マッシュ・バーンデッドとゴブリンゲーム
小屋に入ったレモンが役割カードを裏返すとそこにはゴブリンのイラストと文字が描かれていた。
「今回は私がゴブリンですね」
そう呟いた矢先、窓の外が暗くなり、扉が小さな音を立てて自動で開く。
ゴブリンのターンだ。
レモンが外に出ると広場は夜の暗闇に包まれており、静寂が空間を支配していた。
成る程、人を襲うゴブリンという演出を考えれば風景が夜になるのも頷ける。
中々凝っているミニチュア世界にレモンは感心しながら自身のロールを思い出してあれこれと悩み始める。
(誰を襲いましょう?やっぱりここはマッシュ君?でも未来の旦那様を襲うなんてそんな・・・やはりここは頑張って嘘を貫き通して私とマッシュ君が静かに平和に暮らす村を築くべきですね!)
いつもの事ながら瞬く間に乙女モードに思考が切り替わったレモンはゲームの趣旨をすっかり都合の良いように置き換えてターゲットの選定に取り掛かった。
とはいえ実技よりも座学、頭の良いレモンはこの選定だけは慎重だった。
一人一人の小屋を見て回りながら人物像と想定される議論の内容を頭の中で整理していく。
(レイン先輩はフィン君とのやり取りを見るに天然な所があるみたいですけど・・・油断禁物ですね。レイン先輩は神覚者様でもありますし、とても優秀で才能のある方ですから。まずは第一候補ですね)
心の中でレインにチェックを付けながら何と無しに窓の中を覗く。
が、中は真っ暗でレインの姿を捉える事は出来なかった。
恐らくは何らかの形で役職カードが見えてしまうのを防ぐ為だろう。
今回の役職は『ゴブリン』と『痣の無い者』しか設定していないが、このゴブリンゲームには他にも『占い師』や『警備隊』など複数の役職が存在する。
その中でも特に占い師が判明したら真っ先に始末の対象となる。
占い師はゴブリンと同じように1ターンに一度、誰がどの役職か確認する事が出来るからだ。
ゲームの内容を考えれば仕方のない事だが、それでもレモンにとっては別方向に残念でならなかった。
(これじゃあマッシュ君の小屋を覗いてもマッシュ君が今何をしてて呼吸を何回したとかが分からないじゃないですか!せめて姿だけでも見えるようにしてくれればいいのに・・・!)
レインの小屋から素早くマッシュの小屋に移動して窓の中を覗くが姿は勿論、どれだけ耳を押し当てて集中しても声すら聞こえない。
マッシュの存在をこの目で、耳で、五感で捉えられないのは非常に残念でならないがこれも自分達に課せられた愛の試練だと思い込む事でレモンは涙を呑むのだった。
さて、気を取り直してレモンは次にフィンの小屋の前に立つ。
(フィン君は常人の目では捉えきれないマッシュ君の動きを見切る程の動体視力と観察眼を持っていますから油断なりませんね。フィン君も要注意です)
レモンの中のターゲットリスト1位に位置づけられるレインの横にフィンの名前が躍り出る。
これを本人に聞かせたらそんな事ないだの大した事ないだの謙虚なセリフを並べて慌てるだろう。
もっと自信をもっていいのに、とレモンは強く思う。
特にマッシュの常人では有り得ない動きを捉える動体視力を。
(私ですらどんなに頑張っても難しいのにフィン君ズルいです!!今度コツを教えてもらわないと!それか何か闇魔法か黒魔術でも・・・)
またあらぬ方向に考えが及んでレモンの瞳がグルグルと渦巻いて闇深くなっていく。
この瞬間、小屋の中にいたマッシュは突然の悪寒に襲われたとかなんとか。
ゴブリンゲームが終わったらその手の書物を読み漁ろうと心に決めたレモンは次にドットの小屋を見上げる。
(ドット君は大丈夫ですね)
レモンにとってドットはあまり脅威ではなかった。
ドットはどちらかというとマッシュと同じタイプであまり人を疑うという事をしない。
自分の気持ちに正直で、仲間や友人に対してはどこまでも信頼を置き続ける良い人だ。
モテたい願望とイケメンへの僻みがそれらの足を引っ張っているが。
それにランスとはしょっちゅう喧嘩しているので議論が始まってもドットが真っ先にランスを疑う光景が目に浮かぶ。
ただし、だからと言って鈍感という訳でもないと思うので議論の際には発言には気を付けておく必要があるだろう。
心の中で特記事項を記してレモンは次にランスの小屋を見上げる。
(ランス君・・・秀才で才能もあってイケメンなのに残念なドシスコン・・・けれど面倒見が良い・・・僅かな違和感はきっと見逃さないでしょう。これは上手く立ち振る舞わないとあっという間に吊るされてしまいますね)
ランスとは友人としても仲間としても付き合いが長い。
皮肉屋だがその実面倒見が良く、勉強で苦戦しているマッシュやフィンの為に分かり易くノートをまとめたり魔法の使い方を指南している。
細かい気遣いが出来るという事はそれだけ相手や周りを見ているということ。
ランスに関しても注意しておくべきだろう。
「さて、どうしましょうか」
一通りの思考を終えて広場の中央に立つとレモンは作戦を考えた。
(まず、議論などにおいて脅威となるのがレイン先輩、フィン君、ランス君。レイン先輩はマッシュ君を牢屋に放り込んだ強引さと大胆さと行動力が恐ろしいです。ただ口下手らしいのでそこをなんとか上手く逆手に取れば・・・ランス君はドット君との喧嘩が始まればいくらか誤魔化せますね。フィン君は・・・レイン先輩を襲えば疑惑が一気にフィン君に向くのでそうしたらフィン君が吊れてゴブリンのターンでランス君を吊れば後はなんとかなる気がします!)
半分くらい運要素が絡むが、それでもレモンにとっては完璧な図式に一人勝利の舞を踊る。
このゲームを制すればこの村は自分とマッシュの愛の巣になると夢想して。
しかしここでレモンの頭に一つの考えが過ぎる。
(あれ?これからレイン先輩を襲うと決めましたがそれはつまり夜這いって事ですよね?え?待って下さい、私はまだマッシュ君に夜這いかけた事がないのに私の初めての夜這いをレイン先輩に捧げるって事ですか?それって・・・それって・・・)
「不倫じゃーーー!!!」
突如として『マッシュの妻』スイッチが入ったレモンは咆哮する。
そこからは先程までの推理モードはどこへやら、思考が一気にマッシュ一色に塗り変わって暴走した。
「ダメですダメです!私はマッシュ君の未来の嫁で妻です!それを他の男性の元に夜這いに行くなど言語道断!!ごめんなさいマッシュ君!私は道を踏み外しそうになりましたが貴方への愛を貫きます!!だからマッシュ君も私のものになって下さい!永遠に一緒ですよ!!マッシュくーーーーーーん!!!」
暴走機関車となった乙女はたとえ小屋の中でボケを察知したフィンが「誰かが猛烈な勘違いして暴走してる!?」というツッコミがあろうが止められない。
マッシュの小屋へ一目散に走り抜けたレモンは扉を勢いよく開け放った。
「マッシュ君!!」
愛しき旦那と勝手に認定しているマッシュの名を高らかに呼んだ瞬間、目の前の景色が変わってレモンは一瞬にして自身の小屋に転移させられた。
窓の外からはミニチュア世界の陽の光が差し込んでおり、ゴブリンのターンの終わりを告げている。
「・・・」
そこでしばしの沈黙の後、レモンは無言で小屋の外に出た。
ミニチュア世界の爽やかな朝、スズメの歌うような声は聞こえないけど爽やかったら爽やかだ。
「今回襲われたのはマッシュか」
「・・・」
「ゴブリンのターンに物凄いボケを感じて一人でツッコミ入れちゃったよ・・・」
「でも何かの手掛かりになるんじゃねーの?いやでもメタ推理っぽいか?レモンちゃんはどう思う?」
「・・・私ですか?」
小屋からランス、レイン、フィン、ドットの順で出て来てそれぞれが思い思いの言葉を口にする。
一方でマッシュは白い牢屋の中で「僕がやられたかー」と呑気に呟きながら本日3個目のシュークリームを食べている。
そんな中、ドットに水を向けられたレモンは一度目を伏せ、それからゆっくりといつもの闇が渦巻く瞳を開眼してみせた。
「マッシュ君は誰にも渡しません!!」
「連行だ」
ランスの容赦のない一言でレモンはレインによって黒い牢屋に放り込まれ、それから残りメンバーが小屋に戻ると最初と同じように広場の中央に『痣の無い者の勝利です』という文字が浮かび上がった。
それを合図に小屋と牢屋の扉が開き、どこか疲れたような表情をしたフィンが一言呟く。
「猛烈なボケをかましてたのはレモンちゃんだったんだね・・・」
「大方、いつものように思考回路がバグってゴブリンとなった自分がマッシュと共にこの村で生きていけないのなら心中した方がマシとかそういう考えに至ったのだろう」
「違います!最初は色々作戦を練ってレイン先輩を襲う予定だったんです!でも私、未婚ですけどマッシュ君の妻ですよ!?まだ夜這いすらした事ないのに他の男性の家に夜に入って行くなんて言語道断だと思いませんか!?だから私はマッシュ君への愛を貫く為にマッシュ君の小屋に行ったんです!そしたらこうなりました!」
「やはり思考回路がバグったか」
「フィン、いつもこうなのか?」
「残念ながら・・・」
引き攣ったように笑う弟の姿にレインは何かしら言うべきかどうか迷った。
とはいえ、この少女もフィンの大切な友人で且つバグる相手がマッシュ限定のようなので、それならいいかという結論に至るのだった。
「そういう訳でマッシュ君!今度改めて夜這いに行きますね!」
「ヒエッ」
「あ、あの、レモンちゃん?夜這いってまさか寮の部屋じゃ―――」
「そうです!」
「やめてよマジで!!僕の部屋でもあるんだよ!?」
「フィン、俺の部屋に泊まりに来るか?俺はソファで寝るからお前はベッドを使え」
「冗談でしょ兄さま!?まずレモンちゃんの奇行を止めるべきでしょ!!」
「そーだそーだ!男女の逢瀬禁止!イケメンは即死刑!スカシピアスも処刑!モテる男はこの世界の主人公である俺様だけで十分だ!!」
「話をややこしくしないで!!」
この後、ランスのグラビオル(物理)がドットに下され、ごちゃごちゃといつもの喧嘩が始まりそうになったところで次のゲームが開始されるのであった。
続く
「今回は私がゴブリンですね」
そう呟いた矢先、窓の外が暗くなり、扉が小さな音を立てて自動で開く。
ゴブリンのターンだ。
レモンが外に出ると広場は夜の暗闇に包まれており、静寂が空間を支配していた。
成る程、人を襲うゴブリンという演出を考えれば風景が夜になるのも頷ける。
中々凝っているミニチュア世界にレモンは感心しながら自身のロールを思い出してあれこれと悩み始める。
(誰を襲いましょう?やっぱりここはマッシュ君?でも未来の旦那様を襲うなんてそんな・・・やはりここは頑張って嘘を貫き通して私とマッシュ君が静かに平和に暮らす村を築くべきですね!)
いつもの事ながら瞬く間に乙女モードに思考が切り替わったレモンはゲームの趣旨をすっかり都合の良いように置き換えてターゲットの選定に取り掛かった。
とはいえ実技よりも座学、頭の良いレモンはこの選定だけは慎重だった。
一人一人の小屋を見て回りながら人物像と想定される議論の内容を頭の中で整理していく。
(レイン先輩はフィン君とのやり取りを見るに天然な所があるみたいですけど・・・油断禁物ですね。レイン先輩は神覚者様でもありますし、とても優秀で才能のある方ですから。まずは第一候補ですね)
心の中でレインにチェックを付けながら何と無しに窓の中を覗く。
が、中は真っ暗でレインの姿を捉える事は出来なかった。
恐らくは何らかの形で役職カードが見えてしまうのを防ぐ為だろう。
今回の役職は『ゴブリン』と『痣の無い者』しか設定していないが、このゴブリンゲームには他にも『占い師』や『警備隊』など複数の役職が存在する。
その中でも特に占い師が判明したら真っ先に始末の対象となる。
占い師はゴブリンと同じように1ターンに一度、誰がどの役職か確認する事が出来るからだ。
ゲームの内容を考えれば仕方のない事だが、それでもレモンにとっては別方向に残念でならなかった。
(これじゃあマッシュ君の小屋を覗いてもマッシュ君が今何をしてて呼吸を何回したとかが分からないじゃないですか!せめて姿だけでも見えるようにしてくれればいいのに・・・!)
レインの小屋から素早くマッシュの小屋に移動して窓の中を覗くが姿は勿論、どれだけ耳を押し当てて集中しても声すら聞こえない。
マッシュの存在をこの目で、耳で、五感で捉えられないのは非常に残念でならないがこれも自分達に課せられた愛の試練だと思い込む事でレモンは涙を呑むのだった。
さて、気を取り直してレモンは次にフィンの小屋の前に立つ。
(フィン君は常人の目では捉えきれないマッシュ君の動きを見切る程の動体視力と観察眼を持っていますから油断なりませんね。フィン君も要注意です)
レモンの中のターゲットリスト1位に位置づけられるレインの横にフィンの名前が躍り出る。
これを本人に聞かせたらそんな事ないだの大した事ないだの謙虚なセリフを並べて慌てるだろう。
もっと自信をもっていいのに、とレモンは強く思う。
特にマッシュの常人では有り得ない動きを捉える動体視力を。
(私ですらどんなに頑張っても難しいのにフィン君ズルいです!!今度コツを教えてもらわないと!それか何か闇魔法か黒魔術でも・・・)
またあらぬ方向に考えが及んでレモンの瞳がグルグルと渦巻いて闇深くなっていく。
この瞬間、小屋の中にいたマッシュは突然の悪寒に襲われたとかなんとか。
ゴブリンゲームが終わったらその手の書物を読み漁ろうと心に決めたレモンは次にドットの小屋を見上げる。
(ドット君は大丈夫ですね)
レモンにとってドットはあまり脅威ではなかった。
ドットはどちらかというとマッシュと同じタイプであまり人を疑うという事をしない。
自分の気持ちに正直で、仲間や友人に対してはどこまでも信頼を置き続ける良い人だ。
モテたい願望とイケメンへの僻みがそれらの足を引っ張っているが。
それにランスとはしょっちゅう喧嘩しているので議論が始まってもドットが真っ先にランスを疑う光景が目に浮かぶ。
ただし、だからと言って鈍感という訳でもないと思うので議論の際には発言には気を付けておく必要があるだろう。
心の中で特記事項を記してレモンは次にランスの小屋を見上げる。
(ランス君・・・秀才で才能もあってイケメンなのに残念なドシスコン・・・けれど面倒見が良い・・・僅かな違和感はきっと見逃さないでしょう。これは上手く立ち振る舞わないとあっという間に吊るされてしまいますね)
ランスとは友人としても仲間としても付き合いが長い。
皮肉屋だがその実面倒見が良く、勉強で苦戦しているマッシュやフィンの為に分かり易くノートをまとめたり魔法の使い方を指南している。
細かい気遣いが出来るという事はそれだけ相手や周りを見ているということ。
ランスに関しても注意しておくべきだろう。
「さて、どうしましょうか」
一通りの思考を終えて広場の中央に立つとレモンは作戦を考えた。
(まず、議論などにおいて脅威となるのがレイン先輩、フィン君、ランス君。レイン先輩はマッシュ君を牢屋に放り込んだ強引さと大胆さと行動力が恐ろしいです。ただ口下手らしいのでそこをなんとか上手く逆手に取れば・・・ランス君はドット君との喧嘩が始まればいくらか誤魔化せますね。フィン君は・・・レイン先輩を襲えば疑惑が一気にフィン君に向くのでそうしたらフィン君が吊れてゴブリンのターンでランス君を吊れば後はなんとかなる気がします!)
半分くらい運要素が絡むが、それでもレモンにとっては完璧な図式に一人勝利の舞を踊る。
このゲームを制すればこの村は自分とマッシュの愛の巣になると夢想して。
しかしここでレモンの頭に一つの考えが過ぎる。
(あれ?これからレイン先輩を襲うと決めましたがそれはつまり夜這いって事ですよね?え?待って下さい、私はまだマッシュ君に夜這いかけた事がないのに私の初めての夜這いをレイン先輩に捧げるって事ですか?それって・・・それって・・・)
「不倫じゃーーー!!!」
突如として『マッシュの妻』スイッチが入ったレモンは咆哮する。
そこからは先程までの推理モードはどこへやら、思考が一気にマッシュ一色に塗り変わって暴走した。
「ダメですダメです!私はマッシュ君の未来の嫁で妻です!それを他の男性の元に夜這いに行くなど言語道断!!ごめんなさいマッシュ君!私は道を踏み外しそうになりましたが貴方への愛を貫きます!!だからマッシュ君も私のものになって下さい!永遠に一緒ですよ!!マッシュくーーーーーーん!!!」
暴走機関車となった乙女はたとえ小屋の中でボケを察知したフィンが「誰かが猛烈な勘違いして暴走してる!?」というツッコミがあろうが止められない。
マッシュの小屋へ一目散に走り抜けたレモンは扉を勢いよく開け放った。
「マッシュ君!!」
愛しき旦那と勝手に認定しているマッシュの名を高らかに呼んだ瞬間、目の前の景色が変わってレモンは一瞬にして自身の小屋に転移させられた。
窓の外からはミニチュア世界の陽の光が差し込んでおり、ゴブリンのターンの終わりを告げている。
「・・・」
そこでしばしの沈黙の後、レモンは無言で小屋の外に出た。
ミニチュア世界の爽やかな朝、スズメの歌うような声は聞こえないけど爽やかったら爽やかだ。
「今回襲われたのはマッシュか」
「・・・」
「ゴブリンのターンに物凄いボケを感じて一人でツッコミ入れちゃったよ・・・」
「でも何かの手掛かりになるんじゃねーの?いやでもメタ推理っぽいか?レモンちゃんはどう思う?」
「・・・私ですか?」
小屋からランス、レイン、フィン、ドットの順で出て来てそれぞれが思い思いの言葉を口にする。
一方でマッシュは白い牢屋の中で「僕がやられたかー」と呑気に呟きながら本日3個目のシュークリームを食べている。
そんな中、ドットに水を向けられたレモンは一度目を伏せ、それからゆっくりといつもの闇が渦巻く瞳を開眼してみせた。
「マッシュ君は誰にも渡しません!!」
「連行だ」
ランスの容赦のない一言でレモンはレインによって黒い牢屋に放り込まれ、それから残りメンバーが小屋に戻ると最初と同じように広場の中央に『痣の無い者の勝利です』という文字が浮かび上がった。
それを合図に小屋と牢屋の扉が開き、どこか疲れたような表情をしたフィンが一言呟く。
「猛烈なボケをかましてたのはレモンちゃんだったんだね・・・」
「大方、いつものように思考回路がバグってゴブリンとなった自分がマッシュと共にこの村で生きていけないのなら心中した方がマシとかそういう考えに至ったのだろう」
「違います!最初は色々作戦を練ってレイン先輩を襲う予定だったんです!でも私、未婚ですけどマッシュ君の妻ですよ!?まだ夜這いすらした事ないのに他の男性の家に夜に入って行くなんて言語道断だと思いませんか!?だから私はマッシュ君への愛を貫く為にマッシュ君の小屋に行ったんです!そしたらこうなりました!」
「やはり思考回路がバグったか」
「フィン、いつもこうなのか?」
「残念ながら・・・」
引き攣ったように笑う弟の姿にレインは何かしら言うべきかどうか迷った。
とはいえ、この少女もフィンの大切な友人で且つバグる相手がマッシュ限定のようなので、それならいいかという結論に至るのだった。
「そういう訳でマッシュ君!今度改めて夜這いに行きますね!」
「ヒエッ」
「あ、あの、レモンちゃん?夜這いってまさか寮の部屋じゃ―――」
「そうです!」
「やめてよマジで!!僕の部屋でもあるんだよ!?」
「フィン、俺の部屋に泊まりに来るか?俺はソファで寝るからお前はベッドを使え」
「冗談でしょ兄さま!?まずレモンちゃんの奇行を止めるべきでしょ!!」
「そーだそーだ!男女の逢瀬禁止!イケメンは即死刑!スカシピアスも処刑!モテる男はこの世界の主人公である俺様だけで十分だ!!」
「話をややこしくしないで!!」
この後、ランスのグラビオル(物理)がドットに下され、ごちゃごちゃといつもの喧嘩が始まりそうになったところで次のゲームが開始されるのであった。
続く