エイムズ兄弟とイベント

「これでいいか」

買い出しから帰ってきたレインはキッチンの上に置いた材料とレシピ本を交互に見る。
明日はバレンタインデー。
女性が好きな男性にチョコを贈るというお菓子企業の商戦がいつの間にか風習として浸透したこのイベント。
レインはそもそも興味がなかったがフィンと元の兄弟仲を取り戻してからは別だった。
最近ではバレンタインはお世話になってる相手や親しい人間にも贈るという意味合いも出てきており、レインはそれに乗っかってフィンに手作りチョコを渡そうと考えていた。
日頃のウサギの世話への労いは勿論、チョコを食べて欲しいという願いがそこにはあった。
両親が死んで以降の暮らしは厳しく、チョコなどというものに手が届く筈もなく。
フィンが食べたいと我儘を言う事はなかったがショーウィンドウに飾られてるチョコに目を奪われているのを見た事は何度かあったのをレインは今でも覚えている。
あの頃はお金がなくて買ってやるなどと言えず、ただ黙ってフィンの手を引いて歩くだけしか出来なかった。
けれど今は違う。
フィンの好きなチョコをいくらでも買ってやれるし、なんならこうして材料を揃えて作ってやる事も出来る。
去年、ひょんな事からアベル達とチョコを作る事態になり、それをマックスが機転を効かせてフィンに食べさせてくれたのだがフィンはとても満足してくれているようだった。
あの時のフィンの宝物を見るようなキラキラと輝く瞳をレインは今もしっかり覚えている。
それをまた見たくて今年もこうしてチョコを作る為の材料を揃えた次第である。

「まず最初は・・・」









そして翌日。
朝早くに箒に乗ってきたフィンは午前中の内にレインの待つ二人の家に到着した。
フィンが来やすい距離を、というレインからの配慮もあって着くのが早かったのもあるだろう。
お陰で街に少しだけ寄り道する余裕もあったのでフィンはご機嫌だ。
お揃いのウサギのマスコットが付いた家の鍵を使って鼻歌を歌いながらフィンは玄関を開ける。

「ただいまー!」

中に入って箒を指定の場所に立てかけてるとすぐにリビングからレインが顔を出して迎えてくれる。

「帰ってきたか。早いな」
「今日は早く兄さまに会いたかったからね」
「何かあるのか?」
「それは後のお楽しみ!手洗って来るね」

靴を脱いで洗面所に向かうフィンの後をレインはついて行く。
先にリビングに戻って待たないのはレインも最愛の弟が帰ってきて嬉しいからだ。
相変わらずの無表情だがそれが顔に出ていなくとも行動で表すのがなんともレインらしいところである。
そんな兄を可愛らしく、行動で示される愛情をくすぐったく思いながら手洗いを済ませるとフィンは持参した荷物を持ってレインと共にリビングに入った。

「さて兄さま、今日は何の日でしょうか?」
「バレンタインだろ」
「当たり!という訳で兄さまにチョコを作ってきました!」

じゃ〜ん!と自分で擬音を口にしてフィンは袋の中から綺麗にラッピングした箱を取り出してレインに渡す。
来た時からご機嫌な様子に大体予想は出来ていたがそれでも嬉しさは変わらず、むしろ的中して倍になった。

「開けてもいいか?」
「いいよ」

ニコニコと笑顔の弟に見守られながら丁寧にラッピングを解いていく。
このラッピングすら解くのはレインにとっては憚れたが中身のチョコを早く見たいのも事実。
内心で身を切るような思いに駆られながらラッピングを解いて四角い黄色の箱の蓋を開ける。
すると中にはまさに至宝とでも言うべきか。
可愛らしいウサギ型のホワイトチョコが9個も入っていた。
しかもウサギのホワイトチョコにはそれぞれ顔が描かれており、それぞれに個性があった。

(いや、これは・・・)

「このチョコは・・・ウサ吉達か?」
「正解!流石兄さま!」

レインの一発正解にフィンは満面の笑みを浮かべて小さく拍手を送り、レインは得意気に口の端を持ち上げる。
ウサギのホワイトチョコだけでなく弟からの称賛付きとはなんとも贅沢なバレンタインである。

「去年の兄さまからのチョコを真似して僕もウサギ達のチョコを作ってみたんだ」
「・・・!気付いてたのか?」
「知ったのは本当に最近だけどね。包装紙にメーカーのロゴシールとかそういうのなかったし、ウサギが描かれた9個のチョコってなると兄さましかいないからさ。それでマックス先輩にもこっそり確認したら当たりだったんだ」
「そうか」
「あの時はありがとうね、兄さま。あのチョコ、本当に美味しかったよ!」
「・・・訳あってアベル達と共同で作ったやつだがな。お前に渡そうと気を利かせてくれたのもマックスだ」
「うん、それも聞いた。それでも嬉しかったよ。ウサ吉達の顔も凄く上手だったし!兄さまってお菓子作りの才能もあるよね」
「おだてても何も出な・・・いや、あったな。出せるもんが」
「え?」

照れ隠しに顔を逸らした兄が何事かを呟いたのでフィンは首を傾げる。
しかしそんなフィンに構わずレインは冷蔵庫を開けて可愛らしいウサギ柄の丸皿を取り出す。

「これを・・・お前に」

そう言いながら差し出された皿の上には9個のウサギ型のミルクチョコが綺麗に並べられていた。
言うまでもなくこちらも顔が描かれており、それらはウサ吉達の顔であるとフィンは一目で気付いた。
まさか今年も兄から手作りのチョコを貰えると思ってなかったのでフィンは驚いてたじたじになる。

「え?え?い、いいの?こんなに可愛いチョコ、貰って・・・」
「お前のチョコには敵わねぇ」
「兄さまの作るチョコの方が絶対可愛いって!でも嬉しいなぁ、今年も兄さまからバレンタインにチョコが貰えるなんて・・・!」
「・・・これからも作る」
「僕も作るね!」
「お前が望むなら毎日でも―――」
「それは流石に大丈夫!ていうか兄さまが大変だよ!」
「なんとかなる」
「でも、だったら僕は兄さまと一緒に作りたいな。お菓子でも料理でもさ。ね?どう?」
「ああ、悪くねぇ」
「えへへ、じゃあ決まりだね!でもまずはチョコ食べよう?僕、コーヒー淹れるね」
「お前は座ってろ」
「でも・・・あ、じゃあウサギ達に挨拶してくるね」
「そうしろ。アイツらもお前に会いたがってる」
「あとそれから―――」

フィンは袋の中に手を入れると一つの真っ赤なリンゴを取り出して見せた。

「じゃーん!ウサギ達にもバレンタインのリンゴを買って来ちゃいました〜!」
「よくやった」

弟の気の利いたもう一つのバレンタインの贈り物をレインは真剣な顔で褒めた。
家に行く途中でフィンが街に寄ったのはウサギ達のおやつのリンゴを買う為であった。
折角のバレンタインなのだからウサギ達にも何か買って行ってあげたいと思った次第である。
流石は俺の弟だとレインは鼻が高くなる思いだった。

「リンゴは後で出してあげよっか」
「ああ。朝の分はやったばかりだからな。リンゴは俺が片付けておくからウサギ達に早く顔を見せに行ってやれ」
「うん!」

パタパタとウサギ部屋に駆けて行く愛しい弟の背中を見送ってからレインもコーヒーの準備を始める。
来年はどんなウサギチョコを贈ろうかとのんびり考えるその姿はまさに幸せに満ちていた。




END
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