監督生会議

大晦日の夕方、アドラ寮302号室には三人の監督生が集っていた。

「今年も今日で終わりねぇ」
「大晦日というだけで今日という一日の空気が違って感じられるね、母さん」
「年越しそばを食ったらさっさと帰れ」
「言われなくても分かってるわよ。アンタは年の瀬でも冷たいのね。悲しみの冬だわ」

まるで母親のように仕方ないわね、と溜息を吐くマーガレットにしかしレインは取り合わない。
帰る家のないレインは弟のフィンと共に寮で年越しをする事にした。
片や両親とはほぼ絶縁状態のランスも家に帰るつもりはないそうで寮に残る事となった。
一応元旦には妹にだけ新年の挨拶をしに行くらしい。
ならば新年は三人で迎えようとフィンが提案し、三人で年越しそばと天ぷらの材料を買いに行き、材料費を出してくれたせめてものお礼にとランスがフィンと一緒に年越しそばと天ぷら作ると申し出た。
ここまでは普通だった。
だが、買い出しから戻ったその矢先で学校に用事があって家から一旦戻って来たマーガレットとアベルとばったり出くわし、なんやかんや彼らも年越しそばを頂くという流れになった。
そこには別の意味で帰る家の無いアビスをアベルが呼んだ事で彼も加わる事になり、現在アビスは同じくアドラ寮のキッチンでフィン達と一緒にそばと天ぷら作りに勤しんでいる。
ちなみに追加の材料費はアベルとマーガレットが出したので二人はレインと同じく部屋でまったりする組になった次第である。

「今年のビッグニュースは色々あり過ぎて決められないわねぇ」
「逆にスモールニュースなんてのはどうだろうか?あまり大した事のない出来事を話すんだ」
「いいわね、それ。じゃあ最初はレインからね」
「あ?何で俺なんだ」
「誰が最初だっていいでしょ?それでスモールニュースは何かしら?」
「チッ、仕方ねぇな・・・飼ってるウサギ全員に課題の監視をされた」

眉間に皺の寄った険しい顔から飛び出した可愛らしい事案。
マーガレットとアベルは腕を組んだり顎に指を当ててその時の光景を想像する。
確かウサギを9羽飼っていると風の噂で聞いた事がある。
そのウサギ全員が机やレインの頭や肩に乗り、課題を進めるレインの手元を見つめていたのだろう。
『戦の神杖』の称号を冠する神覚者でありながらなんとも可愛らしい事態に見舞われていたようである。

「それってよくある事なの?」
「そこそこの頻度だ」
「猫が人間の作業を監視するという話のウサギバージョンのようなものだね」
「でもあのレインがっていうのにインパクトがあるからこれは40点ね」
「僕も40点だ」
「その理論でいくなら俺は何をやっても点数低いだろ」
「飼ってるウサギを引き合いに出したのが貴方の敗因よ。見てなさい、私が本当のスモールニュースを見せてあげるわ」

(俺は何を見せつけられようとしているんだ?)

マーガレットのペースとノリに相変わらずついていけず、レインは内心で首を傾げる。
レインがマーガレットを苦手とする理由はここにあった。
マーガレットはそれを見抜いていたが気にせずにそのままマイペースに続ける。

「私の今年のスモールニュースはお気に入りメーカーの人気色のリップを手に入れた事よ」

顔を凄ませながら放たれた内容は確かに大した事がない。
内容自体はお洒落に興味のある女子がよく話す普通のものだ。
しかしそれでもレインとアベルのジャッジは厳しい。

「・・・確かに大した事ねぇが人気色を手に入れたってのはいただけねぇな。60点だ」
「レインの言う通りだ。それはプチニュースくらいの威力がある。63点だ」
「あーら、男の子はコスメに興味ないからいけると思ったんだけどねぇ」
「次は僕の番だ。僕のスモールニュースは風呂で使うバスタオルを新調した」

さらっと言い放たれたアベルのスモールニュース。
しかし内容は考えるまでもない。

「凄く大した事ねぇな」
「ええ。良かったわね、という感想しかないわ」
「この勝負は僕の勝利だね」

少し嬉しそうな雰囲気を醸すアベル。
一方でレインとマーガレットは負けた訳だが大して悔しいという気持ちが湧かなかった。
緩いお題と年末という空気の所為だろうか。
待ってる間用にとフィンが用意してくれた熱いほうじ茶を飲んで場を仕切り直すとマーガレットは次なる話題を振る。

「そういえば福袋は買う?私は抽選に当たったから『有印』の福袋を買う予定よ」
「福袋は売れ残り商品を詰めた物だろう?」
「やーね、そういうのもあるけどそうじゃないのもあるわよ。レインはどうかしら?」
「・・・フィンが俺の為にウサギストアの福袋の抽選に応募してくれていた」
「あら、良い子ね」
「結果は?」
「惜しくも外れた」
「それは残念ねぇ」
「だから代わりに魔法道具福袋をフィンに買おうと思った」
「ちょっと待ちなさいよ。それ高額な福袋じゃない?」
「確か一番金額の低いコースでも1万Lはした筈だ」
「最上級コースを買おうとしてフィンに『バカじゃないの』と怒られた」
「そりゃそうよ。バカよ、貴方」
「その後どうなったんだい?」
「魔法道具福袋の購入は見送りになり、偶然ミセスドーナツの福袋の予約が出来たからそれをした。明日フクロウ便で届く」
「まともな福袋を購入出来たようで何よりだよ」
「いくらフィンちゃんが可愛いからってやり過ぎよ。もう少し自重しなさい」
「うるせぇ」

「年越しそば出来たよー」

レインにお説教をする会が始まりそうになったところに部屋の扉が開き、出来立てサクサクの天ぷらを載せた大皿をフィンが運んでくる。
更にその後ろに出来立てホヤホヤのそばを三つずつトレーに乗せて運んできたランスとアビスが続く。
上品な出汁の香りと美味しい油の匂いが部屋を満たし、瞬く間にレイン達の思考は天ぷらそばに切り替わる。

「三人で作ったからすぐに作り終わる事が出来たよ」
「ご苦労だった」

大皿を置いたフィンはレインの隣の席に座る。

「とっても美味しそうなエビね。タルタルソース用の小皿をいただけるかしら?」
「ああ」

そばを自分とフィンとレインの前に置いてからランスは戸棚から小皿を取り出す。
フィンとマッシュの部屋な訳だが、慣れたように戸棚から取り出しているのは日頃から302号室に訪れてお茶の準備を手伝っているからである。

「アベル様、食後の蕎麦湯をご用意してあります」
「いただこう」

相変わらずアベルに対しては執事のように振る舞うアビスだが、それが彼の至高の幸福なのである。
全員席に着いたところで手を合わせて「いただきます」の挨拶をした後、それぞれに箸を持ってそばや天ぷらを食べ始める。

「そういえば聞いたわよ、フィンちゃん。レインが魔法道具福袋を買おうとしてたそうね」
「ええっ!?魔法道具福袋をですか!?」
「そうなんですよ。説得するのに苦労して・・・」
「魔法道具福袋か。アンナの護身用にいいかもしれないな」
「何言ってるのランス君!?」

アドラ寮302号室の異色のメンバーによる年越しそばタイムは賑やかに過ぎていく。





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