『おうちの中で』

サイド・ヴィンセント


ヴィンセントはウータイの家屋の文化の一つである畳が好きだった。
なんと言っても気軽に座れる・寝っ転がれる・寛げるといった三点が魅力的だ
他にもユフィを押し倒してもユフィが痛がるという事がないので安心して押し倒す事も出来る。
それに干し草の香りもヴィンセントは好きな方で、自然と心が和らぐ。

「今日は天気がいい」

縁側から差し込む日向から少し離れた所の日陰でゴロンと横になり、ぼうっと庭を眺める。
温かい気温に春の空気、そして外から聞こえてくる川のせせらぎがヴィンセントの眠気を誘う。
重くなってきた瞼が閉じそうになったそのときに、二匹の猫が縁側に上がってくるのが見えた。
その猫たちは近所の人が飼っている猫で、時々ユフィの家に上がりに来るのだ。
家主であるユフィとしても上がってくるのは構わないが、地面を歩いてきた足で畳には上がってほしくない。
なので、このような時の為に用意した濡れティッシュで二匹の足を拭きとってやるのだ。

「おいで、足を拭きとってやろう」

濡れティッシュを持って縁側の前で座ると、二匹は喜んでヴィンセントに擦り寄った。
人間慣れしている所為もあって二匹はとても人懐こく、容易に足を拭いてあげる事が出来る。
丁寧に足や肉球周りの砂利や土を拭い、ほんのちょっとだけ肉球の柔らかさを楽しむ。
これが密かな楽しみだったりする。

「・・・これで大丈夫だ。上がっていいぞ」

使い終わった濡れティッシュを丸めて立ち上がると、猫たちは返事をするようにご機嫌に鳴いた。
ヴィンセントが踵を返してゴミ箱の方へ歩き出せば猫たちもそれに倣って後ろを歩く。
まるでアヒルの親子のようだ。

「さて・・・」

濡れティッシュを捨てた所でヴィンセントは再び畳の上に寝転がった。
今日は久々の連休の一日目。
神経をすり減らすような任務続きで心も身体もへとへとだ。
だから今日は思いっきり休んで羽根を伸ばす。
それからしばらく一緒に過ごす時間がなかったユフィを甘やかして甘える。
朝まで愛し合おうか、それとも―――

「ニー」
「ニャー」

緩く思いを巡らしていると二匹の猫がもてなせと言わんばかりに鳴き声を上げて見つめてくる。
可愛らしい客人のリクエストに応えて身体を起き上がらせると、ヴィンセントは一匹ずつもてなしてあげた。

「・・・お前はまた太ったんじゃないか?」
「ニャア?」
「お前はどうだ?重くなったか?」
「ニャッ」

ひと通り構ってあげたり、二匹の気持ちの良い所を撫でてやると、二匹は満足してヴィンセントから離れた。
本当に猫は気まぐれな生き物だが、嫌いではない。
逆に猫のその自由奔放な所が好きだ。
そんな猫にユフィが重なって小さく笑みを浮かべる。

「・・・ユフィはまだか」

早くユフィを充電したいが、生憎彼女は今出かけている。
すぐ戻ってくると言っていたが待ち遠しい。
少しでも帰ってくるまでの時間を潰す為にもヴィンセントは三度寝転がって干し草の香りに包まれながら目を閉じる。
心休まる平穏の中でユフィを恋しく思いながら静かに寝息を立てるのだった。








サイド・ユフィ


ウータイの家屋には必ずある畳というもの。
これがとても有能で、寝っ転がってもフローリングほど痛くないし、また冬は氷のような冷たさがない。
夏は日陰の所で寝っ転がると冷たくて気持ちいい。
ヴィンセントはそんな畳が大好きで、夏の時期にウータイにくると必ずと言っていい程寝っ転がる。
ユフィとしてもヴィンセントが自分の国の文化の一つである畳を受け入れてくれている事を嬉しく思っていた。
それと同時に、ある楽しみも見つけていて、密かに楽しんでいたりする。

「ヴィンセンとー、今日の夜なんだけどさぁ」

縁側のある居間の戸を開ければ、1人と2匹の身体が転がっている景色が目に飛び込む。
ヴィンセントは2匹の猫に足を向けて眠っており、また2匹の猫もヴィンセントに足を向けて寝ている。
しかも1人+2匹とも仰向けに寝そべって。

「まーたシュールな寝方しちゃって」

ユフィはくつくつと笑ってポケットからスマホを取り出すと、早速撮影した。
そして撮影して保存した画像は専用のフォルダの中に入れる。
フォルダの中にはこれまで撮影してきた、ヴィンセントと猫たちのおかしな寝相写真が収められていた。
ヴィンセントを枕に寝る猫たちや頭を寄せ合って寝ている写真、ヴィンセントの頭の横で猫が丸まって寝ている写真など様々である。

「よくもまぁこんな寝方出来るわ」

写真を眺めながらユフィは穏やかに笑うと、同じようにヴィンセントの隣に寝そべるのであった。











オマケ


あれから数時間後・・・


「ん・・・夕方、か・・・?ユフィ・・・?」
「んぁ・・・ふぁ~あ、よく寝た~。あ、ヴィンセント、寝痕ついてるよ」
「む・・・ついてしまったか」
「ちゃんと座布団敷いて寝なきゃダメじゃ~ん」

すりすり(寝痕を撫でる)

「つい忘れてしまったな」
「あはは、どんまーい」
「そういえば、猫は?」
「あー、帰っちゃったんじゃない?よく夕方近くになると出て行くし」
「まるで子供だな」
「ね~。それよりさ、今日の夕飯は亀道楽行かない?お店のおばちゃんが新作メニューをタダで食べさせてくれるって」
「それはいいな。ならば夜は亀道楽に行こう」
「けって~!んでさ、その後さ・・・」
「ああ、判ってる。朝まで付き合ってもらおうか」
「えへへ、望む所だ!」









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