ポンチと踊るダンスホール

「うん、とてもよく似合ってるよ、ヒナイチくん」
「そ、そうか?」

姿見を前にヒナイチのアンテナは恥ずかしそうにへにゃりと垂れる。
本人の頬も赤く染まっていてリンゴのようだった。
本日はロナルド事務所でハロウィンパーティーを催す運びとなった。
幸いにしてあのハリケーンジジイことドラルクの祖父は関わっていないがいつ来てもおかしくないので覚悟しておくようにとはドラルクの言だ。
来ない事を祈りつつヒナイチも準備する側としてエプロンの着用をしていたのだが、ドラルクから「ハロウィンなんだからヒナイチくんも仮装しなきゃでしょ」と言われて急遽仮装する事になったのだ。
そう、去年使った鼻息丸のカチューシャを使い回して。

「へ、変じゃないか?」
「そんな事はないさ!とても可愛らしい蝙蝠のお嬢さんだよ。マントを着ればよりそれらしいと思うんだけど私のマント着てみる?」
「食器に引っ掛けると割ってしまうからよくないと思うぞ!?それに汚しても事だ!」
「別に汚しても洗うから大丈夫だよ。でも確かに食器を割ってヒナイチ君やジョンや他のみんなが怪我をしたら大変だな。ロナルド君はともかく」

顎に指を当てて思案しながらも頷くドラルク。
そこに事務所スペースからロナルドの「あちー!!」という悲鳴と同時に壁に何かを強く叩きつける音が轟いてドラルクは血相を変えてそちらの方へ走った。

「オイゴリラ!またメビヤツを使ってカボチャを焼いて―――やがったかこのすっとこどっこいゴリラ!!!」

また始まるいつもの喧嘩と時折混じるメビヤツのビーム音。
やれやれ、これでは準備が遅れるぞ、などと呆れていると事務所スペースからドラルクに変わってジョンが戻って来た。

「どうしたんだ、ジョン?」
「ヌヌヌヌイヌヌヌヌヌヌヌヌヌ(新しいカボチャ取りに来たヌ)」
「そうか。ロナルドが何かやらかしたみたいだし、お前も大変だな」
「ヌフフ。ヌヌヌヌヌヌイヌヌヌ(ところでヒナイチさん)」
「ん?何だ?」
「ヌヌ、ヌヌイヌヌヌヌ?(それ、鼻息丸ヌ?)」
「む・・・バレてしまったか」

観念したとでもいう風に頬を染めて眉を八の字に寄せる可愛らしいヒナイチにジョンは小さく笑いながら「分かるヌ」と答えた。

「ヌヌヌヌヌヌヌヌンヌ?(ドラルク様はなんて?)」
「よく似合っている、とだけ」
「ヌ~。ヌヌヌヌヌヌヌヌイヌイヌンヌンヌ(ドラルク様も大概鈍感ヌ)」
「わ、私のこれは別にそういうのではなく・・・ただ去年の使い回しなだけであって深い意味は別に・・・」
「ヌフ~ン?」
「そ、それより準備の続きをするぞ!今カボチャを出すから待っていろ!」

羞恥に耐えられなくて強制的に話を打ち切ったヒナイチをニヤニヤ眺めながらジョンは事務所との出入口の方を見やる。
ここ最近、ヒナイチがドラルクを意識している素振りが見受けられるがドラルクがそれに気付いた様子はない。
何かとヒナイチに関しては周囲に暗に自分の存在をチラつかせて牽制している癖に肝心のヒナイチからの好意に気付いていないのは一体どういう事なのやら。
軽く溜息を吐きつつ大好きなご主人の為にも一肌脱ごうと決めるジョンなのであった。






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