ポンチと踊るダンスホール
学生の頃、友達に理想の男性を聞かれた事がある。
けれど恋愛に興味のない自分は思いつかないと正直に答えた。
それでも強いて言うなら?と聞かれたので考えに考えた挙句、自分より強い人と答えた。
小さい頃から剣道を習っていて、自分より強い人に憧れて目標にしていたからというのがある。
勿論、憧れと恋愛感情は違うと理解していた・・・筈。
もっとも、自分の目標は父や兄であったが。
自分の答えを受けた友達は、何だか古風で面白いと笑い、自分でも確かにそうだと思って笑った。
吸対に入って少し経った頃、男性職員に声をかけられる事が多々あった。
それらの人間は所謂キャリア組という者が殆どで、自分が『神奈川県警吸血鬼対策課本部長カズサの妹』という肩書きを持っているからだろう。
上手い事取り入りたいとかそういう魂胆がもう見え見えだった。
美辞麗句を並び立てられてしまえば誰だって分かる。
あまり波風立てないように努めながらそれらは突っぱねたし、ヒヨシ隊長や半田達も気を利かせて牽制してくれて助かったし、今でも感謝している。
この時からお世辞を並べるような男は嫌いになった。
どうせ自分じゃなくて兄に近付きたいのだと思うと尚更腹が立ったからだ。
寮で一人暮らしを始めてしばらくした頃。
余裕がある時は自炊して、それ以外では弁当を買ったり外食をして済ませていた。
そんな時に、もしも結婚したら共働きになるのか、それとも旦那に主夫になってもらうのかボンヤリ考えてみたが好みの男性像は元より結婚願望があまりないので形にならなかった。
けれどショッピングだったりパトロールをしている時に仲良くレストランに入って行くカップルが楽しそうで少し羨ましかった。
食べるのは好きなので、もしも誰かと結婚したら一緒に美味しい物を食べに行きたいと思った。
しかし現実はいつだって理想の真逆を行く。
「握力測定チャレンジウワァーーー!!」
「ヌー!!」
「見えてた結果だろ」
会話の内容から察するに世界一か弱い吸血鬼ドラルクが握力測定器を握った事で物理を超越して死んだのだろう。
そしてその死を使い魔のアルマジロのジョンが嘆き、家主のロナルドが呆れたツッコミを入れたと。
容易く浮かんだ一連の流れにヒナイチはクスリと笑って床下から顔を出す。
「相変わらず騒がしいな。何をしてるんだ?」
「あ、ヒナイチくん。若造が商店街ゴリラ向け福引で握力測定器を当てたからそれで遊んでたのだよ。最大で1万tnまで測れるんだけどやってみる?」
「そうだな、久しぶりにやってみるとしよう」
床下から完全に出てドラルクから握力測定器を受け取る。
電子で測るタイプの物だ。
右手でハンドルを握り、深呼吸をしてぐっと力を込めた。
ゴシャァ!!
「あっ」
「壊れた」
「俺の握力測定器ー!!!」
力を込めすぎたらしく、握力測定器はいとも簡単に壊れた。
「す、すまんロナルド!弁償するから!」
「うぅ、いいよ・・・どうせ俺でも壊してたから・・・」
「普段から私やポンチどもを殴ってるんだから測る必要もなかろう」
「それもそうだな!!」
「スナァ!!」
「ヌー!!!」
ロナルドの八つ当たりパンチが直撃してドラルクは砂になり、ジョンがまた嘆く。
やれやれ、何を子供みたいなやり取りをしているのやら。
ドラルクなんかすぐに死ぬのだから無駄にロナルドを煽らなければいいのに。
そうすれば死なずに平穏に過ごせるのに。
けれど死なないドラルクは何だか違和感があるし、そういう虚弱ながらも毎日を楽しく生きている彼からヒナイチはいつからか目が離せなくなっていた。
自分やロナルドは元より、虫ですらも殺せる程弱いのに―――。
「それよかドラ公、ヒナイチも来たんだから飯」
「ご飯にして下さい偉大なる高等吸血鬼ドラルク様、おポンチな僕にお恵みを!の枕詞が抜けてるぞゴリラ。動物園からやり直してこい」
「ウホッ!!」
「ホギャーーーー!!」
「ヌー!!!」
「ロナルド、その辺にしてやれ。ご飯を食べる時間が遅くなるぞ」
「私の心配は!?」
砂山からすぐに元に戻るのだから心配もクソもないだろうに。
呆れながらジョンを抱っこして住居スペースに入って行くロナルドに続こうとしたらドラルクに呼び止められた。
「あ、待ってヒナイチくん!」
「ん?何だ?」
「これ、どうしたの?」
右手を取られ、手の甲に貼られた絆創膏について尋ねられる。
ああ、と自分でも忘れかけてたそれに気付いてヒナイチは事もなさげに答える。
「ここに来る途中で下等吸血鬼を退治してたんだ。その時に物にぶつかって擦りむいただけだ」
「それは大変だったね。ちゃんと消毒とかした?」
「勿論だ」
「ならいいけど。あまり無茶はしないでね。若造やジョンは勿論、私も心配しちゃうから」
なんて言いながら流れるような自然な動きでドラルクはヒナイチの手の甲の絆創膏に口付けを落とす。
途端にヒナイチの肩が跳ね、アンテナがピシッと伸びて頬が赤く染まる。
「なっななな何をしてるんだお前は!!!」
「んー、早く治るおまじない?」
「きききき汚いだろう!?絆創膏の上からなど!!」
「まぁまぁ、そう怒らないで。折角の可愛い顔が台無しだよ?」
「お世辞なんかで誤魔化されないぞ!」
「お世辞なんかじゃないさ。ヒナイチくんは本当に可愛らしいよ。健康体でお肌はツヤツヤで」
サラリ、と節くれの長い指に頬を撫でられる。
「髪も長くて綺麗でお手入れが行き届いてるし」
髪を一房掬い上げられて口付けを落とされる。
「血も美味しそうだしね」
髪から離れた唇は耳元に移り、そう囁かれる。
畏怖たっぷりの低い声はヒナイチの体を熱く揺さぶるには十分な威力があって。
「だから次怪我した時は傷口を洗って私に提供してもらえると大変―――」
「ちん!!!」
「スナァ!!」
いつものおどけた吸血鬼に戻るドラルクに右ストレートパンチをお見舞いして砂にした。
「おーい?どしたー?」
「ヌー・・・ヌッ!?」
「何でもない!ドラルクがふざけただけだ!!」
「そうか。ちゃんと殺したか?」
「当たり前だ!!」
「ヌー!!」
砂山のドラルクに泣きながら駆け寄ろうとするジョンを抱き上げて無遠慮にお腹に顔を埋める。
くすぐったいのか、それともドラルクに駆け寄りたいのかジョンは「ヌァー!」と手足をバタバタさせながらもがくが逃すまいとしっかり掴む。
そのままテーブル席には着かず、ソファに腰を下ろす。
きっと顔は真っ赤だろうから。
「・・・ジョン」
パンの匂いのするフカフカの腹毛に顔を埋めたまま、くぐもった声で名前を呼べばジョンは「ヌ?」と、もがくのをやめて耳を傾けてくれる。
「・・・ドラルクはいつもああなのか?」
「ヌー?」
「ああいう・・・歯の浮くようなセリフを言うのがだ・・・」
「ヌーヌン」
「嘘だぁ・・・」
「ヌヌヌヌヌヌヌ オンヌヌヌヌヌヌ ヌイヌイヌヌヌ ヌヌヌヌヌヌ ヌヌイヌヌンヌ ヌヌヌヌヌ(ドラルク様は女の人に対しては丁寧だけど、その中でもヒナイチくんは特別ヌ)」
「絶対に嘘だぁ・・・」
「ヌヒャヒャヒャ」
ジョンの脇をくすぐってこれ以上の発言を阻止する。
これ以上は自惚れて真に受けてしまうからだ。
今まで言い寄ってきた男達にお世辞を言われはしたが心に響く事なんてちっともなかった。
けれどドラルクの褒め言葉にこんなにも心動かされてしまうのはきっとそれは―――。
「うー」
「ヌヒャ~」
「ヒナイチくーん、ジョンを吸うのはその辺にして席に着きたまへ。食後のクッキーを食べる時間が遠のいてしまうよ」
「クッキー!」
「ヌー!」
ジョンを抱き上げて上機嫌な足取りで席に着く。
先程までの照れや羞恥心などはどこへやらだがクッキーは自分をクッキーモンスターに変える魔法の呪文なのだから仕方ない。
それに今はクッキーモンスターになる方が都合が良い。
ドラルクについてのあれそれを後回しに出来る。
なんならハンバーグを一口食べた時点でもうそういう考えは脳内の床下に追いやられた。
今日もご飯が美味しい。
「お、今日はチーズの入ったハンバーグじゃん!」
「美味しい!美味しい!」
「ヌー♡」
「今日はファミレス風プレートを目指したのだ。存分に畏怖りたまへ!」
「ああ、道理でファミレスっぽい盛り付けだなって思ったわ。つか、ご飯に国旗刺してあんのはいいけどよ、俺のこれ何の旗?」
「ゴリラの国のゴリラ国旗だ。喜べ、私の手書きだぞ」
「ゴリラじゃなくてシマウマだろこれ!!つーか俺のこれ絶対にバカにする為に手書きで作っただろ!!
「大声を出すなロナルド、行儀が悪いぞ」
「うっ、すいません・・・」
「そーだそーだ!行儀悪いぞロナゴリラ!野生のゴリラからテーブルマナーを学んでこい!」
「お・ま・え・・・!後で覚えてろよ・・・!」
「おノーブルな私は野蛮な事は覚えていられませーん」
「フングゥオオオオオ!!」
「その辺にしろ、もう」
呆れながらハンバーグの最後の一口を頬張る。
でも内心では二人の子供のようなやり取りを微笑ましく思ってる。
ドラルクの監視名目で床下に住むようになり、みっぴきで過ごす時間やご飯を食べるのが当たり前になった。
特にドラルクの作るご飯は一流で、ドラルクの作るご飯やクッキーでなければ満足出来ない体になってしまったくらいだ。
それだけでなく、みっぴきでご飯を食べる為によっぽどの事がなければ外食や弁当でご飯を済ませる事は殆どなくなった。
(当分恋人はいらないな。もしも作るとしたら―――)
それはご飯が美味しくて、恋人になってもみっぴきの輪がそのまま保たれるような吸血鬼がいいな、という考えはスープと共に喉の奥に流された。
END
けれど恋愛に興味のない自分は思いつかないと正直に答えた。
それでも強いて言うなら?と聞かれたので考えに考えた挙句、自分より強い人と答えた。
小さい頃から剣道を習っていて、自分より強い人に憧れて目標にしていたからというのがある。
勿論、憧れと恋愛感情は違うと理解していた・・・筈。
もっとも、自分の目標は父や兄であったが。
自分の答えを受けた友達は、何だか古風で面白いと笑い、自分でも確かにそうだと思って笑った。
吸対に入って少し経った頃、男性職員に声をかけられる事が多々あった。
それらの人間は所謂キャリア組という者が殆どで、自分が『神奈川県警吸血鬼対策課本部長カズサの妹』という肩書きを持っているからだろう。
上手い事取り入りたいとかそういう魂胆がもう見え見えだった。
美辞麗句を並び立てられてしまえば誰だって分かる。
あまり波風立てないように努めながらそれらは突っぱねたし、ヒヨシ隊長や半田達も気を利かせて牽制してくれて助かったし、今でも感謝している。
この時からお世辞を並べるような男は嫌いになった。
どうせ自分じゃなくて兄に近付きたいのだと思うと尚更腹が立ったからだ。
寮で一人暮らしを始めてしばらくした頃。
余裕がある時は自炊して、それ以外では弁当を買ったり外食をして済ませていた。
そんな時に、もしも結婚したら共働きになるのか、それとも旦那に主夫になってもらうのかボンヤリ考えてみたが好みの男性像は元より結婚願望があまりないので形にならなかった。
けれどショッピングだったりパトロールをしている時に仲良くレストランに入って行くカップルが楽しそうで少し羨ましかった。
食べるのは好きなので、もしも誰かと結婚したら一緒に美味しい物を食べに行きたいと思った。
しかし現実はいつだって理想の真逆を行く。
「握力測定チャレンジウワァーーー!!」
「ヌー!!」
「見えてた結果だろ」
会話の内容から察するに世界一か弱い吸血鬼ドラルクが握力測定器を握った事で物理を超越して死んだのだろう。
そしてその死を使い魔のアルマジロのジョンが嘆き、家主のロナルドが呆れたツッコミを入れたと。
容易く浮かんだ一連の流れにヒナイチはクスリと笑って床下から顔を出す。
「相変わらず騒がしいな。何をしてるんだ?」
「あ、ヒナイチくん。若造が商店街ゴリラ向け福引で握力測定器を当てたからそれで遊んでたのだよ。最大で1万tnまで測れるんだけどやってみる?」
「そうだな、久しぶりにやってみるとしよう」
床下から完全に出てドラルクから握力測定器を受け取る。
電子で測るタイプの物だ。
右手でハンドルを握り、深呼吸をしてぐっと力を込めた。
ゴシャァ!!
「あっ」
「壊れた」
「俺の握力測定器ー!!!」
力を込めすぎたらしく、握力測定器はいとも簡単に壊れた。
「す、すまんロナルド!弁償するから!」
「うぅ、いいよ・・・どうせ俺でも壊してたから・・・」
「普段から私やポンチどもを殴ってるんだから測る必要もなかろう」
「それもそうだな!!」
「スナァ!!」
「ヌー!!!」
ロナルドの八つ当たりパンチが直撃してドラルクは砂になり、ジョンがまた嘆く。
やれやれ、何を子供みたいなやり取りをしているのやら。
ドラルクなんかすぐに死ぬのだから無駄にロナルドを煽らなければいいのに。
そうすれば死なずに平穏に過ごせるのに。
けれど死なないドラルクは何だか違和感があるし、そういう虚弱ながらも毎日を楽しく生きている彼からヒナイチはいつからか目が離せなくなっていた。
自分やロナルドは元より、虫ですらも殺せる程弱いのに―――。
「それよかドラ公、ヒナイチも来たんだから飯」
「ご飯にして下さい偉大なる高等吸血鬼ドラルク様、おポンチな僕にお恵みを!の枕詞が抜けてるぞゴリラ。動物園からやり直してこい」
「ウホッ!!」
「ホギャーーーー!!」
「ヌー!!!」
「ロナルド、その辺にしてやれ。ご飯を食べる時間が遅くなるぞ」
「私の心配は!?」
砂山からすぐに元に戻るのだから心配もクソもないだろうに。
呆れながらジョンを抱っこして住居スペースに入って行くロナルドに続こうとしたらドラルクに呼び止められた。
「あ、待ってヒナイチくん!」
「ん?何だ?」
「これ、どうしたの?」
右手を取られ、手の甲に貼られた絆創膏について尋ねられる。
ああ、と自分でも忘れかけてたそれに気付いてヒナイチは事もなさげに答える。
「ここに来る途中で下等吸血鬼を退治してたんだ。その時に物にぶつかって擦りむいただけだ」
「それは大変だったね。ちゃんと消毒とかした?」
「勿論だ」
「ならいいけど。あまり無茶はしないでね。若造やジョンは勿論、私も心配しちゃうから」
なんて言いながら流れるような自然な動きでドラルクはヒナイチの手の甲の絆創膏に口付けを落とす。
途端にヒナイチの肩が跳ね、アンテナがピシッと伸びて頬が赤く染まる。
「なっななな何をしてるんだお前は!!!」
「んー、早く治るおまじない?」
「きききき汚いだろう!?絆創膏の上からなど!!」
「まぁまぁ、そう怒らないで。折角の可愛い顔が台無しだよ?」
「お世辞なんかで誤魔化されないぞ!」
「お世辞なんかじゃないさ。ヒナイチくんは本当に可愛らしいよ。健康体でお肌はツヤツヤで」
サラリ、と節くれの長い指に頬を撫でられる。
「髪も長くて綺麗でお手入れが行き届いてるし」
髪を一房掬い上げられて口付けを落とされる。
「血も美味しそうだしね」
髪から離れた唇は耳元に移り、そう囁かれる。
畏怖たっぷりの低い声はヒナイチの体を熱く揺さぶるには十分な威力があって。
「だから次怪我した時は傷口を洗って私に提供してもらえると大変―――」
「ちん!!!」
「スナァ!!」
いつものおどけた吸血鬼に戻るドラルクに右ストレートパンチをお見舞いして砂にした。
「おーい?どしたー?」
「ヌー・・・ヌッ!?」
「何でもない!ドラルクがふざけただけだ!!」
「そうか。ちゃんと殺したか?」
「当たり前だ!!」
「ヌー!!」
砂山のドラルクに泣きながら駆け寄ろうとするジョンを抱き上げて無遠慮にお腹に顔を埋める。
くすぐったいのか、それともドラルクに駆け寄りたいのかジョンは「ヌァー!」と手足をバタバタさせながらもがくが逃すまいとしっかり掴む。
そのままテーブル席には着かず、ソファに腰を下ろす。
きっと顔は真っ赤だろうから。
「・・・ジョン」
パンの匂いのするフカフカの腹毛に顔を埋めたまま、くぐもった声で名前を呼べばジョンは「ヌ?」と、もがくのをやめて耳を傾けてくれる。
「・・・ドラルクはいつもああなのか?」
「ヌー?」
「ああいう・・・歯の浮くようなセリフを言うのがだ・・・」
「ヌーヌン」
「嘘だぁ・・・」
「ヌヌヌヌヌヌヌ オンヌヌヌヌヌヌ ヌイヌイヌヌヌ ヌヌヌヌヌヌ ヌヌイヌヌンヌ ヌヌヌヌヌ(ドラルク様は女の人に対しては丁寧だけど、その中でもヒナイチくんは特別ヌ)」
「絶対に嘘だぁ・・・」
「ヌヒャヒャヒャ」
ジョンの脇をくすぐってこれ以上の発言を阻止する。
これ以上は自惚れて真に受けてしまうからだ。
今まで言い寄ってきた男達にお世辞を言われはしたが心に響く事なんてちっともなかった。
けれどドラルクの褒め言葉にこんなにも心動かされてしまうのはきっとそれは―――。
「うー」
「ヌヒャ~」
「ヒナイチくーん、ジョンを吸うのはその辺にして席に着きたまへ。食後のクッキーを食べる時間が遠のいてしまうよ」
「クッキー!」
「ヌー!」
ジョンを抱き上げて上機嫌な足取りで席に着く。
先程までの照れや羞恥心などはどこへやらだがクッキーは自分をクッキーモンスターに変える魔法の呪文なのだから仕方ない。
それに今はクッキーモンスターになる方が都合が良い。
ドラルクについてのあれそれを後回しに出来る。
なんならハンバーグを一口食べた時点でもうそういう考えは脳内の床下に追いやられた。
今日もご飯が美味しい。
「お、今日はチーズの入ったハンバーグじゃん!」
「美味しい!美味しい!」
「ヌー♡」
「今日はファミレス風プレートを目指したのだ。存分に畏怖りたまへ!」
「ああ、道理でファミレスっぽい盛り付けだなって思ったわ。つか、ご飯に国旗刺してあんのはいいけどよ、俺のこれ何の旗?」
「ゴリラの国のゴリラ国旗だ。喜べ、私の手書きだぞ」
「ゴリラじゃなくてシマウマだろこれ!!つーか俺のこれ絶対にバカにする為に手書きで作っただろ!!
「大声を出すなロナルド、行儀が悪いぞ」
「うっ、すいません・・・」
「そーだそーだ!行儀悪いぞロナゴリラ!野生のゴリラからテーブルマナーを学んでこい!」
「お・ま・え・・・!後で覚えてろよ・・・!」
「おノーブルな私は野蛮な事は覚えていられませーん」
「フングゥオオオオオ!!」
「その辺にしろ、もう」
呆れながらハンバーグの最後の一口を頬張る。
でも内心では二人の子供のようなやり取りを微笑ましく思ってる。
ドラルクの監視名目で床下に住むようになり、みっぴきで過ごす時間やご飯を食べるのが当たり前になった。
特にドラルクの作るご飯は一流で、ドラルクの作るご飯やクッキーでなければ満足出来ない体になってしまったくらいだ。
それだけでなく、みっぴきでご飯を食べる為によっぽどの事がなければ外食や弁当でご飯を済ませる事は殆どなくなった。
(当分恋人はいらないな。もしも作るとしたら―――)
それはご飯が美味しくて、恋人になってもみっぴきの輪がそのまま保たれるような吸血鬼がいいな、という考えはスープと共に喉の奥に流された。
END
