スーパーリア充シェイドさん

「―――という段取りでどうかな?」
「ああ、分かった。この通りに進められるように手配しよう」

ここは宝石の国のブライトの執務室。
シェイドは今日、打ち合わせの為にここに訪れていた。
そしてその打ち合わせも終わり、月の国へ戻る準備を始めるシェイドにブライトが雑談がてら尋ねる。

「今日もお土産を買って行くのかい?」
「出掛ける前にしっかり強請られたからな」
「あはは、君に似て抜け目がないね」
「煩い。それよりもこれからおひさまの国に行ってファインにも持って行くつもりだが良ければお前のレインへの分も届けてくるぞ?」
「ありがとう。でもレインの分は自分で届けるからいいよ。僕も一緒に行っていいかい?」
「好きにしろ」

そんな訳で二人揃ってお菓子を持っておひさまの国に向かう事となった。






「ようこそ、プリンスシェイド、プリンスブライト」
「どうぞゆっくりして行って下さい」

おひさまの国の謁見の間でシェイドとブライトはトゥルースとエルザに挨拶をしていた。
特にこれと言った約束はなく、けれど手に袋を持っているのを見てエルザは微笑む。

「今日はファインとレインに御用ですか?」
「はい、宝石の国で打ち合わせをしたついでにお土産を買ったのでそれを届けに来ました」
「僕の方はそれに便乗した形になります」
「まぁ、そうですか。二人の為にわざわざありがとう」
「けれど二人は今出掛けていてーーー」

「「お父様、お母様!ただいま戻りました〜!!」」

トゥルースの言葉を遮ってファインとレインが元気良く挨拶しながら入ってくる。
相変わらずプリンセスらしくない振る舞いだが、二人らしい行動に自然とシェイドとブライトの口元は緩む。

「ファイン様レイン様、お客様がご挨拶してる真っ最中でプモ」
「シェイドとブライトだからいーじゃん!」
「無礼講よ無礼講!」
「それは俺達客人が言うセリフだぞ」
「相変わらずだね、二人共」
「ご機嫌よう!ブライト様!!」
「やっほーシェイド!今日はどーしたの?」
「宝石の国でミルキーへの土産のついでのお前の分も買ってきたから届けに来たんだ」
「本当!!?」
「ちなみに僕はそれに便乗して同じくレインにお菓子を届けに来たんだ」
「本当ですか!!?」
「「やったーやったーやったったっ!お土産万歳やったったっ!!」」

リズムと動きを合わせて創作ダンスを踊り始めるファインとレイン。
その姿にプーモは呆れと疲れを混ぜたような表情でガックリと項垂れる。

「いくつになってもこんな所は変わらないでプモ・・・」
「フフフ、踊るのもいいですけどプリンスシェイドとプリンスブライトとお庭でお話をして来るのはどうかしら?最近お話が出来ていなかったんでしょう?」
「「そうだった!!」」
「行こう、シェイド!」
「ご案内します、ブライト様!!」

有無を言わせぬ嵐のようなふたご姫に二人のプリンスは口を挟む隙も許されず促されるまま庭園に足を運ぶ。
それでも満更でもなかったのはやっぱり二人も話がしたかったから。
エレベーターで空中庭園へと降りた後はすんなりと自然に二組に別れた。
ファインもレインも二人きりで話がしたかったし、それはシェイドとブライトもそうだったからだ。
お互いの姿があまり見えない距離にあるベンチに座るとファインはお菓子への期待に満ちた瞳を隠そうともせずシェイドに迫る。

「ねぇねぇ!お菓子って何!?どんなの買ってきてくれたの!?」
「クッキーとチョコレートの詰め合わせだ」
「わーい!クッキーとチョコだ~!シェイドありがとう!!」
「ただしこれを食べていいのはちゃんと仕事をした奴だけだ」
「ちゃ~んとお仕事してたよ!」
「何をしてたんだ?」
「トーテムコーンの管理人さんと装置やふしぎ星の状況についてお話したり城下町に視察に行ったりしてたよ」
「この際、管理人との話をどれくらい理解しているかは置いておくとして、城下町への視察は建前で遊びに行ってたんじゃないのか?」
「そ、そんな事ないもん・・・そりゃあ寄り道とかしたけどレインと一緒に困ってる人を助けてきたもん」
「例えば?」
「高い所から降りれらなくなったニャムル族の子供を助けてあげたり、道に迷ってる人を案内したり、荷物が崩れて困ってるお店の人のお手伝いしたりとか色々だよ」
「頑張ってたみたいだな」
「だからお菓子食べる権利はあるよね?」
「具体的な活躍を聞かされれば与えない訳にはいかないな」
「やった〜!後でレインとお茶しなきゃ!」

両手を挙げて喜ぶ姿は変わらず子供っぽいがそういう所もまた可愛いと思ってしまう自分は大概甘いと苦笑する。
こうしてわざわざお菓子を届けるのを理由に顔を見に来た時点で甘いだなんてレベルはとっくに超えてるが。

「シェイドの方はどう?お仕事は順調?」
「ああ。上手くやれてる」
「無理しちゃダメだよ?シェイドはすぐに休まないで働いちゃうんだから」
「人を仕事ロボットみたいに言うな」
「でも殆ど変わらないじゃん」

シェイドはこめかみに青筋を立てるとファインにデコピンをお見舞いした。

「いった〜い!」
「生意気を言った罰だ。大体、仕事ロボットだったらこんな所に立ち寄ってないだろ」
「えへへ、それもそうだね」

額を抑えながらファインは頬を赤く染めて嬉しそうに笑う。
それを見ただけでシェイドの今日の疲れは一気に吹き飛んだ。

「いつもはお前の方から月の国に来てくれているから今度は俺の方からおひさまの国に行こう」
「本当!?やった〜!美味しいお菓子とお茶を用意しておくからミルキーと一緒に来てね!」
「ああ、ミルキーにも伝えておく。さて、そろそろ帰らないとな」
「この後もお仕事?」
「書類の整理が少し残ってる。あと、ミルキーが首を長くして待ってるんでな」

もう一つ持っていたお土産のお菓子の袋を見せるとファインは顔色を変えて「大変大変!すぐに帰らなきゃ!」とシェイドの帰還を促した。
同じ食いしん坊なのでお土産の待ち遠しさが分かるのだろう。
もっとも、ミルキーの方はそこにプラスしてシェイドとファインの二人だけの時間の話も楽しみにしている筈なのでファインが思う程待ち侘びてはいないだろうが。
それはそれとしてシェイドはお暇する事とし、ブライトもそれに合わせて同じくお暇する事となった。
見送りの為にファインとレインは気球発着所までついて来てそれぞれの気球の乗降口の前に立つ。

「そっちに行ける日が決まったら連絡する」
「うん、待ってるね」
「じゃあ、元気でな。無茶するなよ?」
「分かってるよ!あと・・・それから・・・」
「ん?何だ?」
「その・・・お仕事、頑張ってね!」

両肩に手を置かれ、ぶつかるようにして唇に柔らかいものが当たる。
ファインの顔が近くなった思った次の瞬間には離れており、耳まで顔を赤くして恥ずかしさから横を向いていた。
そのままさりげなく距離を取ろうとするファインの手を反射的に掴んで引き寄せ、額に口付ける。

「・・・お前もな」
「っ!」

お返しとばかりに意地悪く笑ってやるとファインはこれ以上ないくらい顔を沸騰させ、蚊の鳴くような声で「う、うん・・・!」と頷いた。

「わぉ」
「まぁ・・・!」

一連の光景を最後まで見ていたブライトとレイン。
ブライトは「シェイドでもあんな事するんだ」と感心し、レインは口元に手を当てて「あら~」と興奮していた。

「ファインったらあんなに積極的になって・・・!」
「シェイドも凄く甘い顔してたね」
「後でファインの事を突っつかなくっちゃ!」
「その前にレインは僕にはしてくれないのかい?」
「えっ!?」

まさか言われると思わなかった一言にレインは驚く。
けれどすぐに頬を赤らめると、恥ずかしさから少し躊躇った後に背伸びをした。
まるで絵に描いたような美しい二人のキスをメイド達がこっそり覗き見してはしゃいでいたのはここだけの話である。









それから月の国に帰還したシェイドはムーンマリアに諸々の報告をした後、ミルキーを探して廊下を歩いていた。
すると丁度廊下の先からミルキーが現れて嬉しそうに駆け寄って来た。

「お帰りなさい、お兄様!」
「ただいま、ミルキー。お土産のお菓子を買って来たよ」
「やったー!流石お兄様!早速お茶にしましょう!お茶はお兄様が淹れてね!」
「は?俺が?」
「だってお兄様の淹れるお茶はとっても美味しいもの!」
「お前はまた調子の良い事を・・・」

呆れたように溜息を吐きながらも結局は用意する辺り、シェイドは大概ミルキーにも甘かった。








「ん~!やっぱり宝石の国のお菓子は最高ね~!」
「そりゃ何よりだ」

植物園に足を運んだシェイドは紅茶を用意するとミルキーとティータイムを楽しんでいた。
シェイドの皿にはクッキーが四枚とチョコが二個、ミルキーの皿にはクッキーとチョコが沢山乗っている。
今日この後に待ち受けている書類の整理を一旦頭の隅に追いやりながらシェイドがぼんやりとティーカップに口を着けるとミルキーがじーっと見つめて来た。

「どうした?お兄様の顔に何か付いてるか?」
「ううん、お兄様嬉しそうだなーって」
「気の緩んだ変な顔でもしてたか?」
「いいえ、いつもと変わらない凛々しいお顔ですよ。でもなんかこう、雰囲気が違うっていうか・・・ファインと何か良い事でもあったんですか?」
「どうしてファイン絡みだと思うんだ?」
「だって宝石の国で打ち合わせをしてお菓子を買って来たにしては帰ってくるの遅かったですもん。だからファインの所に寄り道してるんだろうな~って」
「・・・なるほど」
「で?ファインとどんな良い事があったんですか?」

好奇心に満ちた表情を隠そうともせずにミルキーは半ば身を乗り出しながら尋ねて来る。
この年頃の少女は皆そうなのか、どうにもませている妹にシェイドは瞳を逸らしながらも静かに笑みを浮かべる。

「・・・ま、色々な」
「色々って何ですか?具体的に!!」
「今度時間を使っておひさまの国に遊びに行くからその時にファインを突っつきまくって聞き出したらどうだ?」
「それも楽しいですけどたまにはお兄様の口から聞きたいです!」
「お兄様が簡単に喋ると思うか?」
「それを頑張って引き出すのが面白いんですよ」
「そうか。精々頑張るんだな」
「むぅ・・・お兄様ってばこんな時ばっかりは意地悪なんですから」
「いつもこんなもんだろう?」
「そんな事ないですよ。お兄様はとっても優しくて素敵で私とファインの大好きなお兄様です!」
「お世辞を並べても言わないからな」
「今のはお世辞じゃないですよ~!」

可愛らしく頬を膨らませるミルキーにシェイドは小さく笑みを溢す。
月の国の午後は穏やかに過ぎていくのであった。






END
5/8ページ
スキ