怪しくない」
「それぜってー贔屓入ってますよね!?弟贔屓だ!!」
「それの何が悪い」
「開き直った!?これだから兄貴って奴は!!」
「ドット君には悪いけど僕もなんだかドット君が怪しい気がする。受け身な発言ばっかりっていうか」
「兄弟揃って攻めてくんのはズリーだろ!!マッシュやレモンちゃんはどう思うよ!?」
「私はなんだか逆にレイン先輩が怪しくなってきました。さっきからドット君ばっかり狙い撃ちしてるのが逆にゴブリンとしての罪をなすりつけようとしてるのかなって」
「流石レモンちゃん!レモンちゃんの愛が俺が無罪の証!!」
「僕もレモンちゃんと同じでレイン君が怪しいかな。確かにドット君ばっかり疑ってるのは気になるし」
「でも本当にそうかな?僕から見ても兄さまが嘘を付いてるようには思えないよ。確かに兄さまがドット君を疑っている根拠は薄いかもだし、積極的に議論に参加してるけどそこまで不自然なものじゃ―――」

最後までフィンがレインの弁明をせぬうちにファーン!!という少し間延びしたような、気の抜けるような音が広場全体に響き渡った。
全員反射的に広場の中央に視線を向けると中央には『時間切れです。ゴブリンと思う方を指差して下さい』と表示されていた。
煮え切らぬまま強制的に終わりを告げた議論を前に一同は顔を見合わせ、沈黙する。
こうなっては仕方ない、犯人を指名しなければという空気が全体を包んだのでその先陣をマッシュが切った。

「それじゃ、せーのでいきますか。せーのっ」

バッと5人同時に出される人差し指。
マッシュ・レモン・ドットはレインを指差し、フィンとレインはドットを指差す。
その結果は広場の中央に魔法のホログラムとして現れた得点板のようなものにも浮かび上がり、レインの下に3、ドットの下に2と表示されていた。
更に得点板の上に『間違いはありませんか?』と表示され、マッシュが全員の顔を一瞥して確認すると「うす」と頷く。
すると得点板が消え、文字が別の文字に変形して『レイン・エイムズがゴブリンに指名されました』と表示される。
その結果に対してレインは小さく舌打ちをして「喋り過ぎたか」と悪態を吐くとそのまま静かに黒い牢屋に入って行った。

「兄さま・・・」

大人しく牢屋の中に入って行ったレインを見てフィンは納得がいかないような表情を浮かべながらも小屋の中に入って行くのだった。
そしてゴブリンのターンが訪れる。

「乗り切ったぁーーーーーーーーー!!!危なかったぁーーーーーーーーー!!!!」

小屋の中で頭を抱えながらドットは叫ぶ。
かなりギリギリだったがなんとか自分がゴブリンではないという方向に話を持って行く事が出来た。
運が良かったとしか言いようがないが、運も実力の内というもの。
それよりも今は目の前のゴブリンのターンである。

「どうすっかな・・・つっても、やっぱりなぁ・・・」

小屋から出たドットはフィンの小屋を見上げる。
先程の議論でレインと共に疑ってきたフィンはドットにとっては危険因子だった。
だが、ここでフィンを襲ってしまえば議論でドットを疑っていたフィンをドットが脅威に感じて消したと周知してしまうようなもの。
かと言って野放しにしても次の議論でレインがゴブリンではなかったと明され、疑いがドットに向いてしまう恐れがある。
フィンによるレインの弁明と、フィンが指摘した自身の受け身な発言を支持されてマッシュとレモンがフィン側についたら負けは必至。
ならば一人でもフィンの意見を支持する人間を減らし、そこから議論を誘導して自分以外の誰かをゴブリンに仕立て上げるまで。
だがそこでドットはまたしても悩んだ。

(マッシュを襲えばレモンちゃんがバグって襲ったって事になるかもしんねーけどレモンちゃんにゴブリンの罪を擦り付けるのは心が痛む!!かと言ってそれ抜きにしてレモンちゃん襲っても残るのはフィンとマッシュだろ?フィンは俺を疑うだろうしマッシュも多分フィンを信じるだろうし・・・つか誰もフィンを疑わねぇこの状況がヤベーだろ!ゲーム始める前にフィンがレイン先輩は自分の嘘は何でも見抜くってカミングアウトしたし、レイン先輩も今回のゲームでフィンは怪しくないって言いきった影響デカ過ぎんだろ!兄弟ってなんなの?新手のウイルスか何か?俺も今度帰る時に姉ちゃんの好きなお菓子買って帰ろ!)

混迷する思考の中でふと、最愛の妹であるアンナの写真が入ったロケットペンダントを掲げたランスが「兄妹の偉大さを今更知ったか、バカが」とあのスカした顔で貶して来た。
腹が立つので殴ったら殴り返され、そのまま取っ組み合いが始まる。
自分の思考の中でもランスと喧嘩してしかも互角ってどういう事だよと自身にツッコミを入れながらドットはなんとなくチラリと二つの牢屋の方に視線を向ける。
牢屋は姿形自体はハッキリ捉えられるものの、中の様子までは分からなかった。
恐らく中にいる人間がゴブリンを知ってしまわない為の簡易魔法がかけられている弊害だろう。
ランスを煽り倒せないのは残念だが、一方で完全なる冤罪で黒い牢屋に放り込まれたレインに睨み殺されないだけ良しとした。

(すんません、レイン先輩!けど俺は勝ちに行くんで!そんでレモンちゃんに「キャー!ゴブリンドット君素敵ー!」って言われたいんで!

心の中のフィンが「ゴブリンなドット君でいいの!?」とツッコミを入れてきたが構いやしない。
それよりも選択の時だ。

(俺を疑ってたフィンを消したら真っ先に俺に疑惑が向く・・・けどレモンちゃんを襲うのは忍びない・・・そんな訳で許せマッシュ!お前もとりあえず俺を襲ったんだからこれであいこだ!)

男ドット、消去法でマッシュを襲うべくマッシュの小屋に突撃する。
ただし普段のマッシュの行いから反射的に扉を開けた瞬間にカウンターパンチが飛んでくるのではと身構えたが、あの世界を救ったグーパンが飛んでくる事は流石になかった。
その証拠に開けられた瞬間にまた景色が自身の小屋の中に戻ったからだ。
ルールに力技禁止とあったのでそれを素直にしっかり守っているのだろう。
ちゃんとその辺のルールは守れる子で良かったとドットは母親のような生温かい気持ちになるのだった。
そうして議論の時間が訪れる。
痣の無い者側がゴブリンを当てなければいけない最後のターンだ。

「おや、また僕が襲われてしまいましたか」
「・・・」
「なんだか体育座りしたくなるね」
「そうだな」

白い檻の中でマッシュとランスは体育座りをして広場を眺めていた。
ちなみに黒い檻の方でもレインが体育座りで同じように広場の方に視線を向けている。
両者共にゴブリンのターンになってもゴブリン役の人間のシルエットは雪だるまのような形の黒い影でしか見えておらず、また、発せられていたかどうかも分からないが独り言も聞こえていなかった。
襲われた側、ゴブリンの疑いをかけられた側によるネタバレ防止の為の簡易魔法がかけられているとマッシュはランスに教わった。

「ランス君は誰が怪しいと思う?」
「あのチンピラバカに決まってるだろ」
「根拠は?」
「あのバカの事だ、さっきの喧嘩の直後の八つ当たりだと容易に想像がつく」
「なるほど」
「それをお前らはまんまとあのバカにのせられおって」
「ごめんなさい」
「フン、まぁいい。たかがゲームだ。アンナもそう言ってる。『お兄ちゃん、そういうゲームなんだから怒っちゃ駄目だよ』ああ、分かっているぞ、アンナ。お兄ちゃんはそんな大人気ない事はしないぞ」
「・・・」

ペンダントの中の妹へのアテレコ・語り掛けをするランスにマッシュは口を噤む。
既に見慣れた光景だが、黒い檻の方から「そいつはいつもそうなのか?」とでも言いたげな視線を投げかけるレインと目が合う。
そういえばレインはランスのこの奇行を知らないな、と思い出したマッシュは頷くと共に「そうだよ」と同じように視線で語りかける。
その時のレインの表情はいつもと変わらないように見えたが、マッシュからしても戸惑ったような複雑なものに見えたという。
と、そこで小屋の方からドット・フィン・レモンが出て来て広場に集まった。

「あ、フィン君達だ」
「これが最後の議論だな。ゴブリンを当てられなかったらゴブリン側の勝利だ」
「それは見物ですな。手振っていい?」
「好きにしろ」

冷めた声と表情で言い捨てられても気にせずマッシュはフィン達に向けて手を振る。
するとそれに気付いたフィンは苦笑をしながら、ドットは白々しく、レモンはブンブン大きく手を振って返してくれた、嬉しい。
しかしここで何を思ったのか、レインもフィンに小さく手を振った。
それに気付いたフィンは驚いた顔をして「兄さまも手を振った!?」とツッコミながらもやや苦笑しつつ手を振ってあげた。
大切な弟に手を振り返してもらった事によってレインの纏う空気が若干和やかなものになったのはマッシュとランスから見ても分かる事実だった。

「改めてゴブリンだけどさ・・・やっぱりドット君じゃない?」
「なっ!?ま、まだ俺を疑うのかよ!?」
「だって今回マッシュ君が襲われた訳だけどレモンちゃんはこの通りだし」
「どっちですか私のマッシュ君を永遠に自分のものにした人はマッシュ君は私のものです過去も現在も未来も永劫私のものです私とマッシュ君は前世から夫婦で今世でも夫婦で来世もそのまた来世も夫婦なのにそれを引き裂くだなんて許せません私が絶対にいえそれよりもまずマッシュ君を繋ぎ止める為に鎖と鉄球とそれから」
「ヒィイィッ!?レモンちゃんが闇落ちしてる!!」
「もしもレモンちゃんがゴブリンだったらこんな風に闇落ちするなんてあり得ないよ」
「だからって何で俺なんだよ!?俺からしてみればフィンも十分容疑者候補だぜ!?言っとくけどレイン先輩が怪しまなかったっていう兄弟センサーは無しだかんな!!」
「兄弟センサーって何!?」

「兄弟センサーとは全ての兄・姉に搭載されている、弟妹が嘘をついているかいないか、そしてあらゆる危機に瀕していないか、或いは可愛さと尊さに溢れるやんごとなし案件になっていないかをキャッチするセンサーであり―――」

「白い檻の中から変な解説してこないでランス君!!」

「・・・俺にも搭載されているのか?」

「されてないよ!?兄様!!」

「されている。何故なら先輩も兄だからだ」

「言い切らないでランス君!兄さまそういうの変に信じちゃうから!!」

「いつから搭載されているんだ?」

「生まれた時からだ」

「・・・」

「あーもーほら信じちゃった!!センサー探して兄さまが頭とか胸の奥とか探っちゃってるよ!!兄さま無いから!!本当に無いから!!!」

もはやふざけているとしか思えないランスの大真面目な兄弟センサー解説を真に受けたレインはセンサーを探して自身の頭を手で探ったり胸の内にあるのではないかと精神を研ぎ澄ませた。
仮にそんなものが搭載されていたとして、もしも本当に見つかったらどういう反応をするのか、それだけは見てみたいようなそうでないようなフィンだった。
気を取り直してフィンは無駄に脱線してしまった話を元に戻して議論を再開する。

「確かに僕がゴブリンじゃないっていう明確な根拠を挙げるのは難しいけど・・・レモンちゃんは僕とドット君のどっちが怪しいと思う?」
「うーん・・・やっぱりドット君でしょうか?」
「な、何でだよレモンちゃん!?」
「フィン君の立場になって考えてみた場合、やはり脅威となるのが共通でランス君、そして自分の嘘は何でも見抜いてしまうレイン先輩です。更にレイン先輩を真っ先に始末したとなれば自身に疑いが向けられるのは必至。そこで例えばここで賭けに出たとして、先にランス君を抹殺して次にレイン先輩を吊るそうとした時に私達と一緒にさりげなくレイン先輩を疑った方が自然じゃないですか?」
「それは、まぁ・・・」
「けれどフィン君はレイン先輩と同じようにドット君を疑いました。そして今回の議論でも開口一番にドット君を疑っていました。もしもフィン君がゴブリンならそういった目立つような発言をするでしょうか?」
「た、確かにそうかもしれねーけどフィンだって目立ちたい時が―――」
「残念ながらいつだってないよ」
「それに・・・」
「それに・・・?」

それまでいつもの可愛らしい真面目な表情をしていたレモンは一旦言葉を切って俯き、それから顔を上げるとあの闇渦巻く瞳と黒い影が差す真っ暗な表情に豹変してドットに詰め寄った。

「私の中のマッシュ君センサーが囁いてるんです。ドット君がゴブリンだって」
「キャーーーーーーー!!!」

鬼か悪魔か物の怪か、まるでそういった類のものに遭遇したかのような驚きと恐怖に苛まれたような金切り声をドットは広場一帯に響き渡らせる。
マッシュのいる檻の角度からは見えないが、それでもマッシュがレモンのこのような表情を見たら「ヒエッ」と平坦でありながらも怯えた声を漏らすだろう。
それ程までにレモンの表情は何よりも恐ろしかった。
これにはフィンも顔を引き攣らせながら後退する権利はあったが、ドットが犬のように「くぅ~ん」と鳴きながら背中に隠れて来たのでそれもかなわず、代わりにレモンの狂気に晒される苦行を強いられる。
この時ばかりは泣いても許される範疇であったが、数々の困難と周囲の人間の奇行によって鍛え抜かれたフィンの精神は目尻に涙を溜めるだけにそれを留めた。

「れ、レモンちゃん、もう採決しよう?ね?それからこれゲームだから恨みっこ無しだよ?ね?」
「分かってますよ・・・ウフフ」

((何で不気味に笑うの!!?))

フィンとドットの心の中のツッコミがシンクロする。
そして採決の結果、ドットを犯人に指名したのは三人。
うち二人はフィンとレモンで、もう一人はドット自身だった。
曰く、レモンの圧に負けて自らゴブリンであると明かした方がまだ気が楽になりそうだったからとのこと。
そうして両腕を揃えたドットの手の上に白いハンカチがかけられ、あらゆる安全面を考慮してフィンがドットを黒い檻に連れて行く。
その様子を眼鏡をかけたレモンがリポートする。

「今日未明、ドット・バレット氏がゴブリンの疑いで逮捕・連行されました。調べに対してドット・バレット容疑者は自身がゴブリンであった事を認めているそうです。魔法警察はこの事件の関連性を調査しているとの事です。現場からの中継でした」

こうして、見事に痣の無い者側が勝利するのであった。








続く
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