ポンチと踊るダンスホール

今年もドラルクはバレンタインチョコをくれた。
チョコマフィンと沢山のチョコクッキーとトリュフチョコを。
私とジョンとロナルドに。
全く同じ物を同じ数だけ。

「・・・」

勿論バレンタインチョコをくれたのは嬉しい。
特にお菓子作りの腕も超一流なドラルクが作ったチョコならば尚更。
それでも少々複雑な気持ちになるのはその貰ったバレンタインチョコが『みんなと同じ物』であって『自分だけの物』ではないから。
ハッキリ言うと『自分の為だけに作ったドラルクのチョコ』が欲しいのだ。
みんなと平等ではない、自分だけのチョコを・・・。

「・・・重い、よな・・・」

息を吐いて独り言ちる。
ドラルクとはまだ全然そういう関係にはなっていない。
それなのに『自分の為だけにチョコを作って欲しい』なんて言ったらドン引きもいい所だろう。
いつだったか前に吸血鬼一日署長の作ったタスキを付けた時に欲望が剥き出しとなって『私の為に一生美味しいクッキーを焼き続けろ』などと口走ってしまったが、あの時はそれどころじゃなかったのでうやむやになった。
いつもであれば後でその事についてからかってくるドラルクもその時ばかりは何も言わずにいたので、つまりそういう事なのだろう。
だからここは慎重になっていつもの調子でお菓子を作って欲しいとねだるつもりだ。
材料のメインである板チョコも用意してあるし、ジョンとロナルドもつい先程一人と一匹で出掛けた。
まさに自分専用のチョコを作ってもらうチャンス。
・・・いつか『私の為だけに作って欲しい』って言えたらいいのにな。

「ドラルク!」
「あ、ヒナイチくん、丁度良い所に。これからおやつを作る所だけどクッキーでいいよね?」
「ああ、勿論だ!それから―――」

私だけのチョコを―――。








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