短編
「なんて事があってよー」
「それは大変だったな」
「全くだぜ。お陰で非番だった俺とクマが駆り出されてヘトヘトだったぜ」
キャンパス内を春の温かい風を受けながら普通の男の子さながらに話をするのは陽介と悠の二人。
二人共顔立ちがいいのもあって、中々絵になるその図は女子が振り返ったり噂したりするほど。
そういう視線などに敏感な陽介はヒソヒソとその事について悠に話した。
「なぁなぁ、俺たち注目されてね?これが大学生のオーラってやつ?」
「陽介の放つオーラのお陰じゃないか?」
「へへ、そう言われると照れるぜ。でもお前のオーラのお陰もあると思うぜ」
「うっかり残念王子を発揮するなよ」
「うるせーやい!そん時はお前も道連れだ!」
陽介が軽く拳を突き出すと悠はそれを掌でパシッと受け止める。
息の合うこのやり取りは流石相棒同士と言ったところか。
そんな風に大学生ライフを満喫していた二人を突然、数人の武装した男たちが取り囲む。
そう、本当に突然―――。
「なんだ!?」
「友達になりたい・・・って訳じゃなさそうだな」
咄嗟に二人で背中を合わせて臨戦態勢を取り、警戒する。
男たちのただならぬ雰囲気に悠と陽介の思考はすぐに戦闘モードに切り替わった。
まず、悠の目の前にいる男は新聞で何重にも丸めた太い棒状の物を両手に持っている。
対する陽介の目の前にいる男は木刀を握っている。
狙いを定めた二人は静かに構えた。
「・・・!」
「・・・!」
狙いを定めた男たちを中心に武装した男たちが襲い掛かってくる。
「ハッ!」
「オラッ!」
悠と陽介は男たちの攻撃を軽やかに躱しつつ武器を持ってる男たちの腕を叩いて武器を手放させた。
鮫川でトレーニングする事もあるので対処の仕方は双方心得ている。
そうして奪った武器をお互いに向けて投げた。
「陽介!」
「鳴上!」
互いの名前を呼び、寄越された獲物をキャッチして攻勢に転じる。
悠は大剣を扱う時の要領で重い一太刀を浴びせ、陽介は素早い動きで相手を翻弄しつつ撃破していく。
しかし相手は武装した集団、倒しても起き上がってまた襲いかかってくる。
だが、やらなければやられる。
二人は更に精神を集中させて剣を振るう―――
「ハイカットォ!!」
「「・・・は?」」
思いもしなかった突然の言葉に二人の動きが止まる。
一体なんなのかと思って声のした方を振り返れば、サングラスにツバのついた青い帽子に黄色いメガホン、極めつけに胡散臭い付け髭をした如何にも監督といった男がカメラマンの生徒を引き連れてこちらにやって来た。
「君たち今の動き良かったよー!本当の武人を見ているのかと思っちゃったよ!高校は演劇部にでも入っていたのかね?」
「あの、すいません、貴方は・・・?」
「ん?ああ、申し遅れた。私は写田恭次郎。映画サークルの部長をやっている者だ」
「映画サークル?そーいや聞いた事あんな、そんなサークル」
「普段からその格好・・・ではないですよね?」
「当たり前だ。これは映画サークルで活動する時の言わば一張羅というやつだ!これを着ると気持ちが切り替わるのだよ」
「・・・なんとなく気持ちが分かるな」
「だな」
悠も陽介も裏の世界での戦闘の時は気持ちの切り替えとしてクマお手製のメガネを着用している。
それと似たような物だと思うとすんなりと納得出来た。
そんな二人の会話などを他所に写田は話を進める。
「ところで君たち、役者に興味はないかね?歓迎するぞ」
「つっても脇役だろ?」
「いいや、主役だ」
「マジで!?」
「いきなり俺たちが主役なんかやったらサークル内で反感を買うんじゃないんですか?」
「問題ない。何故なら部員のみんなは好きで裏方や脇役をやっているのだからな」
「へ?何で?普通は主役をやりたいもんだろ?」
「確かにそうだ。主役は物語における花形・スターだ。だが、映画は主役だけで成り立ってる訳ではないだろう?
脇役・裏方・エキストラ・準主役など多くの要素が合わさって初めて成り立っているんだ。
そしてそれらのものは目立たないながらにも確かな輝きを放っている。
この映画サークルはそんな素質と理解を兼ね備えている者たちで構成されているのだよ」
映画について熱弁する写田の姿はさながら本当の監督のようである。
そんな姿に陽介は半ば圧倒されていた。
「お、おお、なんかそれっぽいぞ・・・」
「ちなみに君たちが倒したそこの男たちも我が映画サークルのエキストラだ」
「マジで!?そうとは知らずに本気でかかっちまったぞ!?」
「あの・・・すいませんでした」
「いえ、気にしないで下さい」
「僕達も承知の上でやっているので」
「貴方たちの方こそ怪我はありませんでしたか?」
「いや、俺たちは大丈夫ッス。ホントすんませんでした」
悠と陽介、そして映画サークルの部員たちは互いに頭を下げて謝った。
いくら武装をしていると言っても所詮は一般人。
特別な戦いを経験している悠と陽介は一般人からは少し外れてしまうので謝るのは当然だ。
お互いの謝罪が済んだ所で写田が話を戻す。
「しかし君たちの戦闘はとても素晴らしかったよ!まるで本当の戦いを見ているようだったぞ!
その才能を我が映画サークルで発揮してみる気はないかね?」
「どーする?鳴上」
「活動日によるな。バイトと重なってたら無理だ」
「そこは問題ない!上手いこと融通を効かせるつもりだぞ」
「じゃあ・・・入ってみるか?」
「おう、入ってみようぜ。いい経験になるかもしれねーしな!」
陽介は爽やかに笑ってウィンクをした。
こうして二人はめでたく映画サークルに入部するのであった。
オマケ
映画サークルに入部した事について二人は食堂で千枝と雪子に報告をしていた。
「てな訳で!俺たち映画サークルに入る事になったから宜しくな!」
「へー、いきなり主役やるとか凄いじゃん。流石鳴上くんだね」
「いやいやいや、人の話聞いてましたか里中さん!?俺も主役やるんだよ?」
「え?やられ役じゃないの?」
「主役だつってんだろ!!この整った顔立ちはどっからどーみても主役級の顔だろ?」
「隠せない残念要素の所為で斬られ役乙だよ」
「お前ってやつは・・・天城なら判ってくれるよな?」
「鳴上くんたちはどんな映画をやるの?時代劇?大河?それとも弥生時代?」
「聞いてねーよ・・・」
「ぷっくくくく、弥生時代の映画・・・なんで弥生時代なんか出てくるのよ!色々飛びすぎ・・・あはっあははははっ!!」
「自分で言った事に笑ってんじゃねーよ・・・どんどん笑いの沸点が低くなってんな」
「そっとしておこう」
スイッチの入った雪子は笑いきるまでは止まらないないので軽くスルーしておくのが暗黙の了解となっている。
千枝はそんな雪子に苦笑しつつ悠たちに質問をした。
「ところでそのサークルって見学とかしていいの?」
「邪魔さえしなければ恐らく大丈夫な筈だ」
「なんだ里中、興味でもあんのか?」
「鳴上くんたちがどんな演技するのか見てみたいからねー。それと、アタシと雪子がお弁当持って応援してってやろうかなって思ってさ」
「「っ!!??」」
突然の恐怖と悪寒が悠と陽介を襲う。
忘れもしない、忘れてはならない千枝と雪子の料理。
その殺人的な腕前は幾人もの腹をオーバーキルにして地獄に叩き落としてきた。
クリスマスケーキを作った時は奇跡的な美味しさを生み出したが、アレは直斗曰くレシピを見て何回も作り直したから。
しかし、レシピを見るなどという高等な事をしない二人が弁当を作れば間違いなく悠と陽介は死ぬ。
己の身に降りかかる絶望を払いのけようと二人は努めた。
「むむむむ無理すんなってタイヘンダロー?」
「アンタたちの分の弁当作るくらいどうってことないって。ねぇ?雪子」
「うん、全然平気だから気にしないでいいよ」
笑い終わった雪子が笑顔で言うが気にしない訳にはいかない。
自分たちの命がかかっているのだから気にしなければならない。
「撮影の関係でいつ食べられるか判らない。だから折角作ってくれた弁当が傷んでしまうかもしれないぞ」
「でも保冷剤入れれば大丈夫って鳴上くん、この間教えてくれたよね?」
「(何教えてんだ鳴上!!)」
「(すまない、まさかこんな事になろうとは・・・)」
悠は今も雪子の料理の練習に付き合っている。
上達してきてはいるものの、まだまだ心配な所は多い。
なんたってちょっと目を離すとすぐに魚介類を混ぜようとするのだから・・・。
「とにかく、君たちは撮影当日を楽しみにしていたまへ!」
「頑張って作るからね」
「・・・おう」
「・・・楽しみにしているよ」
撮影の日が憂鬱で仕方なかった悠と陽介であった
END
→後書き
初めての短編だぜフゥーーー!!ヽ(o`・ω・´)ノ
中々短編は思いつけなかったんですけど、どーにかこーにか話を広げられそうです。
しかし、下級生組はどーやって絡めていくか・・・。
ま、気楽に考えていきましょ( ・ω・)y-゚゚゚
「それは大変だったな」
「全くだぜ。お陰で非番だった俺とクマが駆り出されてヘトヘトだったぜ」
キャンパス内を春の温かい風を受けながら普通の男の子さながらに話をするのは陽介と悠の二人。
二人共顔立ちがいいのもあって、中々絵になるその図は女子が振り返ったり噂したりするほど。
そういう視線などに敏感な陽介はヒソヒソとその事について悠に話した。
「なぁなぁ、俺たち注目されてね?これが大学生のオーラってやつ?」
「陽介の放つオーラのお陰じゃないか?」
「へへ、そう言われると照れるぜ。でもお前のオーラのお陰もあると思うぜ」
「うっかり残念王子を発揮するなよ」
「うるせーやい!そん時はお前も道連れだ!」
陽介が軽く拳を突き出すと悠はそれを掌でパシッと受け止める。
息の合うこのやり取りは流石相棒同士と言ったところか。
そんな風に大学生ライフを満喫していた二人を突然、数人の武装した男たちが取り囲む。
そう、本当に突然―――。
「なんだ!?」
「友達になりたい・・・って訳じゃなさそうだな」
咄嗟に二人で背中を合わせて臨戦態勢を取り、警戒する。
男たちのただならぬ雰囲気に悠と陽介の思考はすぐに戦闘モードに切り替わった。
まず、悠の目の前にいる男は新聞で何重にも丸めた太い棒状の物を両手に持っている。
対する陽介の目の前にいる男は木刀を握っている。
狙いを定めた二人は静かに構えた。
「・・・!」
「・・・!」
狙いを定めた男たちを中心に武装した男たちが襲い掛かってくる。
「ハッ!」
「オラッ!」
悠と陽介は男たちの攻撃を軽やかに躱しつつ武器を持ってる男たちの腕を叩いて武器を手放させた。
鮫川でトレーニングする事もあるので対処の仕方は双方心得ている。
そうして奪った武器をお互いに向けて投げた。
「陽介!」
「鳴上!」
互いの名前を呼び、寄越された獲物をキャッチして攻勢に転じる。
悠は大剣を扱う時の要領で重い一太刀を浴びせ、陽介は素早い動きで相手を翻弄しつつ撃破していく。
しかし相手は武装した集団、倒しても起き上がってまた襲いかかってくる。
だが、やらなければやられる。
二人は更に精神を集中させて剣を振るう―――
「ハイカットォ!!」
「「・・・は?」」
思いもしなかった突然の言葉に二人の動きが止まる。
一体なんなのかと思って声のした方を振り返れば、サングラスにツバのついた青い帽子に黄色いメガホン、極めつけに胡散臭い付け髭をした如何にも監督といった男がカメラマンの生徒を引き連れてこちらにやって来た。
「君たち今の動き良かったよー!本当の武人を見ているのかと思っちゃったよ!高校は演劇部にでも入っていたのかね?」
「あの、すいません、貴方は・・・?」
「ん?ああ、申し遅れた。私は写田恭次郎。映画サークルの部長をやっている者だ」
「映画サークル?そーいや聞いた事あんな、そんなサークル」
「普段からその格好・・・ではないですよね?」
「当たり前だ。これは映画サークルで活動する時の言わば一張羅というやつだ!これを着ると気持ちが切り替わるのだよ」
「・・・なんとなく気持ちが分かるな」
「だな」
悠も陽介も裏の世界での戦闘の時は気持ちの切り替えとしてクマお手製のメガネを着用している。
それと似たような物だと思うとすんなりと納得出来た。
そんな二人の会話などを他所に写田は話を進める。
「ところで君たち、役者に興味はないかね?歓迎するぞ」
「つっても脇役だろ?」
「いいや、主役だ」
「マジで!?」
「いきなり俺たちが主役なんかやったらサークル内で反感を買うんじゃないんですか?」
「問題ない。何故なら部員のみんなは好きで裏方や脇役をやっているのだからな」
「へ?何で?普通は主役をやりたいもんだろ?」
「確かにそうだ。主役は物語における花形・スターだ。だが、映画は主役だけで成り立ってる訳ではないだろう?
脇役・裏方・エキストラ・準主役など多くの要素が合わさって初めて成り立っているんだ。
そしてそれらのものは目立たないながらにも確かな輝きを放っている。
この映画サークルはそんな素質と理解を兼ね備えている者たちで構成されているのだよ」
映画について熱弁する写田の姿はさながら本当の監督のようである。
そんな姿に陽介は半ば圧倒されていた。
「お、おお、なんかそれっぽいぞ・・・」
「ちなみに君たちが倒したそこの男たちも我が映画サークルのエキストラだ」
「マジで!?そうとは知らずに本気でかかっちまったぞ!?」
「あの・・・すいませんでした」
「いえ、気にしないで下さい」
「僕達も承知の上でやっているので」
「貴方たちの方こそ怪我はありませんでしたか?」
「いや、俺たちは大丈夫ッス。ホントすんませんでした」
悠と陽介、そして映画サークルの部員たちは互いに頭を下げて謝った。
いくら武装をしていると言っても所詮は一般人。
特別な戦いを経験している悠と陽介は一般人からは少し外れてしまうので謝るのは当然だ。
お互いの謝罪が済んだ所で写田が話を戻す。
「しかし君たちの戦闘はとても素晴らしかったよ!まるで本当の戦いを見ているようだったぞ!
その才能を我が映画サークルで発揮してみる気はないかね?」
「どーする?鳴上」
「活動日によるな。バイトと重なってたら無理だ」
「そこは問題ない!上手いこと融通を効かせるつもりだぞ」
「じゃあ・・・入ってみるか?」
「おう、入ってみようぜ。いい経験になるかもしれねーしな!」
陽介は爽やかに笑ってウィンクをした。
こうして二人はめでたく映画サークルに入部するのであった。
オマケ
映画サークルに入部した事について二人は食堂で千枝と雪子に報告をしていた。
「てな訳で!俺たち映画サークルに入る事になったから宜しくな!」
「へー、いきなり主役やるとか凄いじゃん。流石鳴上くんだね」
「いやいやいや、人の話聞いてましたか里中さん!?俺も主役やるんだよ?」
「え?やられ役じゃないの?」
「主役だつってんだろ!!この整った顔立ちはどっからどーみても主役級の顔だろ?」
「隠せない残念要素の所為で斬られ役乙だよ」
「お前ってやつは・・・天城なら判ってくれるよな?」
「鳴上くんたちはどんな映画をやるの?時代劇?大河?それとも弥生時代?」
「聞いてねーよ・・・」
「ぷっくくくく、弥生時代の映画・・・なんで弥生時代なんか出てくるのよ!色々飛びすぎ・・・あはっあははははっ!!」
「自分で言った事に笑ってんじゃねーよ・・・どんどん笑いの沸点が低くなってんな」
「そっとしておこう」
スイッチの入った雪子は笑いきるまでは止まらないないので軽くスルーしておくのが暗黙の了解となっている。
千枝はそんな雪子に苦笑しつつ悠たちに質問をした。
「ところでそのサークルって見学とかしていいの?」
「邪魔さえしなければ恐らく大丈夫な筈だ」
「なんだ里中、興味でもあんのか?」
「鳴上くんたちがどんな演技するのか見てみたいからねー。それと、アタシと雪子がお弁当持って応援してってやろうかなって思ってさ」
「「っ!!??」」
突然の恐怖と悪寒が悠と陽介を襲う。
忘れもしない、忘れてはならない千枝と雪子の料理。
その殺人的な腕前は幾人もの腹をオーバーキルにして地獄に叩き落としてきた。
クリスマスケーキを作った時は奇跡的な美味しさを生み出したが、アレは直斗曰くレシピを見て何回も作り直したから。
しかし、レシピを見るなどという高等な事をしない二人が弁当を作れば間違いなく悠と陽介は死ぬ。
己の身に降りかかる絶望を払いのけようと二人は努めた。
「むむむむ無理すんなってタイヘンダロー?」
「アンタたちの分の弁当作るくらいどうってことないって。ねぇ?雪子」
「うん、全然平気だから気にしないでいいよ」
笑い終わった雪子が笑顔で言うが気にしない訳にはいかない。
自分たちの命がかかっているのだから気にしなければならない。
「撮影の関係でいつ食べられるか判らない。だから折角作ってくれた弁当が傷んでしまうかもしれないぞ」
「でも保冷剤入れれば大丈夫って鳴上くん、この間教えてくれたよね?」
「(何教えてんだ鳴上!!)」
「(すまない、まさかこんな事になろうとは・・・)」
悠は今も雪子の料理の練習に付き合っている。
上達してきてはいるものの、まだまだ心配な所は多い。
なんたってちょっと目を離すとすぐに魚介類を混ぜようとするのだから・・・。
「とにかく、君たちは撮影当日を楽しみにしていたまへ!」
「頑張って作るからね」
「・・・おう」
「・・・楽しみにしているよ」
撮影の日が憂鬱で仕方なかった悠と陽介であった
END
→後書き
初めての短編だぜフゥーーー!!ヽ(o`・ω・´)ノ
中々短編は思いつけなかったんですけど、どーにかこーにか話を広げられそうです。
しかし、下級生組はどーやって絡めていくか・・・。
ま、気楽に考えていきましょ( ・ω・)y-゚゚゚