鼻毛スピリッツ

ボーボボたち一行はホワイトデーのお返しを作っていた。

「何で!!!??」
「バレンタインのお返しをするのは当たり前だろー?」

三角巾とエプロンを着た首領パッチがビュティに言う。
確かにそうではあるが今は毛狩り隊を倒す目的があるし、、何よりもレムを探さなければならない。
ランバダを見れば―――少し苛立たし気だった。

「道草食ってる場合かよ」
「ランバダァッ!!お前もビュティからチョコ貰っただろ!!お前もお返ししやがれ!!!」

同じく三角巾とエプロンを着たボーボボがランバダに怒鳴る。

「もうした。クッキーの詰め合わせ」

ランバダは平然とした顔で言った。

「本当か、ビュティ?」
「うん、本当だよ」

訪ねてきたボーボボにビュティは頷く。
ランバダはこれでも律儀なようだ。

「お返しつったら手作りに決まってんだろーーー!!!」

ボーボボは理不尽にもランバダに体当たりをした。

「うぜぇよ!!」

ランバダが蹴りを繰り出すがボーボボは華麗にかわす。
そんな二人を余所に首領パッチがビュティに話しかける。

「ビュティビュティ」
「ん?何?」
「ほい、バレンタインのお返し」
「わぁ、ありがとう!」

ビュティは笑顔で綺麗にラッピングされた小さな箱を受け取った。
そして早速紐を解き、蓋を開ける。
中に入っていたのは―――ビュティの写真を釘で打ち付けた藁人形だった。

(史上最悪の仇返し・・・!)

「自分ばっかりお返し貰ってんじゃないわよ!サブヒロインのくせに!!」
「だったら自分もバレンタインの時にあげれば良かったじゃん!!」
「ビュティビュティ、俺からもお返しあるぜ」

怒鳴るビュティに天の助が話しかけてくる。
あまり期待は出来ないが一応反応はしてあげる。

「本当?ありがとうね」
「ちなみに、お返しはこの俺だ~!」

天の助が自分のところてんボディを震わせる。
ビュティは首領パッチからもらったホワイトデーのお返し(という名の仇返し)を渾身の力で天の助にぶつけた。

「いるかーー!!」
「ぶふぅっ!!」

天の助は100のダメージを受けた。
そしてそのまま吹っ飛んでヘッポコ丸にぶつかり、ヘッポコ丸のホワイトデーのお返しが台無しになる。

「何すんだテメー!!!」

普段は天の助に対しても温厚なヘッポコ丸も流石にキレた。
そしてオナラ真拳を炸裂し、天の助を完膚なきまでに叩きのめした。
哀れ天の助。

「ビュティ」
「何?ボーボボ」
「俺からのホワイトデーのお返しだ」

そう言ってボーボボが見せたのは溶けているチョコが入ったカップとお菓子のスティックだった。
チョコフォンデュみたいにして食べろという事だろう。
しかし、このスティック・・・生きている。

「は~い!お嬢ちゃ~ん!!」
「動いた!?」
「そんなに驚く事ないだろ~?それより俺をガッツリ食べなよ~!」
「いえ、いいです・・・」
「そんな冷たい事言わないでさ~、俺と―――」
「ふんっ!!」

ビュティはまた渾身の力で生きているスティックを投げた。

「あ~れ~!」

生きているスティックは、たまたま通りかかった犬にジャンプして咥えられ、連れて行かれた。
そしてその後、生きているスティックを見た者はいないという。

ちなみに、ビュティは溶けたチョコが入っているカップだけ受け取った。
ミルクチョコレート味だったのでよしとする。








「オレちんからはオリーブオイルを渡すぞ」
「あ、そんなにしてくれなくても―――」

ビュティが振り返ると、丁髷にちょび髭を生やしてオレンジが基調の真夏の恰好をした男が立っていた。
うん、見るからに怪しい。

「って!アンタ誰!!?」

「オレちん?オレちんは毛狩り隊派遣ブロック隊員・アブラーだ」

「毛狩り隊!?」

ヘッポコ丸が構える。

「ビュティにオリーブオイルを渡すとは・・・お前!一体どんなチョコを貰ったんだ!!?」
「違うでしょ!!ていうか毛狩り隊にチョコなんて渡さないし!!」
「判らないわよ~?本当は媚びでも売って自分のヒロインとしてのキャラを立たせるよう言ってるのよ、きっと」
「だから違うってば!!」

ボーボボと首領パッチの悪ふざけを否定するビュティ。
ランバダはそれを近くの木に寄りかかって眺めており、今回の相手に興味はないようだ。

「そのオリーブオイル貰ったぁあ!!」

天の助がアブラーからオリーブオイルをひったくる。

「安心しろ、ビュティ!オレがこのオリーブオイルの毒見をしてやるからな!」

そう言いながら天の助はオリーブオイルの蓋を開け、自分の頭からかけた。
そして「とうっ!」という声と共に体を丸めてガスコンロで熱したフライパンの上に寝転がる。
ジュ~という焼ける音と香ばしい香りがして、五分とたたない内に天の助をベースとした料理が出来た。

「さぁ召し上がれ!」
「自分で毒見するんじゃなかったの!?」

天の助のこの行為は明らかに人に毒見をさせている。
矛盾しているが天の助だから仕方ない。

「「いただきまーす!」」

ボーボボと首領パッチが箸で天の助の体を摘まんで口に運ぶ。
次の瞬間―――

「「ぐばぁあっ!!!」」

「どうしたの!?まさか毒が・・・!!」
「そうじゃ・・・ねぇ・・・」
「ところてんが・・・腐ってたみたい、だ・・・」
「うそぉん!?」

ダウンしたボーボボと首領パッチに対してショックを受ける天の助。
まぁ、ところてん歴30年以上なら仕方ない。
そうこうしている間にアブラーが言う。

「アッアッアッ!そのオリーブオイルはほんの挨拶代りだ」

「随分丁寧な挨拶だな」

ヘッポコ丸のツッコミはもっともであった。

「だが、オレちんの『オイルめっちゃ投げる真拳』でお前らはここで死ぬのだ!」

「『オイルめっちゃ投げる真拳』!!?」

勿論驚いたのではなく、ツッコんだのである。
しかし、ビュティとランバダを除いた四人の反応は違った。

「『オイルめっちゃ投げる真拳』だと!!?」
「やべぇぞコイツ!」
「今回はマジで行かないと死ぬぜ?」
「『オイルめっちゃ投げる真拳』、それは世界三大最強奥義の一つ。この真拳はとてつもなく極悪で―――」
「あれ!?この真拳そんなに凄いの!!?」

ボーボボ、首領パッチ、天の助、ヘッポコ丸の順で真面目になっていく。
オイルめっちゃ投げる真拳などという、真拳ですらも怪しい技がそんなに凄いのだろうか。
この業界はまだまだ奥深い。

ビュティはまた賢くなった。








「行くぜ!オイルめっちゃ投げる真拳奥義『サラダ油』!!」

アブラーはサラダ油が詰まったボールをめっちゃ投げて来た。
それはボーボボたちに当たり、簡単に破裂して油が飛び散る。
しかし、天の助はむしろ嬉しそうだった。

「フッ、この奥義、オレには効かないぜ!!」
「よし、天の助!このままアイツにつっこめ!」
「おうよ!!」

天の助は得意な顔でアブラーに向かって走っていく。
しかし―――

「オイルめっちゃ投げる真拳奥義『オリーブオイルの塊』!!」

「ぶーっ!!!」

オリーブオイルの塊っぽいもので殴られてダウンした。

「まだまだ!オイルめっちゃ投げる真拳奥義『ごま油とベニバナ油のラプソディー』!」

そう叫んでアブラーは二つの種類の油をめっちゃ投げて来た。
当たると落ちにくくて凄く嫌なのでビュティは木の後ろに隠れ、ランバダはポリゴンで作った壁で避ける。
ヘッポコ丸は修行も兼ねて素早く避ける。
しかし、三バカは違った。

「はい!」
「やあっ!」
「ええい!}

三バカは昼間の奥様のようなエプロンと化粧として青バケツを両手にごま油とベニバナ油を回収していた。
ご丁寧に右はごま油、左はベニバナ油に分けて。

「これは油の大セールよ!取って取って取りまくるのよ!」
「そうよ!!これこそ真の戦場よ!!」
「やる気のない奴はお帰りなさい!!」
「お前らが帰れ!!」

敵がいるというのにこのふざけ様。
まぁ、今に始まった事ではないが。

「くっ!やるな!!」

「これで!?」

「ならば!オイルめっちゃ投げる真拳奥義『ピーナッツオイルとココナッツ油のハーモニー』!!」

そう言って今度はピーナッツオイルとココナッツ油を投げて来た。

「種類が変わっただけで投げてるのは一緒だよね!?」

ビュティの言い分はもっともである。
しかし、三バカは再び別のバケツを持ってピーナッツオイルとココナッツ油を回収する。
真の奥様はこの三人かもしれない。

「うっとうしぃんだよ!!」

ランバダがアブラーの腹を蹴りあげる。

(ランバダさんナイス!!)

ビュティは心の中で全力のガッツポーズをした。
そろそろこのしょーもない技をどうにかしてほしかったのだ。

「ランバダてめー!!」
「空気読め!!このすっとこどっこい!」
「ところてん漬けにしてやろーか!?ああん!!」
「上等じゃねーか」

「「「ギャーーー!!!!」」」

ランバダがポリゴンオーラを全開にすると三バカは涙を流しながら怯えた。
余計に刺激しなければいいものを・・・。








「お前・・・オレちんを・・・本気で怒らせたな・・・」

「あ?」

「オレちんの本気・・・見せてやるぜ!!」

アブラーは勢いよく起き上がり、どこからともなく赤のポリタンクを二つ取り出した。
そしてそれをまき散らす。
その行動にヘッポコ丸が鋭く反応する。

「ま、まさかお前・・・!」

「アッアッアッ!お前らもろとも全て燃やしてくれるわっ!」

危ない笑みを浮かべてライターを取り出す。
これは本当にマズイ。

「オイルめっちゃ投げる真拳最終奥義『ガソリンまいて発火』!!」

「待て!!やめろ!!!」

「やなこった!」

アブラーはライターに火をつけようとする。
その瞬間、ボーボボのグラサンが光った。

「させるか!!協力奥義『ところてんプレス』!!」
「あぶっ!」

ボーボボは天の助の頭を鷲掴んでアブラーに向かって叩きつけた。
天の助の腹の部分で叩きつけた為、アブラーは身動きがとれなくなる(その気になれば動けるが)。

「油とガソリンを無駄に使う貴様には罰を下す。
 行くぜ!!鼻毛真拳奥義『レスラーの覚悟』!!」

ボーボボは天の助の頭を掴みながらアブラーを力一杯蹴り上げた。
アブラーは天の助の下半身と一緒に強く大木に叩きつけられ、再起不能となる。


ボーボボVSアブラー  ボーボボの勝利!!



「ていうか天の助、とばっちりで終わった!!」

ヘッポコ丸がツッコむ。
しかし彼は心の中で合掌するだけだった。
ビュティがボーボボに尋ねる。

「ここに散らばったガソリンどうする?」
「おや奥さん、いい所に気づきましたね」

ボーボボは販売員のような口調とスーツを着て話し始める。

「そんな時はこれ!『天の助の顔』がお勧めです!
 これさえあればしつこい油もスイスイ吸い取ってくれます!ガソリンだってこのように!」
「まぁ凄い!!!」

首領パッチが奥様よろしく驚いて見せる。
しかし、本当に驚く程に天の助の顔はガソリンを吸い上げていった。
まぁ、その分だけ天の助の顔はどんどんガソリンまみれになっていく訳だが。

「これは優れものでしてねぇ。ほら、最後までキッチリ吸い取ってくれるんです!
 使い終わったら天の助の体に設置するだけ!便利でしょう?」
「おお、戻ってきた!オレの頭!」

しかし、天の助の頭は胴体とは別の色をしていた。
これはこれで気持ち悪い。








「ん?なんだこれ?」

一部始終を見ていたヘッポコ丸は、アブラーの近くに落ちていた手紙に気づいた。
それには丁寧に『アブラー様』と書かれている。
悪いとは思うものの、ヘッポコ丸は好奇心に任せてその手紙の中身を出して読んだ。
すると―――

「ボーボボさん、これ!!」
「どうした!?商品券か!?」
「違います!」

即座にツッコむヘッポコ丸。
そして続ける。

「これは結婚式の招待状です!」
「結婚式?」
「はい!それもランバダが探してるレムっていう人のです!!」
「何っ!?」

それを聞いた途端、ランバダの顔が驚きと険しい顔に変わった。

「見せろ!」

そしてヘッポコ丸から招待状をひったくる。
しばらくそれを読んでいたが、段々手が震え、それが怒りによってだと判る。
相当キレているのだろう。
ボーボボは落ち着いてランバダに尋ねた。

「ランバダ、レムの結婚相手は誰だ?」
「毛狩り隊空ブロック隊長・カナヅチ・・・」
「そうか・・・」

ボーボボは珍しく黙り込んで何かを考える。
そしてしばらく考え込んだ後、その口を開いた。

「出席するぞ、その結婚式」
「何だと?」

ランバダがギロリとボーボボを睨む。
だが、ボーボボは続ける。

「空ブロックは最近出来た空中都市にあると聞く。それを作ったのはその隊長だという噂だ。
 その隊長の顔を拝みに行こうと思ってな。お前はどうする?」
「行くに決まってるだろ」

ランバダの瞳に一切の迷いはなかった。
それを認めたボーボボは小さく頷き、みんなに号令をかけた。

「決まりだな。次の目的地は空ブロックだ!お前ら、準備はいいか!?」
「ったりめーだ!」
「どんと来いってんだ!」
「行きましょう、ボーボボさん!」
「レムさんを助けよう!」
「お前ら・・・」

ボーボボたちの意思にランバダは少なからず感動した。


こうして一行は空ブロックへと向かった。





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