筋肉ファンタジー

ある休日の昼間のマーチェット通りでレインとフィンの二人はウサギの餌の買い出しに出掛けていた。
9羽も飼っている関係で購入するウサギ用ニンジンはいつも大きな餌袋サイズで購入している。
それを持つのがレインの常であったが今日はフィンがさっさと持ってしまう。
その事についてペットショップの外に出たレインが異を唱える。

「フィン、それは俺が持つ」
「いっつも兄さまにばっかり持たせて悪いよ。たまには僕が持つって」
「重いだろ」
「鍛える為だと思えばこのくらい・・・!」

強がってみせるフィンだが声や表情から重さに耐えているのが顕著に感じ取られた。
いつも持っているレインとしては大した事はなく、むしろフィンに重い物を持たせる方が堪らなかった。

「貸せ。俺が持つ」
「僕が持つってば!家族のご飯なんだからこれくらいちゃんとやらなきゃ!」

中々に強情である。
一体誰に似たんだと内心で首を傾げると「お前に似たんだよ」とマックスの苦笑交じりの声が聞こえた気がした。
このまま強引に奪ったらフィンを怒らせてしまうだろう。
それにウサギ達という家族の為に自分も手伝いたいという献身的な気持ちを踏みにじりたくはない。
けれど重い物を持たせるのは自分が許せない。
ジレンマに悩むレインだったが不意にパンの芳しい香りが漂ってきてそちらに意識を持っていかれる。
香りのした方向になんとなく視線を向けるとフィンもつられてそちらの方を向き、お腹の虫を刺激するようなとても美味しそうな匂いに笑顔を溢す。

「あそこのパン屋さん、凄く美味しいってドット君が言ってた。カレーパンとメロンパンがお勧めみたい。あと季節のパンも置いてるんだって」
「そうか・・・買ってくる。何がいい?」
「カレーパンとメロンパンは欲しいかなぁ。後はお任せするね」
「分かった」
「僕はお店の前で待ってるね」
「ああ」

フィンと一緒に店の前まで移動してレインだけ店の中に入る。
店員の「いらっしゃいませー」という明るい声とドアベル、そして出来立てのパンの香りがレインを迎える。
本当はフィンを迎えて欲しかったが仕方ない。
トングとトレーを両手に持つとレインは手早くカレーパンとメロンパン、フィンが喜びそうなチョコ系のパンやウサギの形の可愛らしいパンをトレーに乗せてレジに並ぶ。
実を言うとパンを買う事についてはレインなりの考えがあった。
会計を終えて店から出ると早速その考えを実行する。

「カレーパンとメロンパンあった?」
「ああ。お前の好きそうな菓子パンも買った」
「流石兄さま!ありがとう!」
「持て」
「へ?」

小さなパンの絵が描かれた持ち手付きの袋を突き出される。
持てと言われても今のフィンは誰がどう見ても両手が塞がっている。
そもそもレインがこのような無茶振りをしてくるなど今までになかったのでフィンは驚きで目を白黒させて固まってしまう。

「パンくらい持てるだろ」
「ぁ・・・うん・・・?」

尚も突き出されるパンの袋を戸惑いながらも指先で受け取る。
もしかしたら他の店にも寄って何か大きな物を買うのかもしれない。
だからパンが邪魔なのでフィンに持ってもらおうと考えたのだろう。
そこまで考えたフィンはならばと落とさないようにしっかり指の関節を曲げてパンの袋を持とうとする。
だが、そちらに気を取られていた所為でウサギ用の餌をあっさりレインに奪われてしまう。

「あっ!?」
「パンが潰れるといけねぇからお前はそれを持て。こっちは俺が持つ」
「なっ・・・!?ちょ、兄さま!?だからそれは僕が―――」
「そのパンも俺とお前の二人、家族の飯だ。しっかり持てよ」
「・・・っ!!」

口角を僅かに上げて涼し気に笑う兄にフィンは息を呑む。
こんな風に笑う兄は珍しい。
まるで悪戯が成功した子供のようである。
しかも華麗に一本取っていったので今回はフィンの完敗だ。

「・・・兄さまってばズルい」
「お前はこんな大人になるなよ」
「やだ。僕も兄さまみたいなカッコいい大人になりたい」
「ズルい大人の間違いだろ」
「ズルいけどカッコいいもん・・・悔しいからそこのお肉屋さんでコロッケ買って荷物増やしちゃおっと」
「他の店にも買いに行くなら俺が持つぞ」
「僕が持ちます!」

エイムズ兄弟の微笑ましいお買い物風景はまだもう少し続くのであった。





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