筋肉ファンタジー
フィンがマッシュ達と共にイーストンを卒業して魔法局に努めて早一年。
兄のレインが購入した一軒家にウサギ達と共に暮らす事になったフィンはレインと一緒に住まう喜びと幸せを日々噛み締めていた。
距離があった時期では考えられなかった幸せであり、レインが卒業する際に一緒に住もうと持ち掛けてくれたのは思わぬサプライズだった。
どうもレイン自身はフィンが一緒に住むのは彼の中で確定事項だったらしく、ほぼ独断でその路線に進んでいたらしい。
そこでマックスに「ちゃんとフィン君にそれ言ったのか?」と確認されて初めてフィンの了承を得てない事に気付いたらしく、それで慌てて一緒に住もうと話を持って来たのだとか。
普段は真面目で何をしても優秀なのにそれでもどこか抜けている兄らしくてそれを知った時は噴き出して笑ったものである。
とまぁ、そうした色々な事がありながらフィンは今も兄と共に歩む時間の幸せを享受していた。
唯一の悩みは時々レインが朝寝ている自分の体の上にウサギを乗せて来る事だが。
「うぅっ・・・うわっ!?う、ウサ子とウサ美!?」
「正解だ」
重苦しさに魘され、何か生温かいものに忙しなく顔を舐められて目を開けば二羽の愛くるしいウサギが視界いっぱいに飛び込んで来た。
レインとフィンで大切に世話をしているウサギのウサ子とウサ美だ。
そんな二羽の飼い主でありこの家の家主でありフィンの兄であるレインはフィンのベッドの傍で腕を組んで見下ろしていた。
変わらない仏頂面は朝から見れば誰もが驚きビビり散らかすだろう。
フィンは慣れているのと兄のレインだから、という理由でそうした反応を示す事はないが。
二羽の愛兎を撫でてやりながら唇を尖らせてフィンは起き上がって抗議する。
「もう、兄さまってばまたこんな事して・・・初めてやったあの時から味占めてるでしょ?」
「案外面白いからな」
「僕で遊ばないでよ。ねぇ?ウサ子、ウサ美?」
二羽の頭をマッサージするように優しく撫でれば、もっともっとと甘えるように頭を掌に押し付けられる。
サービスで二羽が満足するまで頭や背中、首や額を撫でてあげた所でウサ子をレインに渡してウサ美を抱き上げた。
「全く・・・兄さまに仕返ししようとしてもウサギ関係は全部兄さまにとってはご褒美だしなぁ。昔僕がやられたみたいにウサギ全員配置しても『ここが天国か』って言って昇天しようとしてたし」
「いつかまたアレをやってくれ。出来れば俺が目を覚ましてすぐに俺の上に餌を撒いてくれると尚良い」
「ベッドが血だらけになるから駄目だよ!」
もう!と怒ってフィンはレインと共にウサ子とウサ美をウサギ専用部屋に戻すと着替えて支度を始めた。
学生時代にレインが寝ているフィンの体の上にウサギを乗せる悪戯を始めて以降、こうして一緒に暮らし始めた今になってもレインは時々ウサギを乗せて来ていた。
重い上に寝ている間にされるものだからフィンはどうしたって毎度驚いてしまう。
きっとそこを面白がられているのだろう。
それどころかフィンを愛兎で起こすのが楽しみになっている節すらある。
腹いせにフィンも同じ事を仕掛けてみたがレインが驚いたり悔しがったりご機嫌斜めになるような事はなく。
むしろウサギによる悪戯はなんだってご褒美と幸福に変換されるので次はああしてくれこうしてくれと要望を出される始末。
何かの他に手段はないものかとあれこれ考えてみるが相手はあのレインなので子供騙しが効く筈もない。
(兄さまに仕掛けても兄さま全然動じないし・・・むしろ仕掛けて来る兄さまにカウンターを仕掛けてみるとか・・・?)
妙案だとばかりに閃いたフィンの頭の中に一筋の光が差し込む。
これならばきっといける、そんな確信が彼の中を駆け巡る。
どうせ失敗しても大した痛手ではない。
そうと決まれば善は急げだ。
フィンは頭の中でレインにカウンターをお見舞いする算段を練るのだった。
それから数日後。
ウサオを抱っこしたレインは足音を立てないように廊下を歩き、フィンの部屋を目指す。
昔に比べて驚き方は小さくなったとはいえ、それでもこの行為の一番の目的は愛兎でフィンを起こす事だ。
愛兎に起こされる愛する弟を見るのは心の健康に良い。
特に起き抜けのフィンになでなでを強請るウサギとそれに応えるフィンの姿は心の健康にすこぶる良い。
大切なウサギと大切な弟の触れ合いには幸せしか詰まっていなかった。
神覚者の仕事や討伐任務で荒む心は日々の弟と愛兎との触れ合いで解消しているが、これには真夏にプールに飛び込んだ時のような快感があるのだ、レインの中で。
そんな訳で今日も今日とて音を立てないように細心の注意を払いながらフィンの部屋のドアを開けたレインだったが、その先に飛び込んで来た光景に思わず動揺してしまう。
「これは・・・!」
レインが見た物、それはフィンのベッドボードに停まる『添い寝インコ』という魔法道具だった。
眠る時は安眠導入効果のある鳴き声を奏で、目覚まし設定した時間、或いは誰かが部屋に入るのを感知すると知らせてくれるという物。
製作者が鳥好きであった為にインコのデザインとして流通しているこれにレインが一般消費者の立場としてウサギのデザインの要望を密かに出しているのはここだけの話である。
最近フィンが何かコソコソと仕掛けていると思ったらこれだったとはレインも驚きを隠せない。
こんな物があっては今のようにレインが足を踏み入れた瞬間―――
『ニイサマ!ニイサマ!』
入室を感知され、可愛らしい声を上げられてしまう。
そして見事にフィンは起きてしまった。
「んぁ・・・あ、兄さま、ウサオ、おはよー」
寝ぼけ眼を擦りながら起き上がり、それからぐっと体を伸ばすフィンは入り口でウサオを抱っこしたまま動かないでいるレインをキョトンと見つめる。
それからレインと添い寝インコを交互に見やると悪戯が成功した子供のように笑った。
「あ、びっくりした?朝の対策の添い寝―――」
「フィンッ!」
大股一歩で力強くベッドに近付き、そして片手でフィンの肩をガシッと強く掴む。
それから眉間にこれでもかと皺を寄せて物凄い圧力をかけて迫るレインに驚いてフィンは「ひゃいっ!?」と肩を跳ねさせる。
「この家ではウサギ以外の動物のインテリアは禁止だ」
「え、そっち?」
「どうしても使いたいなら事前に相談しろ。いいな?」
「う、うん・・・?」
「それから寝起きドッキリが出来なくてウサオが悲しんでいる」
「えっ!?あ、本当だ!」
レインの腕の中で悲しそうにプゥプゥと鳴くウサオに気付いてフィンは手を伸ばし、レインは素直にウサオをフィンに手渡す。
腕の中に抱いたウサオを「よしよし、ごめんね~」とあやしながら頭を撫でているフィンをそのままにレインはベッドの縁に腰を下ろし、フィンを見つめる。
「・・・フィン」
「ん?何、兄さま?」
「ウサギによる寝起きドッキリが本気で嫌なら言え。今日でもう終わりにする」
「え?ん~・・・」
考え込むようにフィンはゆっくりと視線を彷徨わせ、それから腕の中のウサオを覗き見た。
そのつぶらな瞳は寂しそうに何かを訴えているようでフィンの胸がきゅっと締め付けられる。
それから視線をレインの方に向ければウサオと似たような感情の色を瞳に湛えていた。
ペットは飼い主に似るという言葉がある。
つまりそういう事だ。
こういうものに弱いフィンは観念したように苦笑の息を漏らすと譲歩案を出した。
「お腹とか胸の上に置かないなら別に続けてもいいよ。足も寝返り打った時に蹴っちゃうと大変だから気を付けてね」
「分かった。やったな、ウサオ」
「プッ」
「やったなってあのねぇ・・・」
顔を引き攣らせるが、傍目には無表情でもウサオと共に喜ぶ兄の姿を見て、まぁいいかとフィンは軽く流す。
こうしてレインによるフィンへのウサギの寝起きドッキリは続くのであった。
ちなみに添い寝インコはレグロが購入に悩んでいたという事でマッシュ伝いで譲ったという。
END
兄のレインが購入した一軒家にウサギ達と共に暮らす事になったフィンはレインと一緒に住まう喜びと幸せを日々噛み締めていた。
距離があった時期では考えられなかった幸せであり、レインが卒業する際に一緒に住もうと持ち掛けてくれたのは思わぬサプライズだった。
どうもレイン自身はフィンが一緒に住むのは彼の中で確定事項だったらしく、ほぼ独断でその路線に進んでいたらしい。
そこでマックスに「ちゃんとフィン君にそれ言ったのか?」と確認されて初めてフィンの了承を得てない事に気付いたらしく、それで慌てて一緒に住もうと話を持って来たのだとか。
普段は真面目で何をしても優秀なのにそれでもどこか抜けている兄らしくてそれを知った時は噴き出して笑ったものである。
とまぁ、そうした色々な事がありながらフィンは今も兄と共に歩む時間の幸せを享受していた。
唯一の悩みは時々レインが朝寝ている自分の体の上にウサギを乗せて来る事だが。
「うぅっ・・・うわっ!?う、ウサ子とウサ美!?」
「正解だ」
重苦しさに魘され、何か生温かいものに忙しなく顔を舐められて目を開けば二羽の愛くるしいウサギが視界いっぱいに飛び込んで来た。
レインとフィンで大切に世話をしているウサギのウサ子とウサ美だ。
そんな二羽の飼い主でありこの家の家主でありフィンの兄であるレインはフィンのベッドの傍で腕を組んで見下ろしていた。
変わらない仏頂面は朝から見れば誰もが驚きビビり散らかすだろう。
フィンは慣れているのと兄のレインだから、という理由でそうした反応を示す事はないが。
二羽の愛兎を撫でてやりながら唇を尖らせてフィンは起き上がって抗議する。
「もう、兄さまってばまたこんな事して・・・初めてやったあの時から味占めてるでしょ?」
「案外面白いからな」
「僕で遊ばないでよ。ねぇ?ウサ子、ウサ美?」
二羽の頭をマッサージするように優しく撫でれば、もっともっとと甘えるように頭を掌に押し付けられる。
サービスで二羽が満足するまで頭や背中、首や額を撫でてあげた所でウサ子をレインに渡してウサ美を抱き上げた。
「全く・・・兄さまに仕返ししようとしてもウサギ関係は全部兄さまにとってはご褒美だしなぁ。昔僕がやられたみたいにウサギ全員配置しても『ここが天国か』って言って昇天しようとしてたし」
「いつかまたアレをやってくれ。出来れば俺が目を覚ましてすぐに俺の上に餌を撒いてくれると尚良い」
「ベッドが血だらけになるから駄目だよ!」
もう!と怒ってフィンはレインと共にウサ子とウサ美をウサギ専用部屋に戻すと着替えて支度を始めた。
学生時代にレインが寝ているフィンの体の上にウサギを乗せる悪戯を始めて以降、こうして一緒に暮らし始めた今になってもレインは時々ウサギを乗せて来ていた。
重い上に寝ている間にされるものだからフィンはどうしたって毎度驚いてしまう。
きっとそこを面白がられているのだろう。
それどころかフィンを愛兎で起こすのが楽しみになっている節すらある。
腹いせにフィンも同じ事を仕掛けてみたがレインが驚いたり悔しがったりご機嫌斜めになるような事はなく。
むしろウサギによる悪戯はなんだってご褒美と幸福に変換されるので次はああしてくれこうしてくれと要望を出される始末。
何かの他に手段はないものかとあれこれ考えてみるが相手はあのレインなので子供騙しが効く筈もない。
(兄さまに仕掛けても兄さま全然動じないし・・・むしろ仕掛けて来る兄さまにカウンターを仕掛けてみるとか・・・?)
妙案だとばかりに閃いたフィンの頭の中に一筋の光が差し込む。
これならばきっといける、そんな確信が彼の中を駆け巡る。
どうせ失敗しても大した痛手ではない。
そうと決まれば善は急げだ。
フィンは頭の中でレインにカウンターをお見舞いする算段を練るのだった。
それから数日後。
ウサオを抱っこしたレインは足音を立てないように廊下を歩き、フィンの部屋を目指す。
昔に比べて驚き方は小さくなったとはいえ、それでもこの行為の一番の目的は愛兎でフィンを起こす事だ。
愛兎に起こされる愛する弟を見るのは心の健康に良い。
特に起き抜けのフィンになでなでを強請るウサギとそれに応えるフィンの姿は心の健康にすこぶる良い。
大切なウサギと大切な弟の触れ合いには幸せしか詰まっていなかった。
神覚者の仕事や討伐任務で荒む心は日々の弟と愛兎との触れ合いで解消しているが、これには真夏にプールに飛び込んだ時のような快感があるのだ、レインの中で。
そんな訳で今日も今日とて音を立てないように細心の注意を払いながらフィンの部屋のドアを開けたレインだったが、その先に飛び込んで来た光景に思わず動揺してしまう。
「これは・・・!」
レインが見た物、それはフィンのベッドボードに停まる『添い寝インコ』という魔法道具だった。
眠る時は安眠導入効果のある鳴き声を奏で、目覚まし設定した時間、或いは誰かが部屋に入るのを感知すると知らせてくれるという物。
製作者が鳥好きであった為にインコのデザインとして流通しているこれにレインが一般消費者の立場としてウサギのデザインの要望を密かに出しているのはここだけの話である。
最近フィンが何かコソコソと仕掛けていると思ったらこれだったとはレインも驚きを隠せない。
こんな物があっては今のようにレインが足を踏み入れた瞬間―――
『ニイサマ!ニイサマ!』
入室を感知され、可愛らしい声を上げられてしまう。
そして見事にフィンは起きてしまった。
「んぁ・・・あ、兄さま、ウサオ、おはよー」
寝ぼけ眼を擦りながら起き上がり、それからぐっと体を伸ばすフィンは入り口でウサオを抱っこしたまま動かないでいるレインをキョトンと見つめる。
それからレインと添い寝インコを交互に見やると悪戯が成功した子供のように笑った。
「あ、びっくりした?朝の対策の添い寝―――」
「フィンッ!」
大股一歩で力強くベッドに近付き、そして片手でフィンの肩をガシッと強く掴む。
それから眉間にこれでもかと皺を寄せて物凄い圧力をかけて迫るレインに驚いてフィンは「ひゃいっ!?」と肩を跳ねさせる。
「この家ではウサギ以外の動物のインテリアは禁止だ」
「え、そっち?」
「どうしても使いたいなら事前に相談しろ。いいな?」
「う、うん・・・?」
「それから寝起きドッキリが出来なくてウサオが悲しんでいる」
「えっ!?あ、本当だ!」
レインの腕の中で悲しそうにプゥプゥと鳴くウサオに気付いてフィンは手を伸ばし、レインは素直にウサオをフィンに手渡す。
腕の中に抱いたウサオを「よしよし、ごめんね~」とあやしながら頭を撫でているフィンをそのままにレインはベッドの縁に腰を下ろし、フィンを見つめる。
「・・・フィン」
「ん?何、兄さま?」
「ウサギによる寝起きドッキリが本気で嫌なら言え。今日でもう終わりにする」
「え?ん~・・・」
考え込むようにフィンはゆっくりと視線を彷徨わせ、それから腕の中のウサオを覗き見た。
そのつぶらな瞳は寂しそうに何かを訴えているようでフィンの胸がきゅっと締め付けられる。
それから視線をレインの方に向ければウサオと似たような感情の色を瞳に湛えていた。
ペットは飼い主に似るという言葉がある。
つまりそういう事だ。
こういうものに弱いフィンは観念したように苦笑の息を漏らすと譲歩案を出した。
「お腹とか胸の上に置かないなら別に続けてもいいよ。足も寝返り打った時に蹴っちゃうと大変だから気を付けてね」
「分かった。やったな、ウサオ」
「プッ」
「やったなってあのねぇ・・・」
顔を引き攣らせるが、傍目には無表情でもウサオと共に喜ぶ兄の姿を見て、まぁいいかとフィンは軽く流す。
こうしてレインによるフィンへのウサギの寝起きドッキリは続くのであった。
ちなみに添い寝インコはレグロが購入に悩んでいたという事でマッシュ伝いで譲ったという。
END
