いろいろ

1.鼻先に挨拶のキス


鼻先に、何か柔らかいものが押し当てられる感触がする。
けれど眠気の方が勝るものだから瞼が持ち上がらない。
夢の世界へ船を漕ぎ出していても尚も鼻先に柔らかいものは押し付けられ、睡眠を妨げようとする。
ユフィがまた悪戯をしているのだろうと思い、無視して本格的に眠ろうとした時だった。

かぷっ

「っ!?」

鼻先を噛まれ、一気に目が覚めた。
そして眼前の不満そうな漆黒の瞳と視線がぶつかる。

「・・・噛む事はないだろう?」
「だったらこのおはようのキスで起きろよ」
「鼻にやられても分からん」
「分かれよぅ」

そう言ってユフィはまた鼻先を甘噛みしてきた。








2.足の裏にくすぐりのキス


想いを重ね合わせた翌日の朝はいつもヴィンセントの方が先に起きる。
起きてベッドでコーヒーを飲みながら昨日の余韻に浸るのだが、今日は違った。
出来立てのコーヒーを淹れたマグカップを持って部屋に入ると、シーツから足を出して眠るユフィが眼に入った。
きっと寝返りを打ったのだろう。
足を冷やして風邪を引いてしまうかもしれないと思って直してやろうと思ったが、ふとした悪戯心が己の思考をじわりと支配する。

「・・・」

コーヒーをサイドボードの上に起き、ユフィの足元へ。
足を掴んで持ち上げれば「んん・・・」というやや嫌そうな呻き声がユフィから漏れた。
けれどそんな事には構わず小さな足の裏に口付けを数回落とすと、それはたちまちくすぐったそうな声に変わった。

「ん・・・ふふ・・・くすぐったいよ、ヴィンセント・・・」

くすぐったさにユフィは足をくねらせるが、離してやらない。
尚もキスの雨を降らせてくすぐらせる。

「くふふ・・・やだってば・・・」

微睡みを含んだ声でユフィは小さく笑う。
その際に、足を持ち上げたが為にシーツがずり落ちて曝け出された足の付け根を再びシーツで隠すのが視界の端に見えた。
ユフィの足の裏に注がれていたキスは一変して足首からふくらはぎへ、ふくらはぎから足の裏、太腿へと滑って行き、瞬く間に足の付け根をへと到達した。

「な、なにっ?」

半分寝ぼけてる声にニヤリと笑って覆い被さる。

「・・・朝の運動、だ」

言い終わるのと同時にバサリとシーツを捲った。








3.腕に応援のキス


「ヴィンセント、これから任務?」
「ああ。ベヒーモス狩りだ」
「うへぇ、しんどいね。そんなヴィンセントの為にアタシがおまじないしてあげるよ」

そう言ってユフィはヴィンセントが銃を持つ利き腕に短く口付けをした。

「えっへへへ!頑張れよ、ヴィンセント!」
「・・・ああ」

その日の任務はこれと言った損害を出す事なく驚くほどスムーズに終わったという。








4.首にじゃれ合いのキス


「ヴィン・セン・ト!」

ソファで本を読んでいると、後ろから腕を回されて首筋にキスをされた。

「何だ?」
「暇」
「そうか」
「構えよぅ」

唇を尖らせてユフィは前に回りこんだ。
そしてヴィンセントと向かい合うようにして膝の上に座った。

「ね?何か面白い事しようよ?」

首に腕を回してユフィは体を摺り寄せてくる。
胸板に擦り付けられる柔らかいものに胸の内の火が燻り始める。

「―――誘ってるのか?」
「どうかなー?」

クスクスと笑ってユフィは先程とは反対の首筋に何度も口付けする。

「・・・」

パタン、と本が閉じる音がしてテーブルに投げ出される。
間を置かずしてユフィはソファの上に押し倒され、逆に首に何度もキスをされた。
そのついでに強く吸われて真っ赤な華を咲かされる。

「やったな~?」

ユフィは悪戯っ子のように口元を歪めるとヴィンセントの首に吸い付き、同じく真っ赤な華を咲かせた。

「へっへ~!どーだ!」
「ならば、三倍にして返さないとな」
「その更に三倍で返してやるよ!」

じゃれ合いが本気になるのは後もう少し。








5.頬に子供扱いのキス


なんやかんやあって任務で助けられたヴィンセント。

「ん!ヴィンセント」

眼を瞑って顔を突き出すユフィの意図を図りかねてヴィンセントは首を傾げる。

「何だ?」
「『ありがとう』のキスだよ!」
「何だ?それは」
「この間見た映画でやってていいな~って思って」

そういえばこの間ユフィと見た映画でそんなシーンがあったなとヴィンセントは思い返す。
影響されてすぐに実行する辺りがユフィらしい。
マントの下で苦笑してユフィの顎に手をかけ、柔らかな唇に自分のそれを重ねる―――と、見せかけて朱色に染まってる頬に唇を押し当てた。

「・・・・・・ん?」

予想通り、ユフィは想定外の箇所のキスに目をパチパチと瞬かせて状況を把握しようとする。

「・・・ヴィンセント、今ほっぺにした?」
「子供には頬へのキスだけで十分だ」
「何だよそれ!子供扱いすんなよ!!」
「映画に影響されて強請るなどまだまだ子供だ」








6.傷跡に消毒のキス


胸や腹にある忌まわしき実験の縫合の跡を白く細い指がゆっくりと優しくなぞる。
同情とも哀れみとも愛しさとも取れる黒い瞳が不意に閉じられ、代わりに傷跡にそっと唇を押し当てられた。
それは慈しむような、労るような、愛情のこもった優しいキス。
口付けを1つ落とされる度にあの日が思い出されて胸が苦しくなるが、同時にユフィの愛情に包まれて浄化されていく。
それはまるで消毒のようで、ヴィンセントを癒していく。

「好きだよ、ヴィンセント・・・全部大好き・・・」

最大の愛をこめてユフィは口付けをした。








7.鎖骨に独占のキス


WEO主催のパーティーではしゃぎ疲れて眠ってしまったユフィを背負って帰宅。
寝室のベッドに寝転がらせると「むにゃ・・・」と間の抜けるような声を漏らして寝返りを打った。

「呑気なものだな・・・」

パーティーの最中、ユフィは何度か男に声をかけられていた。
近くにいてやりたかったが、色んな女性や自分に憧れを持つ男性隊員たちに囲まれてどんどん遠ざけられてしまったのだ。
ユフィは別に何ともなかったと言っていたが、口説かれていたのは想像に難くない。
言い寄ってきた時男たちのあの目は獲物を狙う獣の目そのものだった。

「―――ふざけた事を」

ユフィはヴィンセントが手に入れた光、太陽、希望だ。
罪に塗れた自分と一生を添い遂げると誓ってくれた少女。
それを奪おうなど身の程知らずもいい所だ。

「私だけのものだ」

白い鎖骨を軽く吸い上げ、自分のものである真っ赤な証を刻んだ。








8.自分の手に練習のキス


「んー、こんな感じかな?いや、こんな感じ?」

現在、ユフィは大人っぽいキスの仕方を自分の手を相手に練習している。
完全に唇を閉じているのがいいのか、それともほんの少し開いているのがいいのか。
いつまでもヴィンセントにリードされてるままではヴィンセントに飽きられてしまうかもしれない。
その為にもユフィ自身も努力をしなければならない。
ユフィの研究は続く。

「んー、やっぱり閉じてた方が―――」
「何をしているんだ?」
「うひゃあっ!?ヴィンセント!!?な、何でもない!!」
「自分の手にキスをしているのにか?」
「お、女の子には色々あるんだよ!」
「なら仕方ないが、私から1つアドバイスがある」

「何?」と尋ねようとして顎に手をかけられ、口を塞がれた。
突然の事に呆気に取られていると熱い舌が侵入して来て、あっという間に自分の舌を絡め取られてしまう。

「んん・・・ふぅ、ん・・・!」

ユフィの口内は瞬く間に蹂躙され、されるがままに犯されていく。
そうしてユフィの瞳がとろんとしてきて抵抗がなくなった頃。
ヴィンセントが銀色の糸を引きながら唇を離して言った。

「キスをする時はほんの少しだけ口を開けろ。そうするとディープキスがしやすい。最も、閉じられていてもこじ開けるだけだがな」

しかし、ヴィンセントの腕の中でうっとりとディープキスの余韻に浸っているユフィには届いていなかった。








9.額に慰めのキス


「ひっく・・・うぅ・・・うっぅ・・・」

強気で勝ち気なあの少女が泣くなんて滅多にない。
あったとしても隠れて泣いている事が多い。
けれど、それすらもせずにこうして目の前で泣き姿を晒している時は相当の悲しい事があった時だ。
そんな時、ヴィンセントはいつも決まって

「どうした、ユフィ?」

優しく囁いて、そっと額にキスをするのだ。








10.肩に誘惑のキス


「いいだろう?ユフィ」
「で、でもさぁ・・・!」

湯船の中。
ユフィはヴィンセントの上に重なるようにして座っており、尚且つ抱きしめられている。
そんな中でユフィはヴィンセントに誘われている。
本当は乗り気なのだが、風呂の中で、というのがユフィを躊躇わせる。

「何が駄目なんだ?」
「駄目っていうか・・・ここ、風呂だし・・・」
「ベッドでしなければいけない決まりでもあるのか?」
「そういう訳じゃないけど・・・」
「なら、いいだろう」

最後に肩に落とされたキスがユフィを降参させてしまった。








11.背中に切ないキス


ベッドの軋む音でユフィはふと目が覚めた。
隣にある筈の体温が無いのに気づいて辺りを見回せば、大きな獣がベッドの縁に腰掛けているのが目に入った。
ガリアンだ。

「どーしたの・・・ヴィンセント・・・」
「起こしたか?」
「んーん」
「そうか・・・ガリアンがたまには外に出せと煩くてな」
「そっか」

ユフィは眠い目を擦りながらも起き上がって大きな背中に力いっぱい抱きついた。

「過去の因縁を断ち切り、不老不死の呪縛からも解き放たれたが、魔獣だけは未だに私の中に残り続けている」
「うん」
「恐らく・・・私への戒めなのだろうな」
「そんな事ないよ・・・・・・そんな事ない・・・」

ユフィは切なさにヴィンセントの背中にキスをした。








12.アクセサリーに気晴らしのキス


(ヴィンセント、どこにいるのかなぁ・・・)

ヴィンセントの活躍によってオメガは星の還ったけれど、あの日以来ヴィンセントは帰ってきていない。

(早くしないとこれ、アタシの物にしちゃうぞ)

チャラ、と音をならして目の前にケルベロスレリーフを掲げる。
ヴィンセントを捜索する過程で見つけたもので、ユフィは肌身離さず持っていた。
これがヴィンセントの無事を告げているようで、手放してしまったらヴィンセントが帰ってこなくなってしまう気がして―――。

(早く帰ってこいよ、ヴィンセント)

不安な気を紛らわすようにレリーフにキスをした。








13.足の指に前戯のキス


室内にヴィンセントがユフィの足の指に口付けをする微かな音だけが響く。

「っ・・・!」

足の指にキスをする。
たったそれだけの行為なのに、何故ヴィンセントがするとこうも艶やかに見えてしまうのだろうか。
1回1回が丁寧で心を込めて口付けをするから?
それとも口付けする度に僅かに覗く真っ赤な舌が見えるから?
いや、これら全てが合わさって艶やかに見えるのだ。
世界のどこを探してもこんな事が出来るのはヴィンセントしかいないだろうとユフィはぼんやりとした頭で考える。

「んっ・・・」

不意に、足の指を噛まれた。
キスされる度に疼いていた下腹部が一気にジン、と熱くなる。
たったこれだけの事で感じてしまうだなんて、自分は相当ヴィンセントにやり込められているのだろう。

「ヴィンセント・・・きて・・・」

ユフィの懇願への返事として、足の親指に最後の口付けが落とされた。








14.耳に嫌がらせのキス


いつもならマテリアや武器の手入れをしているユフィが、今日は珍しくカーペットの上に座り、テーブルに雑誌を広げて読んでいる。
そういえば、近々ティファたちと海に行く予定があって、新しい水着が欲しいと言っていたような気がする。
ヴィンセント個人としては去年までユフィが着ていた水着が好きだったのだが、それでなくなるのは少し残念だった。
けれどまぁ、新しい水着を着てビーチではしゃぐユフィを見るのもいいだろう。
願わくば露出が少ない水着だといいのだが・・・。

(それにしても、だ・・・)

静かに雑誌を読み込んでるユフィを見ている内に、ヴィンセントの中で小さな悪戯心が芽生えていた。
いつもは自分が読書をしている時に、暇だ構えだのと言って妨害をしてくるこの少女。
今回はいつもの仕返しをしようじゃないかと思いつき、ヴィンセントは早速行動に移した。

「何を読んでいるんだ?」

ユフィの後ろに座り、手をユフィの腕の隣に置いて囲むようにする。
ついでに耳元で囁いたので、耳が弱いユフィはピクッと驚きとくすぐったさに肩を小さく跳ねさせる。

「な、夏の新作の雑誌。服とか水着の」
「ほう。いいのはあったか?」
「そこそこ」
「例えば?」
「そ、その前にさ、何か飲みたくない?」
「私は間に合ってる」
「じゃあアタシが欲しいからちょっとどいてくんない?それかお茶持ってきてくれる?」

大方、どちらかを動かして現在の状況を脱したいのだろう。
しかし、そうさせるほどヴィンセントは甘くなかった。

「もう少ししたらな」

動くつもりはないという意思表示として、ユフィの腕の横に置いていた手をユフィの腰に回す。
しっかりと、強く、離さないように。

「今すぐ欲しいって言ったら?」
「我慢しろ」

「あぅ・・・」というユフィの手詰まったような呻き声が耳に入ったが、そんなのはお構いなし。
気付かないフリをしてユフィに水着の事を尋ねる。
勿論、耳元で。

「気に入った水着はあったか?」
「ま、まだ」
「どんな水着にするつもりなんだ?」
「決めてない・・・」

答えるユフィの声は段々恥ずかしさ混じりの不機嫌さになっていき、顔を赤らめながらも若干不満そうだ。
そんな反応を示すユフィが可愛くて、止めに耳に唇を押し当てたら、それっきりしばらくは口を利いてくれなくなった。








15.手の甲に王子ごっこのキス


「おお、貴女こそ私が探していた女性である!私とお付き合いしてくれませんか?
 ―――なんて今度のパーティーで言われたらどーしようね?」
「そんなおとぎ話のようなセリフを吐く奴は流石にいないと思うが」
「じゃあヴィンセントだったらなんて言って口説く?」
「そうだな・・・―――今宵、貴女に会えた事が私にとっての最大の喜びです」

ちゅっ(手の甲にキスする)

「こんな所だな」
「・・・それ、アタシ以外にやるの禁止ね」
「ああ、判っている」








16.へそにお仕置きのキス


「ごめんってば~!」
「私は前回言った筈だ、次はないと」

またもヴィンセントのマテリアを“拝借”したユフィはお仕置きされようとしていた。
ベッドに押し倒され、両腕を1つにまとめ上げられて、ユフィがいつもしている鉢巻で縛られる。
ある意味絶対絶命だ。

「で、でも返したじゃん!ね?」
「私に言われて返しただけだろう。覚悟しろ、お前が嫌というほど仕置をしてやる」

ちゅっ、とおヘソにキスをされ、お仕置きの合図が鳴らされた。








17.瞼にお休みのキス


情事の後は心地の良い疲労のせいもあってユフィは朝まで起きる事はない。
が、今日は珍しく。ふと目が覚めてしまった。
外の明るさから見て今はまだ夜明け前といった所だろう。
何となしに、自分を抱きしめて眠るヴィンセントの顔を見れば―――普段の彼からは想像も出来ないほどのあどけない寝顔で眠っていた。
過去の因縁を断ち切ってからは喜怒哀楽表現が豊かになってきたとはいえ、こんなあどけない顔は見た事がない。

(安心してるのかな・・・それとも幸せなのかな?)

そのどちらでもあってほしい。
やっと過去のしがらみから解放されて、新しい人生を歩み始めたのだから。
贅沢を言うならば、このあどけない寝顔が自分によるものだといい。
そんな願いを込めて、ユフィはヴィンセントの瞼にキスをした。

「おやすみ、ヴィンセント」








18.髪に愛しさのキス


腕の中で眠るユフィの頭を壊れ物でも扱うかのように優しく撫でる。
罪深い己を愛しいと言い、小さく華奢な体で全てを受け止めてくれた少女。
それが嬉しくて嬉しくて堪らなくて、今自分は夢を見ているのではないかと思うほどだ。

でも、これは現実。

ヴィンセントが手に入れた、新しい人生の現実。
ユフィと共に歩む現実。
明日もこの現実をユフィと共に生きられるように―――

「おやすみ、ユフィ」

一房の髪に口付けを落として眠りに就いた。








19.指先に戯れのキス


気持ちの良い朝、ユフィはベッドでヴィンセントに後ろから抱きしめられている状態で横になっていた。
そして、ユフィの前に投げ出されているヴィンセントの指先に軽い口付けをしていた。
遊んでいるようなその軽いキスにヴィンセントはくすぐったさを覚える。

「アタシ、ヴィンセントの指、好きだよ。
 敵を倒してくれるし、アタシの事守ってくれるし、アタシと手繋いでくれるし、アタシの事―――気持ち良くしてくれるし。
 ヴィンセントが触れてくれて気持ち良くないとこなんてないんだよ?」
「・・・そんなに褒めても気持ち良くしてやる事しか出来ないぞ」
「んぁっ・・・!い、今気持ち良くしてくれなくていいよ!」
「今しなくて何時するんだ?」
「あぁ・・・ん・・・!き、昨日いっぱいしてもらったから、今日は―――」
「遠慮するな。気持ち良くて好きなんだろう?」
「そ、そこやだ!おかしく、なっちゃぅ・・・!」
「まだ早すぎるんじゃないか?ユフィ―――」

褒めすぎてしまったようです(笑)








20.唇にレモン味のキス


「ヴィンセント!」

元気良く名前を呼ばれて振り向けば、何の予告もなしに唇にユフィのそれを押し当てられた。
瞬間、仄かなレモンの香りと味がヴィンセントの鼻腔と口内を満たす。

「・・・レモン?」
「そ!キスはレモンの味がするって言うじゃん?だからそれを実行してみたんだ」
「単にレモンを食べて悪戯を思いついただけだろう」
「バレたか」









END
6/7ページ
スキ