エイムズ兄弟とイベント

夏の時期は大体どこの町も夏祭りを開く。
勿論それぞれに時期をずらして。
掻き入れ時となればそれも普通の事と言えるだろう。
しかしそれはそれで有難い話でもある。
例えばフィンのように友人達と夏祭りを楽しんだ別の日に兄のレインと別の町の夏祭りに行く場合などだ。
マッシュ達と祭に行く日はレインの方で仕事が入っていて参加出来なかった為、こうして日を改めて兄弟水入らずで来た次第である。
訪れた町の祭もマッシュ達と行った祭に負けず劣らず賑やかで明るくて沢山の人が浴衣や仁平を着て行き交っていた。

「わぁ!ここも賑わってるね」
「はぐれるなよ」
「うん!」

祭囃子や人々が織りなす喧騒が飛び交う中にエイムズ兄弟も混じっていく。
いつものように言葉少なに注意を促したレインだがフィンとの距離が出来そうになったらすぐに手首を掴んで引っ張り寄せ、フィンもレインとはぐれてしまいそうだと察知すると咄嗟にレインの浴衣の袖を掴んで何とかついて行っていた。
特にどこの屋台に行くと決めていなかった二人だったがフィンの目に射的の二文字が映る。

「兄さま、射的だって!やってみない?」
「ああ」

立ち止まって頷いてくれた兄に破顔し、フィンは屋台の店主のおっさんに二人分の注文を入れる。
台の上に並べられているオモチャの銃の前に二人が並び立つと同時にコルク弾が五個載せられた皿が一枚ずつ置かれる。
フィンはまるで子供のようにワクワクしながらコルク弾を詰め、レインは無表情で黙々と詰める。
レインのその無駄のない所作とオーラから「こいつぁただものじゃねぇ!!」とおっさんは悟ったとかなんとか。

「どれにする?」
「えーっとねぇ・・・あ!あのウサギの置物なんてどう?」

棚に置かれている景品を眺めたフィンは真ん中の段にある小さなウサギの置物を指差す。
手の平に十分収まる大きさで見た目的にも軽そうだ。
そして何よりウサギの置物という事でレインの瞳も鋭く光る。

「あれにするぞ」
「うん。まずは僕からね」

いそいそと銃を構え、照準を合わせようと片目を瞑るフィンに気付いてレインの注意が飛ぶ。

「フィン、片目は閉じるな。ちゃんと両目を開けて狙いを定めろ」
「両目で?」
「片目だけだと思った以上に狙いが外れるぞ」
「へー。じゃあ両目を開けて・・・」

兄のレインは神覚者という事もあって戦闘経験が豊富だ。
固有魔法も魔法界屈指の殺傷能力と攻撃に特化した剣の魔法で、本人自ら剣や鉾を手に取って戦う事もあるが基本は魔法で剣を放つ事の方が多い。
そうなると必然的に敵を的にして魔法を放つのでそれなりの狙撃技術もある訳だ。
経験者の助言はよく聞いておいた方が良いと心得ているフィンは大人しくレインの言葉に従うと両目を開けてウサギの置物目掛けて引き金を引く。
しかしコルク弾はウサギの置物の真横を通り過ぎて壁に当たって地面に落下するだけに終わった。

「う~ん、惜しい・・・」
「もう少し左だ」
「うん」

兄の指示に従って気持ちほんの少し左に銃口を向けて放つ。
しかしコルクは棚のすぐ下の仕切りに当たって落ちた。

「下がってる。上だ」
「うん」

気持ち銃口を上に向けてもう一度放つ。
しかしまたしてもコルク弾はウサギの置物を掠っただけだった。

「あー惜しい!」
「だが掠った。もう少しだ」
「うん!」

気合いを入れ直して四発目のコルク弾を撃つ。
しかし今度はウサギの頭の上を掠るだけに終わった。
次が最後である。

「今度こそ・・・えいっ!」

気合いを入れて最後の一発を撃ち放つとコルクは見事にウサギの置物に命中した。
しかしほんの少し位置をずらすだけに終わって落ちるまでには至らなかった。

「当たった!景品は取れなかったけど当たったよ、兄さま!」
「ああ、悪くない」

無表情で短く呟かれた言葉だがこれでもレインはかなりフィンを褒めている方である。
フィンもそれを察していて「兄さまに褒められた!」と内心でとても嬉しそうに小躍りする。
周囲からしてみればレインの反応が素っ気ないのに対してフィンはかなり嬉しそうにしているという謎の場面にしか写っていないが。

「次は俺の番だな」

静かに銃を構えるレインだがその構えは完全にプロのそれであった。
そして完全に獲物を仕留める捕食者の如き鋭い瞳で狙いを定めると躊躇なく引き金を引いた。
一発、二発、三発、四発・・・どれも全てウサギの置物に命中し、どんどん後ろへと下がらせていく。
そして最後の五発目が命中するのと同時にウサギの置物は棚から落ちた。

「兄さま凄い!全部命中だ!」
「造作もない」
「それでも凄いよ!兄さまカッコいい!」

レインの弟への愛しさが10000000000増した。

「ほいよ、兄ちゃん。おめっとさん」
「どうも。フィン」
「ありがとう、兄さま」

おっさんから渡されたウサギの置物をフィンの掌の上に置けばこの上ない笑顔と共にお礼を言われ、レインの弟への愛しさが大気圏突破する。
この笑顔の為に生きていると実感した瞬間である。

「他に欲しいもんはあるか?」
「えっとね・・・あ、兄さま、アレとかどう?」

射的の景品で、という意味だったのだがお揃いのトパーズの瞳は射的の棚から周囲に視線を走らせると一つの屋台にそれを留めて指差した。

「ウサギカステラだって。可愛いね、買おうよ」
「ああ」

頷いてフィンを伴ってウサギカステラ屋台に直行する。
ウサギと聞いて反応しないレインではない。
フィンもウサギを快く受け入れてくれているので大手を振ってウサ活が出来るというもの。
10個入りを一つ買い、祭りの屋台にしては凝っている可愛らしいウサギの袋に入れてもらってフィンに持たせた。
可愛いに可愛いの重ね掛けでレインはとてもホクホクだった。

「帰ったら半分ずつしようね」
「ああ。他に食べたいもんは?」
「そうだなぁ。リンゴ飴・イカ焼き・わたあめ・かき氷・から揚げとポテト・チョコバナナはマッシュ君達と食べたし・・・あ、焼きそば食べたい!あとお好み焼きも!」
「それが夕飯代わりでいいな」
「うん!兄さまは食べたい物ないの?」
「俺はウサギカステラだけで十分だ」
「あそこの屋台でウサギのリンゴ飴売ってるよ?」
「・・・買う」
「僕も買っていい?」
「好きにしろ」

言葉は短くて素っ気なくても内心はフィンとお揃いのウサギのリンゴ飴が嬉しかったりする。
兄とのお揃いが何でも嬉しいフィンがそうであるように、レインもフィンとのお揃いは何でも嬉しかった。
今回のお祭りにはそれに加えて二人で来れたのが最大の嬉しい点だった。
去年はまだ距離があった時期で偶然迷子センターで居合わせたものの目線は合わず、勿論会話もなかった。
けれど同じ花火を見る事が出来た。
それがきっと、二人で見た最後の花火の思い出になるだろうと思っていた。
しかし今年からは違う。
また昔のような兄弟仲に戻れた今はこれまでとは大きく違う。

「沢山買っちゃったね。アイス食べられるかな?」
「可能な範囲で食べろ。残りは俺が食べる」
「ありがとう、兄さま」
「とはいってもお前はもう少し沢山食べろ。健康診断でまた痩せていたのを忘れちゃいねぇからな」
「うっ・・・ガンバリマス・・・」

気まずそうに目を逸らしつつ「ほ、ほら早く帰ろうよ!」とフィンに促されて共に帰路を辿る。
リンゴ飴は小さいサイズを頼んだのですぐに食べ終わり、飴に刺さっていた割り箸だけを捨てて手荷物をほんの少し減らすのも忘れずに。
家に到着したら屋台で買ったご飯を広げて二人で分けて食べた。
この手の屋台の食べ物は大味だったり雑多な味の物が殆どだがある意味それが祭の醍醐味と言えよう。
それに過酷な幼少期を過ごした二人にとってはそれでも十分美味しいご飯だ。
路上生活していた頃はお祭りとは縁がなく、いつも遠くから眺めているだけだった。
近くに見に行ってもお金がないので無駄にお腹を空かせるだけなのと、冷やかしをしていると屋台の店主に嫌がられて怒鳴られる可能性もあった。
そんな中でも祭の最後に打ち上げられる花火が楽しみで、よく二人で穴場を探したものである。
けれど今年は穴場であるのに加えて二人にしか許されていない花火スポットがあった。

「美味しかったー!案外いけたね」
「量がそれ程ある訳じゃなかったからな」
「でもお陰でアイス食べられそうで良かったよ。そろそろ花火の時間だし、デザートタイムも兼ねてアイス食べない?」
「ああ」

広げたパックや割り箸を片付け、椅子をベランダに出してカップアイスを片手に座る。
ここはレインの建てたレインとフィンの二人の家。
今年初めての夏を過ごす新居だ。
その新居で二人で一緒にアイスを食べながら打ち上げ花火を眺めるという中々に美しい最初の思い出の一ページが出来てレインもフィンも大満足だった。

「あ、始まったよ」

ヒューという細い音の後にまるで空を叩くようなドンッという鈍く大きな爆発音が響き渡り、直後に金色の花が夜空に開く。
勿論その一発では終わらない。
赤、青、ピンク、オレンジ、黄色と色とりどりの花火が打ち上がっては夜空を美しく飾る。
フィンは瞳を輝かせてその煌びやかな光景に魅入り、レインは花火の光に照らされるフィンの横顔をずっと眺めていた。
その視線に気付いたフィンがクスリと笑う。

「もう兄さま、花火見ないの?」
「お前こそアイスが溶けかかってるぞ」
「え?ヤバッ!」

アイスが溶け始めている事に気付いていなかったフィンは慌ててそれを食べ始めてレインの微笑を買う。
その後、ほぼ二人同時にアイスを食べ終わったが花火は打ち上がり続けたまま。
レインは時折花火に視線をやりつつ隣のフィンの横顔を目に焼き付けるように眺める。
それに関してはもう気にしない事にしたのか、花火を見上げたままフィンは口を開く。

「ねぇ、兄さま」
「何だ」
「また来年もこうして二人で花火を見ようね」

約束の持ちかけと共に穏やかな笑みが向けられる。
フィンの表情と纏う空気全てが幸せだと物語っていた。
そして暗にその幸せを来年また共有したいと願われている。
レインの返事など考えるまでもなく決まっていた。

「ああ」

フィナーレの花火が打ち上がる。
何発も何発も打ち上がって空を彩る。
相変わらずレインはフィンの横顔を眺めていたがそれで構わなかった。
来年もまたフィンと同じ花火を見るのだから。






END
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