ラビットガーデン
ロナルドがオータムに拉致され、ジョンが町内真っ白パズル10万ピースチャレンジに出掛けてもドラルクのやる事は変わらない。
いつものように家事を済ませ、美味しいクッキーを焼いてハムスターことヒナイチにご馳走したら後はゲームなり遊びに行くなりするだけ。
しかし今日は珍しい事にそのハムスターがクッキーの焼ける匂いがしても条件反射のように床下から飛び出して「クッキー!!」と叫んで来ない。
出掛ける時はクッキーの焼き上がる頃合いを合わせる為にいつ帰るかを伝えてくるのだがそれもなかったので出掛けたとは考えづらい。
試しにRINEに『クッキー焼けたよ』と入れたら2秒で返信が返ってきた、怖い。
『悪いが床下に持って来てくれないか?』
「ん~?」
床下にはいるようだが出て来れない事情があるのに内心驚く。
いつもなら書類を片付けていようが電話をしていようが出て来てクッキーを回収するのにそれをしないとはよっぽど忙しいのか、それとも怪我や病気にでもなったか。
大きい怪我をしたり風邪を引いても「何でもない」と言ってロナルド同様、隠そうとする子なので有り得ない話ではない。
「ヒナイチくん、怪我でもしたかね?それとも風邪でも引いたの?」
クッキーを乗せた皿を持って床下通路に降りる。
頑丈なシャッターにクッキーを見せて認証突破をして「入るよ」と一言声をかけてから本丸に突入する。
そこでドラルクの目に飛び込んできたのは―――
「い、いらっしゃいませ・・・!」
ウサ耳カチューシャを頭に付け、ワンピースタイプの白のベビードールを着たヒナイチによるお迎えだった。
「スナッ」
出迎えのインパクトにドラルクは即死し、皿ごとひっくり返って床に散らばりそうになったクッキーはヒナイチが皿ごと受け止めて小さな黄色の丸テーブルの上に置いた。
テーブルの上にはこの他に牛乳の入ったグラスが二つと銀紙に包まれたブラッドチーズが三つ乗せられた小皿が置かれている。
これらのセッティングにドラルクが「もしや?」と思考を巡らせているとヒナイチがベッド側の方に座って「は、早く座れ」と促してきた。
恥ずかしさと緊張から頬を朱に染めるヒナイチに中てられてか、ドラルクもドキドキと緊張しながら砂から元の姿に戻ると正座して丸テーブルの前に座る。
「あ、あのぉ、ヒナイチくん・・・?これは~もしかして・・・」
「・・・」
「ラビットガーデンをイメージしてる・・・?」
「・・・だ・・・」
「え?」
「その通りラビットガーデンの真似だ!悪いか!!?」
「めっちゃ逆ギレされた!!?でもめっちゃ嬉しいので許しまーす!!!でも何でまたそんな事を?」
「それは、だな・・・」
「笑わないから話してみて?」
優しい声音と優しい表情でドラルクは促す。
それを受けてヒナイチは何度か迷うように瞳を彷徨わせるとやがて意を決したのか、自身の手元に視線を落として頬を赤く染めながらポツポツと語り始めた。
「その・・・ラビットガーデンのような店に男が行くのは愚痴を溢して話を聞いて欲しいとか女の子と話がしたいと・・・お前に聞いた」
「うん、そうだね。それで?」
「お前は溜め込む方ではないだろうが、それでも中々誰かに話せない事とかあるだろうし・・・それに―――」
「それに?」
「お前もロナルドも楽しそうにやってたから・・・やはりこういうのが好きなのかと思って挑戦してみたんだ。どうだ・・・?」
おずおずと怒られるのを恐れる子犬のように、それでいて僅かな期待を込めた翡翠の瞳が見上げてくる。
思わず抱き締めたくなる衝動を堪え、代わりに自分よりも温度の高い両手を優しく包んでドラルクは微笑む。
「とっても嬉しいよ、ヒナイチくん。本当は恥ずかしいだろうに私の為に頑張ってくれたんだね」
「恋人なんだからこのくらいは別に・・・それにお前が喜んでくれたなら私も嬉しい、ぞ・・・!」
喜びや嬉しさからヒナイチの表情が甘いものになってドラルクは心の中で「ん”ん”っ!!」と唸る。
なんなら尊死しそうにもなったが流石にカッコ悪いのでそこはなんとかギリギリの所で留めた。
しかしこれ以上は危険なので静かにヒナイチの両手を包んでいた手を引っ込めて雰囲気を切り替える。
「さて、じゃあまずは乾杯をしようか」
「ああ!それじゃあ、乾杯!」
「かんぱーい!」
チン!とグラスがぶつかり合う甲高い音が部屋に響き、それから二人同時に牛乳を一口飲む。
「ふぅ、美味しい牛乳だ。これってやっぱり北海道特選牛乳?」
「そうだ。本当は酒を用意したかったんだが吸血鬼用にするか人間用にするか悩んで結局牛乳にしたんだ」
「お酒だとヒナイチくんが酔っちゃって眠くなるだろうし、沢山話が出来るなら全然牛乳でいいよ。それに私、牛乳大好きだし」
「血の代わりだしな」
「そうそう。でもチーズも用意してくれたのは嬉しいなぁ。しかも私の好きなメーカーのやつ。覚えててくれてたの?」
「チーズと言えばこのメーカーのを買っていたからな、嫌でも覚える。一旦3個出したが足りるか?」
「十分だよ。ありがとう」
嬉しそうに礼を述べてドラルクはチーズを一つ手に取って包みを剥がす。
美しい朱色のチーズから発せられる芳しい香りに気を良くして半分齧れば血と甘みのあるチーズの旨みが口一杯に広がった。
やはりこのメーカーのチーズは美味しい。
ヒナイチが用意してくれたとあれば尚の事、それは格別だった。
「そういえばヒナイチくんはラビットガーデンやらないの?それとも興味無い?」
「無い訳ではないが・・・緊張するというか、恥ずかしいというか・・・」
「成人向け要素があるからね」
「それでもやっぱりやってみたい気持ちはある」
「なら今度やってみるといい。案外楽しめるかもよ?」
「ネタバレは禁止だからな」
「勿論分かっているとも」
「それからその時はクッキーの用意も頼む。ドーナツでもいいぞ!」
「やれやれ、我がクッキーモンスターは相変わらず抜け目がない。ま、今日はこんな素敵なお店を開いてくれたからいっか」
「ドラルクさえ良ければ、その・・・またやってもいいぞ」
「え?いいの?」
「その代わりに料金のクッキーは沢山貰うからな!!」
「山盛りクッキーで良いならいくらでも焼くとも!」
「絶対だからな!」
照れ隠しにヒナイチは牛乳をグイッと飲み干してドラルクがそれを「それイッキイッキ!お酒では絶対やっちゃダメだよイッキ!」とタンバリンを叩きながら囃し立てる。
牛乳の冷たさが体に心地良いが顔は熱いままだ。
「次やる時は『誰でも幻覚見える君』を使ってここをそれっぽい景色に変えてみるとしよう」
「ラビットガーデンと同じ内装にするのか?」
「それでもいいし『竜の如く』のキャバクラみたいなのでもいいよね。それとも私が実際に行ってきてみようか?」
「そ、それはダメだ!!浮気は許さないぞ!!」
ダン!とヒナイチは両手で机を強く叩く。
その嫉妬する様がなんとも可愛らしくてドラルクは笑いを抑えられなかった。
「ククク、冗談だよ。それにここに私だけのウサギさんがいるのにその子をほったらかして他の女性に現を抜かすなんて有り得ないでしょ」
「なっ!?お前はまたそんな歯の浮くようなセリフを・・・!」
「私は本心を語ってるだけだよ」
妖しく笑いながら自然な動作でドラルクはヒナイチの両手をまた包むが「おっと」と言葉を漏らしてすぐに手を離して上品に微笑んだ。
「これは失礼。つい気分が高揚して不躾なお触りをしてしまったね」
「ん?一体どういう―――」
「いやなに、折角だから雰囲気や設定を楽しもうと思ってね。それを考えたらこのお店では無闇に触ったりするのは良くないかなーって」
「私以上に設定に拘ってくれるんだな」
「そりゃ勿論!ヒナイチくんが私の為にセッティングしてくれた空間なんだから拘って当然だよ」
「フフ、そうか。けどまぁ、お前はVIPだからお触りは許されてるぞ」
「そんな事言って本当は他の人にも言ってる癖に~」
「どこのチャラい男だ私は。そんな事を言うなら・・・それ以上は無し、だからな・・・」
ヒナイチは頬を赤らめ、チラリと期待するように背後のベッドに視線を向ける。
それが意味するものをいち早く察したドラルクは同じように期待と嬉しさで口元を歪ませるとヒナイチの両手をやんわりと優しく、それでいて逃すまいとするように強く包む。
「これは大変失礼した。後払いで追加のクッキーを焼くから機嫌を治してくれる?私の可愛いウサギさん」
翡翠の瞳の視線がドラルクの手元に落ちると、ウサギの耳は小さく前後に揺れるのだった。
END
いつものように家事を済ませ、美味しいクッキーを焼いてハムスターことヒナイチにご馳走したら後はゲームなり遊びに行くなりするだけ。
しかし今日は珍しい事にそのハムスターがクッキーの焼ける匂いがしても条件反射のように床下から飛び出して「クッキー!!」と叫んで来ない。
出掛ける時はクッキーの焼き上がる頃合いを合わせる為にいつ帰るかを伝えてくるのだがそれもなかったので出掛けたとは考えづらい。
試しにRINEに『クッキー焼けたよ』と入れたら2秒で返信が返ってきた、怖い。
『悪いが床下に持って来てくれないか?』
「ん~?」
床下にはいるようだが出て来れない事情があるのに内心驚く。
いつもなら書類を片付けていようが電話をしていようが出て来てクッキーを回収するのにそれをしないとはよっぽど忙しいのか、それとも怪我や病気にでもなったか。
大きい怪我をしたり風邪を引いても「何でもない」と言ってロナルド同様、隠そうとする子なので有り得ない話ではない。
「ヒナイチくん、怪我でもしたかね?それとも風邪でも引いたの?」
クッキーを乗せた皿を持って床下通路に降りる。
頑丈なシャッターにクッキーを見せて認証突破をして「入るよ」と一言声をかけてから本丸に突入する。
そこでドラルクの目に飛び込んできたのは―――
「い、いらっしゃいませ・・・!」
ウサ耳カチューシャを頭に付け、ワンピースタイプの白のベビードールを着たヒナイチによるお迎えだった。
「スナッ」
出迎えのインパクトにドラルクは即死し、皿ごとひっくり返って床に散らばりそうになったクッキーはヒナイチが皿ごと受け止めて小さな黄色の丸テーブルの上に置いた。
テーブルの上にはこの他に牛乳の入ったグラスが二つと銀紙に包まれたブラッドチーズが三つ乗せられた小皿が置かれている。
これらのセッティングにドラルクが「もしや?」と思考を巡らせているとヒナイチがベッド側の方に座って「は、早く座れ」と促してきた。
恥ずかしさと緊張から頬を朱に染めるヒナイチに中てられてか、ドラルクもドキドキと緊張しながら砂から元の姿に戻ると正座して丸テーブルの前に座る。
「あ、あのぉ、ヒナイチくん・・・?これは~もしかして・・・」
「・・・」
「ラビットガーデンをイメージしてる・・・?」
「・・・だ・・・」
「え?」
「その通りラビットガーデンの真似だ!悪いか!!?」
「めっちゃ逆ギレされた!!?でもめっちゃ嬉しいので許しまーす!!!でも何でまたそんな事を?」
「それは、だな・・・」
「笑わないから話してみて?」
優しい声音と優しい表情でドラルクは促す。
それを受けてヒナイチは何度か迷うように瞳を彷徨わせるとやがて意を決したのか、自身の手元に視線を落として頬を赤く染めながらポツポツと語り始めた。
「その・・・ラビットガーデンのような店に男が行くのは愚痴を溢して話を聞いて欲しいとか女の子と話がしたいと・・・お前に聞いた」
「うん、そうだね。それで?」
「お前は溜め込む方ではないだろうが、それでも中々誰かに話せない事とかあるだろうし・・・それに―――」
「それに?」
「お前もロナルドも楽しそうにやってたから・・・やはりこういうのが好きなのかと思って挑戦してみたんだ。どうだ・・・?」
おずおずと怒られるのを恐れる子犬のように、それでいて僅かな期待を込めた翡翠の瞳が見上げてくる。
思わず抱き締めたくなる衝動を堪え、代わりに自分よりも温度の高い両手を優しく包んでドラルクは微笑む。
「とっても嬉しいよ、ヒナイチくん。本当は恥ずかしいだろうに私の為に頑張ってくれたんだね」
「恋人なんだからこのくらいは別に・・・それにお前が喜んでくれたなら私も嬉しい、ぞ・・・!」
喜びや嬉しさからヒナイチの表情が甘いものになってドラルクは心の中で「ん”ん”っ!!」と唸る。
なんなら尊死しそうにもなったが流石にカッコ悪いのでそこはなんとかギリギリの所で留めた。
しかしこれ以上は危険なので静かにヒナイチの両手を包んでいた手を引っ込めて雰囲気を切り替える。
「さて、じゃあまずは乾杯をしようか」
「ああ!それじゃあ、乾杯!」
「かんぱーい!」
チン!とグラスがぶつかり合う甲高い音が部屋に響き、それから二人同時に牛乳を一口飲む。
「ふぅ、美味しい牛乳だ。これってやっぱり北海道特選牛乳?」
「そうだ。本当は酒を用意したかったんだが吸血鬼用にするか人間用にするか悩んで結局牛乳にしたんだ」
「お酒だとヒナイチくんが酔っちゃって眠くなるだろうし、沢山話が出来るなら全然牛乳でいいよ。それに私、牛乳大好きだし」
「血の代わりだしな」
「そうそう。でもチーズも用意してくれたのは嬉しいなぁ。しかも私の好きなメーカーのやつ。覚えててくれてたの?」
「チーズと言えばこのメーカーのを買っていたからな、嫌でも覚える。一旦3個出したが足りるか?」
「十分だよ。ありがとう」
嬉しそうに礼を述べてドラルクはチーズを一つ手に取って包みを剥がす。
美しい朱色のチーズから発せられる芳しい香りに気を良くして半分齧れば血と甘みのあるチーズの旨みが口一杯に広がった。
やはりこのメーカーのチーズは美味しい。
ヒナイチが用意してくれたとあれば尚の事、それは格別だった。
「そういえばヒナイチくんはラビットガーデンやらないの?それとも興味無い?」
「無い訳ではないが・・・緊張するというか、恥ずかしいというか・・・」
「成人向け要素があるからね」
「それでもやっぱりやってみたい気持ちはある」
「なら今度やってみるといい。案外楽しめるかもよ?」
「ネタバレは禁止だからな」
「勿論分かっているとも」
「それからその時はクッキーの用意も頼む。ドーナツでもいいぞ!」
「やれやれ、我がクッキーモンスターは相変わらず抜け目がない。ま、今日はこんな素敵なお店を開いてくれたからいっか」
「ドラルクさえ良ければ、その・・・またやってもいいぞ」
「え?いいの?」
「その代わりに料金のクッキーは沢山貰うからな!!」
「山盛りクッキーで良いならいくらでも焼くとも!」
「絶対だからな!」
照れ隠しにヒナイチは牛乳をグイッと飲み干してドラルクがそれを「それイッキイッキ!お酒では絶対やっちゃダメだよイッキ!」とタンバリンを叩きながら囃し立てる。
牛乳の冷たさが体に心地良いが顔は熱いままだ。
「次やる時は『誰でも幻覚見える君』を使ってここをそれっぽい景色に変えてみるとしよう」
「ラビットガーデンと同じ内装にするのか?」
「それでもいいし『竜の如く』のキャバクラみたいなのでもいいよね。それとも私が実際に行ってきてみようか?」
「そ、それはダメだ!!浮気は許さないぞ!!」
ダン!とヒナイチは両手で机を強く叩く。
その嫉妬する様がなんとも可愛らしくてドラルクは笑いを抑えられなかった。
「ククク、冗談だよ。それにここに私だけのウサギさんがいるのにその子をほったらかして他の女性に現を抜かすなんて有り得ないでしょ」
「なっ!?お前はまたそんな歯の浮くようなセリフを・・・!」
「私は本心を語ってるだけだよ」
妖しく笑いながら自然な動作でドラルクはヒナイチの両手をまた包むが「おっと」と言葉を漏らしてすぐに手を離して上品に微笑んだ。
「これは失礼。つい気分が高揚して不躾なお触りをしてしまったね」
「ん?一体どういう―――」
「いやなに、折角だから雰囲気や設定を楽しもうと思ってね。それを考えたらこのお店では無闇に触ったりするのは良くないかなーって」
「私以上に設定に拘ってくれるんだな」
「そりゃ勿論!ヒナイチくんが私の為にセッティングしてくれた空間なんだから拘って当然だよ」
「フフ、そうか。けどまぁ、お前はVIPだからお触りは許されてるぞ」
「そんな事言って本当は他の人にも言ってる癖に~」
「どこのチャラい男だ私は。そんな事を言うなら・・・それ以上は無し、だからな・・・」
ヒナイチは頬を赤らめ、チラリと期待するように背後のベッドに視線を向ける。
それが意味するものをいち早く察したドラルクは同じように期待と嬉しさで口元を歪ませるとヒナイチの両手をやんわりと優しく、それでいて逃すまいとするように強く包む。
「これは大変失礼した。後払いで追加のクッキーを焼くから機嫌を治してくれる?私の可愛いウサギさん」
翡翠の瞳の視線がドラルクの手元に落ちると、ウサギの耳は小さく前後に揺れるのだった。
END