マッシュ・バーンデッドとゴブリンゲーム

それぞれの顔が表示された小屋に入ると机の上にゲーム世界にかけられた魔法の説明が記載されたカードと役が記載されたカードが置かれていた。
説明は以下の通りである。

・ゴブリンのターン時、小屋は完全施錠がされていて扉も窓も開ける事が出来ない
・また、窓から外を見てもゴブリンや他の役職者の姿は視認出来ない
・魔法によりゴブリンがどの小屋から出て来たか、また、どの小屋を開けたかは足音含め聞こえないように無音になっている
・ゴブリンが小屋に入って来ても襲われる側はゴブリンの姿を視認する事は出来ない
・ゴブリンに襲われたプレイヤー並びに議論でゴブリンに指名されて牢屋に連れ込まれたプレイヤーであってもゴブリンのターン時にゴブリンの姿は視認出来ない
・小屋の扉は自動開閉式である
・ルールを破って魔法を使ったり力技で解決しようとしたプレイヤーは一ヵ月このミニチュア世界への出入りを禁ずる(緊急時は除く)

「なんてこった。ルールを守って楽しくゴブらねばみんなと遊べなくなってしまう。まぁでも、ゲームにおいてルールを守るのは当然だけどね」

独り言ちてマッシュは役が記載されたカードを手に取る。
カードの表には水色のインクで魔法陣が描かれており、きっとこの魔法陣が光る事で裏側に記載されてる役や絵柄が変わるのだろうという事は脳筋なマッシュでも何となく考え付く事が出来た。
自分の役は何だろうと思いながら裏返すと、そこにはゴブリンの絵柄と共に『ゴブリン』と記載されていた。

「なんと。僕が初手ゴブリンとは・・・益々ランス君に先回りされて釘を刺されたのが悔やまれますな」

とんだボケ殺しがいたものだなー、とやや他人事に思いながらマッシュは懐から出したシュークリームをもっもっもっと頬張る。
だがその矢先、突如として窓の向こうが夜に変わり、閉じていた扉がキィィ・・・と自動で開いた。
次いで役名カードの表面に『ゴブリンのターンです。誰かを襲ってきて下さい』という文字が浮かぶ。

「ほえー、こんな感じなんだ」

人々が寝静まる頃にゴブリンが人間を襲う、という演出の為か中々凝っている。
なんなら木に止まっているフクロウがホーホーと鳴いていたりする。
だが鳴いているだけで襲っては来ないので単なる背景の一部なのだろう。
しかしフクロウには猛烈に嫌われているマッシュにとっては有難い話だった。

「さて、誰にしようかな」

広場の真ん中に立ってマッシュはぐるりと周りを見回す。
ランス・ドット・フィン・マッシュ・レモン・レイン、そして最後に二つの牢屋の順に並ぶ小屋。
誰かを襲えと指示があったが誰を襲えばいいのか。

「みんな頭良いし、僕は嘘が下手だしなぁ」

それでもマッシュは無い頭を必死にひねる。
が、筋肉で生きて来た彼にとって戦略を立てるのはあまりにも難しい話だった。
そもそもの前提からして嘘がバレないようにするとなれば尚のこと。
考え過ぎてマッシュは勉強している時と同じように頭から煙が吹き出して瞳が虚になる。

「ゔ・・・ゔぅ・・・ボク、カンガエルノニカテ・・・トリアエズ、ヤル・・・」

まるでロボットにでもなったかのように片言で呟くとマッシュは視界に入ったドットの小屋へ行き、扉を開けるのだった。

「おや?」

すると次の瞬間、目の前の景色が瞬時にして小屋の中の景色に切り替わり、窓の外が明るくなった。
感覚からして何となくではあるが瞬間移動させられたのだろう。
そう推察しているとまたギィィ・・・と自動で扉が開いたので外に出てみると広場は朝の景色に様変わりしていた。
これがミニチュア世界の魔法か、とマッシュは普段と変わらない表情でありながらも小さく驚き、ミニチュア世界を体験した記念に懐から2つ目のシュークリームを取り出して頬張る。

「こんな感じなんだ」
「あ、マッシュ君」
「良かった、マッシュ君は襲われなかったんですね!これも私達夫婦の絆の力ですね!」
「・・・」
「生き残ったのはこの面子か」

フィン、レモン、レイン、ランスの順に小屋から出て来て広場に集まる。
最後に出て来たランスはメンバーの顔をぐるりと見回した後、全力で憐れみを込めた視線で白い牢屋に放り込まれていた人物―――ドットを見やった。

「そしてアレが襲われたと」
「チッキショー!!初手襲われちまったぜクソが!!」
「ごめんね、ドット君」

檻の鉄の棒を掴んで喚くドットに投げかけたマッシュの言葉に一同は「え?」と敏感に反応し、マッシュに視線を集める。
自身のやらかしに気付いたマッシュは「しまった」と小さく呟くとあからさまに目を逸らしながら誤魔化すようにシュークリームを頬張り続けた。

「いやマッシュ君、今『しまった』って言ったよね」
「いいいい言ってないよよよよよ」
「マッシュ君、めちゃくちゃ動揺してるじゃないですか!」
「ししししししてないよよよよ」
「マッシュ、シュークリームを食べるのをやめてこっちを見ろ」
「なななななんででで?だだだだだ大体ぼぼぼ僕がごごゴブリンって証拠はななななないでででしょしょしょ」
「お前をブタ箱にぶち込めば分かる話だろ」

いつもと変わらない険しい顔つきでレインがマッシュの首根っこを引っ掴む。
その強引とも言える勢いに「ひえっ」とマッシュが言葉を漏らした次の瞬間には彼は黒い牢屋の中にいた。
そしてそのまま全員が一旦小屋の中に戻ると広場の真ん中にパンパカパーン!という能天気な音と共に『痣の無い者の勝利です』という文字がデカデカと浮かび上がった。
どうやら勝敗が決まったらしい。
そのお陰か、ドットとマッシュの入っていた牢屋の扉は開き、同じようなタイミングで小屋の中からフィン達が出て来た。

「やっぱりっていうかなんていうか、マッシュ君がゴブリンだったんだね・・・」
「どうして私を襲ってくれなかったんですかマッシュ君!?私はいつでも準備が出来ていたのに!!」
「何の準備なの、レモンちゃん・・・」
「ほぼ条件反射でドットに謝罪をしていなければまだ誤魔化せていたがな」
「確かにランス君の言う通りだよ、マッシュ君。直前までは普通だったし、シュークリームを食べてる姿からはマッシュ君がゴブリンだなんて思わなかったよ」
「本当?じゃあ次からはシュークリーム食べて誤魔化そう」
「お前それ、ゴブリンの時だけやるとすぐにバレるからな。つか俺を選んだのはアレだよな?俺の慧眼を恐れて―――」
「とりあえずでした」
「とりあえずかよ!!」
「まぁまぁ。それよりも次やろうよ」

髪の毛の色と髪型のように怒るドットを宥めながらフィンが「ネクスティ」と呪文を唱え、新しくゲームをセットする。
すると広場の中央に『小屋の中に入って下さい』という文字が浮かび上がり、各々は再度小屋の中に入って行くのだった。







続く
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