ヒナコレ

「え?舞踏会?」

本日のおやつである沢山のクッキーを大皿に載せて運んできたドラルクはヒナイチから聞いた言葉をそのままオウム返しに尋ねた。
一方でヒナイチは「そうだ」と頷きながら一枚目のクッキーに手を伸ばして口の中に放り込み、ピコピコ動いていたアンテナをハートマークに変える。
彼女の隣ではシャコガイのジョンが同じくクッキーに手を伸ばして同じように幸せそうな表情を浮かべていた。

「サンズに誘われて参加する事にしたんだ。ご馳走が食べられると聞いてな!」
「なるほど、食べ物で釣られた訳ね」
「食べて来たデザートを伝えるからそれを作ってくれないか?」
「いいよ。それも契約の内の一つだしね」
「やった!感謝するぞ!」



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「ちなみに着て行くドレスは決まってるの?」
「いつものあの緑色のドレスにするつもりだが?」
「あれもとても可愛らしくて良いけど少し露出が多いと思うんだよねぇ。良ければ私が用意するけど?」
「いいのか?」
「勿論だとも!それに私としてもヒナイチ姫に似合うドレスの解像度を上げたいしね?」

意味深に微笑むドラルクの意図が掴めずヒナイチは首を傾げてアンテナをハテナマークに変形させる。
隣にいるジョンは「仕方のないドラルク様ヌ」と、少し呆れ気味だ。
しかしドラルクはそんな事はまるで気にせずに紫色のローブの中から杖を取り出してヒナイチ姫に向けて魔法を唱えた。

「まずはこれ」



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「雰囲気的にメルヘンチックなドレス?だな?」
「エプロンドレスっていう奴だけど全然別の童話が始まりそうだからナシ。次、いってみよう!」



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「なんだか動きやすくてカッコいいな!」
「でもこっちもさっきのエプロンドレスと同じような童話が始まりそうだからダメだな。ホイ、次」



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「これがいいねぇ、ピッタリだ!流石私!抜群のセンスが輝いてヒナイチ姫もより輝いている!!」
「少し派手じゃないか?」
「そんな事はないとも!海底のお姫様なんだからこれくらいは豪華にしておかないとね」
「へ、変じゃないか?」
「まさか。とてもよく似合ってるよ、ヒナイチ姫。ねぇ、ジョン?」
「ヌー!
「そ、そうか?なら、これにしよう!」

かくしてヒナイチ姫の舞踏会の衣装は決まるのであった。




それから数日後の舞踏会の翌日。
ヒナイチは一通の手紙を手に慌ててドラルクの住処に泳いで飛び込んだ。

「ドラルク!!」
「ほわぁ!?びっくりしたスナァ」
「ヌ~!」
「ふざけてないでこれを見てくれ!」
「失敬な!まるでふざけて死んでいるかのような言い草だね!」
「時々ふざけて死んでる事あるだろ」
「まぁ否定はしないかな。で、その手紙は何?」
「舞踏会で私が落とした靴を拾ったどこぞの王子が好きになったから返してほしければ嫁になれって言ってきてるんだ」
「脅迫じゃん、こわっ。心配しなくてもあのガラスの靴は魔法で作られた物だからもう少ししたら消えるよ」
「だが、その王子はサンズにしつこく私の事を聞いてるらしいんだ」
「一国の王子がストーカーなぞ、その国の未来が危ぶまれるな」
「ヌー」
「サンズに迷惑をかけない為にも話を付けようと思うんだがついて来てくれないか?お前の口八丁足八本があれば心強い」
「褒めてるのか貶してるのか分からないけどいいよ、他ならぬヒナイチ姫の頼みだ。その代わりと言ってはなんだけど今度『海底のミルキーロード』に一緒に行かないかい?」
「ちん!?」

『海底のミルキーロード』というのは海底に住む者達にとっては定番でホットなデートコースの事である。
真っ暗な海底の中、不思議な光を放つサンゴや海の生物、そしてドラルクの一族が製造・販売している、魔法で真珠に光源を宿した魔法のランプを持って遊泳するのだ。
ドラルクの一族が製造・販売という点がヒナイチ的にはややロマンに欠けるがそれでもそんな所を泳ぐのはとてもロマンチックで良いムードになるのだとか。
密かにドラルクの好意を寄せているヒナイチは思わぬお誘いに一気に顔が茹蛸のように真っ赤になるが勿論嫌だなんて事はなかった。
けれども慣れぬ恋心に口はあまり素直な言い方はしてくれなくて。

「ま、まぁ・・・別に、いいぞ。私も前からあそこは気になっていたからな・・・!」
「ありがとう、お姫様。あ、ちなみにランプは季節限定のが今出てるんだけどそっちでいい?通常バージョンも凄く人気なんだけど」
「お前は本当にそういう所だ!!」
「スナァ!!」
「ヌ~!!」

すぐに調子に乗っていらん事を言ってしまうのがドラルクであり、そんなドラルクに尾鰭アタックをするのがヒナイチであり、その流れに嘆くのがジョンの日課であった。


後日、ストーカーしていた王子はサンズ姫に質問攻めして困らせていた所をたまたま通りがかったロナルド王子によってしばかれ、色々わやわやありながらサンズ姫はロナルド王子と結ばれた。
出る幕のなくなったドラルクだが、それでもヒナイチ姫がデートをしてくれるという事で大層喜んだとか。
そしてこの二人が結ばれるのはそう時間のかからない話なのであった。








オマケ~結婚式に向けてドレスの準備をしてる二人~


「これとこれとそれと、あとこれも着て欲しいんだよねぇ。どれも特注で作ってもらった奴だから」
「作ってもらった以上は着るが・・・何回お色直しするんだ、これ。というよりも何で私の服のサイズを把握してるんだ?怖いんだが」
「前にサンズ姫に誘われて舞踏会行った時に私が魔法で服を用意してあげたでしょ?あれでね」
「あの時か!!・・・ちょっとキモイな」
「ドストレート凹む!スナァ」
「ヌー!!」





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