ポンチと踊るダンスホール
◯月ヌーン日
今日の夕飯はクリームシチューとコーンサラダとコンソメスープ。
相変わらずドラルクの作るご飯はどれも美味しい。
私のサラダのコーンが多くて嬉しかった。
デザートはクッキーサンドアイスのバニラとチョコとストロベリーがそれぞれ一つずつ。
どれも冷たくて甘くて美味しかった!
明日のデザートはプリンをリクエストしたら作ってくれると約束してくれた、もっと嬉しい!
それから今日のノルマのクッキーも用意してもらう事になった。
本当は焼き上がっていくクッキーを観察していたかったのだが、ドラルクから恋人同士のスキンシップを提案されて―――
「って何を書こうとしてるんだ私は!!」
ペシン!とペンを書きかけの報告書の上に叩きつけて報告書をシュレッダーに食べさせる。
シュレッダーはウーマウマウマウマとまるで美味いとでも言いたげな電子音を響かせながら全部食べて裁断してくれた、大義である。
それよりもヒナイチは先程のクッキーが焼けるまでの間のドラルクとの時間を思い出す。
ロナルドとジョンが出掛けていて丁度二人きりだったからソファに座って堂々と恋人時間を始めた。
お互いに抱き締め合って、ドラルクがヒナイチの髪を撫でながら頭に鼻を埋めて匂いを吸い込んできた。
恥ずかしくて、お返しとばかりにドラルクの胸に顔を埋めて自分もお線香の香りのするシャツを吸ってやった。
それなのにドラルクは恥ずかしがる素振りを見せず、細く長く息を吐くとヒナイチの顎に指をかけて優しく上向かせ、間髪入れず唇を重ねて来たのだ。
最初は啄むように、それから味わうようにどんどん長く合わせ、最後には長い舌で自分の舌を絡め取られた。
それをされてしまうとヒナイチは瞬く間に蕩けてしまい、ドラルクの思うがままになる。
(アイツは虫でも殺せるくらいか弱くて・・・私の方が圧倒的に強くて・・・すぐに死んでしまう貧弱体質なのに・・・何故私がこんなにも翻弄されている!?おかしいだろう!!)
頭の中がドラルクで埋め尽くされてグルグルと目が回りそうになる。
ドラルクは自他共に認めるクソ雑魚だ。
大人も子供も虫でも彼を殺す事が出来る。
そんなドラルクに翻弄されていつもいっぱいっぱいになる自分は何なんだとヒナイチは混乱していた。
答えは単純で『恋人だから』というのに他ならないが、それでもヒナイチは納得がいかなかった。
なので逆襲をする為に床上に出ると、丁度住居側の扉を開けてドラルクが顔を出したところだった。
「あ、ヒナイチくん。丁度呼びに行くところだったんだ。クッキー出来たよ」
「い、いただこう!」
ややぎこちなく返事するヒナイチに怪訝そうにしながらもドラルクはさして気にもせずヒナイチと共にテーブルに向かう。
住居スペースの部屋はクッキーの甘い香りが立ち込めており、それだけで胸いっぱいの幸せに包まれる気持ちになる。
同時にその香りが背中を押してくれてヒナイチの決心を固めてくれた。
「さぁどうぞ、お嬢さん」
恭しく椅子を引いてくれるドラルクの前に佇み、涼やかな顔を見つめる。
「ん?どうしたの?ヒナイチく―――」
ん、と最後まで言い終わらないうちに一気に距離を詰めて唇を重ねる。
小さな赤い瞳が驚きで大きく見開かれた。
まさに虚を突かれた、とでもいうように。
「・・・・・・スナッ」
ほんの数秒の間を置いてドラルクは呆気なく砂になる。
本人曰く、時間差死、というやつらしい。
時間差で死ぬというのはなんだかよく分からないがとにかく死んでいる事に変わりはない。
けれどヒナイチの逆襲はこれで終わりではない。
砂山が元の人の形に戻り、床にへたりこんで逃げ腰になっているのを許さずに詰め寄って自身も屈む。
ほんの先刻まで自分を蕩かしていた余裕の表情は今や焦りに満ちていて。
「ひ、ヒナイチくん!?やけに積極的だねぇ?急にどうし―――」
またもや最後まで喋る権利を取り上げて唇を重ねる。
体勢が苦しそうで砂になりかけているドラルクの両肩を支えてやりながら自ら舌を絡めに行く。
自分の短い舌ではドラルクの舌先くらいにしか触れられなかったがこんな状況でもそんな自分を慮ってくれたのか、或いは本能からなのか、ドラルクの方からも絡めて来てくれた。
けれども主導権は渡さないとばかりに何度も舌先を絡め合って軽く吸ってみたりなんかもしてみる。
そのうちにドラルクの方でスイッチが入ったのか、後頭部に手を差し入れられたがその瞬間に顔を離してドラルクの唇に人差し指を当ててニヤリと笑う。
「今日はここまでだ・・・!」
きっと、酷く興奮して酷く悪い顔をしている。
しかしそれはドラルクも同じで、興奮とお預けを喰らった悔しさが綯い交ぜになったような表情でヒナイチを見上げており、それが更にヒナイチの興奮を掻き立てた。
このまま勢いで今日は自分が組み敷いてなんか色々やってみようかとも思ったが僅かにビルの階段を上がる力強い音が聞こえてヒナイチは起き上がると瞬時にクッキーと紅茶を飲んで床下に引っ込んだ。
ヒナイチが床下に消える瞬間、丁度中に入って来たロナルドとジョンがヒナイチの残像を目の当たりにして「残像だ!?」と驚きの声を上げる。
「何なんだ一体・・・って、こっちはこっちで死んでるしよぉ」
怪訝そうな顔をしながら住居スペースに入って来たロナルドは砂山を目撃して呆れたように息を吐く。
もはや見慣れた光景なので何故死んだとか何があったとかは割とどうでも良いという感じだ。
しかしジョンだけは愛しの主人が帰ってきて早々死んでいるのを見て泣きながら駆け寄ってヌーヌーと涙を流す。
「・・・よしよし、大丈夫だよ、ジョン。大丈夫、大丈夫だからね。大丈夫ったら大丈夫だよ」
「お前それ全然大丈夫じゃない奴がテンパって言うアレだぞ」
「やかましいわ野ゴリラ。醤油の小袋を雑に破って飛び出した醤油が目に入ってろ」
「野ゴリラキーック」
砂山に強く素早く横蹴りが入れられてドラルクの砂が盛大に飛び散り、ジョンの悲鳴が室内に木霊する。
一方で床下に引っ込んだヒナイチは『ドラルクは不意打ちに弱い』という事と『ドラルクがロナルドを煽ってまた殺された』という事実をまとめて報告書に記載した。
後日、勢いでかなり大胆な事をしてしまったと正気に戻ったヒナイチはしばらくドラルクの顔が見れないでいるのであった。
END
今日の夕飯はクリームシチューとコーンサラダとコンソメスープ。
相変わらずドラルクの作るご飯はどれも美味しい。
私のサラダのコーンが多くて嬉しかった。
デザートはクッキーサンドアイスのバニラとチョコとストロベリーがそれぞれ一つずつ。
どれも冷たくて甘くて美味しかった!
明日のデザートはプリンをリクエストしたら作ってくれると約束してくれた、もっと嬉しい!
それから今日のノルマのクッキーも用意してもらう事になった。
本当は焼き上がっていくクッキーを観察していたかったのだが、ドラルクから恋人同士のスキンシップを提案されて―――
「って何を書こうとしてるんだ私は!!」
ペシン!とペンを書きかけの報告書の上に叩きつけて報告書をシュレッダーに食べさせる。
シュレッダーはウーマウマウマウマとまるで美味いとでも言いたげな電子音を響かせながら全部食べて裁断してくれた、大義である。
それよりもヒナイチは先程のクッキーが焼けるまでの間のドラルクとの時間を思い出す。
ロナルドとジョンが出掛けていて丁度二人きりだったからソファに座って堂々と恋人時間を始めた。
お互いに抱き締め合って、ドラルクがヒナイチの髪を撫でながら頭に鼻を埋めて匂いを吸い込んできた。
恥ずかしくて、お返しとばかりにドラルクの胸に顔を埋めて自分もお線香の香りのするシャツを吸ってやった。
それなのにドラルクは恥ずかしがる素振りを見せず、細く長く息を吐くとヒナイチの顎に指をかけて優しく上向かせ、間髪入れず唇を重ねて来たのだ。
最初は啄むように、それから味わうようにどんどん長く合わせ、最後には長い舌で自分の舌を絡め取られた。
それをされてしまうとヒナイチは瞬く間に蕩けてしまい、ドラルクの思うがままになる。
(アイツは虫でも殺せるくらいか弱くて・・・私の方が圧倒的に強くて・・・すぐに死んでしまう貧弱体質なのに・・・何故私がこんなにも翻弄されている!?おかしいだろう!!)
頭の中がドラルクで埋め尽くされてグルグルと目が回りそうになる。
ドラルクは自他共に認めるクソ雑魚だ。
大人も子供も虫でも彼を殺す事が出来る。
そんなドラルクに翻弄されていつもいっぱいっぱいになる自分は何なんだとヒナイチは混乱していた。
答えは単純で『恋人だから』というのに他ならないが、それでもヒナイチは納得がいかなかった。
なので逆襲をする為に床上に出ると、丁度住居側の扉を開けてドラルクが顔を出したところだった。
「あ、ヒナイチくん。丁度呼びに行くところだったんだ。クッキー出来たよ」
「い、いただこう!」
ややぎこちなく返事するヒナイチに怪訝そうにしながらもドラルクはさして気にもせずヒナイチと共にテーブルに向かう。
住居スペースの部屋はクッキーの甘い香りが立ち込めており、それだけで胸いっぱいの幸せに包まれる気持ちになる。
同時にその香りが背中を押してくれてヒナイチの決心を固めてくれた。
「さぁどうぞ、お嬢さん」
恭しく椅子を引いてくれるドラルクの前に佇み、涼やかな顔を見つめる。
「ん?どうしたの?ヒナイチく―――」
ん、と最後まで言い終わらないうちに一気に距離を詰めて唇を重ねる。
小さな赤い瞳が驚きで大きく見開かれた。
まさに虚を突かれた、とでもいうように。
「・・・・・・スナッ」
ほんの数秒の間を置いてドラルクは呆気なく砂になる。
本人曰く、時間差死、というやつらしい。
時間差で死ぬというのはなんだかよく分からないがとにかく死んでいる事に変わりはない。
けれどヒナイチの逆襲はこれで終わりではない。
砂山が元の人の形に戻り、床にへたりこんで逃げ腰になっているのを許さずに詰め寄って自身も屈む。
ほんの先刻まで自分を蕩かしていた余裕の表情は今や焦りに満ちていて。
「ひ、ヒナイチくん!?やけに積極的だねぇ?急にどうし―――」
またもや最後まで喋る権利を取り上げて唇を重ねる。
体勢が苦しそうで砂になりかけているドラルクの両肩を支えてやりながら自ら舌を絡めに行く。
自分の短い舌ではドラルクの舌先くらいにしか触れられなかったがこんな状況でもそんな自分を慮ってくれたのか、或いは本能からなのか、ドラルクの方からも絡めて来てくれた。
けれども主導権は渡さないとばかりに何度も舌先を絡め合って軽く吸ってみたりなんかもしてみる。
そのうちにドラルクの方でスイッチが入ったのか、後頭部に手を差し入れられたがその瞬間に顔を離してドラルクの唇に人差し指を当ててニヤリと笑う。
「今日はここまでだ・・・!」
きっと、酷く興奮して酷く悪い顔をしている。
しかしそれはドラルクも同じで、興奮とお預けを喰らった悔しさが綯い交ぜになったような表情でヒナイチを見上げており、それが更にヒナイチの興奮を掻き立てた。
このまま勢いで今日は自分が組み敷いてなんか色々やってみようかとも思ったが僅かにビルの階段を上がる力強い音が聞こえてヒナイチは起き上がると瞬時にクッキーと紅茶を飲んで床下に引っ込んだ。
ヒナイチが床下に消える瞬間、丁度中に入って来たロナルドとジョンがヒナイチの残像を目の当たりにして「残像だ!?」と驚きの声を上げる。
「何なんだ一体・・・って、こっちはこっちで死んでるしよぉ」
怪訝そうな顔をしながら住居スペースに入って来たロナルドは砂山を目撃して呆れたように息を吐く。
もはや見慣れた光景なので何故死んだとか何があったとかは割とどうでも良いという感じだ。
しかしジョンだけは愛しの主人が帰ってきて早々死んでいるのを見て泣きながら駆け寄ってヌーヌーと涙を流す。
「・・・よしよし、大丈夫だよ、ジョン。大丈夫、大丈夫だからね。大丈夫ったら大丈夫だよ」
「お前それ全然大丈夫じゃない奴がテンパって言うアレだぞ」
「やかましいわ野ゴリラ。醤油の小袋を雑に破って飛び出した醤油が目に入ってろ」
「野ゴリラキーック」
砂山に強く素早く横蹴りが入れられてドラルクの砂が盛大に飛び散り、ジョンの悲鳴が室内に木霊する。
一方で床下に引っ込んだヒナイチは『ドラルクは不意打ちに弱い』という事と『ドラルクがロナルドを煽ってまた殺された』という事実をまとめて報告書に記載した。
後日、勢いでかなり大胆な事をしてしまったと正気に戻ったヒナイチはしばらくドラルクの顔が見れないでいるのであった。
END