エイムズ兄弟とイベント

ひょんな事からアベル・アビス・ワース・セルと共にチョコを作る事となったレイン。
チョコを作らねば出られない工房に閉じ込められてしまった為にやむなく作った次第だ。
結果としてチョコ作りには成功して工房から脱出する事は出来たもののまんまとセルに逃げられてしまったのは痛手だった。
けれどウォールバーグに報告したところ、レイン達四人が何事もなく無事に戻って来ただけでも十分だと優しく笑っただけでお咎めはなかった。
そして現在レインは寮の自室のソファ席で腕を組んでテーブルの上に置いた自身が作ったチョコと向き合っていた。
いつもより深く眉間に皺を寄せて。

(自分で食べるしかねぇよな・・・)

チョコを作っていた時にアベル達が作ったチョコを他寮に配るという話を聞いた。
何でもバレンタインデーにちなんで他寮と交流を深める為にチョコを作るつもりだったのだとか。
それを聞いて真っ先にレインの頭に浮かんだのは最愛の弟のフィンだった。
フィンに美味しいチョコを食べてもらいたいが勿論面と向かって渡す訳にはいかない。
自分とフィンが実は仲の良い兄弟であると知られる訳にはかないのだ。
しかしアベル達の配布袋に入れても自分のチョコをフィンが食べるとも限らない。
どころか『神覚者レイン・エイムズが作ったチョコ』と聞いて有象無象が群がって面倒事になる可能性もある。
元より分かってはいたが神覚者になってより痛感したのが肩書というのは無用なものを寄せ付けやすい事だ。
レイン一人で対処するならまだしも、万が一にもフィンにも面倒が及んでしまったら元も子もない。
そうして色々考えた末にこうして持って帰ってきた次第である。
渡せない以上は自分で食べてしまうしかない。
仕方のない事だがやり場のないモヤモヤとした気持ちに苛立って溜息を吐く。
そのタイミングで部屋の扉が開いてルームメイトのマックスが顔を出した。

「よっ、レイン。アベル達がチョコ配ってるらしいぞ」
「ああ、知っている。俺も作ったからな」
「お、そうなんだな。じゃあそのチョコも?」
「そうだ」
「じゃなきゃお前が誰かから貰うなんてあり得ないもんな」

レインの神覚者事情と元々女子からチョコが欲しい願望が皆無な事を理解しているマックスは小さく笑いながらレインの向かい側のソファに腰掛ける。
金縁の黒リボンがよく映えるグレーのラッピングが施された四角い箱はまるで既製品の高級チョコのように見えるがその実はレインが作った物だと分かれば女子が一斉に飛びつくだろう。
けれど女子に受け取ってもらえてもレインは一切喜ばない。
喜ぶ場合があるとすればやはり彼の弟を置いて他にいないと断言出来る。
しかし今の兄弟事情を考えるとレインが弟のフィンに渡しに行けないもどかしさを抱えているのが察せられた。

(ここは俺が一肌脱ぐか!)

お人好しのマックスは困っている親友をそのままにしておく事などしない。

「そのチョコ、自分で食べるのか?」
「一応はそのつもりでいるがマックスも食べるか?毒見はしてあるから問題はない」
「そこは味見って言えよ。それよか俺が貰っていいか?明日のおやつに食べたいんだけどさ」
「ああ、いいぞ。保存魔法と冷却魔法をかけておく」
「サンキュー」

計画通り滞りなく『レインの作ったチョコ』が手に入った事にマックスは内心でガッツポーズをした。








そして翌日の放課後。
用事を終えたレインは二階の廊下を歩いていた。
少しだけ時間が出来たので部屋でウサギを眺めたり吸ったりしようか、なんて思っていた矢先の事。

「いいんですか!?」

青空に抜けていくような高く弾んだ声が中庭から響く。
聞き覚えのあるその声にレインは反射的に壁に身を寄せ、伺うように窓から中庭を見下ろす。
何十年とそこに存在している事を静かに主張している大きな木の下のベンチでマックスとフィンが座っているのが見えた。
何をしているのだろうと疑問に思ってレインは静かに二人の会話に耳を澄ます。

「いいのいいの!友達とマーチェット通りでチョコ買い漁ってきたからさ。その中でもこのチョコが試食して一番美味かったんだ。どんどん食べていいぞ!」
「ありがとうございます!開けていいですか?」
「勿論!」
「じゃあ・・・」 

(あれは・・・)

フィンがマックスから受け取った箱は昨日、レインがマックスにあげたチョコだった。
フィンにあげたいと願っても渡す事は叶わないと諦めたそれが今まさにフィンの手の中にあり、リボンや包装紙を丁寧に解いていく様をレインは人知れず緊張しながら見届ける。
そうして最後に蓋が開けられたその瞬間、フィンの瞳は宝石のように輝いた。

「わぁ・・・!凄い・・・!」

まるで宝物を見るような瞳でもってフィンは感嘆の声を漏らす。
箱の中には9粒のチョコが入っていて丸型、星型、ハート型がそれぞれ一列に一粒ずつ配置されていた。
特筆すべき点は何と言っても一粒ずつにウサギのテゴレーションが施されている事だろう。
ちゃんと顔も描かれている所に拘りと執念を感じる。
丁度9粒あるので飼っているウサギ達をイメージしながらデコったなとマックスは内心で予想した。

「一つずつウサギが描かれてる・・・!これ、凄く可愛いですね!どこのお店に売ってたんですか?」
「え、あー・・・そう!メインの通りから外れた店にあってさ!しかもそれが最後の一箱だったんだよ!」
「そうなんですね。レモンちゃんとかにもオススメしようかなって思ってたんですけどないなら仕方ないですね」

(ナイス言い訳、俺!)

想定していなかった質問に対してそれらしい言い訳を返せた事にマックスは心の中でガッツポーズと共に自身を褒め称えた。

「フィン君先に食べていいよ」
「いいんですか?じゃあ・・・これにしよっと」

真ん中ではなく慎ましく端っこから摘み取るのがなんともフィンらしい。
パクッと口の中に放り込んで味わう様にじっくりチョコを溶かすフィンの顔は段々と緩んで幸せに満ちた表情になっていく。
素直な子なので喜んでくれているのは間違いない。
そんなフィンの様子を見ているとこっちまで嬉しい気持ちになり、なるほど、レインがフィンを溺愛する訳だとマックスは改めて納得する。
と、そこでふとマックスは視線に気付き、なるべくフィンに悟られないように二階の窓を見上げる。
すると陰に隠れてこちらの様子を窺うレインと目が合い、フィンはレインの作ったチョコを食べて満足しているぞ、という意味を込めてウィンクをしたら小さな頷きが返って来た。
相変わらずの仏頂面だが嬉しそうにしている様子がなんとなく分かった。
長い事親友をしているのでマックスはレインのそうした機微には敏感に読み取れるようになっていた。
そうこうしている間に口の中のチョコを溶かしきったフィンが嬉しそうに話を振って来た。

「美味しい・・・!これ、すっごく美味しいです!」
「口に合って良かったよ」
「マックス先輩も一緒に食べましょう」
「ごめん、そうしたいのは山々だけどこれからちょっと用事があってさ。それはフィン君が全部食べていいよ」
「いいんですか?」
「いいっていいって!じゃ、またね」

このチョコはレインがフィンに食べて欲しいと願ったもの。
それをマックスが食べる訳にはいかない。
ならばさっさと退散するのが最善だと判断したマックスは立ち上がると何処へと去って行った。
残されたフィンはしばらく呆然とマックスが立ち去った方向を見つめた後、チョコの箱の蓋を閉じると同じように立ち上がった。

「折角だからこのチョコはみんなと食べようっと。可愛し、美味しいからきっとみんな喜んでくれるだろうな」

ご機嫌な独り言はしっかりレインの耳に届き、彼の口元を僅かに緩める。
贅沢を言うならばチョコは全てフィンに食べてもらいたかったが友人達と楽しい時間を過ごすキッカケになるのならばそれもまた良し。
フィンが穏やかで幸せで楽しい時間を過ごす事がレインの願いだ。
自分の作ったチョコがその為に一役買う事になるのであれば本望と言えよう。
レインは愛しい弟の後ろ姿が見えなくなるまで眺めた後、何事もなかったようにその場を歩き去るのだった。





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