エイムズ兄弟とイベント

フィンをまだ突き放していた頃にあった学園祭でレインは実行委員をしていた。
学園祭の実行委員は大体立候補で決まるのだが「神覚者の仕事に引っ張られて学園祭に参加出来ないのは可哀想だから」というウォールバーグの計らいでレインが学園祭の実行委員を担当する事となった。
気持ちに配慮してくれるのは有難いが面倒を増やす形でするんじゃねぇよ、とレインが心の中で毒を吐いたのは言うまでもない。
神覚者・監督生・学園祭実行委員という三つの役職を持つのは非常に大変な事だがそれでもレインは黙々とこなす。
何故ならそれら全てには溺愛する弟のフィンが関わってくるからだ。
フィンの住む世界を平和で安全なものにするには神覚者の力が、フィンが現在身を置いているイーストンを安心なものにするには監督生が、フィンが友人達と参加する学園祭を楽しく過ごすには学園祭実行委員が、といった具合にそれぞれに適した権力が必要となる。
そう考えればどんなに大変でも乗り越える事が出来た。
そしてやってきた学園祭当日、実行委員として諸々の打ち合わせや見回りを終えたレインは生徒の出店するたこ焼きと焼きそばを買って休憩場所を探していた。
どこの教室も部屋も展示などに使われているので寮に戻るしかないかと諦めかけたその時のこと。

「お、レイン!丁度良いところに!」

人混みに紛れてマックスが元気よく声をかけてきた。
彼は自分はここだと分かりやすく示すように手を挙げながらレインに駆け寄ってくる。
学園祭という事もあって彼も今日はTシャツにズボンというラフな格好だ。
すぐ傍にオルカ寮のカルパッチョがいつものローブ姿で無言でマックスに付いて来ているのが非常に癇に障るが一旦スルーしてマックスと目を合わせる。

「どうした、マックス」
「お前、昼飯まだだよな?」
「ああ」
「だったら5階のミーティングルーム行ってこいよ。あそこ、レアンの奴らが使う予定だったらしいが急遽変更があって空き室になったんだってさ。あそこならお前も一人でゆっくり昼飯が食べられるだろ」
「そうか。情報提供、感謝する」
「いいってことよ!いいか、絶対に5階のミーティングルームだからな!!」
「ああ・・・?」

謎の念押しをされて頷きながらもレインは首を傾げる。
しかしマックスは何も説明しないままカルパッチョと共に再び人混みの中に紛れてどこかへと行ってしまう。

(何かあるのか?)

疑問に思いながらもレインの足は真っ直ぐにミーティングルームへと向かう。
マックスは悪戯好きなので何かドッキリを仕掛けている可能性はある。
とはいえ、レインが嫌がるような真似はしないので例えば複数人の人間が待ち構えて『ドッキリ!』の看板を掲げるような類のサプライズは仕掛けてはいないだろう。
必要以上に話すのが苦手なレインは交友関係も広くはなく、同時に必要以上に他人に関わろうとしない。
その証拠に彼にとって唯一の親友はマックスだけだ。
けれどそれで困った事はないのでそれでいいとも思っている。
マックスはレインのそうした内面をよく理解しており、また思慮深い人間でもあるので実行委員の仕事に追われて疲れているレインに更なる疲労をぶつけるような事はしない。
なのでレインがゆっくり出来る場所を用意してくれていると考える方が自然だが、だとしたら何故あれだけ念押ししてきたのかが分からない。
やはり何かあるのだろうかと考えている内に目的地に到着する。
鍵は職員室から借りて来たので中には当然人はいなかった。

(一応人払いの魔法をかけておくか)

学園祭などの行事は人の心を浮足立たせる。
行事のテンションと勢いに任せてレインに声をかけてくる者は少なくない。
神覚者であるレインとお近付きになりたい人間がいる訳だがその大半は下心だったり恋心を持って接触してくる。
下心を持った奴などもってのほかだが恋心を持ってやってくる人間もレインにとっては大概迷惑な話だった。
溺愛する弟のフィンの為に世界を良き方向に変えなければならないのに恋にうつつを抜かしている場合ではない。
そもそもレインの心はフィンとウサギで占められているので他人が入り込む余地など一切ない。
従って声を掛けられるだけ鬱陶しいだけなので人払いの魔法は重宝していた。
何か問題が起きてもマックスが連絡を入れて来るだろうと考えて席に座り、タコ焼きと焼きそばを広げる。
どちらもすっかり冷めてしまったようで容器に触れたら熱があまりになかったのを感じた。

「いただきます」

手を合わせてからいただきますの挨拶をし、そして割り箸を割る。
最初に焼きそばを食べようかと箸を伸ばしたその時だった。

『次のステージはアドラ1年組によるバンド演奏です!張り切ってどうぞ!』

窓越しに司会者の少女の快活な声が届いてレインの箸を動かそうとする手が止まる。
それどころか『アドラ1年組』というフレーズがレインを動かす。
パックの蓋を開けたたこ焼きと焼きそばをそのままに立ち上がって窓辺に歩み寄って外を覗く。
窓からは丁度ステージの様子がハッキリと見下ろす事が出来た。
しかもそのステージにはレインの愛してやまない弟のフィンがマッシュ達いつものメンバーと共に楽器を携えて立っているではないか。
フィンはピアノを担当するらしい、魔法の鍵盤の前で緊張した面持ちで立っている。
演奏に集中するのもあってかフィンがレインの視線に気付く様子はない。
これ幸いとレインは椅子を引き寄せるとそこに座り、フィン達の演奏を眺めながら焼きそばを食べ始めた。

(マックスが念を押していたのはこの為か)

学園祭実行委員を担った関係でフィン達がステージで演奏をするのは知っていた。
時間を見つけて観賞出来ないだろうかと密かに画策していて、時間を作る事は出来たが場所が中々見つからなかった。
神覚者という肩書につられた人間が声をかけて来るのは大変煩わしく、しかし場所が見つからないのであればそういった人間を適当にあしらいつつどこかで観賞するしかないと半ば諦めていた。
けれどレインのそうした事情を全てクリアした場をマックスが用意してくれた。
念を押していたのは「フィン君のステージをゆっくり見てこい」という事だったのだろう。
気の利く優しい親友の気遣いにレインは小さく笑みを溢す。

(今度何か奢らねぇとな)

心の中でそう決め、それからすぐにフィンのステージに全意識を集中させる。
マッシュ達と楽しそうにバンド演奏をするフィンを堪能した事で十分なエネルギー充電が完了したレインは午後の実行委員の仕事も卒なくこなしたという。









あれから一年後、イーストンを卒業したレインは今度は一般人として学園祭に参加した。
しかし神覚者レイン・エイムズとして来場すれば一気に目立ってしまうので魔法で金髪の部分を黒髪に変え、ダメ押しで眼鏡をかけてのお忍び参加となった。
フィンとしてはありのままのレインとしていられないのを残念がっていたがレインからしてみれば誰にも声をかけられずフィンと兄弟水入らずで過ごせるなら変装くらい大した事はなかった。

「今年は何をやるんだ?」
「シュークリーム喫茶だよ!マッシュ君がシュークリームのお店をやりたいって言ってね、それでみんなで案を出し合ってシュークリームパフェとかケーキとかを作ったんだ。紅茶はドット君厳選の茶葉を使ってるんだよ」
「頑張ったみたいだな。売り上げに貢献するとしよう」
「えへへ、ありがとう!

人でごった返す賑やかな廊下を兄弟水入らずで歩く。
何人かはレインの方を振り返ってぎょっと驚いたりするが空気を読んで見なかった事にする者もいれば他人の空似だと結論付けてスルーする者など様々だ。
変装の効果が早速出ているようで何よりである。
お陰でフィンと楽しく学園祭の空気を楽しめている。
しかしそれはどうやらフィンも同じだったようで。

「僕、兄さまと学園祭を過ごせて嬉しいな・・・!」

照れ臭そうに頬を掻きながらそう呟くフィンの姿にレインの胸は春の陽だまりのように温かくなるのを感じ、フッと口の端を緩めた。

「そうか」

短く答えた言葉の後に「俺も同じ気持ちだ」が続くのだが口数の少ないレインはそれを口にしない。
けれど大好きな兄の気持ちを察せられるフィンはそれを感じ取って更に嬉しそうに笑うのだった。

ちなみにレインはマッシュ達に『指名料』を提案し、大金を出す代わりにフィンを独占したのはここだけの話である。





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