『おうちの中で』
たまたまニブルヘイム付近で調査任務があり、そのときにニブルヘイムに寄った。
村は相変わらず陰鬱としていて空気が重く、どこか不気味だ。
それはそれとして、暇だったユフィは神羅屋敷で軽いお宝探しをしていた。
三年前の旅やつい最近のオメガ事件の時のロッソの襲撃でもうお宝はないかもしれないが、何かあるとユフィは感じ取ったのだろう。
適当に色々な部屋を漁っている時にユフィはとある物を見つけた。
「ん?ビデオテープ?」
『秘蔵!!』とシールに書かれたテープを色んな角度から眺めながら考えを巡らせる。
宝条のような狂った科学者が作ったのであろうテープかもしれないが、なんとなく気になるものがあった。
そに宝条にしては『秘蔵!!』などといった軽いノリの題名だし、ルクレツィアが付けたにしては何だか違う気がする。
そう考えると果てしなく気になりだし、ユフィはそれを持ち帰る事にした。
「準備よーし」
ビデオテープをビデオデッキに入れ、座布団の上に正座をしてユフィはリモコンの再生ボタンを押した。
いかんせん、古いテープなので再生されるかどうか心配だったが、今の所は順調である。
けれど念には念を、という事でいつでも終了ボタンを押せるように指を配置する。
見るのも憚れる映像が流れてきた時の為の措置だ。
何せあの神羅屋敷にあったものだからどんなグロい映像が映っていてもおかしくはない。
ただ単に普通に番組の録画という可能性もあるかもしれないが、期待は出来ない。
不安と期待が綯い交ぜになる中、パッと画面が明るくなった。
「・・・ん?何だこれ?」
映像は見るからにビデオカメラで撮影したと思われるものだった。
その証拠に画面が手ブレを起こしたように少し動いているし、何より手書きで書いたような紙が映されていたからだ。
紙には『ファン必見!タークス・オブ・タークス秘蔵の映像集!~ヴィンセント・ヴァレンタインの全て~』と書かれている。
「ヴィンセント・ヴァレンタインの全て?」
ユフィが軽く首を傾げると,それに応えるようにカメラを持っている男が喋りだした。
『えー、ファンの皆様こんにちは。これより、ヴィンセント・ヴァレンタインの知られざる一面を探りたいと思います』
そこで台詞が終わるとブツッと画面が切れ、瞬時にどこかの部屋が映しだされた、
ここまでくれば深く考えずともこのビデオが何なのか察しがつく。
恐らくこれはタークス時代のヴィンセントを撮ったビデオであろう。
更に『秘蔵!!』というタイトルや男の言葉から察するにヴィンセントのファンの為のビデオであると分かる。
ユフィとしてもタークス時代のヴィンセントがどんな様子だったのか知りたいので視聴を続けた。
『現在、僕達はオフでとあるホテルに泊まりに来ています。ヴィンセントはただいま入浴中ですが―――」
『出たぞ』
聞き慣れ低い声が聞こえると、映像は180度回転して声の主である男を映した。
男は上半身裸で首にタオルを巻いており、ひと目で風呂上がりだと分かる。
それと同時に髪は短くとも雰囲気や先ほどの声、何より顔からしてその男はまさしく―――
『おー、出たかヴィンセント』
そう、タークス時代のヴィンセントだった。
髪の長さと身体の傷を除けば彼は今となんらかわりない姿である上に今よりも明るく見える。
如何に宝条関係が彼の人生を狂わせたかが伺いしれる。
けれどそれらの決着はついこの間の事件で全てケリが着いたのだからと振りきって映像に集中した。
同情するのはヴィンセントに失礼だと思ったからだ。
『・・・何をしてるんだ?』
『ん~?記念撮影だよ記念撮影!最近新しいビデオカメラ買ったから記念すべき第一回目の撮影をしてるんだよ』
『変なものは映すなよ。万一の事があってはタダでは済まないからな』
『判ってるって!』
万一のものよりももっととんでもない物を撮られている訳だが・・・このヴィンセントは気づいていないようである。
『ヴィンセント、ズボンで暑くないの?』
『問題ない。それに短パンは好きじゃない』
『ふ~ん・・・くそ、生足サービスが出来ないな』
『何か言ったか?』
『ううん、何でもない!それより酒飲もうよ!何飲む~?』
『ビール』
『んじゃ、僕もビール飲もっと』
映像が動いて冷蔵庫からビールの缶が二本取り出されると、それがテーブルの前に置かれる。
あらかじめ用意されていたのであろう三脚にビデオカメラが固定されると、それ以降はヴィンセントが映され続けた。
勿論、ヴィンセントの視線はカメラの方に向き、訝しげな目がこちらを睨む。
『・・・いつまで撮るんだ?』
『そのうち』
『本当に記念撮影だけなのか?』
『やだな~ヴィンセント~。僕の事疑ってるの~?』
『お前は碌なことをしないからな』
『や、やだな~、本当に純粋に撮影してるだけだって~』
流石ヴィンセント、鋭い。
撮影している男は必死に言い訳をしながらヴィンセントの意識をカメラから逸そうとする。
『それよりさ、ここのホテルの受付の子、可愛くなかった?』
『さぁな』
『お前どんだけ興味ないんだよ~。てかさぁ、ぶっちゃけお前の好みの女の子ってどんなの?』
『好みか・・・』
ヴィンセントの好みと聞いてピクッとユフィが反応する。
誰だって付き合っている相手の好みの人間になりたい。
それはユフィも同じで、前々からヴィンセントの好みの女性がどんなものか気になっていた。
これは是非とも聞きたい、撮影者の男に引き出してもらいたい情報だ。
『やっぱ胸の大きい子か?ん?』
『それはお前だろ』
『じゃあ小さいのがいいのか?』
『別にそういう訳でもないが・・・』
『じゃあさ、強いて言うならどっちよ?』
『・・・・・・大きい方』
チラリとユフィは自分の小さくはないが大きくもない普通の胸を見た。
『だよなだよな!流石同志よ!』
『やめろ』
『じゃあ尻はどうよ?大きいのと小さいの、どっちがいい?』
『小さい方だな』
ユフィは自分のお尻を少し触ってみたが、やや小さ目であった事に少し安堵した。
『そこは小さいのがいいんだな』
『何でもかんでも大きいのがいいお前とは違うんでな』
『なにを~?大きいのを舐めるなよ~!って、あら。ビールなくなっちった。もう一本飲もっと。ヴィンセントは?』
『私もなくなった』
『ほ~い』
男は返事をすると、少しして机の上に大量のビールを持ち運んで来た。
ヴィンセントも一瞬驚いたように表情が動いたが、すぐにそれは呆れ顔へと変わる。
『・・・誰もこんな大量に持ってこいとは言っていないが?』
『いいじゃんいいじゃん!今夜は飲み明かそうよ!』
『はぁ・・・お前という奴は本当に・・・』
溜息を吐きながらヴィンセントは二本目のビールの缶を開けた。
断っている事を言っていない辺り、飲み明かすつもりなのだろう。
現在のヴィンセントであればシドたちが薦めてきても大量に酒を飲む事はあまりないが、どうやら昔の彼は違うらしい。
昔はノリが良かっただけなのか、単に現在の彼は大人の酒の嗜みを楽しんでいるのかどちらなのか。
とにかく、映像のヴィンセントは撮影者の男と楽しく雑談をしている内にどんどんビールを飲み干していく。
やはりザルなのは昔からのようだ。
しかし大量に飲んでいる所為か、段々ヴィンセントは饒舌になっていく。
『やっぱさぁ、デートいくならどこ行くよ?』
『洒落た街の二番街もいいが、ジュノンも捨てがたいな』
『あそこ田舎だぜ~?いくら会社が手を入れようとしてるからってよ~』
『たまには田舎の空気だって吸いたくなる。それにあそこで見れる夕陽は格別だ』
『コスタとの違いは?』
『賑やかそうでないかの違いだな。私は静かな方が好きだ』
『お前の彼女になる子は大変かもな~。それよかさ、プロポーズの言葉とか考えてる?』
『彼女もいないのに考えてる訳ないだろ』
『でもいつか出来た時に慌てて作るよりかは用意しておいた方がいいと思うぞ~?』
『そうか?』
ヴィンセントの言う通り、今ここでプロポーズの言葉を考える必要はない。
だが、この撮影はあくまでもヴィンセントのファンへ贈るものなので、サービスのつもりなのだろう。
もっともユフィはプロポーズの言葉も愛もヴィンセントから貰ったので満足しているが、これは少し聞いてみたい。
今と昔でどれだけ台詞が違うのか検証してみる事にした。
『ほらほら、目の前に好みの彼女がいると思ってプロポーズの台詞の練習してみなって!』
『なら・・・―――お前とこうして付き合うのも随分長くなるな。最初は不安だった。
タークスという職業に就いている以上、危険が降りかからないという保証もない。
何よりもお前をちゃんと幸せに出来るかどうかさえ自信がなかった。
楽しい事や喧嘩する事など色々あったが、今こうしてお前が傍にいてくれる事が何よりも嬉しい。
まぁ、何だ・・・今なら自信を持って大きな声で叫べる。私は―――』
瞬間、ブツッという音と共にビデオの再生が強制終了された。
「ああっ!!」
ユフィ自身はボタンを押していない。
それどころか手に持っていた筈のリモコンが消えていた。
そこでようやっと気づいた気配に目を向ければ、真後ろにリモコンを持ったヴィンセントがいるではないか。
「うわっ!ヴィンセント!!いつからそこにいたんだよ!?」
「・・・少し前からだ。それよりこれをどこで?」
「神羅屋敷」
「・・・そういえば没収したな、アイツから」
「それよか折角いいとこだったんだから消すなよー!」
ユフィがヴィンセントからリモコンを奪おうとすると、素早くリモコンを高く挙げられ、後ろから抱きしめられた。
バタバタと暴れて抜けだそうと試みるが、がっしりとしたヴィンセントの腕はびくともしない。
「は~な~せ~!」
「残念だが鑑賞会は終わりだ」
「別に見たって減るもんじゃないじゃん。巨乳が好きなヴィンセントさん?」
「・・・何?」
「このビデオの中で昔のヴィンセントは言ってたんだかんね!どっちかっていうと胸が大きい子が好きだって!!」
「・・・」
ヴィンセントはリモコンを遠くに置いて額に手を当て、細く長く溜息を吐いた。
どうやら発言に覚えがあるらしい。
それを見てユフィは唇を尖らせてイジケ始める。
「そりゃアタシの胸は大きい方じゃないけどさ・・・でも小さくはないし」
「私が一度でもお前の身体に不満を言った事があったか?」
「ないけどさぁ・・・でもやっぱ気にするじゃん?」
「若気の至りだ。昔はそうだったとしても今は違う。お前の全てを私は愛している」
「そ、そういう事をさらっと言うなよ・・・」
ユフィは顔を赤らめると、その身体をヴィンセントに預けた。
どうやら機嫌を良くしたようなので、オマケに優しく頭を撫でてやる。
「でもヴィンセントのプロポーズの台詞気になるから見せてよ」
「ダメだ」
「いいじゃん、ネタにしてからかったりしないからさ~」
「絶対にやるからダメだ」
「絶対にしないって!」
「悪いがそこだけは信用出来んな」
「しないってば!!」
「ダメだ」
「じゃあさ、あそこ飛ばしていいからその後の見せてよ。内容的にはまだまだありそうだったからさぁ」
「それもダメだ」
「ヴィンセントのけちっ!」
何と言われようともヴィンセントは絶対に譲らなかった。
随分昔の物であるとはいえ、このビデオの内容をヴィンセントは覚えていた。
ただでさえこのプロポーズの台詞だけでも目を覆いたくなるのに、この後更に酷い展開が待っている。
言わばこれはヴィンセントにとっては黒歴史映像のようなもの。
自分の尊厳の為にもこれ以上の上映をする訳にはいかない。
「ホントはアタシに見られたらマズイものでも映ってるから見せたくないんじゃないの~?」
「フッ、どうだろうな?」
「え・・・?う、嘘だよね?」
「嘘だ」
瞬間、ユフィの世界が反転してヴィンセントがユフィを見下ろす形となった。
「ちょっ、何でこうなるんだよ!?」
「お前があまりにもしつこいからだ。このビデオの事がどうでもよくなるよう身体に言い聞かせなければな」
「ま、待ってよ!まだ昼間、んん・・・!」
その後、『秘蔵!!』のビデオはヴィンセントによって完膚なきまでに処分されるのであった。
END
村は相変わらず陰鬱としていて空気が重く、どこか不気味だ。
それはそれとして、暇だったユフィは神羅屋敷で軽いお宝探しをしていた。
三年前の旅やつい最近のオメガ事件の時のロッソの襲撃でもうお宝はないかもしれないが、何かあるとユフィは感じ取ったのだろう。
適当に色々な部屋を漁っている時にユフィはとある物を見つけた。
「ん?ビデオテープ?」
『秘蔵!!』とシールに書かれたテープを色んな角度から眺めながら考えを巡らせる。
宝条のような狂った科学者が作ったのであろうテープかもしれないが、なんとなく気になるものがあった。
そに宝条にしては『秘蔵!!』などといった軽いノリの題名だし、ルクレツィアが付けたにしては何だか違う気がする。
そう考えると果てしなく気になりだし、ユフィはそれを持ち帰る事にした。
「準備よーし」
ビデオテープをビデオデッキに入れ、座布団の上に正座をしてユフィはリモコンの再生ボタンを押した。
いかんせん、古いテープなので再生されるかどうか心配だったが、今の所は順調である。
けれど念には念を、という事でいつでも終了ボタンを押せるように指を配置する。
見るのも憚れる映像が流れてきた時の為の措置だ。
何せあの神羅屋敷にあったものだからどんなグロい映像が映っていてもおかしくはない。
ただ単に普通に番組の録画という可能性もあるかもしれないが、期待は出来ない。
不安と期待が綯い交ぜになる中、パッと画面が明るくなった。
「・・・ん?何だこれ?」
映像は見るからにビデオカメラで撮影したと思われるものだった。
その証拠に画面が手ブレを起こしたように少し動いているし、何より手書きで書いたような紙が映されていたからだ。
紙には『ファン必見!タークス・オブ・タークス秘蔵の映像集!~ヴィンセント・ヴァレンタインの全て~』と書かれている。
「ヴィンセント・ヴァレンタインの全て?」
ユフィが軽く首を傾げると,それに応えるようにカメラを持っている男が喋りだした。
『えー、ファンの皆様こんにちは。これより、ヴィンセント・ヴァレンタインの知られざる一面を探りたいと思います』
そこで台詞が終わるとブツッと画面が切れ、瞬時にどこかの部屋が映しだされた、
ここまでくれば深く考えずともこのビデオが何なのか察しがつく。
恐らくこれはタークス時代のヴィンセントを撮ったビデオであろう。
更に『秘蔵!!』というタイトルや男の言葉から察するにヴィンセントのファンの為のビデオであると分かる。
ユフィとしてもタークス時代のヴィンセントがどんな様子だったのか知りたいので視聴を続けた。
『現在、僕達はオフでとあるホテルに泊まりに来ています。ヴィンセントはただいま入浴中ですが―――」
『出たぞ』
聞き慣れ低い声が聞こえると、映像は180度回転して声の主である男を映した。
男は上半身裸で首にタオルを巻いており、ひと目で風呂上がりだと分かる。
それと同時に髪は短くとも雰囲気や先ほどの声、何より顔からしてその男はまさしく―――
『おー、出たかヴィンセント』
そう、タークス時代のヴィンセントだった。
髪の長さと身体の傷を除けば彼は今となんらかわりない姿である上に今よりも明るく見える。
如何に宝条関係が彼の人生を狂わせたかが伺いしれる。
けれどそれらの決着はついこの間の事件で全てケリが着いたのだからと振りきって映像に集中した。
同情するのはヴィンセントに失礼だと思ったからだ。
『・・・何をしてるんだ?』
『ん~?記念撮影だよ記念撮影!最近新しいビデオカメラ買ったから記念すべき第一回目の撮影をしてるんだよ』
『変なものは映すなよ。万一の事があってはタダでは済まないからな』
『判ってるって!』
万一のものよりももっととんでもない物を撮られている訳だが・・・このヴィンセントは気づいていないようである。
『ヴィンセント、ズボンで暑くないの?』
『問題ない。それに短パンは好きじゃない』
『ふ~ん・・・くそ、生足サービスが出来ないな』
『何か言ったか?』
『ううん、何でもない!それより酒飲もうよ!何飲む~?』
『ビール』
『んじゃ、僕もビール飲もっと』
映像が動いて冷蔵庫からビールの缶が二本取り出されると、それがテーブルの前に置かれる。
あらかじめ用意されていたのであろう三脚にビデオカメラが固定されると、それ以降はヴィンセントが映され続けた。
勿論、ヴィンセントの視線はカメラの方に向き、訝しげな目がこちらを睨む。
『・・・いつまで撮るんだ?』
『そのうち』
『本当に記念撮影だけなのか?』
『やだな~ヴィンセント~。僕の事疑ってるの~?』
『お前は碌なことをしないからな』
『や、やだな~、本当に純粋に撮影してるだけだって~』
流石ヴィンセント、鋭い。
撮影している男は必死に言い訳をしながらヴィンセントの意識をカメラから逸そうとする。
『それよりさ、ここのホテルの受付の子、可愛くなかった?』
『さぁな』
『お前どんだけ興味ないんだよ~。てかさぁ、ぶっちゃけお前の好みの女の子ってどんなの?』
『好みか・・・』
ヴィンセントの好みと聞いてピクッとユフィが反応する。
誰だって付き合っている相手の好みの人間になりたい。
それはユフィも同じで、前々からヴィンセントの好みの女性がどんなものか気になっていた。
これは是非とも聞きたい、撮影者の男に引き出してもらいたい情報だ。
『やっぱ胸の大きい子か?ん?』
『それはお前だろ』
『じゃあ小さいのがいいのか?』
『別にそういう訳でもないが・・・』
『じゃあさ、強いて言うならどっちよ?』
『・・・・・・大きい方』
チラリとユフィは自分の小さくはないが大きくもない普通の胸を見た。
『だよなだよな!流石同志よ!』
『やめろ』
『じゃあ尻はどうよ?大きいのと小さいの、どっちがいい?』
『小さい方だな』
ユフィは自分のお尻を少し触ってみたが、やや小さ目であった事に少し安堵した。
『そこは小さいのがいいんだな』
『何でもかんでも大きいのがいいお前とは違うんでな』
『なにを~?大きいのを舐めるなよ~!って、あら。ビールなくなっちった。もう一本飲もっと。ヴィンセントは?』
『私もなくなった』
『ほ~い』
男は返事をすると、少しして机の上に大量のビールを持ち運んで来た。
ヴィンセントも一瞬驚いたように表情が動いたが、すぐにそれは呆れ顔へと変わる。
『・・・誰もこんな大量に持ってこいとは言っていないが?』
『いいじゃんいいじゃん!今夜は飲み明かそうよ!』
『はぁ・・・お前という奴は本当に・・・』
溜息を吐きながらヴィンセントは二本目のビールの缶を開けた。
断っている事を言っていない辺り、飲み明かすつもりなのだろう。
現在のヴィンセントであればシドたちが薦めてきても大量に酒を飲む事はあまりないが、どうやら昔の彼は違うらしい。
昔はノリが良かっただけなのか、単に現在の彼は大人の酒の嗜みを楽しんでいるのかどちらなのか。
とにかく、映像のヴィンセントは撮影者の男と楽しく雑談をしている内にどんどんビールを飲み干していく。
やはりザルなのは昔からのようだ。
しかし大量に飲んでいる所為か、段々ヴィンセントは饒舌になっていく。
『やっぱさぁ、デートいくならどこ行くよ?』
『洒落た街の二番街もいいが、ジュノンも捨てがたいな』
『あそこ田舎だぜ~?いくら会社が手を入れようとしてるからってよ~』
『たまには田舎の空気だって吸いたくなる。それにあそこで見れる夕陽は格別だ』
『コスタとの違いは?』
『賑やかそうでないかの違いだな。私は静かな方が好きだ』
『お前の彼女になる子は大変かもな~。それよかさ、プロポーズの言葉とか考えてる?』
『彼女もいないのに考えてる訳ないだろ』
『でもいつか出来た時に慌てて作るよりかは用意しておいた方がいいと思うぞ~?』
『そうか?』
ヴィンセントの言う通り、今ここでプロポーズの言葉を考える必要はない。
だが、この撮影はあくまでもヴィンセントのファンへ贈るものなので、サービスのつもりなのだろう。
もっともユフィはプロポーズの言葉も愛もヴィンセントから貰ったので満足しているが、これは少し聞いてみたい。
今と昔でどれだけ台詞が違うのか検証してみる事にした。
『ほらほら、目の前に好みの彼女がいると思ってプロポーズの台詞の練習してみなって!』
『なら・・・―――お前とこうして付き合うのも随分長くなるな。最初は不安だった。
タークスという職業に就いている以上、危険が降りかからないという保証もない。
何よりもお前をちゃんと幸せに出来るかどうかさえ自信がなかった。
楽しい事や喧嘩する事など色々あったが、今こうしてお前が傍にいてくれる事が何よりも嬉しい。
まぁ、何だ・・・今なら自信を持って大きな声で叫べる。私は―――』
瞬間、ブツッという音と共にビデオの再生が強制終了された。
「ああっ!!」
ユフィ自身はボタンを押していない。
それどころか手に持っていた筈のリモコンが消えていた。
そこでようやっと気づいた気配に目を向ければ、真後ろにリモコンを持ったヴィンセントがいるではないか。
「うわっ!ヴィンセント!!いつからそこにいたんだよ!?」
「・・・少し前からだ。それよりこれをどこで?」
「神羅屋敷」
「・・・そういえば没収したな、アイツから」
「それよか折角いいとこだったんだから消すなよー!」
ユフィがヴィンセントからリモコンを奪おうとすると、素早くリモコンを高く挙げられ、後ろから抱きしめられた。
バタバタと暴れて抜けだそうと試みるが、がっしりとしたヴィンセントの腕はびくともしない。
「は~な~せ~!」
「残念だが鑑賞会は終わりだ」
「別に見たって減るもんじゃないじゃん。巨乳が好きなヴィンセントさん?」
「・・・何?」
「このビデオの中で昔のヴィンセントは言ってたんだかんね!どっちかっていうと胸が大きい子が好きだって!!」
「・・・」
ヴィンセントはリモコンを遠くに置いて額に手を当て、細く長く溜息を吐いた。
どうやら発言に覚えがあるらしい。
それを見てユフィは唇を尖らせてイジケ始める。
「そりゃアタシの胸は大きい方じゃないけどさ・・・でも小さくはないし」
「私が一度でもお前の身体に不満を言った事があったか?」
「ないけどさぁ・・・でもやっぱ気にするじゃん?」
「若気の至りだ。昔はそうだったとしても今は違う。お前の全てを私は愛している」
「そ、そういう事をさらっと言うなよ・・・」
ユフィは顔を赤らめると、その身体をヴィンセントに預けた。
どうやら機嫌を良くしたようなので、オマケに優しく頭を撫でてやる。
「でもヴィンセントのプロポーズの台詞気になるから見せてよ」
「ダメだ」
「いいじゃん、ネタにしてからかったりしないからさ~」
「絶対にやるからダメだ」
「絶対にしないって!」
「悪いがそこだけは信用出来んな」
「しないってば!!」
「ダメだ」
「じゃあさ、あそこ飛ばしていいからその後の見せてよ。内容的にはまだまだありそうだったからさぁ」
「それもダメだ」
「ヴィンセントのけちっ!」
何と言われようともヴィンセントは絶対に譲らなかった。
随分昔の物であるとはいえ、このビデオの内容をヴィンセントは覚えていた。
ただでさえこのプロポーズの台詞だけでも目を覆いたくなるのに、この後更に酷い展開が待っている。
言わばこれはヴィンセントにとっては黒歴史映像のようなもの。
自分の尊厳の為にもこれ以上の上映をする訳にはいかない。
「ホントはアタシに見られたらマズイものでも映ってるから見せたくないんじゃないの~?」
「フッ、どうだろうな?」
「え・・・?う、嘘だよね?」
「嘘だ」
瞬間、ユフィの世界が反転してヴィンセントがユフィを見下ろす形となった。
「ちょっ、何でこうなるんだよ!?」
「お前があまりにもしつこいからだ。このビデオの事がどうでもよくなるよう身体に言い聞かせなければな」
「ま、待ってよ!まだ昼間、んん・・・!」
その後、『秘蔵!!』のビデオはヴィンセントによって完膚なきまでに処分されるのであった。
END