いろいろ

『電車が発車します、ご注意下さい』

「わー!待って待って~!!」

駅のホームの階段を忙しなく降りてくる二人の男女。
しかし女の方の声を聞かずして無情にも電車の扉は閉じてしまい、電車は発車してしまう。
その様子を後一歩といった所で見せつけられた女―――ユフィはがっくりと盛大に項垂れた。

「うあ~~~!電車行っちゃった~!!」
「やはり間に合わなかったか」

ユフィの後ろで男―――ヴィンセントが溜息を吐きながら緩く首を横に振る。

「どーすんだよ~!終電行っちゃったんだぞ!?今夜どーすればいいんだよ~!!」

絶望に打ちひしがれながらユフィは涙ながらに訴える。
ヴィンセントと一緒に大学の研究室で教授の手伝いをしていたらいつの間にやら時刻は夜も遅い時間になっていた。
適当に切り上げて慌てて駅まで走ってきたのだが結果がこれでは絶望するのも無理は無い。

『本日の運行は終了しました。駅構内にいる方は速やかにご退出お願いします』

追い打ちをかけるようにアナウンスが流れる。
泣いても喚いてももうどうする事も出来ない状況の中、ヴィンセントがポツリと呟く。

「・・・良ければ私の家に来るか?」
「え?」
「お前も知っているだろう?私の家は隣の駅のすぐ近くにある。タクシーを呼べば行けない事もないが・・・どうする?」

一瞬、ユフィはポカンと口を開けて呆然としていたが、すぐに我に返ってヴィンセントの提案に乗った。

「行く行く!泊めさせて!この辺ネカフェとかないし、助かる~!」
「なら、早速」

ヴィンセントは携帯を取り出してタクシーを呼び始めた。
その後、駅構内から出て入り口でしばらく待っているとタクシーが到着した。
二人は乗り込み、行き先をヴィンセントが説明する。
運転手は了解すると静かに車を走らせた。

「・・・」
「・・・」

無言のままの二人。
等間隔に設置されている該当の光がヴィンセントの方を照らしていてユフィは内心ホッとする。
こんな赤くなっている顔を見られる訳にはいかない。

(まさかヴィンセントの家に行けるなんてね・・・怪我の功名とはまさにこの事だよ!)

かねてよりユフィはヴィンセントに好意を持っていたが、その想いはまだ伝えていない。
やはりユフィでも告白する時は色々躊躇うもので、まだそのタイミングではないと言い訳しては逃げていたのだ。
仕方のない事ではあるが、ヴィンセントはかなりモテるのでもたもたしていたら他の女性に取られてしまう。
なのでどうにかしたいのだがどうしてもその一歩が踏み出せず・・・と延々ループするのだ。

(告白とまでは行かなくとも少しくらいは何とか出来るといいな)

出来るだけの事はしようとユフィは心に決めるが―――

グゥ~・・・

そんなユフィを嘲笑うかのようにユフィのお腹の虫が鳴く。
夕飯は食べたと言えば食べたが手伝いが忙しくてオニギリ一個しか食べていない。
お腹の虫が鳴るのも仕方ないがなにも今こんな密閉された空間で鳴らなくてもいいではないか。

「・・・くくっ」
「わ、笑うな!!ここは敢えて聞かなかった事にするのが紳士ってもんだろ!!」
「私は紳士ではないから問題ないな」
「屁理屈こねんな!!」

別の意味で顔を赤くしてユフィは睨むがヴィンセントは尚も笑ったままでいる。
ヴィンセントの家に着くまでこのやり取りは続くのであった。











続く・・・かも
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