エイムズ兄弟とイベント

「大丈夫か?フィン君」
「ええ、まぁ・・・」

外から戻って来て満足気味のレインとは対照的に疲労全開やつれ気味のフィンの様子に何かあったなと察してマックスは早速同情する。
事のあらましはアドラの担任を受け持つ女性教師が結婚するという話から始まり、アドラ寮の代表としてレインがその結婚式に出席する運びとなった。
ついては結婚式に出席する為のスーツを仕立てる事となったのだが、そこにフィンも連れて行くとレインが言い出したのだ。
理由はフィンもパーティー用の服を持っておらず、神覚者であるレインの都合でどうしても社交の場に顔を出す事もあるだろうから必要になったらすぐにでも着れるようにする為というもっともらしいもの。
それにしたっていつになるかも分からないのに今用意しておく必要があるのだろうかとマックスは首を傾げたがどうやら別の目的があったようで。

「スーツ以外の買い物でもして来たのか?」
「実は―――」

時は2時間前に遡る。
結婚式に参加する為のスーツを買いに来たエイムズ兄弟であったが、レインのスーツはすんなりと決まった。

「このスーツカッコいいよ兄さま!ピッタリだよ!」
「お似合いでございますよ、レイン様」

試着室から出て来たレインの姿を見てフィンと男性店員は称賛の言葉を口にする。
フォーマルな黒のスーツで、しかし確かな存在感を放つように黒のネクタイの首元で金色のネクタイピンが輝きを放っていた。
ついでに胸ポケットからチラリと顔を覗かせている黄色のウサギのハンカチもさりげない存在感を放っている。
ウサギ大好きアピールを忘れない相変わらずの兄だが可愛らしい個性だと捉えているフィンは特にそれについて何かを言う事はしなかった。
店員の方も神覚者レイン・エイムズのさりげないオシャレポイントと捉え、今後の商品展開として胸元に動物のハンカチを覗かせるのもアリだな、と商魂逞しい方向に考えを進めるのだった。

「俺はこれにするとしよう。フィン、次はお前だ」
「えへへ、僕もお揃いで黒のスーツを着てみようかな」

レインと似た系統の黒のスーツを手に取るとフィンは試着室に籠った。
そしてものの数分で着替えてカーテンを開けて姿を現す。

「ど、どうかな?似合ってる?」
「ああ、よく似合ってる。すいません、後で見比べる為に撮影をしても良いですか?」
「勿論です」

店員が頷くと同時に懐から撮影ウサギを取り出してレインは素早くフィンを撮影した。
ここまでなら良かった。
問題はその後だ。

「僕もこれにしちゃおうかな」
「他にも色々ある。試しにこっちを着てみたらどうだ?」
「紺色のスーツかぁ。こっちも良さそうだね」

また試着室に入り、着替えて紺色のスーツを見に纏った姿を見せるフィン。
当然レインはその姿も写真に収める。

「どうかな?」
「よく似合ってる。お前は紺色もよく似合う」
「本当?嬉しいなぁ」
「次はこっちも着てみろ」
「赤っぽいスーツかぁ。これはどうかな?」

こんな調子でさりげなくフィンの撮影会を始めるレイン。

「こっちも着てみろ」

カシャッ

鳴り止まないシャッター音。

「これもいいんじゃないか」
「こっちが良いかもしれん」
「試しに着てみろ」

無表情だが段々とイキイキするレイン。
目に見えて段々と疲労が顕になるフィン。
商品の売り出し工夫が冴え渡っていく店員。
もう何着目になるか分からないタイミングでフィンがギブアップした。

「兄さま!もういい加減に決めよう!?お店の人にも迷惑だよ!」
「せめて最後にこのスーツを着てくれ」
「オマケでこちらの試着も如何ですか?」
「まさかの店員さんもノリノリ!?」
「だが迷惑をかけたのは事実だ。今まで試着したスーツ全部―――」
「これ下さい!!」

こうして兄の蛮行を阻止する形でフィンは自身のスーツを購入するのだった。
そして時は現在の時間に戻り、向かい合ってソファに座って経緯を聞いたマックスは苦笑いを浮かべる。

「なんて事がありまして・・・」
「大変だったね、フィン君」
「お店の人もノリノリだったから良かったものの、普通なら大迷惑な客ですよ・・・」
「フィン」
「何、兄さま?」
「すまなかった」

マックスの隣、自分の真向かいに座ったレインはフィンを真っ直ぐに見つめながら謝罪の言葉を口にする。
言葉が少ないので知らない人からすれば何に対する謝罪か分からないが兄弟の交流が再開し、更には前後の出来事を把握しているフィンにはすぐに分かった。
要するに調子こいて着せ替えしまくってごめんなさい、という意味だ。
元来兄の事が大好きで兄に対して判定がガバガバになるフィンは苦笑気味に息を吐いてあっさりとそれを受け入れて許す。

「いいよ、兄さま。でも今回はお店の人も乗り気だったから良かったけど他だと迷惑になるから気を付けてね」
「ああ、分かった。次からはVIP待遇でいくらでも試着を許してくれる店に行くぞ」
「何も分かってない!!!」
「あっははははは!!」

その後、マックスの冗談が挟まりつつレインに説教&説得をするのだった。





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