エイムズ兄弟とイベント

週末の休みの日の夜。
レインが建てたフィンと一緒に住む家でレインとフィンの二人はソファに座って寛いでいた。
学校であった事や仕事であった事など他愛のない会話は互いの心を満たす。
数年間まともに目を合わせる事も出来なかった二人なのでこうした何気ない会話がどれだけ尊く愛しいものかを噛み締めているのだ。
そんな会話の折り、フィンがある事を思い出してそちらに話題を移す。

「そういえば今年もイースターのお祭りが始まったね。開かれる事になって良かったなぁ」
「大戦の復興記念としての側面もあるからな。今年はより盛り上がる方向になるそうだ」
「へー、そうなんだ」

無邪気な淵源との大戦後、神覚者を中心に迅速な世界の復興作業が行われた。
当然レインも駆り出されて連日忙殺されていた訳だがそんなレインを支えたのは誰あろう、フィン自身であった。
ずっと自分の事を守ってくれていたレインを今度は自分が支えたいと申し出てあれこれ積極的に世話を焼いたのだ。
それはウサギのお世話に始まり、食事や洗濯などの身の回りの家事炊事、そしてレインによるフィンの充電など何でもした。
最後の充電に関しては本当に役に立てているのかどうか甚だ疑問ではあるが好きなようにさせた後のレインは何故か目の下の隈やら全体的な疲労感が綺麗さっぱり取り払われているのできっと効果はあるのだろう。
ウサギ吸いの方がもっと効果があるのではないかと勧めた事もあったがそれとこれとはまた別なのだとか。
色々よく分からないしツッコミたい所ではあるがそれで兄が癒されるならまぁいいか、と甘々判定を下すフィンであった。

「今年は一緒に参加出来るね、兄さま!」
「ああ」

嬉しそうに破顔するフィンを見てレインは目元を柔らかくして頷く。
去年はまだ距離があった為に会話は勿論、目を合わせずにいた二人だったが今年は大手を振って兄弟仲良く参加が出来る。
とは言っても期間中だけでの話で。

「今年も最終日はマッシュ・バーンデッド達と行くのか?」
「うん、そのつもり。兄さまも一緒に行こう?」
「そうしたいところだが仕事がある。お前達だけで行ってこい」
「そっか・・・仕事なら仕方ないね」

先程までの笑顔から打って変わって枯れた花のようにしょんぼり俯く弟の姿にレインの胸がぎゅっと締め付けられる。
本当なら神覚者権限で仕事を休みたいところだが魔法道具絡みのかなり重要案件の仕事が入っているのでどうしても休む訳にはいかないのだ。
それこそ蹴ってしまったら後々巡り巡ってフィンが危険に晒されてしまうかもしれない、そんな内容だった。
とはいえ、残念そうにする弟を見過ごす事も出来ず、必要以上に喋るのが苦手なレインはそれでも頑張ってフィンを励まそうと言葉をかける。

「・・・俺は」
「ん?」
「・・・俺は・・・仕事だが・・・」
「うん?」
「次の週末・・・イベントの土産話を聞かせてくれ。お前の話が聞きたい」
「・・・!うん!!楽しみにしててね!」

水を得て再び咲いた花のように笑うフィンにホッと胸を撫で下ろす。
そして次こそは最終日に一緒に参加出来るように仕事を調整しようと胸に誓うのだった。






そうして迎えたイースター最終日。
休みの日という事もあってフィンは昨日に引き続き朝は家にいる訳だがマッシュ達と合流してイースターのイベントに参加した後はそのまま寮に戻る予定だ。
つまり、休日出勤のレインが家に帰っても最愛の弟はいないのだ。
しかしそれも仕方のないこと。
ウサギ達に慰めてもらおうと神覚者コートを着て身支度を終えたレインは仕事鞄を持つと部屋を出た。

「はい、兄さま。良かったらお昼に食べて」

玄関で靴を履くレインに差し出されるウサギ柄の弁当包み。
健気な事にフィンが朝早くに起きて作ってくれたお弁当だ。
ゆっくりすればいいのに休日出勤するレインを少しでも励ましたくて作ると言ってくれたのだ。
それだけでもうレインはこの一日を余裕で乗り切れる程の元気をもらった。
しかもその健気な気遣いは弁当だけに留まらず、夜に疲れて帰って来るレインの事を考えて温めるだけですぐに食べられる料理の作り置きもしてくれたのだ。
もしも世界一の弟コンテストがあったらフィンの大優勝間違い無し、いや殿堂入りで不動の覇者だ、なんて半分訳の分からない言葉がレインの頭の中で飛び交うが勿論そんなものは無表情の顔には出ない。
時には無表情というのも便利なものである。

「悪いな」
「ううん。お仕事頑張ってね」
「お前もはしゃぎ過ぎて怪我しないようにな」
「うん、気を付けるね。いってらっしゃい、兄さま」

笑顔で見送ってくれるフィンを扉を締め切る最後まで目に焼き付けるとレインはそのまま魔法局へと箒を飛ばした。
午前中から面倒で重要な案件に早速取り掛かったが滞りなくスムーズに進行し、途中でフィンはマッシュ達と楽しくイベントに参加出来ているだろうかと想いを馳せる余裕があったほど。
きっとこれも休みの日をフィンと過ごしたフィン効果のお陰だろうと心の中でフィンに感謝の念を送る。
心の中のフィンが「フィン効果って何!?」ってツッコミを入れたがそれも元気で可愛いフィンメモリーとして新たなに格納されるだけだった。
そして重要案件がひと段落着いたところで少し遅れた昼食を摂るべくレインは食堂でフィンから貰った弁当を食べる事に。
手作り弁当というのは包を開けるその段階から心躍るものだというのをフィンがこうして弁当を作ってくれるようになってから知った。
兄弟揃って母の作る弁当を味わう事なく両親を失い、以降は過酷な時期だったので知れる機会など当然なく。
神覚者を目指してフィンを突き放してからはもう一生縁がないものだと思っていた。
それが様々な経緯でもってまたフィンと一緒にいられるようになり、休日出勤がある時はこうやって弁当まで作ってくれてレインは幸せの絶頂にあった。
くどいようだが無表情の顔にはそんな様子は一切浮かんでいない。
ただ雰囲気としては気持ち柔らかいと感じる事は出来るが。
内心ワクワクしながらレインは丁寧に弁当の包みを解く。

「・・・?手紙?」

弁当包みの中にはメインの大きな白ウサギの弁当箱とフルーツを入れる小さなパンダウサギの箱の二部構成になっていたのだが、その二つに挟まれるようにしてウサギ柄の可愛らしい手紙が入れてあった。
封筒の表にはフィンの字で「兄さまへ」と書いてあるので差出人はフィンで間違いないだろう。
シールやテープで止められていない封を開ければ中にはハガキと同じ大きさのメッセージカードが入っており、それを取り出してメッセージを読んだ。

『兄さまへ お仕事お疲れ様 今回はイースターにちなんだウサギ弁当を作ってみたよ フィン』

可愛らしいウサギ柄に囲まれたカードの真ん中にはそう書かれており、右下の方には手描きの二羽のウサギが描かれていた。
片方のウサギの顔には鋭い両目の下に直線が一本ずつ描かれており、もう片方のウサギの顔はレインから見て左目の下に直線が一本引かれており、ついでにソバカスのような点も描かれていた。
考えるまでもなく、これは自分とフィンを模したウサギだろう。
なんていじらしく可愛らしい手紙なのだろう。
レインは感動のあまり眉間に皺が寄り、これは家宝にして厳重保管せねばと心に決める。
心の中のフィンが「大袈裟だよ!」とツッコミを入れてきたので、ならば仕事中の癒しとして机に飾ろうかと考える。
そしたら心の中のフィンが今度は「恥ずかしいからやめて!」と止めて来たので当初の予定通り家宝として家で大切に保管する方向にした。
カードを封筒に戻して手紙に保存魔法をかけてから懐にしまい、いよいよ弁当箱のご開帳である。
内心ウキウキしながらレインは宝箱にも等しいそれをゆっくり開く。
そして―――

「これは・・・!」

そこでレインの魂は吹き飛んだ。

「お、レインじゃないか。向かいの席いいか?」

そこに人類最高傑作ことライオが同じく愛妻弁当を持ってレインの傍にやって来る。
しかし固まったまま反応の無いレインを不思議に思い、顔を覗こうとしてレインの手元の手作り弁当に気付く。

「弟君に作ってもらったのか?中々凝ってる男前な弁当だな!」

フィンが作った弁当は本当に凝っていた。
ご飯は俵形のウサギ、オカズに使われているニンジンはウサギの型抜きがされており、その他のオカズにはウサギのピックが刺さしてあった。
フルーツのリンゴもウサギカットで、いつになくウサギ尽くしな弁当となっている。
極めつけには弁当箱の蓋の裏に魔法でメッセージを書ける機能があり、そこには『兄さま大好き!』というフィンの素直な愛情表現の言葉が綴られていた。
普段は無難な見た目ながらも所々にウサギが散りばめられている微笑ましい弁当なのだが今回は特に気合が入っているのが見て分かった。

「随所に細かくウサギ要素があるなんて弟君はレインの為に一生懸命頑張って作ったんだな。良かったな、レイン」
「・・・」
「レイン?どうした?」
「・・・」
「気絶してる」

その後、ライオはなんとかしてレインの意識を戻してやり、食べるのが勿体無いと悩むレインをなんとか説得して弁当を食べさせるように仕向けた。
男前な男は放っておいたりしないのだ。
そして後日、レインはイーストンに戻ったフィンの元に高級ゼリーセットを贈ったとかなんとか。





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