エイムズ兄弟とイベント

今年もイーストンの大闘技場を解放して行われるスポーツフェスティバル。
そして今年も漏れなく参加するマッシュ達五人。
役割も去年と変わりなく、マッシュ・ドット・ランスの三人は競技参加、レモンは応援係、フィンは救護係だ。
レインは去年は記録係を担当していたがそれは神覚者でイーストンの学生だからという側面があってこそで、今年は記録係には任命されなかった。
つまりスポーツフェスティバルが行われる休日はレインにとっても仕事が休みの日に当たる。
であるからして彼は一般人として選手でも応援でも救護でもどれか一つに参加出来る訳なのだが―――。

「・・・何してんだ?あの人」
「フィンの警護だ。去年のようにゴーレムなどが誤作動で暴走した時に備えて控えているのも兼ねている」
「兼ねるとこ違うだろ。控えてんの完全にフィンの隣にいる為のそれらしい口実だろ」
「あ、レイン先輩目当ての女性の方がまたテントの中に入って行きました」
「さっき競技でわざと派手に転んだ人だ。でもどの人も見た感じだとレイン君に相手されてないみたいだからあの人も同じだと思うけどな」

マッシュ達が注目する先、救護テントに二人の女性が意気揚々と入って行く。
片方はマッシュの言った通り競技中に派手に転んで盛大に膝などを擦りむいた女性で、もう片方が女性の友人で付き添いだった。
あの神覚者レイン・エイムズが救護テントにいると聞いてこの二人も他と同じようにレイン目当てで来たという訳だ。
近くで見れるだけでも御の字。
惜しむらくは治療がてら話をしてお近付きになりたいところ。
これだけの怪我をしていれば神覚者直々に手当てしてくれるかもしれないので期待は大きい。
しかし人生はいつだって裏切られる。

「すいませ~ん!怪我の手当てをお願いしたいんですけど~!」
「わ、凄い怪我ですね!こちらに座って下さい。すぐに手当てしますので」

テント入り口近くで待機していた女性の救護係がすぐに気付いて対応してくれた。
神覚者レイン・エイムズではなくて内心残念に思いながらも二人の女性は諦める事なくレインを探してテント内に視線を張り巡らす。
だが、そんなに広くもなく密度もないテントの中にレインの姿はなく。

「あ、あの、すいません!レイン様は今どちらに・・・?」
「残念ですけどレイン様はついさっき入れ違いで弟さんと一緒に競技場内の見回りに行きましたよ」
「見回りに!?」
「そんな~!!」

驚き嘆く女性二人に救護係の女性は苦笑を溢す。
そして口ぶりから察するに救護係の女性は二人がレイン目当てで来たのを分かっていたようだが、それも仕方のない事。
先程から絶え間なく女性参加者が何かしらの怪我を負ってはこの救護テントに訪れるのだ、嫌でも分かるというもの。

「でも仮にレイン様がいたとしても救護係の人数が足りてる以上は手当てしてくれなかったと思いますよ。レイン様はあくまでも弟さんの付き添いですから。それと―――」
「それと?」
「弟さんとお話してるところを邪魔するとレイン様の機嫌が悪くなるからどのみち声をかけるのはやめておいた方が良いですよ」
「うぅ・・・レイン様のハードルは高い・・・」

項垂れる二人に救護係の女性は「元気出して下さい」と優しく励ましながら丁寧に手当てをするのだった。







「はい、これでもう大丈夫だよ」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「次は転ばないように気を付けてね」
「はぁーい!」
「ありがとうございました」

母親と手を繋いでご機嫌に歩き去って行く女の子を見送ってフィンは立ち上がる。
レインと一緒に闘技場内の見回りをしていたところ、はしゃいで転んで膝を擦りむいて泣いていた女の子を見つけて手当をしていたのだ。
擦りむいた時の痛みでわんわん泣いていた女の子だったが、フィンがウサギ柄のピンク色の絆創膏を取り出すと途端にそれに興味を示して泣き止み、消毒をして貼り付けてあげたら先程のようにご機嫌になった。
あの様子だと擦り傷の痛みなどすっかり忘れている事だろう。
女の子の笑顔につられてフィンも笑顔を溢す。

「ウサギの絆創膏、喜んでもらえたみたいで良かった。用意してくれた兄さまのお陰だね」
「ただの偶然だ」

一見素っ気なく聞こえる兄の言葉だが雰囲気そのものは満更でもなさそうなのが見て取れる。
折角の休みの日なのに家でのんびりせず、わざわざフィンに付き合って一緒に参加してくれたものの主に沢山の女性に声をかけられて段々苛立っていたのを気にして見回りに誘ったのだが、どうやら機嫌が治ったようで安心した。
もっとも、レインがフィンに八つ当たりをするなんて真似は絶対に有り得ないのだが。

「・・・今日の夕方だが」
「ん?」
「お前達は何か予定はあるのか?」
「ないけど?」
「なら、お前達の都合さえ良ければ外で何か美味いもんでも食べに行くぞ。心配しなくても俺の奢りだ」
「それって打ち上げって事?行く行く!みんな行くって言うよ!ありがとう、兄さま!早くみんなに伝えなきゃ!」
「落ち着け。一旦アイツらのいる所まで歩いて行くぞ」
「うん!」

ご機嫌に鼻歌を歌い始める弟を嬉しそうに横で眺めながらレインは弟との散歩を兼ねた見回りを再開するのだった。






オマケ~前日の夜~


フィンはハンガーにかけられたレインのジャージ一式を眺めていた。
去年のスポーツフェスティバルで記録係を担当する際、学校支給のジャージがあるからそれで済まそうとするレインに「アドラ寮のロゴ描いてあるから贔屓してると思われるぞ」とマックスに指摘され、仕方なしに購入したものらしい。
理由に関しては相変わらずの兄だと苦笑を禁じ得ないが、それはそれとしてやはりいつでもセンスは良いと尊敬する。
去年、遠くからこのジャージを着ている兄を眺めたがとてもよく似合っていたように思う。
自分がこれを着ても同じようにはいかないだろうし、なんなら着られてるという雰囲気にしかならないだろう。
やはり何でも似合う兄はカッコいいなとフィンの中でレインへの尊敬度が上がるのだった。

「どうした?」
「あ、ううん、何でもないよ。兄さまのジャージカッコいいな~って思ってただけ」
「着てみるか?」
「え?いいの?」
「ああ」

一もニもなく頷く兄の優しさに嬉しくなってフィンは「じゃあ、お言葉に甘えて」とレインのジャージに袖を通す。
しかし結果は先程考えていた通り。
生地と空間の余っているだぼだぼの袖、足の甲を覆い隠してしまいそうなほどブカブカなズボンの裾。
身長は5センチしか違わないのに体格が全く違うから全体的にブカブカだ。
鏡を見なくてもだぼっとしていて様になってないのが容易に想像出来てフィンは苦笑を溢す。

「あはは、やっぱ僕には大きいや」
「よく似合っている」
「またまたぁ、兄さまったらそんな―――」

カシャッ

「ちょっ、兄さま何撮ってんの?」
「気にするな」

カシャッカシャッ

「気にするよ!?何で撮るの!?ていうか連写し過ぎ!!」

カシャッカシャッカシャッ

「お前の記録だ」
「記録し過ぎだってば〜!」

その後、救護係の服の撮影会も行われたという。








END
2/6ページ
スキ