ヒナコレ




「看板を『OPEN』にしてっと・・・」

「イケメン退治人がもてなしてくれる喫茶店はここか?」

「いやぁ、イケメン退治人だなんてそんな―――うおっ!?キッス!!」

「遊びに来たぞ、イケメン退治人よ。私が来たからには今日は店は満員御礼になるだろう」

「毎度毎度その自信はどっから来るんだよ・・・まぁとりあえず入れよ」


カランカラン


「いらっしゃ―――おや、キッス女史」

「繁盛しているか?同胞よ」

「お陰様でね」

「どれ、来店記念に高い物をいくつか注文してやろう。デラックスパフェとロイヤルミルクティーで」

「い、いいのか?いくら知り合いと言えど、私達の為に無理をしなくていいんだぞ?」

「フッ、イイ女は知り合い相手には金を惜しまぬものだ」

「そ、そうか。すまな―――いや、ありがとう」

「そこのイケメン退治人、近こう寄れ。特別に私の肩を揉ませてやろう」

「誰がするか!肩があるかも分かんねータコさんウィンナーが!!」
「折角のカッコいいセリフが台無しだな」
「それでこそキッス女史だ」
「ヌー」
「それはそうとデラックスパフェとロイヤルミルクティーをどーぞ」


カチャ&コトッ


「いただだこう」


モグモグ

ゴクゴク


「美味いな、褒めて遣わそう」

「へいへい、至極恐悦に存じますよ」

「料理は美味でメニューも充実しており雰囲気も悪くない。気に入った、私御用達の喫茶店に認定しよう!」

「ありがとう、嬉しくねぇ」

「ちなみにこの店は貸し切りは出来るのか?」

「まぁ、事前に連略してくれりゃあな」
「場合によっては退治の依頼が入ってキャンセルさせてもらう事になるがね」

「問題ない。私はドタキャンのカバーも出来る女だからな」

「何をする気だ?」

「イケメンを集めて貸し切りパーティーをする!ドンペリとシャンパンの用意をしておけ!」

「ホストクラブでやれや!!」

「喜べ退治人、お前もそのイケメン軍団の中に加えてやるぞ」

「誰が喜ぶか!絶望してやるよ!!」

「同胞、お前は私の為にその料理の腕を振るうのだ」

「どこから目線じゃ!すっとこどっこいウィンナー!!」

「メロンパンの如き何かは私の膝の上に乗る権利を与えよう。私の膝を温めるがいい」

「ヌェ・・・」

「吸対の少女は私の次に可愛らしいから私の隣に座れ。女子トークをするぞ。もしもイケメンどもがお前に手を出そうとしたら守ってやろう」

「あ、ありがとう・・・?」

「当日はこの衣装を着るがいい」

「これを、か・・・?」



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「ウム、私の見立て通り私の次に似合うぞ」

「勝手に貸し切りパーティーをする方向に話を進めるんじゃねぇ!!」
「ヒナイチくんも着たい気持ちは分かるけどホイホイ着ないの!!」
「す、すまない!」

「我儘な奴らめ、仕方ない。では貸し切りパーティーは諦めてやるからイケメン受けするメニューをもっと増やすのだ」

「俺らがいつ我儘言ったよ!?つーかイケメン受けするメニューって何だ!!?」
「この世で最もマーケティングが難しいカテゴリーだな」

「ここにイケメンが来るようになれば私も足を運び、この店に金を落としていく・・・まさにwin-winだ」

「オメーの所為でイケメンも他の客もどんどん逃げてくわ」

「そしてやがて、イケメンが私を目当てにこの喫茶店に毎日のように通うようになる・・・金運の女神として私を崇める日もそう遠くはないだろう」

「ストップ!止まれ妄想!俺がツッコミを入れたらそこで区切れや!!」
「ちなみにイケメンへの口説き文句は?」

「『私の側室にならないか?』」

「正室じゃねーのかよ!!つーかそれで堕ちるイケメンなんかいないだろ!!」

「正室とは言いだせず敢えて側室と言ってしまう奥ゆかしさを演じているのだ」

「奥ゆかしさの高さが大気圏突破しててクソバカ上から目線のアホ謙遜になってるわ!!」
「というか待て。正室だの側室だの・・・不貞は良くないぞ」

「しかしそうは言っても私の愛を巡ってイケメンどもが無益な争いを起こして血を流す事になる。そうならない為にもやはりここは私専用のイケメン大奥を作ってイケメン達を救わねば」

「本当にこの無限の自尊心はどこから来るんだ・・・」

「時に同胞、お前は古めの吸血鬼と聞いたがやはり棺桶で寝ているのか?」

「うん。ベッドだとスースーしてあまり落ち着かないし」

「寝心地はどうだ?」

「特注品だからそりゃ快適だとも。どこかの不審ゴリラが勝手に入って好き放題するくらいには」
「ロナルド、お前・・・」
「カス砂ァ!!事実をペラペラ喋るんじゃねぇ!!」
「よし、不法侵入ゴリラが勝手に棺桶に入って好き放題やってた動画をヌイッターに上げよう」
「反省してますチクショー!!」

「ふむ・・・私も棺桶で寝てみるか」

「そりゃまた何で?」

「古い吸血鬼にとって棺桶とは命のようなものなのだろう?棺桶を安置している場所を聞く事は即ち熱烈なプロポーズも同然だと」

「その通りだ。最近の吸血鬼なのによく知っているな」

「完璧な女は博識なものだ」

「だがキッス女史は昼間はOLとして働いていると聞く。棺桶は必要ないのでは?」
「そーいや働いてるんだったな、コイツ・・・」
「底なしの自尊心と無効な吸血鬼としての弱点・・・ある意味コイツも無敵かもしれんな」

「簡単な話だ。棺桶で眠るようになればイケメンから私への口説き文句がまた一つ増える。大抵の人間は棺桶の重要性を知らないから尚更不用意に棺桶の場所を聞いてくる。それに私が答える事でハーレム入りが決まる訳だ」

「その辺の詐欺師よりも悪質過ぎるだろ・・・」
「聞いてしまったが運の尽きだな・・・」
「これで分かっただろう?ロナルド君もヒナイチくんも吸血鬼に不用意に棺桶の話を聞かないようにね」
「ヌー」

「さて、今日はこの辺にして土産のクッキーを買って帰るとしよう。ついでに料理のテイクアウトは出来るか?」

「出来ねー事もねーけど?」

「なら、チャーハンとシューマイを頼もう」

「チャチャッとチャーハンとシュシュッとシューマイね。お待ちどうさま」

「イケメン退治人よ、全ての袋を真ん中の唇に引っ掛けてくれ」

「何で俺なんだよ」

「お前が引っ掛けてる隙にお前にキスをヴェー!!」

「ったく、油断も隙もねぇ」

「帰る頃には冷めてるだろうから電子レンジで一分温めてね」

「分かった、伝えよう」

「ん?伝えようとは何だ?」

「今日は会社で吉田が客のクレーム対応でかなり疲弊してな。出来る女の私は慰めに差し入れのクッキーとご飯を持って行くのだ」

「へぇ、何だかんだ優しいんだな、アンタ」

「惚れてもいいのだぞ?退治人よ」

「惚れるかっての。それよか早く行けよ。吉田のおっさん、寝ちゃうかもしれないだろ」

「それもそうだな。ではまた今度来るぞ」


カランカラン


「さて、吉田の家は・・・む、都合の良い事にすぐ目の前を歩いていたか―――吉田よ」
「あ、キッスさん。どうもお疲れ様です。こんな遅くにどうしたんですか?」
「知り合いの喫茶店に邪魔していたのだ。それで土産のクッキーとテイクアウトのチャーハンとシューマイをお前の為に買って来たぞ」
「え?私の為に?」
「今日は客のクレーム対応で疲弊していただろう?優秀な私がそんなお前を労う為に買ってきたのだ」
「キッスさん・・・!」
「さぁ、有難く受け取るがいい」
「すいません、ありがとうございます、キッスさん。とても嬉しいです」
「・・・クッキー、やはり一枚くれないか?」
「あ、ええ、どうぞ・・・」
「悪いな。側室に迎えるからそれで勘弁してくれないか?」
「いや、気にしてないから大丈夫・・・」






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