スーパーリア充シェイドさん

時折、シェイドは静かに誰にも気付かれる事なくパーティーを抜け出す事がある。
しかしいつの間にかひょっこりと何事もなかったかのように戻って来ていたりする。
そんな時、彼の事をよく知るプリンセス達は心配しつつも騒ぎが起きないように平静を装ってパーティーを守る事に専念する。
一方でプリンス達は上手な口実を作って同じようにパーティーを抜け出し、彼の加勢に行っている。
しかし何れもそれらは『気付いたら』の話である。
大体は誰も気付かない内にシェイドは全てを秘密裏に終わらせてパーティーに戻ってくる事の方が多い。
そして必要な情報を知るべき人間に伝えて後は何事もなかったかのように振る舞うのが常だ。
今回は密かに目を付けていた月の国の貴族の裏取引の現場を取り押さえたので誰にも何も伝える事はない。
強いて言うなら帰りの気球の中でミルキーに情報共有として話し、城に戻ったらムーンマリアに報告するくらいだろう。
そんな事を考えながらメイドから貰った水を飲んで一息ついていると怒った顔をしたミルキーがトコトコとシェイドの前にやって来た。

「お兄様っ」
「どうした?ミルキー」
「今すぐ医務室に行きますよ!」
「・・・この通りピンピンしてる。必要はない」
「えいっ」

背後から左腕を叩かれて「うっ」と呻いて咄嗟に抑える。
振り返れば同じように怒った表情をした恋人のファインがそこに佇んでいた。

「行くよ、シェイド!」
「はぁ・・・仕方ない」

シェイドは白旗を上げると先頭を歩くミルキーと背後を歩くファインに挟まれて医務室へ足を運ぶ事にした。







「全くもう!お兄様はすぐに隠すんだから!!」

医務室でファインに処置してもらうシェイドにミルキーはぷりぷりと怒りながら説教をする。
二の腕には痣が出来ており、ファインが適切な処置の仕方を医者に確認して処置を施していた。
ちなみに医者は空気を呼んで現在は退出している。
何故ファインがしているのかと言うと、学生時代にシェイドの誘導もとい影響でシェイド程とは言わずとも自分も同じように医学の知識を身に付けて、いざという時に誰かを助けたいと志したからだ。
もっとも、そのいざという時の誰かというのは90%シェイドの事なのだが。
最初は50%くらいに留まっていたのに40%も上昇したのはこうして一人で無茶をして怪我を隠すからである。

「別に隠していた訳じゃない。言う程の怪我じゃないと思ったから言わなかっただけだ」
「でも『この通りピンピンしてる』って言って誤魔化そうとしたじゃん」
「誤魔化してもないぞ。怪我をしているが、という言葉を言わなかっただけで」
「だとしてもです!これはもう暫定的に隠したも同義です!」
「そーだそーだ!」
「暫定的にってあのなぁ・・・」

めちゃくちゃな理論で畳み掛けてくる二人にシェイドは呆れた溜息を吐く。
この二人はタッグを組むと割と色々めんどくさく、シェイドが折れる事もしばしばある。
まぁ、好きになった女性と大切な妹だから、というのもあるが。
それにしても心配かけさせまいと伏せようとしたのに結局ミルキーとファインに知られてしまった。
せめてもの救いがほぼ全身を覆ってくれる礼服のお陰で他のみんなには知られない事だろうか。

「それでお兄様、今回は何があったの?」
「前からマークしてたシャドゥン伯爵の裏取引の現場を取り押さえたんだ。用心棒を雇っていて手こずったがなんとか片付けた」
「手こずった証拠がこの怪我?」
「そうだ」

尋ねてきたファインにシェイドは素直に頷く。
下手な言い訳をした所でまた説教されるだけなのでもう洗いざらい全て話す事にしたのだ。
ミルキーは理由を聞かされて納得はしたもののやはり不満が残るようで唇を尖らせる。

「もう、次からは兵士の方を連れてって下さいね」
「大勢で動くと気付かれるだろう。それに少し油断しただけだ」
「じゃあブライト達と一緒に行けばいいじゃん」
「ブライト達にも社交事情ってのがあるだろ。俺が勝手にやってる事にいちいち巻き込んでなんかいられない」
「じゃあ私達がついて行きます!ね、ファイン?」
「うん!」
「もっと駄目に決まってるだろ」
「もう!お兄様ってばあれも駄目これも駄目って屁理屈ばっか!」
「実際に駄目だから言ってるんだろ!」
「まぁまぁ、二人共落ち着いて」

シェイドの手当てを終えたファインが喧嘩しそうになった二人の間に割って入って仲裁役を買って出た。

「シェイド、ミルキーもアタシもシェイドの事を心配してるんだよ?シェイドにもしもの事があったら悲しいだけじゃ済まないよ」
「気持ちは嬉しいが―――」
「それにブライト達だって迷惑だなんて思ってないよ?だってふしぎ星の平和の為に悪い人達を捕まえるんだもん。むしろ頼りないのかな?って悲しそうにしてたよ」
「・・・」
「お兄様は一人じゃないんだから存分に周りを頼っていいんですよ」
「・・・まぁ、考えておく」
「考えておくだけじゃダメ!」
「ファインの言う通りよ!今度のお茶会で相談する事!分かりましたか!?」
「はぁ、分かった。相談するよ」

可愛い妹と恋人に詰め寄られては流石のシェイドも観念するしかない。
溜息を吐いて承諾するとミルキーもファインもパッと笑顔になった。

「決まりね!約束よ?お兄様!」
「ああ、約束だ」
「じゃあ約束のぎゅ〜!」

ミルキーは甘えるようにしてシェイドの右腕に抱き着く。
なんだかんだ言ってまだ子供なのでこうやって甘えられる時は存分に甘えてくるのでシェイドはその都度ミルキーの好きなようにさせている。
そんな二人をファインは微笑ましそうに見守っていたがミルキーには不満なようで。

「ほら、ファインも約束のぎゅ〜しなきゃ!」
「うぇっ!?あ、アタシも!?」
「勿論よ!お兄様にしっかり約束を守らせなきゃいけないんだからファインもするの!」
「で、でも―――」
「すーるーのー!」

唇を尖らせて駄々っ子のようにミルキーが要求してくる。
困ったファインは助けを求めるようにしてシェイドに視線を移すがシェイドは悲しそうな表情をワザとして一言。

「・・・してくれないのか?」
「〜〜〜!シェイド、ズルい・・・!」

そんな顔をされては応えない訳にはいかない。
たとえ分かっててそんな顔とセリフを言っているのだとしても。
二つの視線に攻撃され、ファインは意を決するとシェイドの左腕を掴んだ。

「え、えいっ!」

文字通り掴んで出来る限り腕を伸ばして距離を作って。

「も〜!ファインってばお兄様と恋人になって結構時間経つのに未だにそれなんだから~!」
「だって~!」

呆れるミルキーと顔を真っ赤にして恥ずかしそうにするファイン。
大切な二人からの愛情にシェイドは今日も幸せを享受するのであった。






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