クッキーdays

ドラルクがヒナイチにもクッキーを作るようになってから月日は流れ、二人はとうとうシンヨコ高校を卒業する時期となった。
涙の卒業式を終え、それぞれにお世話になった恩師や後輩達に挨拶して回る中、それらをいち早く終わらせたドラルクはジョンと共に教室の窓から夜桜を眺めていた。
満月に照らされながら散っていく桜のなんと美しい事か。
その姿はまるでドラルク達卒業生の門出を祝っているよう。

「桜が綺麗だね、ジョン」
「ヌ~」
「今日でこの高校ともお別れか。短かったけど凄く楽しかったね」
「ヌー!」

「ドラルク」

不意に名前を呼ばれて一人と一匹揃って振り向いたらヒナイチが教室に入ってくる所だった。

「ヒナイチくんじゃないか。挨拶回りは終わったのかい?」
「ついさっきな。それで実はお前に話があって来たんだ」
「話って?」
「まぁ、その・・なんだ・・・」

ヒナイチは落ち着きなさそうに目線を泳がしたりスカートの裾を指先で弄んだり髪を触ったりする。
明らかに挙動不審だがドラルクはその先を急かすような真似はせずただ静かに待つ。
たっぷり1分経った所で漸く決心がついたのか、一度深呼吸すると両手を拳を作るようにぎゅっと握り締めて大きな声で言い放った。

「わ、私も・・・シンヨコ大学に行く事になったんだ!!」

教室いっぱいに響き渡った言葉。
それはヒナイチにとっては一世一代の告白にも等しい。
その証拠に顔は赤く、今にも湯気が出そうな程だ。
ドラルクはしばし呆気に取られ、それからニッコリと笑顔を浮かべると拍手を送る。

「おめでとうヒナイチくん!凄いじゃないか!」
「ヌー!」
「ありがとう・・・!た、確かドラルクとジョンも同じ大学だったよな?」
「そうだとも。大学でも宜しくね」
「ヌー」
「ああ、宜しく頼むぞ!特にクッキーとか!」
「はいはい」

苦笑しながらドラルクが握手を求めるとヒナイチはそれに応じた。
その時のヒナイチの表情が嬉しさ以上の何か甘い感情を含んでいるのをドラルクは見逃さなかった。

「ヌンヌ!」
「フフ、ジョンも握手するのか?」
「ヌー!」
「じゃあ握手だ」
「ヌフフ」

可愛いジョンとヒナイチが握手する画の尊さにドラルクは微笑む。
心の中の邪悪な笑いが止まらないくて思わず表に出てしまうくらいに―――。

「そういえばロナルド達が明日の夕方に打ち上げをするって言っていたぞ。私は参加するつもりだが二人はどうする?」
「勿論参加するに決まってるじゃないか!そんな面白そうな催しに私達がいないなんてあり得ないでしょ!」
「ヌンヌン」
「そういうだろうと思った。私はそれをロナルド達に伝えて帰るからお前達も遅くならないようにな」
「レディをこんな遅い時間に一人にさせる訳にも行かないでしょ。私達も一緒に帰っていい?」
「ああ、いいぞ」
「そうと決まったら私とジョンは昇降口で待ってるからね」
「分かった。それじゃあ、また」

踵を返し、ポニーテールを揺らしながら軽い足取りで教室から出て行くヒナイチの後ろ姿に向かってドラルクは緩く手を振りながら「うん、また」と上機嫌に呟く。
それから耳を澄ませて足音が遠のいたのを確認してからドラルクはジョンに語り掛ける。

「ねぇジョン」
「ヌー?」
「ジョンは気付いてた?ヒナイチくんは偶然を装っていたけどその実、本当は私と同じ大学に行こうと勉強に励んでいたのを」
「・・・ヌフフ」

甘酸っぱい!と言いたげに笑うジョンの頭を優しく撫でてドラルクも愉悦たっぷりに歪んだ笑みを浮かべる。

「私が作るお菓子の虜にして卒業しても食べにきてもらうように色々工夫しようと思ったけどまさかヒナイチくんの方から追いかけて来てくれるとはねぇ」
「ヌー」
「でも大学にもきっと狙って来る奴らはいるだろうからしっかり目を光らせておかないとね」
「ヌンヌン」
「それじゃ、そろそろ行こうか。お姫様が首を長くして待っているよ」
「ヌー!」

明日もヒナイチを虜にするクッキーの種類を考えながらドラルクはジョンを肩に乗せて今日で最後の教室を後するのだった。







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