鼻毛スピリッツ

ボーボボたち一行はエンドランドを目指していた。
勿論、タクシーで―――

「僕、ママと一緒にエンドランドに行くんだって?」

タクシー運転手の格好をしたボーボボが子供役をしている首領パッチに尋ねる。
因みに、ママとはビュティのことである。
補足すると、後部座席に座っているのはビュティと首領パッチで、助手席に座っているのはヘッポコ丸だ。

「うん!僕、ジェットコースターに乗るんだよ!!」

首領パッチは無邪気に答えた。
そして―――

「あ、エンドランドが見えてきましたよ」

至極当たり前のようにボーボボは言い放つ。
もっと緊張感を持ってほしい所だが、そんなものは通じる筈もない。

「あれがエンドランド」

ビュティは窓からエンドランドを見て呟く。
タクシーは止まり、ドアが開いてビュティと首領パッチは降りた。
ヘッポコ丸もシートベルトを外して降りようとした。
しかし―――

「ちょっとちょっと、お客さん」

ボーボボに引きとめられたのだ。

「料金払ってもらわなきゃ困るよ」
「え?料金取るの!?」
「当たり前じゃないか。君は何だと思っているのかね?」
「いや、ボーボボさんが運転してくれたから無料かと・・・」
「甘えるなぁーーーーーーっ!!!」

ボーボボに怒鳴られ、ヘッポコ丸は仕方なく料金を払う事にした。
喫茶店に続きタクシーの料金までも払ったので、今月のヘッポコ丸のお小遣いはピンチだ。









エンドランド園内

ボーボボたちはパンフレットを見ながらどこに行くか考えていた。
ビュティが尋ねる。

「どこから行く?」
「そうだな・・・」

「ちょっとアンタら、迷ってるならここに入れや」

話し合おうとしている時に、どこぞのオヤジが声をかけてきた。
一同はオヤジの方を振り返る。

「ほらほら、ここ。面白いよ」








オヤジが指差した方に視線を向ける。
そこにはテントがあったが何とも酷いテントだった。
古ぼけていて今すぐにも潰れそうな感じである。
加えて看板には“イリュージョンブルー”と書かれている始末。

(うわー、つまんなそう)

ビュティは内心ポツリと呟いた。
しかし―――

「わー!面白そう!!」
「入ろうぜ入ろうぜーーーー!!!」

ボーボボと首領パッチはハイテンションだった。
そして、そのテンションのまま“イリュージョンブルー”に入って行く。

「あっ、待ってよ!!」

ビュティとヘッポコ丸は、二人を追い掛けて”イリュージョンブルー”の中へと入って行った。








中は外見と同じで古ぼけていた。
今だって埃が舞っている。

「早く始まらないかな♪」
「楽しみだな~♪」

ルンルン気分で始まるのを待つボーボボと首領パッチ。
そんな二人の後ろ姿を複雑な気分で見つめるビュティとヘッポコ丸。

「本当に何が始まるんだろう・・・」

ビュティが呟いた時―――

「レディース・アンド・ジェントルマン!!観客の皆さまお待たせいたしました!
 今日もイリュージョンブルー見に来ていただき、誠にありがとうございます!
 今日もスターの演技を見て楽しんでいってください!」
 では、スターの登場です!どうぞご堪能下さい!」

「わーーーっ!!」

司会者の声が響く中、ボーボボと首領パッチは拍手をする。
すると、舞台の中央に一つのスポットライトが照らされた。
そしてその中に一つのタキシードを着た青い物体が躍り出る。

「プルンプルンプル~ン!!」

「ええーっ!?スターって天の助君!!?」

そう、青い物体の正体は、ところてんで出来た生物・ところ天の助だったのだ。
ちなみに、この時ビュティはある意味がっかりしたという。

「やぁ。みんな!!今日も来てくれてありがとう!!俺、嬉しすぎてホラ!思わずブリッジしちゃったよ!!」

そう言って天の助はブリッジをする。








「アハハハハハ!!」

「じゃあ最初に、この棒からところてんを出してみせます!ワン、トゥ、スリー!」

天の助は取りだした棒の先からところてんを出した。
ボーボボと首領パッチは愉快そうに笑う。

「アハハハハハ!」

「次に、このコップの中にある水をところてんに変えてみせます!ワン、トゥ、スリー!!」

コップに布を被せて数を数えた後、天の助は勢い良く布を外した。
すると、コップの中の水はところてんに姿を変えた。

「アハハハハハ!―――全然面白くねーんよ!!!!!!」

さっきまで笑っていた二人は豹変する。
そして、Wパンチを天の助にかますと、クリティカルヒットした。

「ぶげーーーーーーっ!!!」

気持ちいい位勢い良く吹っ飛ばされ、天の助は壁に激突する。
そこに、骨をバキポキ鳴らすボーボボと首領パッチが追い打ちを掛ける。

「テメェ、さっきから全然面白くねぇんだよ」
「全部ところてんに変わった所で何も面白かねーんだよ」
「そ、そんな・・・さっきまでは・・・笑ってたじゃん・・・」

膝をつきながら鼻血を拭う天の助。
見てて哀れだ。
しかし、そんなことはこの二人には関係ない。

「哀れなお前の為にワザと笑ってやってたんだよ」
「そんな・・・」
「立場わきまえろや」

「・・・鬼だ、コイツら・・・」

ビュティは天の助に同情しつつ言い放つ。

「てか天の助、お前ここで何してんだよ?」

ヘッポコ丸が尋ねると、天の助は立ち上がって行った。

「実はここでバイトやってんだよ。時給650円で」
「安っ!!」
「ここ敵の基地ぞ!!」

ヘッポコ丸とビュティの鋭いツッコミが炸裂する。
果たして、天の助はここが敵の基地と知っててバイトをしていたのだろうか?
しかし、給料は学生以下と言うことは、それ程この『イリュージョンブルー』がつまらないという事だ。
天の助の話は続く。

「でもよぉ、今日でクビだよ」

天の助は『ぬ』のハンカチを取り出して、溢れ出る涙を拭う。








「どうして?」
「もし今日も客が来なかったらクビだって言われてたんだよ~」

天の助は更に涙を流した。
『ぬ』のハンカチはどんどん天の助の涙で濡れて行く。
そこに―――

「だったら、俺たちについて来い」

ボーボボが天の助の前で仁王立ちになる。

「ボーボボ・・・」

天の助は泣くのをやめ、ボーボボを見た。
その姿は、かつて戦った友の偉大なる姿に見え、また、天の助からしてみれば神にも見えた。

「またみんなでハジケた旅をしようぜ」
「ああ」

ボーボボは手を差し出す。
天の助はそれに掴まって立ち上がった。

「お前ら、また宜しくな」
「ああ、宜しくな、天の助」
「宜しくね、天の助君」

ヘッポコ丸とビュティは笑顔で天の助を迎え入れる。
だがその時、ビュティは後ろの方からボーボボと首領パッチのひそひそと話すのが聞こえた。
振り向いて見ると―――

「よし、これでストレスが溜まった時のサウンドバックが出来たな」
「ああ、ストレスが溜まったらアイツを殴りと飛ばしてやろーぜ」

等と言う会話を二人は繰り広げていた。

(最悪だ、コイツら・・・)

ビュティは天の助に同情しつつ思ったとか。










イリュージョンゼリーを出た一行。
次はどこに行くか決めていた。

「さて、次はどこに行くか・・・」
「俺はここをお勧めするぜ!!」

天の助は自信満々に叫んであるアトラクションをさした。
一行が振り返ってみると、そのアトラクションは“竜の舞”と看板に書かれていた。
看板の周りについている竜が印象的だ。

「“竜の舞”」

ビュティが呟く。

「とりあえず、中に入ってみましょう」
「そうだな」

こうして、一行は竜の舞のアトラクションの中に入る事とした。
この後、激戦を繰り広げる事になるとも知らずに―――








“竜の舞”の中は薄暗かったが、そうでもない。
感覚的に言うなら、映画館の中の明るさだ。

「一体何が始まるんだろう」

「ねぇ、ビュティ」

無邪気なボーボボの声が聞こえて、ビュティは振り返った。
そこには―――

「見てみてみて!ポップコーン買っちゃった!」
「俺はオレンジジュース買っちゃった!」
「俺なんかお土産の竜饅頭買っちゃった!」

「どこに売ってたのそんなもの!?」

手にポップコーンを持ってはしゃぐボーボボ。
ジュースを片手に持ちながらはしゃぐ首領パッチ。
お土産の饅頭を大切に持つ天の助。
果たして近くにお土産屋なんてあっただろうか?
敵地だというのに何とも緊張感のない三人である。
しかし、それが三人のクオリティーだ。
そうして和んでいる時だった。

「はーはっはっはっはっ!よく来たな、ボーボボよ!!」

男の声だと思われる声が暗闇に響いた。

「誰だ!?」

ヘッポコ丸があたりを見回しながら叫ぶ。
しかし、声の主はヘッポコ丸の叫びを無視して続けた。

「だが貴様はこの俺を倒す事が出来るかな!?」

「誰だ!?姿を現わせ!!」

ボーボボが叫ぶ。
続いて首領パッチが口元に手を当てて言う。

「ハッ!!竜の舞のアトラクションなだけに、坂本竜馬だったりして!?」
「いや、違うから」

ビュティは冷静にツッコむ。
空気が正常に戻った所で、スポットライトが一人の男を照らした。
頭は金髪の短髪で、身長は170cmくらい。
Tシャツには『竜』と大きく書かれており、外見年齢は推定して20代。
そんな男が高笑いをした。

「ふっはっはっはっはっ!!」

「あ、電気が!?」

男の高笑いと同時に電気がどんどんついていく。
そうして全てつき終わった所でボーボボたちはその光景に驚愕する。

「なっ!?何だここは!!?」

電気で照らされたそこには、滝と流れて来た滝の水を溜める溜め池があった。
滝の水は勢い良く流れており、ドドドドッという音が耳に入る。
ちなみに、溜め池の中では一匹のコイが泳いでいる。
男は、溜め池の周りに積まれている岩の上に立っていた。

「ボーボボ!“竜の舞”のアトラクションへようこそ!俺の名は竜の助!!さぁ、美しき竜の舞と行こうじゃないか!!」

男―――竜の助は両手を大きく広げて高らかに言い放つ。
ボーボボは構える。

「ぐう、毛狩り隊か・・・ならば返り討ちにしてくれる!行くぞ!首領パッチ、天の助!!」

「「おう!!」」

首領パッチと天の助は応答する。
それを見届けた竜の助は懐から一つの鍵を取り出した。
その鍵は緑色の光を放っている。
それを見てビュティが尋ねる。








「その鍵は!?」

「女、良い質問だ。―――後ろを見ろ!!」

男は叫び、後ろを差した。
ボーボボたちは振り返る。
振り返った先には、台の上に置かれている金色の宝箱があった。

「その宝箱の中にはアイスクリームの無料券が入っている!!」

「アイスクリームの無料券!?}

まさかの宝箱の内容にビュティはツッコんだ。
何が入っているのかと思えばそんな事か。
しかし、ボーボボたちバカ三人は、事を重大に受け止めていた。

「あ、アイスクリームの無料券だとぉ・・・!?」
「奴め、何て物を宝箱の中にいれてやがるんだ!!」
「だが、アイツは一人!さっさとアイツを全力で倒してアイスクリーム食おうぜ!!」

「たかが無料券の為に!?」

何と言う燃え方。
もはや呆れるに尽きる。
しかし、竜の助は不敵に笑った。

「誰が俺一人で戦うと言った?」

「どういう意味だ!?」

ヘッポコ丸が竜の助を睨みながら尋ねた。
竜の助はそれに行動で答える。

「まぁ見てろ」

竜の助は溜め池の中を覗き込み、大きな声で叫ぶ。

「コイよ!滝を登るのだ!!」

コイはその叫びに従うように滝を登り始めた。

「これは・・・コイの滝登り!?」

ビュティが言い放つ。

「ふっ、よくぞ言ってくれた。これぞ、俺の『ドラゴン』真拳の序章だ」
「『ドラゴン真拳』・・・!!」

ビュティはゴクリと唾を呑んだ。
しかし―――

「ん―――?」

ふと、滝登りをしているコイに目をやった。
良く見ると、コイの周りにはボーボボ・首領パッチ・天の助の三人組がコイの格好をして一緒に滝登りをしていた。

「何してんのあんたら!?」

ビュティがツッコむのも構わず、三人は滝を登り続ける。
そして、首領パッチ・天の助・ボーボボの順にこんなことを三人は思うのだった。

(この滝を登り切れば俺は世界の支配者に―――なれる!!)

「なれないよ!!」

(この滝を登り切れば俺は食の頂点に―――なれる!!)

「まだそんな事言ってんの!?」

(この滝を登り切れば俺はオシリスの天空竜に―――なれる!!)

「普通に無理だから!!」

「「「ふげーーーーっ!!」」」

コイを除いた三人は途中の岩に直撃した。
そして、サーッと溜め池へと流されて行き、溜め池でプカ~とたんこぶをつけて浮くのだった。

「大丈夫!?三人共!!?」








ビュティは岩に手をついて溜め池を覗き込む。
その時―――

「他所見をしている場合か?」

竜の助が余裕の笑いを含めて言い放った。

「えっ!?」

ビュティは驚きの声を混じらせて竜の助を見た。
竜の助は手を大きく振り上げて、天井を仰ぎ見るようにして叫んだ。

「行くぜ!ドラゴン真拳成長完成奥義『竜の誕生』!!」

竜の助の叫びと共にコイは滝を登り切り、少し飛び跳ねると眩い光に包まれた。
すると、コイの形は歪み、光と共にそれは次第に竜の形を成していった。
そして、光は風船が破裂したように飛び散って緑色に光る気高き竜がその姿を現す。

「こ、これが・・・竜・・・!?」

ビュティは驚きに一歩後退する。
しかし―――

「竜よ!カッコいいボタンをどうか俺に与えたまえ!!」
「いや、竜よ!!この俺に壊れない洗濯バサミを与えたまえ!!」
「いやいや竜よ!この世に生きる者たちの主食をところてんにしたまえ!!」

ボーボボ・首領パッチ・天の助の順で竜に向かってそれぞれの願いを叫んだ。
しかも、○空の格好をしながら。

「いや、アンタらの願い絶対に叶わないから!!」

すかさずヘッポコ丸がツッコむが―――

「その願い、叶えてやろう」

竜は○龍みたいなシリアスな声で答えた。

「「「わーい!!やったーっ!!」」」

三人は喜びに飛び跳ねる。
しかも満面の笑顔で。
ヘッポコ丸は竜に追及した。

「出来んのかお前!?」

「言ってみただけだ」

「言ってみただけかよ!!」

ヘッポコ丸のツッコミが炸裂する。
それを見届けた竜の助は一瞬、ニヤッと笑った。
すると、手に持っていた鍵を竜の口元へと投げた。
そして、竜はそれをパクッと食べてゴクンと呑み込む。

「あっ!鍵が!!」
「貴様、何て事を・・・!!」

ビュティの言葉にボーボボが続く。
それはそれは悔しそうな顔をしていた。

「ますます面白くなっていいじゃないか」

「何だとぉ?」
「この下衆野郎!!」

首領パッチが竜の助を睨み、ボーボボが拳を強く握りしめる。
それに対して竜の助はバッと右手を前に出して言い放つ。








「さぁ、楽しいショーの始まりだ!!行け、俺の登り竜!!お前の力を見せてやれ!!!」
「ごめん、ちょっとタンマ」

登り竜はトイレに入って行った。

「ええーーーっ!?どうした登り竜!!?」

折角の見せ場が台無しになり、竜の助はトイレの扉をドンドンと叩いて竜に呼びかけた。
登り竜は苦しそうに答える。

「ご主人様、アンタ何てもモン食わせんだよ・・・あれ、餌じゃなくて金属製の鍵じゃねーか」
「いや、だってお前の胃液は何でも溶かせるって聞いたから・・・」
「ごめん、それ嘘」
「嘘だったのぉっ!!!?」

衝撃の事実を聞いて竜の助は驚く。
どうやら登り竜は見栄を張っていたようだ。
竜の助は尚も呼びかける。

「今度から気を付けるから早く出て来てくれ!良い所なんだから!!」
「じゃあ、後十分待って・・・」
「判った。―――という事だから後十分待ってくれ!!」

ボーボボたちの方を向いて待ったを掛ける竜の助。

(カッコ悪・・・)

これはビュティの感想。



そして十分後・・・



トイレからジャーッと水を流す音が聞こえた。
そして、鍵が開いて登り竜が出てくる。

「ふぅ、何とか鍵は出たぜ」
「そうか、良かった。―――さぁボーボボ!戦いの続きをするぞ!!」

竜の助が言い放つと、ボーボボは読書をするのをやめた。

「やっと終わったか・・・おい、やるぞ」
「え?もう?」
「やっと終わったの?」

テレビを見ていた首領パッチ・天の助・ビュティは、テレビを切ると立ちあがった。
そして、同じく読書していたヘッポコ丸も本を片付けて立ちあがる。

「さて、こっちも準備が出来たし、いつでもいいぜ」

「その言葉を待ってた。行くぜ!ドラゴン真拳奥義『龍の息吹!!!』」

竜の助が奥義名を唱えると、登り竜が口から激しい炎を吐きだした。

「なんの!鼻毛真拳奥義『スイスイ掃除機』!!」

ボーボボはどこからともなく掃除機を出した、
首領パッチも一緒になって掃除機を出す。
そして、同時に『吸い取る』のボタンを押す。
すると、掃除機は炎を吸い込んだ。

「掃除機をなめんなよ」
「掃除機はこんな事出来ないから!!」

カッコつけてニヤリと笑うボーボボにビュティがツッコむ。

「まぁ、炎を吸い込むなんて最近の掃除機は凄いわねぇ」

おばさん風になって天の助は言う。

「中はどうなっているのかしら」

天の助は気になって掃除機の蓋を開けた。
中には、更に小さい掃除機が入っていた。

「あらヤダ凄い!!」

天の助は口に手を当てて驚いた。








「まだこんなもんじゃねーぜ!ドラゴン真拳奥義『逆鱗』!!!」

竜の助が叫ぶと、登り竜は狂ったかのように暴れ出した。
あっちにぶつかりこっちにぶつかり、挙句の果てには炎を吐きだしまくる始末。
その為、建物内のあちこちの物が大破されていき、天井などが落ちてくる。

「ヤバいよボーボボ!これじゃ私たち諸共建物の下敷きになっちゃうよ!!」

ビュティが不安な顔をしてボーボボを見る。
しかし、ボーボボの顔は余裕に満ちていた。

「安心しろ、ビュティ。この時の為にとっておきのロボットを用意しておいた!」

そう言ってボーボボはロボットに変身している首領パッチを見せた。

「それ首領パッチ君!!」
「はぁ?何言ってんだ。どっからどう見ても竜を鎮めるロボットじゃねーか」
「いやいやいや!!!」

ビュティは右手を左右に振って否定する。
しかし、そんな事をボーボボが聞く訳もなく、ボーボボは機械と化している首領パッチを荒ぶる登り竜めがけて投げつけた。

「行けーーっ!!竜を鎮めるハイテクロボよーーーっ!!」
「あ―ーっ!首領パッチ君!!!!」

ビュティが手を伸ばすが届く訳がなかった。
一方、ロボット首領パッチは登り竜の前で止まって

「赤血球」

と言った。
そして、沈黙が走る。

・・・・・・

「ぐばっ!!」

竜は「赤血球」の一言でダメージを受けた。

「今ので!!?」

とても有り得ないという顔を見せつつビュティはツッコんだ。

「よし!今の内に奴の腹を殴って鍵を取り出すぞ!!」
「おう!!」

ボーボボの号令に元に戻った首領パッチは元気良く返事をした。
そして―――

「鼻毛真拳奥義『ボクサーパンチ』!!」

ボーボボと首領パッチはボクサーの格好をし、グローブをはめて登り竜の腹を殴った。
だがその時、断末魔の叫び声が登り竜から二重に聞こえた。

「「ぎゃあああああああああああ!!!!」」

「何事!!!?」

ビュティが驚いた時、登り竜の腹の中からあるものが出て来た。

「いってぇ~~~~!何すんだよ~~!!!」
「えーーっ!?天の助君!!?何時の間にいたの!!!?」

そう、登り竜の口の奥から出て来たのは天の助だっただのだ。

「天の助!!鍵はあったか!?」

尚も登り竜の腹を殴りながらボーボボは尋ねる。








「え?そんなもん無かったぞ?」
「この役立たずがーっ!!!」

ボーボボは思いっきり天の助にアッパーカットをかました。

「ブーーーーーーッ!!!」

天の助 ノックOUT

「ハッハッハッーーー!!!鍵は既に登り竜がトイレに流したわーーー!!」

「そういやそうだったな」

ヘッポコ丸は戦いが再開される直前を思い出した。
確かに登り竜は鍵を“出した”と言っていたので、必然的に鍵は流されたのだ。

「これでもうアイスクリームの無料券は手に入らなくなった!さぁどうする!?」

「くっ、万事休すか!!」

ボーボボからしてみれば深刻な状況だが、ビュティからしてみればどうでも良かった。
しかし、そんなボーボボに首領パッチは力強く言い放つ。

「安心しろ。こんな時の為にアイツを呼んでおいた」

それはどこまでも自信に満ちており、頼もしかった。
そして、首領パッチは振り返ずに告げる。

「お前なら出来るよな?-――破天荒」

入口から逆行を受けて現れた男―――それは破天荒だった。

「ヘイ、おやびん」

金髪のイケメンで年中巻いていて、自身の武器である鍵を忍ばせる事が出来るマフラー。
そして、服の背中に大きく『ハジケ組』と書かれている、宇宙の誰よりも首領パッチを愛する男―――破天荒がそこにいた。

「破天荒さん」
「破天荒・・・」

ビュティとヘッポコ丸が破天荒の名を口にする。
破天荒は構う事なく歩きはじめる。

「破天荒・・・何故お前がここに・・・」

不思議と言った感じでボーボボは破天荒を見て尋ねる。
破天荒は足を止めてボーボボを見て言い放つ。

「何故って、そりゃおやびんに呼ばれたからだ。それ以外に何があるんだ?」
「それもそうだな」

ボーボボは納得して笑った。
しかし、ビュティは首領パッチに尋ねる。

「でも、何時の間に呼んだの?」
「テレパシー」
「すごっ!!!!!」

サラッと凄い事を口にした首領パッチにビュティは驚いた。
首領パッチは破天荒を見て尋ねる。

「破天荒、お前の鍵であの宝箱を開けられるか?」
「勿論です、おやびん!!俺に開けられないものなんてありません!!」

破天荒は自信満々に告げると、自慢の鍵を持って宝箱の元へと走り出した。

「させるか!行くぞ、登り竜!!」
「ガッテン承知!!」

破天荒の前に竜の助と登り竜が立ちはだかる。
しかし、そこに更にボーボボが立ちはだかった。








「させるか!鼻毛真拳奥義『通りすがりのブルドーザー』!!!」

ボーボボはブルドーザーに乗って竜の助と登り竜をどかし始めた。

「ゴミ処分!!!」

ボーボボはゴミを捨てる大きな穴に竜の助と登り竜を捨てた。

「俺たちはゴミじゃねぇ!!」
「お前たちは世界のゴミだ」
「うるせぇ!!」

ボーボボにキレる竜の助と登り竜。
しかし、そうこうしている内に破天荒は宝箱の鍵を開けるのだった。
蓋を開ければソフトクリームの無料券が顔を出した。

「おやびん!目的はこの無料券でいいんですか?」
「そうだ!良くやった破天荒!!しっかり持ってろよ!!」
「任せて下さい!!」

破天荒は大切にソフトクリームの無料券を懐にしまった。
それらを見届けたボーボボはビュティに言った。

「ビュティ、今日の晩飯のメニューは決まったか?」
「え?まだだけど?」
「そうか・・・なら、今日は竜の丸焼きだ!!鼻毛真拳奥義『竜焼き』!!」

ボーボボは登り竜を掴んで吊るす。
因みに、吊るした所の下には燃え盛る焚火の炎があった。
ボーボボは団扇で炎を扇いで竜を焼く。
それに首領パッチと天の助も続く。

「あちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

「俺の登り竜ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

叫ぶ登り竜と嘆く竜の助。

「へっへっへ、ばあさんや、今日の晩飯のメインは竜の丸焼きで決まりですな」

天の助がどこぞのじいさんの鬘を被って怪しげな笑みを浮かべて首領パッチを見る。

「ええ、そうですね、じいさんや。その為にももっと美味しくなるようによく焼かなくては」

首領パッチも天の助と同じく、どこぞのばあさんの鬘を被って邪悪な笑みを天の助に向けた。

「ほーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

二人は雄叫びを上げ、物凄い勢いで団扇を仰いだ。
その為、火は激しさを増して登り竜をさらに焼いた。

「ぎゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

更に断末魔の叫び声を上げる登り竜。
その光景に竜の助は震え始めた。








「お前たちの所為で全部滅茶苦茶だ・・・」

声からして激怒しているのが判る。
そして―――

「クソがーーーーーっ!!ドラゴン真拳最大奥義『竜の舞武』!!」

竜の助がヤケクソに最大奥義を唱えると、登り竜は途端に暴れ出した。
先程とは比べ物にならなくらいに暴れ出し、激しく炎を吐いて建物を壊していく。
しかし、そんなものに動じるボーボボではない。

「ヤケクソに最大奥義を放っても意味はねぇんだ」

ボーボボは構えて飛び上がる。

「鼻毛真拳奥義『巣立ちの時』!!!」

そして、竜の助と登り竜に強烈な一撃を与えた。

「ぐはっ!!!!!!」
「ぴぎゃ~~~~~~~~~~~!!!」

ボーボボは華麗に着地し、竜の助と登り竜はドサッと地面に倒れた。
ボーボボは振り返らずに言い放つ。

「中々言い舞だったぜ。だが、今度会った時はもっと面白い舞を見せてくれよな」

ボーボボの台詞が決まる。
しかし、背後ではバレリーナの格好をした首領パッチと天の助が決めポーズをとっていた。

「やったぁ!!」

ビュティはボーボボの勝利に喜ぶ。
その時、竜の助と登り竜の頭上から巨大なモニターが降りて来た。

「モニター?」

ヘッポコ丸が呟く。
すると、モニターは電気がついたらしく、一人の男が映し出された。
黒い髪を後ろで一本に纏め、騎士のような格好をしている。

「クックックッ、中々面白い戦いだったぞ。ボボボーボ・ボーボボよ」

「誰だ!?」

ボーボボは叫んでモニターを見つめる。
男は不敵に笑って答えた。

「申し遅れた。我が名はナドラ。
 このエンドランドの経営者であり、カオス・マルハーゲVブロック基地隊長だ。以後、宜しく」

「何っ!?つまりここはVブロック基地なのか!!?」

ヘッポコ丸が驚く。

「けっ、誰が毛狩り隊なんかと仲良くするかよ」
「全くだぜ!」

そう言ってボーボボに続いた天の助の手には、ところてん・ゼリーセットが持たれている。

「その手の物は何!?」

ビュティがすぐにツッコむ。








「どうやら私は随分嫌われているようだ。だがまぁいい。
 この私を倒したければ『エンドタワー』に来い」

「『エンドタワー』だと?」

首領パッチが聞き返す。

「そうだ。このエンドランドの北の方角の突き当たりにある。だが、入るには入場用のフリーパスが必要だ」

「フリーパス?」

今度はボーボボが聞き返す。

「ああ、人数分はいらん。一つだけでいい。この遊園地のどこかにいる誰かが持っている。
 捜しだして手に入れるが良い。私は最上階で剣を磨いて待っているぞ」

「上等だ!!フリーパスを手にいれてテメーをぶっ飛ばしに行ってやるぜ!!」

ボーボボは拳をグッと握りしめながら力強く言い放つ。
それを見てナドラは口端を釣り上げた。

「フッ、楽しみにしているぞ」

ナドラが静かに台詞を吐くと、モニターの電気は切れた。
空気が張り詰める中、首領パッチが言葉を発した。

「よし!そうと決まったらフリーパスの偽装だ~!!」
「「おーう!!」」

ボーボボと天の助は拳を挙げて笑いながら賛同した。
しかし、そこにビュティが割って入る。

「ちょっと待ってよ!!」
「何だよビュティ」

ボーボボが少しテンションを下げてビュティに尋ねた。

「偽装っていけない事なんだよ!?それに、偽装しようにも元がないと偽装なんて出来ないんだよ!?」
「紙にフリーパスって書いときゃ大丈夫だろ」

首領パッチが鼻くそをほじりながら『ふりーぱす』と鉛筆で適当に書かれた紙を見せる。

「だーかーらー!!」

中々判ってくれないバカにビュティは怒りを覚える。
とりあえず、ビュティの怒りが爆発するのを回避する為にボーボボは真面目に言い放った。

「何にせよ、片っ端から敵を倒していけばフリーパスも出てくるさ。―――破天荒」
「何だ?」
「お前も付いてくるか?」
「当たり前だ。おやびんが居るんだから付いて行かない訳がねーだろ」

破天荒はさも当然と言うような顔をする。
まぁ、首領パッチ命なのだから仕方ないっちゃ仕方ない。
しかし、破天荒の意思を確認したボーボボは皆に号令をかけた。








「行くぞオメーら!!フリーパスを手に入れるぞ!!」
「おう!!」
「ボーボボ!あそこの所なんかありそうだぞ!!」

首領パッチが『サーカス』と書かれた大きなテントを差した。

「よし!次のターゲットはあそこだーーーっ!!!」

ボーボボは狙いを定めたかのように『サーカス』の中へと走り出す。
それに皆も続く。

「おらおらー!フリーパスよこせやーーーっ!!!!」

ボーボボは威圧感たっぷりの声で叫ぶ。
しかし、ボーボボたちは驚くべき光景を目の当たりにするのだった。

「ここも暗いね」
「おい!あれを見ろ!!」

首領パッチが指を差す。
皆はその方向を見た。

「なっ!?あれは・・・!!」

ボーボボが驚く。
その光景とは、この『サーカス』で戦う相手であっただろう敵のピエロが、青年と思われる男にボロボロに踏みつけられているものだった。
しかし、ヘッポコ丸・破天荒を除いた面々はその青年に見覚えがあった。
その青年とは―――

「ランバダ!?」

そう、かつて元旧毛狩り隊Bブロック隊長・マルハーゲ三大権力者でポリゴン真拳の使い手のランバダがそこにいたのだ。
ランバダは「ん?」とボーボボたちの存在に気付くと振り向いた。

「ボーボボたちじゃねーか」
「ランバダ・・・何故お前がここに?」
「色々な。・・・今すぐここでお前をぶっ倒してぇ所だが今俺にはそんな暇ねーんだ」

静かに言い放つランバダの背後で、ボロボロのピエロが立ちあがった。

「隙ありーーーーーーーーーっ!!!」
「うるせぇ」

ランバダはピエロの腹に強烈な蹴りをかました。

「ぐはっ!!!!」

ピエロは悲痛な声を上げ、壁に激突する。
それっきりピエロは動かなくなった。
動かなくなったのを確認すると、ランバダはボーボボたちの方を見た。

「ボーボボ、レムを知らないか?」
「レム?」

レムとは、ランバダと同じく元旧毛狩り隊Dブロック隊長で爆睡真拳の使い手の女性の事だ。
彼女はボーボボたちによって邪悪な精神を滅せられ、改心した。
そんな事を思い起こしながらボーボボは首を横に振る。

「いや、知らんな」
「そうか・・・」

それを聞くと、ランバダは少し残念そうな表情を見せた。
何かあるようだ。
そう考え、ボーボボはランバダに尋ねた。








「レムに何かあったのか?」
「お前には関係ねーよ」

ランバダは冷たく返してボーボボたちの横を通り抜けようとする。
しかし、ボーボボがそれを引き止める。

「何かあったのなら話して見ろ。力になるぞ」

ランバダはピタリと足を止める。
しかし、答えは冷たいものだった。

「元敵だった奴の助けを誰が借りるか」

ランバダはプライドが高い為、力を借りるなどという事はしたくないようだ。
そして、再び歩き出そうとするとボーボボが言い出した。

「レムは―――」
「あ?」
「レムは、闇皇帝たちに捕まったお前を助けて欲しいと恥を忍んで俺たちに頭を下げた」
「・・・」

ランバダは押し黙る。
まさか自分が捕まっていた時にレムがそんな恥をかいていたとは知りもしなかったのだ。
ボーボボは続ける。

「お前が大切だったからレムは恥を忍んで俺に助けを求めたんだ」
「・・・」
「お前もレムが大切なら恥を忍ぶべきなんじゃないか?」
「・・・」

ランバダは尚も沈黙する。
その空気をビュティたちはただ黙って見守る。
ボーボボはその沈黙を肯定と受け取り、ランバダに尋ねた。

「話して見ろ。レムに何かあったのか?」

しばしば沈黙が走る。
ランバダは決心したのか、やっと口を開いた。

「・・・レムが・・・いなくなった」







END
2/15ページ
スキ