マヨナカテレビ―特番―
大学生になって初めて迎える辰姫神社のお祭り。
一度は取り壊しが決まったものの、紆余曲折あって修繕という形で残る事になったからか辰姫神社は例年よりも大きく賑わう様相を呈していた。
今までは境内と入り口付近に屋台が出ていれば良い方だったが、町興しの甲斐もあってか入り口の外にもいくつか屋台が並ぶようになったようである。
ゆくゆくは都会の夏祭りのように商店街の端から端までの道路を挟む形で屋台が並び、町の名物にして人を集めたいのだとか。
平和になって活気を取り戻しつつある稲羽の町の様子に特捜隊が誇らしげにしていたのは言うまでもない事実である。
そんな特捜隊は今年も夏祭りに興じて新たな思い出を刻んだ訳だが、夏祭りの二日目に我らがリーダーの悠と雪子が夏祭りデートに興じてもう一つの新たな思い出を刻んだのも言うまでもない事実である。
小さく狭い町というだけあって二人が熱々のカップルだったと誇張表現されて噂が流れたが満更嘘でもないのがより恥ずかしさや照れ臭さを煽って雪子は慌てたが一方の悠は天然も相まってケロッとしている。
何があったのかというと、それは夏祭りが開かれる三日前に遡る。
「え?旅館まで迎えに来てくれるの?」
大学の食堂で陽介と千枝を待つ間、二人で雑談していた時に悠の方から夏祭りについて話を持ち掛けた。
旅館まで迎えに行くという内容に雪子は少し驚いた風で、悠は頷きながら続ける。
「いつもは現地集合だったけどたまには俺から迎えに行くのも良いかと思って」
「それは嬉しいんだけど・・・」
「やっぱり迷惑だった?」
「そ、そうじゃなくて!あの・・・旅館のみんなに冷やかされちゃうから・・・」
その時の事を想像してか、頬を赤く染めて雪子は俯く。
こうして頬を赤く染める顔も可愛らしく、いつかテレビの世界で聞いた『赤が似合うねって千枝が言ってくれた』という言葉に心の中で確かにそうだと何度も頷く。
それよりも断る理由が旅館のみんなに冷やかされるからという理由に悠は思わず小さく噴き出す。
「宿泊とはいえ、俺も何度か雪子の家に行ってるし今更なんじゃないか?」
「それとこれとは別っていうか・・・!うぅ、なんて言ったら・・・」
雪子の言いたい事は分からないでもない。
しかしこんなにも可愛らしくいじらしい恋人を前にして意地悪をしない程悠も奥手ではない。
「じゃあ、迎えは無しにして―――」
「う、うん・・・」
「帰りに旅館まで送って行くよ」
「ええっ!?」
これまた予想外の返しに雪子は盛大に驚く。
反対に悠の方は予想通りの反応だったのでクスクスと小さく笑い声を漏らす。
意地悪な恋人に雪子は頬を膨らませる。
「も、もう!からかわないで!」
「ごめんごめん。でも冗談じゃないよ。帰りは旅館まで雪子を送って行くよ」
「で、でも、それじゃあ悠君が帰る時間が・・・」
「帰りのバスの時間はあるし、大丈夫だよ」
「そうかもしれないけど・・・」
「雪子、どっちか一つだ。俺が迎えに行くか、送って行くか」
「うぅ・・・」
「俺は少しでも長く雪子と一緒に居たいんだ」
テーブルの上で所在なさげに指を組んだり離したり小さく彷徨っていた雪子の両手を悠の男らしくゴツゴツした両手がやんわりと包む。
途端に雪子の肩が大きく跳ねて耳まで顔が赤くなり、とうとう俯いてしまう。
けれど悠の両手を跳ね除けず、甘えるように両手を包まれたままでいるのはつまりそういう事で。
「・・・もう・・・悠君ずるい・・・」
蚊の鳴くような声で紡がれる敗北宣言に悠は満足そうに微笑む。
こういう時はいつだって悠が一枚上手だ。
答えを促すように両手を包む手に少しばかり力を籠めればまた雪子の肩がピクリと揺れる。
「・・・・・・じゃあ・・・帰りをお願いしていい・・・?少しでも長くあなたと居たいから・・・!」
「勿論。宜しく、雪子」
「うん・・・宜しく、悠君・・・」
二人を包む甘い空気も、雪子の両手を包む悠の手も、陽介と千枝が来るまでそのまま続いていた。
こうして夏祭り当日、二人は帰りに手を繋ぎ、バスの中でも繋ぎ、旅館に到着しても離れがたそうにしていたという真実が伝聞していったのである。
END
一度は取り壊しが決まったものの、紆余曲折あって修繕という形で残る事になったからか辰姫神社は例年よりも大きく賑わう様相を呈していた。
今までは境内と入り口付近に屋台が出ていれば良い方だったが、町興しの甲斐もあってか入り口の外にもいくつか屋台が並ぶようになったようである。
ゆくゆくは都会の夏祭りのように商店街の端から端までの道路を挟む形で屋台が並び、町の名物にして人を集めたいのだとか。
平和になって活気を取り戻しつつある稲羽の町の様子に特捜隊が誇らしげにしていたのは言うまでもない事実である。
そんな特捜隊は今年も夏祭りに興じて新たな思い出を刻んだ訳だが、夏祭りの二日目に我らがリーダーの悠と雪子が夏祭りデートに興じてもう一つの新たな思い出を刻んだのも言うまでもない事実である。
小さく狭い町というだけあって二人が熱々のカップルだったと誇張表現されて噂が流れたが満更嘘でもないのがより恥ずかしさや照れ臭さを煽って雪子は慌てたが一方の悠は天然も相まってケロッとしている。
何があったのかというと、それは夏祭りが開かれる三日前に遡る。
「え?旅館まで迎えに来てくれるの?」
大学の食堂で陽介と千枝を待つ間、二人で雑談していた時に悠の方から夏祭りについて話を持ち掛けた。
旅館まで迎えに行くという内容に雪子は少し驚いた風で、悠は頷きながら続ける。
「いつもは現地集合だったけどたまには俺から迎えに行くのも良いかと思って」
「それは嬉しいんだけど・・・」
「やっぱり迷惑だった?」
「そ、そうじゃなくて!あの・・・旅館のみんなに冷やかされちゃうから・・・」
その時の事を想像してか、頬を赤く染めて雪子は俯く。
こうして頬を赤く染める顔も可愛らしく、いつかテレビの世界で聞いた『赤が似合うねって千枝が言ってくれた』という言葉に心の中で確かにそうだと何度も頷く。
それよりも断る理由が旅館のみんなに冷やかされるからという理由に悠は思わず小さく噴き出す。
「宿泊とはいえ、俺も何度か雪子の家に行ってるし今更なんじゃないか?」
「それとこれとは別っていうか・・・!うぅ、なんて言ったら・・・」
雪子の言いたい事は分からないでもない。
しかしこんなにも可愛らしくいじらしい恋人を前にして意地悪をしない程悠も奥手ではない。
「じゃあ、迎えは無しにして―――」
「う、うん・・・」
「帰りに旅館まで送って行くよ」
「ええっ!?」
これまた予想外の返しに雪子は盛大に驚く。
反対に悠の方は予想通りの反応だったのでクスクスと小さく笑い声を漏らす。
意地悪な恋人に雪子は頬を膨らませる。
「も、もう!からかわないで!」
「ごめんごめん。でも冗談じゃないよ。帰りは旅館まで雪子を送って行くよ」
「で、でも、それじゃあ悠君が帰る時間が・・・」
「帰りのバスの時間はあるし、大丈夫だよ」
「そうかもしれないけど・・・」
「雪子、どっちか一つだ。俺が迎えに行くか、送って行くか」
「うぅ・・・」
「俺は少しでも長く雪子と一緒に居たいんだ」
テーブルの上で所在なさげに指を組んだり離したり小さく彷徨っていた雪子の両手を悠の男らしくゴツゴツした両手がやんわりと包む。
途端に雪子の肩が大きく跳ねて耳まで顔が赤くなり、とうとう俯いてしまう。
けれど悠の両手を跳ね除けず、甘えるように両手を包まれたままでいるのはつまりそういう事で。
「・・・もう・・・悠君ずるい・・・」
蚊の鳴くような声で紡がれる敗北宣言に悠は満足そうに微笑む。
こういう時はいつだって悠が一枚上手だ。
答えを促すように両手を包む手に少しばかり力を籠めればまた雪子の肩がピクリと揺れる。
「・・・・・・じゃあ・・・帰りをお願いしていい・・・?少しでも長くあなたと居たいから・・・!」
「勿論。宜しく、雪子」
「うん・・・宜しく、悠君・・・」
二人を包む甘い空気も、雪子の両手を包む悠の手も、陽介と千枝が来るまでそのまま続いていた。
こうして夏祭り当日、二人は帰りに手を繋ぎ、バスの中でも繋ぎ、旅館に到着しても離れがたそうにしていたという真実が伝聞していったのである。
END
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