いろいろ
下校時刻。
下駄箱にてセルフィとリュックはお喋りをしながらユフィを待っていた。
そこに、二人組の女子がはしゃぎながら昇降口を出て行く。
「ねぇねぇ!まだいるかな?」
「え?何が?」
「知らないの?今、校門にカッコイイ他校生来てるのよ!」
「本当!?」
「ホラ、あそこの人だかりがそうよ!」
「早く行きましょう!!」
二人組の女子の会話を聞いてセルフィとリュックは顔を見合わせる。
「他校生来てるって一体何の用やろね?」
「さぁ?デートか決闘じゃない?」
「あ~、この間ゼルと朱雀高校のエイトって男の子が決闘してたもんな~。なんか青春っぽい終わり方したけど」
「あれ面白かったよね~」
二人は『カッコいい他校生』とやらに興味を示さなかった。
そうしてこの話題に花が咲く事なく終わろうとした所にユフィがやってきた。
「おっ待たせ―!」
「あ、ユフィきた」
「ごめ~ん、シドのおっさんってば人使い荒くてさ~。ついでついでって色んな事やらされたよ」
「それは災難だったね~。それよか今校門にカッコいい他校生来てるって」
「カッコいい他校生?ナンパにでも来たの?」
「さぁ?」
「ねぇねぇ、はよ遊びに行こうよ~」
「それもそーだね!」
ユフィは靴を履いてとんとんとつま先で地面を蹴ると、セルフィとリュックと共に昇降口を出た。
三人で話しながら校門までの道を歩くが、その間にも校門へと走っていく女子は絶えない。
「どんどん集まってくね~」
「ホンマにな~」
三人には『カッコいい他校生』などまるで関心がなかった。
元よりそういった類のものに興味はないので無理もない。
そんな事よりも遊ぶ楽しみだ。
そうやって女子の群れをスルーしようとした時。
ユフィがふと群れの中心に何気なく視線を送ったその時―――
「あっ!ヴィンセント!!」
リュックとセルフィ、多数の女子、そして話題の『カッコいい他校生』が一斉にユフィの方を振り返る。
『カッコいい他校生』に向けて発せられていた黄色い声は一瞬で静まり返り、皆揃ってポカンと口を上げながらユフィを見つめる。
それは友人のリュックとセルフィもそうだった。
そんな中、『カッコいい他校生』が女子の渦をかき分けて出て来る。
高い背丈、整った顔立ち、美しい紅い瞳、そして1つに纏められている黒く長く美しい髪。
美青年と呼ぶに相応しい出で立ちの青年はユフィの姿を認めると、ホッと息を吐いて口を開いた。
「ユフィ、なんとか会えたな」
「何でここにいんの!?」
「この間遊んだ時に本を忘れていっただろう?それを届けに来た」
そう言ってヴィンセントと呼ばれた『カッコいい他校生』はユフィに一冊の本を手渡した。
「本?そんなもの忘れて―――ああっ!これ探してたんだよ!学校のだから返却期限過ぎたらどうしようって焦ってたんだよ!」
「やはり学校のだったか」
ヴィンセントは呆れたように息を吐き、ユフィは「へへへ」と笑う。
と、そこでユフィはリュックとセルフィを含めた沢山の女子生徒たちに注目されていた事に気づき、慌て始めた。
「こ、ここで立ち話もなんだから近くの喫茶店に行こうよ!セルフィとリュックも行こっ!!」
ユフィはセルフィとリュックの手を引き、ヴィンセントを連れて学校から少し離れた所にある喫茶店に駆け込んだ。
その辺の喫茶店のボックス席にて、リュックとセルフィが並んで座り、その向かい側にユフィとヴィンセントが並んで座る。
三人娘の前にはパフェが置かれており、ヴィンセントの前にはブラックコーヒーが置かれていた。
セルフィとリュックは未だにポカンとしており、その為何とも言えない空気が漂っていてユフィは戸惑った。
「えっと・・・その、なんていうか・・・ヴィンセント、この二人はアタシの親友のセルフィとリュック。
そんで二人共、こっちはヴィンセント。別の高校の生徒で、あ、アタシと・・・」
「付き合っている」
「ちょっ!!サラッと恥ずかしい事言うなよ!!」
「?事実だろう?」
「た、確かに事実だけどそーじゃなくて!!」
ユフィは顔を赤くして取り乱すが、それを見ても尚、セルフィとリュックはパフェを食べながらも呆然としている。
二人は未だにユフィに彼氏がいたという事実が受け止められないでいた。
今までそういった素振りをあまり見せていなかったので、てっきり自分たちと同じフリーだと思っていた。
勿論、親友であるユフィにカッコ良くて大人っぽい彼氏がいるというのは喜ばしい事だが、それにしても驚きの方が大きい。
「ちょっ、ちょっと!二人共なんか言ってよ!!」
「「・・・ナンカ」」
「じゃなくて!!」
「ユフィ、声が大きい」
声を張り上げるユフィをヴィンセントが諌める。
そこで漸くセルフィとリュックは現状を整理出来るようになり、セルフィの方からユフィに質問をした。
「しっつも~ん」
「はい、セルフィ」
「きっかけは何なん?」
「きっかけは、アタシって今図書館でバイトしてんじゃん?
その図書館にヴィンセントが通ってて、お互いに顔覚えるようになって、それでまぁ、仲良くなってった感じかな~?」
「そして付き合うまでの仲に発展した感じ?」
「ま、まぁ・・・うん・・・」
リュックの止めの発言にユフィの顔はみるみる赤くなっていき、顔を俯かせて声を小さくさせていった。
どうやらこういった色恋沙汰を話すのは照れくさいらしく、普段の振る舞いとのギャップから二人にはユフィが可愛く見えた。
加えて、こんなユフィは滅多に見られないのでもっと弄ってやろうと悪戯心が二人の中でもたげ始める。
「にしても、ユフィも隅に置けないね~」
「ホンマにな~。こーんなイケメン掴まえて、しかもこっそり付き合ってたなんてやるな~」
「ちょっ、な、何だよ急に・・・!」
「ねぇねぇ、キスしたの?」
「き・・・!!?!?!」
「この反応だとまだしてない感じですぞ、セルフィ大佐」
「という事は手を繋いだ所までの可能性が高いですな、リュック少佐」
「へ、変な探り入れるなっての!!」
顔を真っ赤にしてユフィは怒鳴るが、二人の思う壺である。
そうした三人のやり取りをヴィンセントは静かに楽しそうに眺めるのであった。
ユフィ弄り倒し大会は夕方頃にようやっと終了し、帰る時間となった。
セルフィとリュックは、邪魔をしてはいけないとニヤニヤと笑いながらさっさと帰ってしまった。
「あーもー!二人共変な気ぃ回しちゃってさぁ!!」
プリプリと怒りを露わにするユフィだが、顔は弄り倒された所為もあって未だに真っ赤である。
「素晴らしい友人だったな」
「あーそりゃどーも!!」
「遅くならない内に私達も早く帰るとしよう」
そう言って、ヴィンセントは自然な動きでユフィに手を差し出した。
差し出されたそれを見てユフィは首を傾げる。
「何、この手?」
「手を繋いで帰らないか?」
「は・・・・・・?」
「セルフィ、と言ったか。私達の仲は手を繋いだ所までと推測していたが、実際はまだ繋いだ事すらないだろう?」
「うん?」
「だから、繋がないか?」
薄く笑みを浮かべてヴィンセントが尋ねてくる。
その顔は夕日によってより美しく際立ち、ユフィの言葉を失わせ、視線を釘付けにする。
それに加えての突然の申し付けにユフィは何と答えればいいのか迷っていると、ヴィンセントは手を下ろそうとした。
「・・・いや、すまない。突然こんな事を言われても困らせるだけだったな」
首を振るヴィンセントにユフィはハッとなって、引っ込みそうになった手をガシッと掴んだ。
「ま、まだ何も言ってないだろ!勝手に決めるなよ!」
必死の表情で訴えると、ヴィンセントはフッと微笑んでユフィの手を引いて歩き始めた。
「なら、帰るぞ」
「うん・・・」
手を繋ぐだけでも心臓がバクバクと煩いのに、並んで歩くなんて到底出来ない。
だからユフィはヴィンセントの半歩後ろを、赤い顔を俯かせて歩く。
そんなユフィの反応をおかしく、けれど愛しく思いながらヴィンセントは夕日が照らす道を歩いて行くのであった。
END
下駄箱にてセルフィとリュックはお喋りをしながらユフィを待っていた。
そこに、二人組の女子がはしゃぎながら昇降口を出て行く。
「ねぇねぇ!まだいるかな?」
「え?何が?」
「知らないの?今、校門にカッコイイ他校生来てるのよ!」
「本当!?」
「ホラ、あそこの人だかりがそうよ!」
「早く行きましょう!!」
二人組の女子の会話を聞いてセルフィとリュックは顔を見合わせる。
「他校生来てるって一体何の用やろね?」
「さぁ?デートか決闘じゃない?」
「あ~、この間ゼルと朱雀高校のエイトって男の子が決闘してたもんな~。なんか青春っぽい終わり方したけど」
「あれ面白かったよね~」
二人は『カッコいい他校生』とやらに興味を示さなかった。
そうしてこの話題に花が咲く事なく終わろうとした所にユフィがやってきた。
「おっ待たせ―!」
「あ、ユフィきた」
「ごめ~ん、シドのおっさんってば人使い荒くてさ~。ついでついでって色んな事やらされたよ」
「それは災難だったね~。それよか今校門にカッコいい他校生来てるって」
「カッコいい他校生?ナンパにでも来たの?」
「さぁ?」
「ねぇねぇ、はよ遊びに行こうよ~」
「それもそーだね!」
ユフィは靴を履いてとんとんとつま先で地面を蹴ると、セルフィとリュックと共に昇降口を出た。
三人で話しながら校門までの道を歩くが、その間にも校門へと走っていく女子は絶えない。
「どんどん集まってくね~」
「ホンマにな~」
三人には『カッコいい他校生』などまるで関心がなかった。
元よりそういった類のものに興味はないので無理もない。
そんな事よりも遊ぶ楽しみだ。
そうやって女子の群れをスルーしようとした時。
ユフィがふと群れの中心に何気なく視線を送ったその時―――
「あっ!ヴィンセント!!」
リュックとセルフィ、多数の女子、そして話題の『カッコいい他校生』が一斉にユフィの方を振り返る。
『カッコいい他校生』に向けて発せられていた黄色い声は一瞬で静まり返り、皆揃ってポカンと口を上げながらユフィを見つめる。
それは友人のリュックとセルフィもそうだった。
そんな中、『カッコいい他校生』が女子の渦をかき分けて出て来る。
高い背丈、整った顔立ち、美しい紅い瞳、そして1つに纏められている黒く長く美しい髪。
美青年と呼ぶに相応しい出で立ちの青年はユフィの姿を認めると、ホッと息を吐いて口を開いた。
「ユフィ、なんとか会えたな」
「何でここにいんの!?」
「この間遊んだ時に本を忘れていっただろう?それを届けに来た」
そう言ってヴィンセントと呼ばれた『カッコいい他校生』はユフィに一冊の本を手渡した。
「本?そんなもの忘れて―――ああっ!これ探してたんだよ!学校のだから返却期限過ぎたらどうしようって焦ってたんだよ!」
「やはり学校のだったか」
ヴィンセントは呆れたように息を吐き、ユフィは「へへへ」と笑う。
と、そこでユフィはリュックとセルフィを含めた沢山の女子生徒たちに注目されていた事に気づき、慌て始めた。
「こ、ここで立ち話もなんだから近くの喫茶店に行こうよ!セルフィとリュックも行こっ!!」
ユフィはセルフィとリュックの手を引き、ヴィンセントを連れて学校から少し離れた所にある喫茶店に駆け込んだ。
その辺の喫茶店のボックス席にて、リュックとセルフィが並んで座り、その向かい側にユフィとヴィンセントが並んで座る。
三人娘の前にはパフェが置かれており、ヴィンセントの前にはブラックコーヒーが置かれていた。
セルフィとリュックは未だにポカンとしており、その為何とも言えない空気が漂っていてユフィは戸惑った。
「えっと・・・その、なんていうか・・・ヴィンセント、この二人はアタシの親友のセルフィとリュック。
そんで二人共、こっちはヴィンセント。別の高校の生徒で、あ、アタシと・・・」
「付き合っている」
「ちょっ!!サラッと恥ずかしい事言うなよ!!」
「?事実だろう?」
「た、確かに事実だけどそーじゃなくて!!」
ユフィは顔を赤くして取り乱すが、それを見ても尚、セルフィとリュックはパフェを食べながらも呆然としている。
二人は未だにユフィに彼氏がいたという事実が受け止められないでいた。
今までそういった素振りをあまり見せていなかったので、てっきり自分たちと同じフリーだと思っていた。
勿論、親友であるユフィにカッコ良くて大人っぽい彼氏がいるというのは喜ばしい事だが、それにしても驚きの方が大きい。
「ちょっ、ちょっと!二人共なんか言ってよ!!」
「「・・・ナンカ」」
「じゃなくて!!」
「ユフィ、声が大きい」
声を張り上げるユフィをヴィンセントが諌める。
そこで漸くセルフィとリュックは現状を整理出来るようになり、セルフィの方からユフィに質問をした。
「しっつも~ん」
「はい、セルフィ」
「きっかけは何なん?」
「きっかけは、アタシって今図書館でバイトしてんじゃん?
その図書館にヴィンセントが通ってて、お互いに顔覚えるようになって、それでまぁ、仲良くなってった感じかな~?」
「そして付き合うまでの仲に発展した感じ?」
「ま、まぁ・・・うん・・・」
リュックの止めの発言にユフィの顔はみるみる赤くなっていき、顔を俯かせて声を小さくさせていった。
どうやらこういった色恋沙汰を話すのは照れくさいらしく、普段の振る舞いとのギャップから二人にはユフィが可愛く見えた。
加えて、こんなユフィは滅多に見られないのでもっと弄ってやろうと悪戯心が二人の中でもたげ始める。
「にしても、ユフィも隅に置けないね~」
「ホンマにな~。こーんなイケメン掴まえて、しかもこっそり付き合ってたなんてやるな~」
「ちょっ、な、何だよ急に・・・!」
「ねぇねぇ、キスしたの?」
「き・・・!!?!?!」
「この反応だとまだしてない感じですぞ、セルフィ大佐」
「という事は手を繋いだ所までの可能性が高いですな、リュック少佐」
「へ、変な探り入れるなっての!!」
顔を真っ赤にしてユフィは怒鳴るが、二人の思う壺である。
そうした三人のやり取りをヴィンセントは静かに楽しそうに眺めるのであった。
ユフィ弄り倒し大会は夕方頃にようやっと終了し、帰る時間となった。
セルフィとリュックは、邪魔をしてはいけないとニヤニヤと笑いながらさっさと帰ってしまった。
「あーもー!二人共変な気ぃ回しちゃってさぁ!!」
プリプリと怒りを露わにするユフィだが、顔は弄り倒された所為もあって未だに真っ赤である。
「素晴らしい友人だったな」
「あーそりゃどーも!!」
「遅くならない内に私達も早く帰るとしよう」
そう言って、ヴィンセントは自然な動きでユフィに手を差し出した。
差し出されたそれを見てユフィは首を傾げる。
「何、この手?」
「手を繋いで帰らないか?」
「は・・・・・・?」
「セルフィ、と言ったか。私達の仲は手を繋いだ所までと推測していたが、実際はまだ繋いだ事すらないだろう?」
「うん?」
「だから、繋がないか?」
薄く笑みを浮かべてヴィンセントが尋ねてくる。
その顔は夕日によってより美しく際立ち、ユフィの言葉を失わせ、視線を釘付けにする。
それに加えての突然の申し付けにユフィは何と答えればいいのか迷っていると、ヴィンセントは手を下ろそうとした。
「・・・いや、すまない。突然こんな事を言われても困らせるだけだったな」
首を振るヴィンセントにユフィはハッとなって、引っ込みそうになった手をガシッと掴んだ。
「ま、まだ何も言ってないだろ!勝手に決めるなよ!」
必死の表情で訴えると、ヴィンセントはフッと微笑んでユフィの手を引いて歩き始めた。
「なら、帰るぞ」
「うん・・・」
手を繋ぐだけでも心臓がバクバクと煩いのに、並んで歩くなんて到底出来ない。
だからユフィはヴィンセントの半歩後ろを、赤い顔を俯かせて歩く。
そんなユフィの反応をおかしく、けれど愛しく思いながらヴィンセントは夕日が照らす道を歩いて行くのであった。
END