毎日がプリンセスパーティー
「はぁ・・・」
「よしよし、辛かったわね」
「ピュ~・・・」
「キュキュキュ、キュ~」
「ほらほらピュピュ、今日の撮影はもう終わったから大丈夫でプモよ」
ラッシュ監督によるハッピー映画とは名ばかりのアンハッピーシーンの撮影に主演のファインとピュピュは精神的に参っていた。
鳥の住処を奪ったり酷いプレゼントを届ける演技だけでも辛いというのに、よりにもよってシェイドに目の前でプレゼントを叩きつけられて酷く詰られるという撮影をさせられた。
シェイドに恋心を寄せているファインにとってはたとえ演技と言えど精神的ダメージが大きく、どうしたって悲しい気持ちが込み上げてくる。
そんなファインの心内が手に取るように分かるレインはベンチで隣に座って慰めるように優しくファインの頭を撫でる。
「シェイドのは演技よ、だから怖くないわ」
「うん、分かってる・・・シェイドは優しいもん・・・シェイドだってあんな演技したくなかった筈だよ・・・」
「勿論よ。それにしてもあんなシーンでも演技上手を発揮しなくてもいいのにね」
「シェイドはどんな事でも手を抜かないからさ。真面目だし。だから悪い事じゃないよ」
「それでもねぇ・・・」
「レイン様、レイン様」
「プーモ?どうしたの?」
「アレを・・・」
ひそひそとプーモが指差す先を見れば今のファインと同じようにベンチで肩を落として項垂れるシェイドの姿があった。
普段はクールで皮肉や嫌味な物言いが多少あるとは言え、ファインの言う通り彼も根は優しいプリンスだ、演技でも人を悲しませるような行為は本心ではないのだろう。
気心が知れた相手であれば尚更。
「シェイドも落ち込んでるみたいね」
「撮影が終わった後、傷付くファイン様を見て辛そうにしていましたでプモ」
「そりゃあね・・・でもこれはむしろチャンスかもしれないわ」
「プモ?何がチャンスなんでプモ?」
「いいから私に任せて!プーモ、キュキュ、ピュピュ、行くわよ!」
「レイン?」
「ファインはここで待ってて!」
レインに制されてファインは大人しくベンチに座ったまま歩き去る後ろ姿を見守る。
一方でレインはプーモとキュキュとピュピュを伴うとずんずんとシェイドの元に歩いて行った。
それから何事かを話すとシェイドは一瞬躊躇ったものの、小さく頷くと立ち上がってファインの前までやって来た。
「シェイド・・・?」
「その・・・隣、いいか・・・?」
「う、うん・・・」
先程の撮影の気まずさからシェイドは申し訳なさそうに目を逸らし、ファインも無意識に目を逸らしてしまう。
その所為で気まずい沈黙までもが走ってしまう。
何とか明るい話題を振らねばとファインが何かを考えようとした矢先、シェイドの方が口を開いた。
「さっきはすまなかった・・・怖がらせたな」
「う、ううん、大丈夫だよ・・・撮影だからさ。仕方ないよ」
再び訪れる沈黙。
しかし折角シェイドが話題を振ってくれたのだからとファインも何とかして会話を繋げようと試みる。
「・・・演技と言えばシェイドは演技上手だよね。この間の演劇会もそうだったし、初めて月の国のプリンスとして会った時も丁寧で優しいプリンスを演じててさ。アタシもレインもすっかり騙されたよ」
「俺の正体を知られる訳にはいかなかったからな」
「大臣の前でもあんな感じの演技してたの?」
「いや、今と殆ど変わらない。それにアイツは俺がエクリプスだって見抜いてた」
「ふ~ん。でも今思えば丁寧で優しいプリンスのシェイドって貴重だったかも。後にも先にもあれっきりだったし」
「特別に今から披露してやろうか?」
「見たい見た~い!」
リクエストされてシェイドは小さく息を吸うと優しく柔らかい顔つきと雰囲気になり、ファインに向かってゆっくりと頭を下げて言葉を紡いだ。
「プリンセスファイン、先程のご無礼をどうかお許し下さい。あれは私の本意ではございません。これも撮影の為・・・何卒ご容赦下さい」
丁寧で優しい口調。
まさにあの時初めて『月の国のプリンス』として対面したシェイドそのもの。
今のぶっきらぼうで遠慮のない態度とは雲泥の差だ。
そのギャップに耐え切れずファインは思わず吹き出してしまう。
「ぷっくく・・・あはははは!なんかへ~ん!違和感凄~い!!」
「大根演技しか出来ない奴に笑われたくないな」
何て言いながらもファインが笑顔になってシェイドも自然と笑みを浮かべて心が軽くなるのを感じる。
やはりファインの笑顔は見ていると安心する、無意識にそう思った。
「でもありがとう、シェイド。なんだか元気が出たよ!」
「そうか、それは良かった」
「明日も撮影だけど・・・来たくなかったら無理して来なくていいからね?リオーネやミルロも今日は遠慮したし」
「・・・分かった。すまない」
「シェイドが謝る事ないよ。アタシ、シェイドには悲しい気持ちになってほしくないし・・・でも、もしもハッピーエンドになりそうだったらシェイドの事呼ぶね。一緒にハッピーな気持ちになってくれたらいいな・・・なんて・・・」
「ああ、約束する。見に行くよ」
「えへへ、ありがとう!」
一も二もなく頷くシェイドにファインはくすぐったい恋心を織り交ぜた笑顔を浮かべる。
沈んでいて気まずい空気から一転して和やかで少し甘い雰囲気へ。
その様子を木の陰からレイン達が見守っていた。
「おお!レイン様の読み通り、ファイン様とシェイド様が笑顔になりましたでプモ!」
「ファインとシェイドが笑顔になって、私達も笑顔になって、ついでにじれったい二人の距離もほんの少し縮まって一石三鳥ね!」
「ピュピュ~!」
「キュキュ~!」
落ち込んでいたピュピュとそれを慰めていたキュキュも、ファインとシェイドのほんのり甘い雰囲気を見て嬉しそうにはしゃぐのだった。
オマケ
ラッシュの持っていたメガホンにアンハッピーの種が埋め込まれていた事が発覚し、グランドユニバーサルプリンセスの祝福の力でラッシュは正気を取り戻した。
アンハッピー状態になってからそれまでの記憶がないラッシュが状況把握の為に撮影した内容を確認して絶叫したのは言うまでもない。
それから急ピッチでの撮り直しが決まり、現場に再び笑顔が戻った。
そして現在はファインがシェイドにプレゼントを届けるシーンの撮り直しの最中である。
「お届け物です!」
「僕に?一体誰からだろう?・・・これは、遠くに住む妹からの・・・?」
「頑張る貴方の為に用意したと言ってました!」
「そうか・・・わざわざ遠くから届けてくれてありがとう。もしもまた妹に会う事があったら宜しく伝えておいてほしい」
台詞と共にシェイドは優しく微笑みながらプレゼンを持つファインの手に自分の手を重ねる。
「っ!?・・・は、はい・・・!」
まさか手を重ねられるとは思っておらず、突然の触れ合いにファインは顔を真っ赤にしてぎこちなく頷き、ゆるゆると手を引っ込める。
そこでラッシュの「はいカット~!」という声が挟まって現在のシーンの撮影は終了となった。
「お疲れ様~!中々良かったよ~!」
「あぁああのでも監督!あ、アタシ、最後のセリフを上手く言えてなくて・・・!」
「どうします?監督?」
「うーん、でも助手が恋という名の幸せを見つけてそれを天使が温かく導くという展開も有りだ。今のシーンをそのまま使おう!」
「うぇええっ!?あぁのちょっと!!?」
この後、撮影を見に来ていたリオーネとミルロ、何より恋愛好きなレインによってこの話が広まってしまったのは言うまでもなかった。
END
「よしよし、辛かったわね」
「ピュ~・・・」
「キュキュキュ、キュ~」
「ほらほらピュピュ、今日の撮影はもう終わったから大丈夫でプモよ」
ラッシュ監督によるハッピー映画とは名ばかりのアンハッピーシーンの撮影に主演のファインとピュピュは精神的に参っていた。
鳥の住処を奪ったり酷いプレゼントを届ける演技だけでも辛いというのに、よりにもよってシェイドに目の前でプレゼントを叩きつけられて酷く詰られるという撮影をさせられた。
シェイドに恋心を寄せているファインにとってはたとえ演技と言えど精神的ダメージが大きく、どうしたって悲しい気持ちが込み上げてくる。
そんなファインの心内が手に取るように分かるレインはベンチで隣に座って慰めるように優しくファインの頭を撫でる。
「シェイドのは演技よ、だから怖くないわ」
「うん、分かってる・・・シェイドは優しいもん・・・シェイドだってあんな演技したくなかった筈だよ・・・」
「勿論よ。それにしてもあんなシーンでも演技上手を発揮しなくてもいいのにね」
「シェイドはどんな事でも手を抜かないからさ。真面目だし。だから悪い事じゃないよ」
「それでもねぇ・・・」
「レイン様、レイン様」
「プーモ?どうしたの?」
「アレを・・・」
ひそひそとプーモが指差す先を見れば今のファインと同じようにベンチで肩を落として項垂れるシェイドの姿があった。
普段はクールで皮肉や嫌味な物言いが多少あるとは言え、ファインの言う通り彼も根は優しいプリンスだ、演技でも人を悲しませるような行為は本心ではないのだろう。
気心が知れた相手であれば尚更。
「シェイドも落ち込んでるみたいね」
「撮影が終わった後、傷付くファイン様を見て辛そうにしていましたでプモ」
「そりゃあね・・・でもこれはむしろチャンスかもしれないわ」
「プモ?何がチャンスなんでプモ?」
「いいから私に任せて!プーモ、キュキュ、ピュピュ、行くわよ!」
「レイン?」
「ファインはここで待ってて!」
レインに制されてファインは大人しくベンチに座ったまま歩き去る後ろ姿を見守る。
一方でレインはプーモとキュキュとピュピュを伴うとずんずんとシェイドの元に歩いて行った。
それから何事かを話すとシェイドは一瞬躊躇ったものの、小さく頷くと立ち上がってファインの前までやって来た。
「シェイド・・・?」
「その・・・隣、いいか・・・?」
「う、うん・・・」
先程の撮影の気まずさからシェイドは申し訳なさそうに目を逸らし、ファインも無意識に目を逸らしてしまう。
その所為で気まずい沈黙までもが走ってしまう。
何とか明るい話題を振らねばとファインが何かを考えようとした矢先、シェイドの方が口を開いた。
「さっきはすまなかった・・・怖がらせたな」
「う、ううん、大丈夫だよ・・・撮影だからさ。仕方ないよ」
再び訪れる沈黙。
しかし折角シェイドが話題を振ってくれたのだからとファインも何とかして会話を繋げようと試みる。
「・・・演技と言えばシェイドは演技上手だよね。この間の演劇会もそうだったし、初めて月の国のプリンスとして会った時も丁寧で優しいプリンスを演じててさ。アタシもレインもすっかり騙されたよ」
「俺の正体を知られる訳にはいかなかったからな」
「大臣の前でもあんな感じの演技してたの?」
「いや、今と殆ど変わらない。それにアイツは俺がエクリプスだって見抜いてた」
「ふ~ん。でも今思えば丁寧で優しいプリンスのシェイドって貴重だったかも。後にも先にもあれっきりだったし」
「特別に今から披露してやろうか?」
「見たい見た~い!」
リクエストされてシェイドは小さく息を吸うと優しく柔らかい顔つきと雰囲気になり、ファインに向かってゆっくりと頭を下げて言葉を紡いだ。
「プリンセスファイン、先程のご無礼をどうかお許し下さい。あれは私の本意ではございません。これも撮影の為・・・何卒ご容赦下さい」
丁寧で優しい口調。
まさにあの時初めて『月の国のプリンス』として対面したシェイドそのもの。
今のぶっきらぼうで遠慮のない態度とは雲泥の差だ。
そのギャップに耐え切れずファインは思わず吹き出してしまう。
「ぷっくく・・・あはははは!なんかへ~ん!違和感凄~い!!」
「大根演技しか出来ない奴に笑われたくないな」
何て言いながらもファインが笑顔になってシェイドも自然と笑みを浮かべて心が軽くなるのを感じる。
やはりファインの笑顔は見ていると安心する、無意識にそう思った。
「でもありがとう、シェイド。なんだか元気が出たよ!」
「そうか、それは良かった」
「明日も撮影だけど・・・来たくなかったら無理して来なくていいからね?リオーネやミルロも今日は遠慮したし」
「・・・分かった。すまない」
「シェイドが謝る事ないよ。アタシ、シェイドには悲しい気持ちになってほしくないし・・・でも、もしもハッピーエンドになりそうだったらシェイドの事呼ぶね。一緒にハッピーな気持ちになってくれたらいいな・・・なんて・・・」
「ああ、約束する。見に行くよ」
「えへへ、ありがとう!」
一も二もなく頷くシェイドにファインはくすぐったい恋心を織り交ぜた笑顔を浮かべる。
沈んでいて気まずい空気から一転して和やかで少し甘い雰囲気へ。
その様子を木の陰からレイン達が見守っていた。
「おお!レイン様の読み通り、ファイン様とシェイド様が笑顔になりましたでプモ!」
「ファインとシェイドが笑顔になって、私達も笑顔になって、ついでにじれったい二人の距離もほんの少し縮まって一石三鳥ね!」
「ピュピュ~!」
「キュキュ~!」
落ち込んでいたピュピュとそれを慰めていたキュキュも、ファインとシェイドのほんのり甘い雰囲気を見て嬉しそうにはしゃぐのだった。
オマケ
ラッシュの持っていたメガホンにアンハッピーの種が埋め込まれていた事が発覚し、グランドユニバーサルプリンセスの祝福の力でラッシュは正気を取り戻した。
アンハッピー状態になってからそれまでの記憶がないラッシュが状況把握の為に撮影した内容を確認して絶叫したのは言うまでもない。
それから急ピッチでの撮り直しが決まり、現場に再び笑顔が戻った。
そして現在はファインがシェイドにプレゼントを届けるシーンの撮り直しの最中である。
「お届け物です!」
「僕に?一体誰からだろう?・・・これは、遠くに住む妹からの・・・?」
「頑張る貴方の為に用意したと言ってました!」
「そうか・・・わざわざ遠くから届けてくれてありがとう。もしもまた妹に会う事があったら宜しく伝えておいてほしい」
台詞と共にシェイドは優しく微笑みながらプレゼンを持つファインの手に自分の手を重ねる。
「っ!?・・・は、はい・・・!」
まさか手を重ねられるとは思っておらず、突然の触れ合いにファインは顔を真っ赤にしてぎこちなく頷き、ゆるゆると手を引っ込める。
そこでラッシュの「はいカット~!」という声が挟まって現在のシーンの撮影は終了となった。
「お疲れ様~!中々良かったよ~!」
「あぁああのでも監督!あ、アタシ、最後のセリフを上手く言えてなくて・・・!」
「どうします?監督?」
「うーん、でも助手が恋という名の幸せを見つけてそれを天使が温かく導くという展開も有りだ。今のシーンをそのまま使おう!」
「うぇええっ!?あぁのちょっと!!?」
この後、撮影を見に来ていたリオーネとミルロ、何より恋愛好きなレインによってこの話が広まってしまったのは言うまでもなかった。
END