ポンチと踊るダンスホール

「はぁ・・・こんなに沢山・・・」

朝の洗面所の大きな鏡を前に苦笑とも困り気味ともとれる溜息が漏れる。
上半身裸でうろつくのは躊躇われるので昨夜ベッドで脱ぎ捨てられたシャツをボタンも留めずに羽織って顔を洗う為に洗面所に来た訳だが、まさかこんなカウンターを喰らう事になるとは。
辛うじて服で隠せるのが不幸中の幸いとでも言おうか。
しかし、それにしたって多い。
胸元周りを中心に鎖骨や脇腹の辺りにも花を散らすように鬱血痕が浮きまくっている。
これも愛情表現の一つだと思えば悪い気はしないし、むしろ照れ臭い。
とはいえだ、なんだかやられっぱなしで悔しいというか、何かこう、色々込み上げてくるものがあるというか。
とにかく色んな感情が綯い交ぜになって知らずの内にうっすら赤味が指している顔のまま頭を抱える。
そうやってうんうん唸っていると後ろから軽い衝撃が加わり、そのすぐ後にお腹の辺りに腕を回されて捕らえられた。

「おはよう」

ほんの少し恥じらいを含んだ声にピタリと体の動きは止まり、それから口の端に微笑みを称えてゆっくりと振り返りながら赤毛の頭を撫でる。

「おはよう、ヒナイチくん」

撫でる手が気持ち良いのか、くすぐったそうにしながらも嬉しそうな表情を浮かべる恋人にこちらまで蕩けそうになる。
だが、昨夜着ていたキャミソールとフリフリの可愛い下着のみという出で立ちに劣情を催しそうになって慌てて己を律する。
まさに目に毒というもの。

「朝からそんな恰好でいるなんて悪い子だ。昨日あれだけしたのにまだ足りなかったのかな?」
「ん・・・だって隊長がシャツを着ちゃったから・・・新しいシャツを借りるのは悪いし・・・」
「シャツの一枚や二枚、別に大した事じゃないよ。洗濯だって別にそこまで手間じゃないしね」
「じゃあ、次から拝借させてもらう」
「うん、いいよ」
「・・・それから」
「ん?」
「・・・・・・足りない・・・・・・」

視線を逸らし、赤い顔で伏し目がちに呟くヒナイチの破壊力たるやビッグバンレベルなもので。
一瞬フリーズしたドラルクだったがすぐに再起動すると体ごとヒナイチの方を向き直って顎に指をかけて上向かせた。

「じゃあ、お風呂でしようか」

ああ、という頷きは唇に重ねて吸ってやった。







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