エイムズ兄弟とイベント

「あけましておめでとう、兄さま」

新年が始まった瞬間、最愛の弟はニコニコの笑顔で新年のあいさつをいの一番に自分にしてくれた。
もう二度と直接面と向かって言われる事はなかったであろうその言葉と笑顔を深く噛み締める。
向こう一年、いやこの先一生幸福であろうとレインは確信した。
それ程までにフィンに一番に新年の挨拶をしてもらったのが嬉しかった。

「ああ、おめでとう」

しかし悲しいかな、気の利いた言葉が下手でとりわけ最愛の弟に対しては余計に上手な言葉選びが出来ないレインはただ短い言葉を返す事しか出来ない。
表情も周りに鉄面皮と言われる程死んでいるので無表情であるだろう。
けれど兄のそうした性質を理解しているフィンは特に気にする事もなくニコニコと上機嫌に笑顔を浮かべ続けている。

「へへ、兄さまに一番最初に挨拶出来た」
「そんなに喜ぶ程の事か?」
「そりゃ勿論!新年で一番最初に挨拶する相手は兄さまって決めてたからさ」

屈託のない笑顔で最高の言葉を聞けてこれはもはや自分が見ている都合の良い夢なのではと錯覚する。
フィンというこの世で唯一にして至高の宝である弟を産んでくれた天国の父と母に心から感謝した。

「舞い上がっているところに水を差すがそろそろ寝るぞ。人の少ない時間を狙って初詣に行くんだろう?」
「あ、そうだった。じゃあ寝よっか」

二人揃ってソファから立ち上がり、共に寝室に向かう。
魔法の毛布で温められた布団の中はまるで天国のような心地良さでフィンは勿論、レインすらも瞬く間に眠気に誘われた。

「おやすみなさぁい・・・」
「ああ」

微睡ながら紡がれる舌足らずな挨拶は子供の頃とそっくりで懐かしくなる。
ここにレインの手でフィンの頭を撫でてやれば瞬く間にフィンは眠りの深海に沈んでいく。
いくつになっても弟は可愛い。
そんな弟に対して気の利いた言葉を言ってやれない自分がせめてやれる事と言えば魔法くらいなものだ。
魔法でなら気持ちを伝えるのは得意だと自負している。
ベッドサイドのチェストから杖を取り出し、フィンに向けて魔法を唱える。

「ドリーミールリア」

レインが唱えた魔法は対象者に幸福な夢を見させるもの。
熟達している者であれば内容を操作する事も可能で、当然レインは操作も出来る。
内容は縁起が良いとされるある山の山頂でフィンが鷹を眺めながら茄子を食べるという縁起物を揃えたものだ。
たとえ夢の中でも幸福であって欲しいという願いを込めて正月の定番の縁起物を選んだ。
きっと翌朝、フィンは嬉しそうにしながらレインが見せた夢の内容を語ってくれるだろう。
それがレインがかけた魔法によるものだとは気付かないだろうがレインはそれで良かった。

「おやすみ、フィン」

小さな声で呟いてレインは静かに目を閉じた。







そして翌朝の事、まだ暗い明け方の道を二人並んで歩きながらレインの予想通りフィンは初夢の内容を嬉しそうに語った。

「あのね!僕、正月の初夢の三種の神器が出て来たんだよ!」
「そうか」
「縁起が良いって言われる山の上で兄さまやウサギ達と一緒に空を飛ぶ鷹を眺めながら茄子を食べる夢だったんだ」
「・・・?俺とウサギ達が出て来たのか?」
「そうだよ!二人で美味しいねって言いながら茄子食べたりウサギ達を撫でたりしてたんだ。山と鷹と茄子が出て来ただけでも奇跡なのに兄さまとウサギ達も出て来たんだよ!すっごく縁起が良いよね!」

レインとウサギ達が夢に出て来た事を「凄く縁起が良い」と満面の笑顔で言い切る弟の姿にレインは胸がいっぱいになって呼吸を忘れそうになった。
むしろ縁起が良いのはこの弟のフィンそのものである。
魔法で幸福を願う気持ちを伝えたつもりだがお釣りがくるレベルで幸福のお返しをされた気分だった。
気持ちが昂っていつも以上に言葉が浮かんでこないレインはそれでも必死になってやっとの思いで浮かんだ弟への更なる温かい気持ちを返す言葉を言い放つ。

「・・・いくら欲しい?」
「逆カツアゲ!?」

その後、何度か言葉を交わしてレインはフィンにお年玉をあげたいのだとフィンは漸く意味を理解するのであった。





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